第8話 世界の中心でハマったいきなりの落とし穴 。負のスパイラルに突入だ!【オーストラリア】

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オーストラリアに降り立った私を最初に襲ってきたのが、何とも言えぬ虚無感。前にいた場所が楽しければ楽しいほど、移動した後の場所で落ち込むことがある。引きずった感情や思考をどう処理して良いのかわからず、なかなか失恋から立ち直れない乙女みたいな状態だった。

連載「旅って面白いの?」とは  【毎週水曜更新】
世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。

 

第8話  世界の中心でハマったいきなりの落とし穴 ! 負のスパイラルに突入だ!【オーストラリア】

TEXT & PHOTO 小林圭子

 

慣れたと思ったらリセット
そしてまたゼロから積み上げる
旅は毎回その繰り返し

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旅が進むにつれて、「旅慣れてきたね」、「だんだん旅のスタイルができてきたんじゃない? 」と言われることが増えてきたけれど、正直、これまでまだあまり「旅に慣れる」という感覚を得られたことはない。そして、それはたぶん、どれだけ長い時間を旅に費やしたとしても、どれだけたくさんの国を訪れたとしても、今後も得られないんじゃないかという気がする。

というのも、同じ場所にずっと留まり、同じ人と交流する、つまりその地で生活の基盤を築くような留学や海外赴任とは違い、旅は常に移動することが前提である。だからある特定の場所に慣れるということはあっても、旅そのものに慣れるとはちょっと違う。新しい場所に行けば、特に国が変われば、言葉も文化も宗教も生活習慣も全く異なる世界が目の前に広がっており、それまでいた場所で培われた感覚が一気にゼロにリセットされてしまうのである。

そのこと自体は別に嫌なことではなく、むしろ常に新鮮な気持ちになれるという意味では、刺激的であり、望むところでもある。そしてそれが長旅に飽きがこない理由のひとつだとも思う。

とは言え、毎回ゼロからひとつひとつ積み重ねていく作業をしないといけないのは結構大変。ときには「厄介」を引き起こすこともあるので、注意が必要である。

 

キングスパーク。パース市内を一望できる市民憩いの公園。家族連れやカップルで常に賑わっている。冬晴れの日は空気が澄んでいて一層気持ち良かった!

キングスパーク。パース市内を一望できる市民憩いの公園。家族連れやカップルで常に賑わっている。冬晴れの日は空気が澄んでいて一層気持ち良かった!

 

オーストラリアは壁だらけ!?
ショックの連続に即行ノックダウン……

 

「これまでどの国が一番大変だった? 」と聞かれると、一瞬迷いはするものの、「オーストラリアかなぁ…… 」と答える。そう、オーストラリア。意外でしょ? 入院したフィリピンではなく、その他の東南アジアの国でもない。自然豊かで美しく、人も穏やかで優しく、「住みやすい都市ランキング」でいくつもの都市が例年上位にランキングされる国、オーストラリア。いかにも何の不自由もなく旅できそうなこの国が、私にとってはめちゃくちゃハードで、常に目の前には高い壁が立ちふさがり、壁、壁、壁の連続だったのである。

まずオーストラリアに降り立った私を最初に襲ってきたのが、何とも言えぬ虚無感。それまでフィリピンでは、語学学校で一緒に勉強する仲間や、優しく明るい先生たちに囲まれた日々を、ぬくぬくゆるりと過ごしてきたので、そこから急に一人になって、ポンッと全く違う環境に放り込まれて、ビックリするくらい何も対応できなかった。適応できなかった。なんとも滑稽な話なんだけれど。

「よーし、一人で世界を旅してまわるぞーっ! 」なんて意気揚々と出てきたものの、結局のところ、現実的なことは何もわかっていなかったのかもしれない。前にいた場所が楽しければ楽しいほど、居心地良ければ居心地良いほど、移動した後の場所で落ち込むことがある。旅に出るまで自分でも知らなかったけれど、意外に気分の切り替えがうまくできなくて、感情や思考を引きずってしまう。「あぁ、もっとあそこにいれば良かったかなぁ…… 」なんて後悔にも似た思いを抱いてしまったり。

