これまでの人生の中で、あまり勉強が楽しかった記憶って無いけれど、ここでの英語の勉強は本当に楽しくて
連載「旅って面白いの?」とは 【隔週水曜更新】 世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。 |
第6話 カスタマイズ自由が魅力のフィリピン留学
TEXT & PHOTO 小林圭子
あれれ、思ったより人数が少ないぞ!?
でもこれって実はラッキーかも
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フィリピンでの生活はとても規則正しいものだった。毎日、朝7時半から朝食を摂り、8時から50分の授業が3~4コマ、1時間のお昼休憩の後、また50分の授業が3~4コマ、17時から夕食。「旅」と聞くと、時間を自分の好きなように使えて「自由」というイメージがあるけれど、語学学校に通っていたので、決められたスケジュールの中で行動することが求められ、さすがに思い描いていたような「自由」に過ごすと言う訳にはいかなかった。だけど、日本で生活していたときに時折感じていた窮屈感のようなものは全くなかった。
窮屈感を感じなかったのは、人間関係の気楽さが大きな理由のひとつ。前回書いたとおり、ドゥマゲテという街は日本人からの知名度は低く、さらに私が通っていた語学学校はまだ創設間もない新しい学校だったので、生徒数は思った以上に少なかった。(もしかしたら4月は日本では新学期や新年度にあたるので、時期的に少なかっただけなのかもしれないけれど。)
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というのも、午前中の授業のみ通学で来ていたスペイン人男性が2人、私と同じように学校の寮に入っていた同年代の日本人女性1人と韓国人女性1人、そして私、の5人だけだったのだ(!)
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初めはその人数の少なさにかなりビックリしたものの、すぐにホッとした気持ちになった。前回留学したクラークの語学学校はおそらく70~80人くらい生徒がいて、毎週入れ替わり立ち替わり生徒の出入りがあり、それだけでも環境の変化に対応するのは大変なのに、さらに、もともと既に出来上がっている人間関係の中に飛び込んでいくことはなかなかパワーがいる。
かと言ってそういうのを面倒くさがって積極的に人間関係を作ろうとしなければ、授業の内容や進め方、また先生の善し悪しなどの情報交換ができなくて結局自分が困ることになる。それに毎回の食事だったり、授業が終わってどこかへ出かけるとか、週末のアクティビティに参加するとか、授業以外の時間もかなりのウエイトを占める。(というか、むしろそっちの方が楽しくて大事だったりして…笑。)
前回の留学期間は2週間と短かったため、あまり授業の方に集中できず、授業以外の活動の方にばかり気が向いてしまって、たくさん楽しい思い出はできたものの、あまり英語力がアップしなかったことは、ひとつの反省として残っていた。なので、今回、人数が少なくてあまり人間関係に気を向ける必要がないことは英語を勉強する環境としては正直ありがたいなと思ったのだった。
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会社でも学校でも旅でも
必要なのは『コミュニケーション能力』
ちなみに、この人間関係構築については、普段の旅の中でもかなり重要である。上記のとおり、学校の中での情報共有が重要なのと同じように、むしろそれ以上に、旅をするうえで旅人同士の情報共有はめちゃめちゃ重要なのである。
「どこの宿が安くて清潔か」、「宿の近くに美味しい屋台がある」などというちょっとした情報から、「ある国では入国の際、リターンチケットもしくは第3国に抜けるチケットを持っていないと入国させてもらなかったり、入国させてもらう代わりに賄賂を請求されることがある」というような重要度の高い情報まで、情報の内容もさまざま。もちろん今はほとんどの旅人がノートPCやタブレット、スマートフォンを持っているから、インターネットにアクセスすれば、すぐに情報は手に入る。だけど、情報量が膨大にある中、何が正しくて何が間違っているのかまでは判断が難しいし、刻一刻と状況が変わっていく中で、既に古くなって使えない情報になっていることもある。また発信している人の顏が見えないとどこまで信用して良いかも正直わからない。
その点、顏と顏を付き合わせながら、自分自身が体験したことや見聞きしたことを交換することは、とても価値を持つ。私も普段、簡単なことはPCやスマホでちょちょいと調べて、その情報をもとに行動することがほとんどだけど、たまにどうしてもわからないことがあったり、迷ったりすることがあると、日本人の宿泊客が多そうな宿に行って、日本人の旅人同士、コミュニケーションを取るようにしている。
仕事のできるビジネスマンに必要な能力のひとつに「コミュニケーション能力」がよく挙げられるけれど、私のようなニートの旅人であっても、結局のところ、この「コミュニケーション能力」は欠かせないんだな、と思うと、どんな職種であっても、どんな立場であっても、求められる能力にそんなに違いはないのかもしれない、なんてふと思ったり。
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至れり尽くせりの授業!?
