旅って面白いの? 【第38話】 ものごとを自分基準でジャッジすることの怖さ<台湾>

「旅って面白いの?」

タクさんは饒舌な人だった。「そういえば、ケイコさんは日本で何の仕事をしてるの?」と質問してきた。「以前は会計士として働いてたんです。でも仕事辞めて、今は長期で旅してるんですけどねー」それを聞いた彼はひとこと「あ、そっち系の人ね」

連載「旅って面白いの?」とは  【毎週水曜更新】
世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。

 

第38話  ものごとを自分基準でジャッジすることの怖さ <台湾>

TEXT & PHOTO 小林圭子

 

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いよいよ再出発だ
重い腰をあげる決め手になったのは
なんてったって安い航空券

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< 第36話からの続きです >

一時帰国からの再出発。ドキドキ緊張して前日の夜はあまり眠れなかった。2度目の出発にもかかわらず、新たな世界への旅立ちというものは、なかなか慣れることがない。

今回の帰国はケガした足の治療のためで、2週間ほど休んだらすぐに出発しようとはじめは考えていた。だけど、私はいつだって基本的に腰が重い。世界中をひとりでバックパック担いで旅しているなんて言うと、いかにもフットワークが軽いと思われがちだけど、実は人一倍慎重で、考えてから行動するまでに結構な時間を要する。もう、とにかくスロースターター。

「早く出発しないと根が生えちゃって、いつまで経っても出られないよ」

なんて友達に呆れ半分に促されながら、結局ダラダラと2ヶ月間も日本に滞在してしまった。

そもそもタイから日本に帰ってきていなければ、そのまま北上してミャンマーへ、さらにネパール・インドの方へと向かって進んでいく予定だった。だけど、8ヶ月かけて東南アジア各国をある程度まわり終えていた私は、ミャンマーに固執する理由も特になく、何の迷いもなくあっさりスキップすることとした。とは言いつつも、小心者バックパッカーとしてはいきなりネパールからスタートするのは少しためらわれる。

さ~て、どうしようかな… と、のらりくらり航空券を調べていると、なんと台湾からネパール行きのチケットが、日本からネパールへのチケットよりも格段に安いことを発見! 日本⇒台湾のチケットと合計しても前者の方が幾分も安かった。台湾は3、4年前に友人と行ったばかりで頭の中に当時の良いイメージが残っていたし、再出発1ヶ国目としては申し分ない。

「よし、台湾から行くことにしよう!」

こうして2015年2月、ようやく旅のリスタートを切ったのだった。

「高雄の蓮池潭」いかにも中華風な塔の入り口では龍と虎がお出迎えしてくれる(笑)

「高雄の蓮池潭」いかにも中華風な塔の入り口では龍と虎がお出迎えしてくれる(笑)

 

 

贅沢に時間を使って台湾周遊
旅のしやすさはピカイチです

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どこの国に入るときでもそうだけど、まずは行きたい街をピックアップし、その街の治安や交通経路、遺跡や建造物などの見所なんかを少しリサーチしてからざっくりとルートと日程を決める(もちろんそのあと変更になる場合も往々にしてあり)。

今回は航空券の都合で、南端の高雄から入って、北端の台北から出ることがまず前提としてあった。そしてその間約2週間。前回訪れたときは台北に4日ほど滞在しただけだったので、せっかくの良い機会だし、高雄⇒台南⇒埔里⇒台中⇒台北という具合にゆっくり時間を使って北上していくことにした。何のアテも無いけれど、こうやって自分の好きなように旅をカスタマイズできるのが個人旅行の良いところ。これがツアーだったりするとなかなかこんなふうに自由を利かせたりできないもんね。

ちなみに、台湾は九州と同じくらいの小さな島国だけど、街の様子はそれぞれ全く異なる。私が受けた印象としては、

異国情緒漂うリゾート地・高雄
ノスタルジックな雰囲気を持つ歴史都市・台南
自然豊かな埔里、アートに溢れる学生の街・台中
近代都市・台北

という感じだった。

逆に、どの街にも共通して言えることとしては、多くの方が持たれているイメージとも一致すると思うんだけど、やはり親日家で優しくてフレンドリーな人が多いこと、そして何と言っても「食」が魅力的なことが挙げられる。

そんな誰にとっても旅しやすいこの国だからこそ、「やっぱり台湾スタートにして大正解だったな」と、順調な滑り出しを切ることに成功した… はずだった。

 

 

ひとり旅は楽あれば苦あり…
さらに私を「そっち系」呼ばわりする男出現

 

高雄、台南ではゲストハウスで仲良くなった台湾人の若者と一緒に観光したり、ごはんを食べたりして、言ってしまえばとても「ラク」な滞在だった。現地の人と仲良くなると、なかなかガイドブックには載っていないような場所にも連れて行ってもらえたりするし、なんと言っても足を用意してもらえるのがありがたい。

一人だとバスやら電車やらをちゃんと調べて何とか目的地を目指さないといけない場合でも(ある意味そういうのが楽しかったりもするんだけどね)、現地の人が一緒だと「バイクあるから二人乗りして行こう」なんてことがよくある。全くのノープランだった私としては、そんな彼女たちのオススメプランに乗っかって、いろいろ連れて行ってもらえて、

