【第130話】みずから創作者になること / 深井次郎エッセイ

「これは何に使うのですか?」

「これは何に使うのですか?」

価格競争から自由になるには
オリジナル商品をつくりだすこと

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同じものだったら少しでも安い方を買いたい。それはだれもが考えることです。電子書籍の販売価格について。海外企業のアマゾンに対して国内企業の紀伊国屋チェーンなどが戦々恐々としているというニュースがありました。焦点は、消費税がかかるかかからないか。国内企業はとうぜん8%の消費税がかかります。しかし、法的に海外企業は消費税がかからないのです。これが不平等ではないかというのです。

アマゾンは手加減せずに、消費税をかけない価格設定を打ち出してきました。消費者にとっては、やさしい選択ですが、国内企業にとってはたまりません。価格競争で負けてしまうので、アマゾンのひとり勝ちになることは明らかです。「同じものなら少しでも安いところから買いたい」これが消費者の心理だからです。

他社と値段競争になったときが一番ぐったりするものです。今のゆるい文筆家の姿からは想像できないと言われますが、ぼくもサラリーマン時代に、スーツを着てコピー機などの法人営業をまかされた時期があります。正直、コピー機はどの販売代理店から買っても同じです。同じ機種を、少しでも安い価格で提示した会社の営業マンが契約を勝ち取る。「これって、営業マンが間に入る意味ある? 価格コムでいいじゃん」と嘆きました。自分が独立するなら、値段勝負になる販売代理店はやりたくないなと心に刻みました。

ただ、コピー機は100万〜300万もする大きな買い物です(これ高すぎるよね…)。それに定期的なメンテナンスが必要になります。なので、単純な値段の差だけの勝負ではなく、長い付き合いをするうえで信頼できる人と会社かという判断軸が生まれる。これによって、「高いけど、キミのところとつきあいたい」と契約をいただけることがありました。その言葉を聞くのが、コピー機売り時代のやりがいでした。「キミが毎月顔出してくれるんだったら、いくら高くても買うよ」と言ってくれるお客さん(中小企業の社長さんたち)も増えてきました。月並みな言い方ですが、自分を売っていたのです。

できれば自分のところ以外だれも扱っていない、オリジナル商品をつくって売りたい。そうすれば競合にはなりませんので、値引き合戦にはなりません。そういうものづくりをやっていきたい。ぼくは販売代理店ではなく、メーカーになりたい。他人がつくった商品を値引き合戦して売っても楽しくなかったのです。それで儲けても、むなしかったのです。むなしく稼いだお金は、つい散財してしまいます。心が満たされないので、そのスキマを埋めるように買い物をしてしまう。でも、いくら高級品を買っても、心は満たされません。「そんな高いの持っててすごいね」と言われても、自分が認められたわけではありません。モノがすごいのであって、ぼくではない。別にそれでだれかを幸せな気分にしているわけでもありません。

自分たちにしかつくれないものをつくりたい。自分がつくったものを気に入ってくれる人がいるって最高の気分です。そして、自分たちのやり方で売りたい。「企画する → つくる → 売る → 仲間をつくる」という商いにおけるひと回りの全部を自分たちでやっていくことが面白いし、やりがいを感じます。他でも買える商品をただ陳列して売るというビジネスは、成り立たない時代になってしまいました。アマゾンのひとり勝ちでずるいと非難する前に、そもそも値段競争にならないようにする工夫をサボってきてしまったのです。あなたのところでしか得られない体験を、どうつくるか。そもそも「競争しないと食っていけない状態にまで図体を大きくしない」というところから、これから始める人たちは考えていきたいですね。

 

(約1439字)

Photo: Kim Marius Flakstad

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。