まさか『インタビューのやり方』まで教えてもらえるなんて
さて、語学学校では毎日6~7時間もマンツーマンレッスンを受けていたわけだけど、どんな授業があったか、どういうふうに授業を進めていたか、ということに興味がある人も結構多いのかな、と思うので、ちょっと紹介しておきたい。
まず初日にレベルチェックテストを受ける。確か、語彙・文法・英作文を含む筆記試験が1時間と、先生との会話によるリスニング&スピーキング試験が15分ほどだったように思う。その結果と、あとはこちらの希望によって、先生がそれぞれの生徒ごとに適した時間割を作成してくれる。
はじめは会話力を強化したいと考えていたので、フリーカンバセーションやスピーキングの授業を多めにし、比較的得意な文法と、苦手だけど嫌いな語彙の授業は無しに。あとはリーディングと発音などをバランス良く組み合わせてもらった。だけど、2週目、3週目と進むにつれて、「やっぱりもう一度文法をイチからやり直そうかな」とか「リスニングももっとしっかりやりたい」とかいろいろ希望が出てきて、そのたびに少しワガママを言ってそれを時間割に反映させてもらった。
さらに留学期間も折り返しを過ぎたところで、先生が「旅をするなら英語で記事を書けた方が良いし、ライティングをやろう」と提案してくれたり、少しビジネス寄りの『プレゼンテーション』、さらには私のリクエストに合わせて『インタビューのやり方』なんて授業も入れてくれたり、とかなり柔軟に対応してもらった。これも生徒が60人、70人もいるような大きな学校だとなかなかすぐには対応が難しいことでも、少人数だったからこそ迅速に対応してもらえたんだと思うと、本当にラッキーだった。
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授業のやり方や教材は担当の先生によって違っていた。リーディングやリスニング、文法などは先生が使い慣れている教材をコピーして持ってきてくれることが多かった。フリーカンバセーションは毎日、何十個も質問を作ってくる先生もいれば、ひとつ大きなテーマを与えてそれについて自分の考えを述べさせる先生もいた。ただ、どの先生にも共通して言えたのは、本当にレベルが高くて教えるのが上手だった、ということ。
さすが学園都市のドゥマゲテだけあって、周りにレベルの高い大学もいくつかあり、そこの大学出身の先生が何人かいたり、アメリカやサウジアラビアで教師経験がある先生もいたりして、本当に信頼できる先生ばかりだった。しかもこれはフィリピン人全体に言える特徴なのかもしれないけれど、どの先生も優しくてフレンドリーで気さくで、そして、可愛いいたずらっ子のような茶目っ気もあって。そんな先生たちに教えてもらっていたおかげか、これまでの人生の中で、あまり勉強が楽しかった記憶って無いけれど、ここでの英語の勉強は本当に楽しくて充実したものだったな、と今でもよく思い出す。
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マジメな話から女子トークまで
価値観の違いを学ぶ機会になった
授業中、お互いのこれまでの仕事の話や「働く」ってことに対する考え方、人生において何が一番重要か、お金への価値観、などマジメな話もたくさんしたし、恋愛やファッション、スイーツなどのいわゆる女子トークでも盛り上がった。
そう言えば、「美」に対する価値観は日本人のそれとは全く違っていたことはとても興味深かった。というのも、私たちは普段、男性のカッコ良さ、女性のキレイさは、目の大きさや鼻の高さなど、顏の造りを全体的に判断することが多いけれど、フィリピン人にとっては、肌の色が白いかどうかが最も大事。なので、私たちアラサー女生徒たちで、学校近くのレストランにカッコ良い店員さんがいるとキャーキャー騒いでいたときも、先生たちの「彼は色が黒いしイマイチだよ」のひと言で一蹴されてしまったのだった(笑)。
おそらく外国人とこれほど深く信頼関係を築き、お互いの価値観を認め合い、そしていろんなことを考えさせられたり、感情を揺さぶられたのは、このフィリピンという国が一番だと思う。それらのエピソードはまた次回。(了)
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(次回もお楽しみに。隔週水曜 更新予定です)
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連載バックナンバー
第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)
第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
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小林圭子さんが世界一周に出るまでの話
『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため」(2014.5.19)