こういう気持ちはこの後も何度か味わうことになるので、さすがに何度目かになると、「あぁ、またか…… 」って自分の気持ちを客観的に捉えられるようにはなったけれど、このときは初めてのことだったので、引きずった感情や思考をどう処理して良いのかわからず、なかなか失恋から立ち直れない乙女みたいな状態だった(苦笑)。
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水遊びする少女。歩き疲れて広場に座ってコーヒーを飲んでいたら、目の前で可愛らしい少女が噴水に夢中になって遊んでいた。「絵になるなぁ」なんて感心しながらパシャリと一枚

水遊びする少女。歩き疲れて広場に座ってコーヒーを飲んでいたら、目の前で可愛らしい少女が噴水に夢中になって遊んでいた。「絵になるなぁ」なんて感心しながらパシャリと一枚

 

英語ができるようになった気がしていたのは
単なる気のせいだった…… 

 

そして次に英語。フィリピンでは話せないなりに頑張って話すようにしていて(というか、レッスンは全てマンツーマンだったので、話さざるをえない状況だった)、6週間の留学の中で少しは英語力がレベルアップしたように感じていたのに、オーストラリアに入った途端、オーストラリア人が話していることが全く聞き取れなかった。「あれ、おかしいな。言ってることが全然わからない…… 」という驚きから、途端に萎縮してしまって今度は口から言葉が全く出てこなくなり、言いたいことが何も言えなくなってしまった。

フィリピンを出るときに、先生たちから、「ケイコはもう言いたいことは十分言えるはずだから、恥ずかしがらず、オーストラリアでもたくさん英語を話して、オーストラリアを楽しんでね。何も心配はいらないから。自信を持って! 」と励ましを受けて、「よし、頑張ろう! フィリピンで学んだことを活かして、さらにオーストラリアでも英語力に磨きをかけるぞっ! 」なんて生意気にも思っていたけれど、想像していたようなあまいものではなかったのだ。なんだか自分が情けなく感じると同時に、そんなふうに言って送り出してくれた先生たちにもとても申し訳なかった。

実はあとになって冷静に考えてみると、まぁ、当然と言えば当然だったりもするのだけれど。というのも、フィリピンの先生たちはとてもキレイな発音で、正しい文法で、丁寧にわかりやすく、こちらが理解できるように話してくれていた。フィリピン人にとっても英語はやっぱり第二言語であり、同じアジア人同士の英語っていう意味でも馴染みやすかった、というのもあると思う。

それが急に英語をネイティブに話すところに行ってしまったものだから、そこの間のギャップはそれなりにあったのだ。友達にも、「いきなりネイティブの国に行っちゃダメだよー。そりゃ誰でも自信喪失するよ」なんて笑われてしまった。なんと、そういうものだったのか……。
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スカボロビーチ。人気のビーチと聞いて行ってみたけれど、シーズンオフだったため、とても静かだった。日差しは少し強かったけれど、何も考えずボーッと過ごした

スカボロビーチ。人気のビーチと聞いて行ってみたけれど、シーズンオフだったため、とても静かだった。日差しは少し強かったけれど、何も考えずボーッと過ごした

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寂しさと自信喪失。そこから一気にテンションとモチベーションが落ちた。初めは西海岸のパースという街にいたんだけど、泊まっていた知り合いの家から、電車とバスを乗り継ぎ、小一時間でビーチに行けるということだったので、一人で行ってみた。6月はオーストラリアでは冬の始まり。ビーチで泳いでいる人は少なかった。砂浜に寝っ転がって体を焼いている人がちらほら。私もよっこらしょっと腰を落として、何をするわけでもなく、ボーッと青い海を見ながら波の音をただただ聞いていた。「あぁ、ひとり旅だと海も一人で行かなきゃいけないのか。寂しいな…… 」なんて考えて、自分で寂しさを勝手に増幅させていた。こうなってくると、思考は負のスパイラルに入っていく。