「あれ、なんか今回の旅はいきなりラクで楽しいなー」

なんて調子に乗ってしまうほどだった(笑)。そしてお気楽気分のまま3つ目の街・埔里へ。

埔里は高雄や台南に比べて落ち着いた印象で、どちらかと言うと静かな街だった。ゲストハウスでも私以外の宿泊客はいなかった。私は自然を楽しむためにこの街に寄ったんだけど、どうやらもっと自然上級者の人たちは埔里ではなく台東エリアに行くらしい。まぁ誰とも出会わないなら仕方ない、ここからがようやくひとり旅の始まりという感じで、宿のオーナーから聞いた観光名所などに一人で出かけていく。クネクネ山道を数時間バスに揺られて、気持ち悪くなって途中下車してしばらく動けなくなったり、帰りはバスに乗るのはイヤだな… と思って歩いて帰っているうちに日が暮れて道に迷って、結局、宿に電話して迎えに来てもらったり。そんなプチハプニングを繰り返しているうちに、

「あ、そうそう、旅ってこうだった…(苦笑)」

なーんて現実を思い出してきたのだった。

そして、そんな埔里滞在最終日、たまたま出会った現地在住の日本人タクさんが、

「毎日行っているオススメのカフェがあるから一緒に行こう」

と誘ってくれた。確かに彼が毎日通うのも理解できるほどに、その店イチオシのこだわりコーヒーはビックリするくらいおいしかった。

また、タクさんは見た目の印象からは想像できないくらい、饒舌な人だった。これまでの経歴や、今は台湾でどんな仕事をしているか、はたまた自分の趣味やら海外旅行歴などをつらつらとひと通りしゃべり終えたところで、

「そういえば、ケイコさんは日本で何の仕事をしてるの?」

と、ふと我に返ったように質問してきた。

「以前は会計士として働いてたんです。でも仕事辞めて、今は長期で旅してるんですけどねー」

するとそれを聞いた彼はひとこと、

「あ、そっち系の人ね」

と…。

 

自分基準だけでジャッジすると
理解を止め、可能性を閉じてしまう

 

(そっち系って、どっち系だよ… )

タクさんの中で「こっち系」でも「あっち系」でもなく「そっち系」にカテゴライズされた私は、そのひと言でみるみるテンションが下がっていくのを感じた。その後、彼は知り合いの会計士の話をまたマイペースにしゃべり続けるんだけど、もはや私にとっては苦痛の時間でしかなかった。

人は案外自分のことを理解していない人が多い。ましてや他人のことなんてそう簡単に理解できるはずもない。にもかかわらず、彼は「会計士」と「今、旅をしている」のたった2フレーズで、出会って間もない私のことを勝手な判断基準をもってジャッジしたうえ、さらにカテゴライズまでしてしまったのだ。

(この人、私のこと、何もわかってないな。というか、わかろうとしてないんだな)

このとき私はそんなふうに思っていたんだけど、もし職場で部下にそう思われたら、もし家で奥さんにそう思われたら、どういうシチュエーションだって相手にそう思われたら最後、この2人の関係性が今後発展していくことはあまり期待できない。

つまり、人や物事を自分の中で勝手にジャッジするのって、とても危険なんだということ。仮に「これは良い」とか「これは悪い」とかってジャッジをしてしまうと、もうその瞬間から他の価値観が入り込む余地がなくなり、いろんな可能性が閉じてしまう。自分にとっては「良い」ものであっても、他の人からしてみたら「良くない」ものかもしれない。ひとつの物事はいろんな側面を持っていて当然なんだから、ある一部分だけを見てまるでそれが全てかのように判断するのはもったいないことだとも思う。

そして追い打ちをかけるように、彼が私に言ったトドメのひとこと。

「会計士なんだから、帰国してからいくらでも仕事あるし良かったじゃん」

精一杯のつくり笑顔で挨拶して、私はその場を後にした。

 

【写真でふりかえる 台湾 】

「高雄の美麗島駅」ステンドグラスがとても美しく、駅にいる人みんなが写真を撮っていた

「高雄の美麗島駅」ステンドグラスがとても美しく、駅にいる人みんなが写真を撮っていた

 

「夜市」台湾の夜市はどこも大賑わい。日本のお祭りっぽい雰囲気と似ている気がして結構好き

「夜市」台湾の夜市はどこも大賑わい。日本のお祭りっぽい雰囲気と似ている気がして結構好き

 

「台南のゲストハウスにて」とても面倒見の良い台湾人ママさんと記念に一枚

「台南のゲストハウスにて」とても面倒見の良い台湾人ママさんと記念に一枚

 

「台南の街をぶらり」地元の女子学生も買い食いしたりと楽しそうだった。昔っぽさの残るお店が多くて居心地が良い

「台南の街をぶらり」地元の女子学生も買い食いしたりと楽しそうだった。昔っぽさの残るお店が多くて居心地が良い

 