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オーストラリアはダメダメな国!?
いやいや、ダメダメなのは自分です…… 涙

 

「あー、オーストラリアって何てつまらないんだろう。街もキレイすぎるし、何でも整いすぎて生活も便利だし、刺激もないし。住むにはいいけど旅には向いてないよな」と自分のダメダメさをオーストラリアのせいにしていた。

さらには、「フィリピンは楽しかったなー。まだまだ貧しい国かもしれないけれど、街全体に活気があって、人も元気で。それに比べてオーストラリアは落ち着きすぎてるよ。人は満たされすぎてもダメなんだな」なんて、フィリピンとオーストラリアを比べては、オーストラリアのダメなところばかりに気が向いた(というか、本当は別に全然ダメなところじゃないんだけど…… 苦笑)。自分の中に精神的な余裕がなくて、オーストラリアという国を素直に受け入れることができないでいたのだ。

東南アジアの中でも貧しいと言われているフィリピン。そんなフィリピンの小さな島での生活。「非日常」にすっかり陶酔していた私は、オーストラリアという日本と同じ先進国での、いとも簡単に想像できてしまう「日常」の暮らしに、どこか物足りなさを感じていたのだった。そしてそれは、私自身、気持ちの切り替えが上手くできていないことをハッキリと証明していた。(了)

 

マーケットの野菜売り場。パース市民の生活を支えているフリーマントルというマーケットに連れていってもらった。オーストラリアは物価が高いので、あまり買い物できなかったけれど、色とりどりの野菜たちを見ているだけで楽しかった!

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ガールズトーク。庭で魚を焼きながら、ガールズトークで盛り上がる(笑) パースに語学留学に来ていた2人から、学校の話を聞けたりして楽しかった

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オシャレな街並み。街中のいたるところで、オシャレに停められた自転車を発見。パースは「アートの街」とも言われており、たくさんのオブジェなども目にすることができる

オシャレな街並み。街中のいたるところで、オシャレに停められた自転車を発見。パースは「アートの街」とも言われており、たくさんのオブジェなども目にすることができる

有名チュロスのお店にて。友人に連れて行ってもらったお店。甘いものに目がない私は、食欲をそそられるチュロスの甘い香りと、かわいい店内の様子にご満悦。このチュロスは絶品!  濃厚なチョコレートソースを付けて食べる。ほっぺたが落ちるくらい美味しくて、即行ハマってしまった

有名チュロスのお店にて。友人に連れて行ってもらった。甘いものに目がない私は、食欲をそそられるチュロスの甘い香りと、かわいい店内の様子にご満悦。このチュロスは絶品! 濃厚なチョコレートソースを付けて食べる。ほっぺたが落ちるくらい美味しくて、即行ハマってしまった

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(次回も乞うご期待。次回から毎週水曜更新でいきます)
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連載バックナンバー

第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)
第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
第6話 カスタマイズ自由が魅力のフィリピン留学(2014.12.17)
第7話 出国していきなりの緊急入院で知った、フィリピン人の優しさと健康に旅を続けていくことの難しさ(2014.12.31)

小林圭子さんが世界一周に出るまでの話

『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため(2014.5.19)

 


小林圭子

小林圭子

1982年、大阪生まれ。米国公認会計士の資格取得後、ベンチャー企業および楽天にて約5年半、会計業務に従事。同時に会計士の専門学校では学習カウンセラーを、自由大学でキュレーターをするなど、パラレルキャリア志向が強い。2014年3月末で楽天を退社し、同4月より約2年間かけての世界一周の旅に挑戦。世界中の多様な働き方やライフスタイルに、刺激を受ける日々を送っている。 「一身上の都合」小林圭子さんの場合 http://ordinary.co.jp/series/4491/ https://instagram.com/k_co_ba_326/