「埔里にある牧場」眺めが良くて最高の景色だった。羊がたくさんいてほのぼの癒される

「埔里にある牧場」眺めが良くて最高の景色だった。羊がたくさんいてほのぼの癒される

 

 

(次回もお楽しみに。毎週水曜更新予定です)
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連載バックナンバー

第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)
第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
第6話 カスタマイズ自由が魅力のフィリピン留学(2014.12.17)
第7話 出国していきなりの緊急入院で知った、フィリピン人の優しさと健康に旅を続けていくことの難しさ(2014.12.31)
第8話 世界の中心でハマったいきなりの落とし穴 。負のスパイラルに突入だ!【オーストラリア】(2015.1.14)
第9話 いきなり挑むには、その存在はあまりにも大きすぎた! こんなに思い通りに進まないなんて…【オーストラリア(2015.1.21)
第10話 いざ、バリ島兄貴の家へ!まさか毎晩へこみながら眠ることになるなんて…【インドネシア】(2015.1.28)
第11話 今すぐ先入観や思い込みを捨てよう! 自分で見たものこそが真実になるということ<インドネシア>(2015.2.4)
第12話 心の感度が鈍けりゃ、人を見る目も曇る。長距離バスでの苦い出会い  〈マレーシア〉 (2015.2.11)
第13話 海外に飛び出すジャパニーズの姿から見えてくる未来 〈マレーシア〉(2015.2.18)
第14話 欲しい答えは一冊の本の中にあった!「旅にも年齢がある」という事実 〈マレーシア / タイ〉(2015.2.25)
第15話 ボランティアで試練、身も心もフルパワーで勝負だ! 〈タイ / ワークキャンプ前編〉(2015.3.4)
第16話 果たせなかった役割と超えられなかった壁 〈タイ / ワークキャンプ後編〉(2015.3.11)
第17話 目の前に広がる青空が教えてくれた、全てに終わりはあるということ  〈カンボジア〉(2015.3.18)
第18話  偶然か必然か? 新しい世界の扉を開くとき   〈カンボジア〉(2015.3.26)
第19話  強く想えば願いは叶う!? 全ての点が繋がれば一本の線になる   〈ベトナム〉(2015.4.2)
第20話  移動嫌いな私をちょっぴりほっこりさせてくれた、ある青年の純朴さ
   〈ベトナム〉(2015.4.8)
第21話  強面のおじさんが教えてくれた「自立」と「選択」の重要性    〈ベトナム〉(2015.4.16)
第22話  ワガママだって良いじゃない!? 自分が楽しんでこそのコミュニケーション!    〈ベトナム〉(2015.4.22)
第23話  吉と出るか凶と出るか… 全ては自分の感覚を信じるのみ!   〈ベトナム→中国〉(2015.5.06)
第24話  人との出会いが旅を彩る – 大切なのは出会い運があるかどうか   〈中国〉(2015.5.15)
第25話  異国で受けた『おもてなし』と中国人に対するイメージの変化   〈中国〉(2015.5.23)
第26話  たったひとつの出会いがその国のイメージを決めてしまうということ  〈中国〉(2015.6.10)
第27話  3人のケイコの運命的な出会い 〜年上女性から学んだ自分らしい生き方とは〜  〈タイ〉(2015.7.8)
第28話  久しぶりの学園生活スタート! 目指すは旅人マッサージ師!?  〈タイ〉(2015.7.15)
第29話  人種や言葉を超えてひとつになれた夜   〈タイ〉(2015.8.5)
第30話  ミラノ EXPO 2015 レポート – 日本パビリオンに翻弄された2日間 –    〈イタリア〉(2015.8.22)
第31話  次々に降り掛かる災難! 初めて感じた先の見えない恐怖
   〈タイ/事件勃発 前編〉(2015.9.17)
第32話 私から自由を奪った足かせと募るジレンマ   〈タイ/事件勃発 中編〉(2015.10.14)
第33話 感覚を研ぎ澄ませ! ハプニングの裏に潜むメッセージ <タイ/事件勃発 後編>(2015.11.4)
第34話 やっと全てがひとつに繋がったよ「さぁ、日本に帰ろう!」 <タイ>(2015.12.09)
第35話 旅人は場所を選ばない − 1年の幕開けは日本の旅から − <日本>(2015.12.30)
第36話 初心にかえった家族旅行 − 親への感謝、弟からの自立 − <日本>(2016.1.27)
第37話 終わりのない旅 – 流れのままに今を生きる – <本帰国の報告>(2016.10.26)


小林圭子さんが世界一周に出るまでの話

『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため(2014.5.19)

 


小林圭子

小林圭子

1982年、大阪生まれ。米国公認会計士の資格取得後、ベンチャー企業および楽天にて約5年半、会計業務に従事。同時に会計士の専門学校では学習カウンセラーを、自由大学でキュレーターをするなど、パラレルキャリア志向が強い。2014年3月末で楽天を退社し、同4月より約2年間かけての世界一周の旅に挑戦。世界中の多様な働き方やライフスタイルに、刺激を受ける日々を送っている。 「一身上の都合」小林圭子さんの場合 http://ordinary.co.jp/series/4491/ https://instagram.com/k_co_ba_326/