第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから

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2年も旅をしてまわる以上、最低限の語学力は身につけておきたかった

連載「旅って面白いの?」とは  【隔週水曜更新】
世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。

 

第5話  最初の国の選び方 

TEXT & PHOTO 小林圭子

 

人生にはコントロールできない波があるのだ
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日本を出て7ヶ月半。これまで出会った人に、「世界中を旅している」なんて言うと、返ってくる反応として多いのが、「そんな長く旅できて良いねー!」「羨ましいー!」「すごいねー!」みたいな、どちらかと言うとポジティブな反応。

でも実際に旅を続けていると、良いこともあれば悪いこともあるし、合う場所もあれば合わない場所もあるし、良い人がいればそうじゃない人もいる。そのあたりはたぶん日本にいるのとそれほど変わりはなく、ただそのスケールが大きかったり、感情が揺さぶられる頻度が多かったりするだけなのだと思う。自分の旅を振り返っても、ずーっと同じテンションだったわけではなく、「波」があった。

 

 

モニュメント。「I ♥︎ DUMAGUETE」のモニュメント前で記念にパチリ。ポーズを求められ、困った挙句なぜか「C」(笑)

「I ♥︎ DUMAGUETE」のモニュメント前で記念にパチリ。ポーズを求められ、困った挙句なぜか「C」(笑)

 

「波」といえば、最近タイで知り合った女性がおもしろいことを言っていた。

「10代の若い頃、何かに悩んだり、心を落ち着けたいときによく海に行って波を眺めていたんだ。当たり前だけど、波って自分のチカラで止めることができないじゃない? ふとそう思ったときに、世の中には自分のチカラではどうしようもないことがあるなって気がついたの。波だけじゃなく自然に存在するものとか、自然界に働くチカラとかね。そう思うようになってから、すごく気持ちがラクになったのを覚えてる。」って。

自分の旅は正直、始まりがわりとテンション低くて、というより何かに焦る気持ちが強くて、このままじゃダメだともがいて空回りして、自分で自分を動きにくくしてたんだと思う。最近ようやく気持ちに余裕が出てきて旅そのものを楽しめるようになってきたけど、そのもがいていたときに、彼女のように自分のチカラではどうしようもできない「波」に気がついていれば、もっと早く吹っ切れたのかもしれないな。

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世界一周をフィリピンからスタートした理由
「ちょうど良い語学学校があったから」

意気揚々と日本を出国し、目の前には希望だけが広がっていたのに、なぜ旅の始まりでテンションが下がってしまったのか、何にそんなに焦っていたのか。これから旅をどのように進めていくのかも含めて、これまで訪れた国について、少し振り返ってみようと思う。

1ヶ国目はフィリピン。だいたい世界一周する人は、まず1ヶ国目をどこにするかで結構悩むところだと思う。日本から近い中国や韓国からスタートさせる人もいれば、いきなりアメリカに飛んでしまう人もいる。それはもう人によってさまざま。行きたいイベントやお祭りに合わせたり、訪れる国のベストシーズンを調べたり、「東廻りにするか西廻りにするか」だけでも意見は二分されてしまうのだから、旅程を決めるのはなかなか難しい。まさしく、100人いれば100通りの旅のルートが出来上がる。なんともおもしろい。

私がフィリピンを選んだ理由は、今流行りの「フィリピン英語留学」のため。欧米諸国に比べて格段に安いコストで、マンツーマンの効率的な授業が毎日6~8時間受けられる。まだ会社員をしていた2012年の年末年始に2週間のフィリピン語学留学を経験していた私は、今回もフィリピンからスタートすることに何の迷いも無く、他の選択肢が全く浮かばないくらいの即決だった。

というのも、2年も旅をしてまわる以上、最低限の語学力は身につけておきたかった。ここで言う最低限というのは、できれば外国人とのコミュニケーションをがスムーズに取れるくらいの英語力、というイメージ。語学力をどれくらい求めるかは旅のスタイルによっても違うと思うけど、もともと英語コンプレックスを持っている私としては、どうしても旅を始めるにあたって、そしてもちろん旅の中でも、英語力強化は外せないところだった。そういう理由から、他の人に比べて、1ヶ国目はかなりスムーズに決まったんじゃないかと思う。

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シーサイドエリア。太陽が燦々と降り注ぐ朝も好きだったけど、夕方の空の美しさはまた格別。学校の友人たちとよく散歩に出かけたお気に入りスポット

シーサイドエリア。太陽が燦々と降り注ぐ朝も好きだったけど、夕方の空の美しさはまた格別。学校の友人たちとよく散歩に出かけたお気に入りスポット

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留学期間については少し悩んだ。1ヶ月だと少ない気がするし、2ヶ月だと多い気がするし、日本人らしく (?) 真ん中を取って1ヶ月半にした。場所はマニラから飛行機で1時間のところにあるネグロス島のドゥマゲテという街。前回訪れたマニラから車で2時間のところにあるクラークという街の学校もとても良かったのだけど、まわりに海が無くアクティビティが限られていたので、今回は海に囲まれた小さな島に行くことにした。また、その街で友人のご両親が語学学校を経営している、というのも大きな決め手になった。やはり日本人経営の学校というだけで得られる安心感は大きい。

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フィリピン、ネグロス島の街ドゥマゲテは
治安が良く生活しやすいぞ

実は、今回の留学で初めてネグロス島という島を知った。フィリピン留学と言えば、やっぱりセブ島が圧倒的に人気。もともと観光地としても人気のあるセブ島だけど、ここ5、6年で旅行客だけでなく、英語留学に行く日本人が激増した。日本人だけでなく、それ以上に韓国人や中国人も多いと聞く。ただ、急激に島の人口が増えたおかげで、最近は治安が徐々に悪くなっている、という話もちらほら耳にしたりする。

その点、ネグロス島は日本人にはまだあまり知られていないけれど、とても魅力的で個人的にオススメな島。その中でも特にドゥマゲテという街は、たくさんの大学がある学園都市であり、欧米からの移住者も多いため、オシャレなカフェやバー、またショッピングモールなども街中にあり、とても生活しやすい。街の大きさも、大きすぎず小さすぎず丁度良い。

また、夜に女性2人だけで出歩けるほど治安も良い。学校から街への移動はトライシクルと呼ばれる三輪タクシーを使うのだけど、マニラやセブ島のドライバーとは違い、ドゥマゲテのドライバーは、相手が外国人でも絶対にぼったくったりしない。毎回現地の人と同じ価格で目的地まで届けてくれる。ちょっとしたことかもしれないけれど、いちいち値段交渉をする必要がなく、安心してトライシクルに乗れることは、東南アジアでの生活に慣れていない日本人にとっては、結構ありがたいものじゃないかと思う。ちなみに、ドゥマゲテの街のスローガンは『 The City of Gentle People 』。それがしっかり市民に根付いているのは、素晴らしいのひと言。

 

トライシクル。街中をたくさんのトライシクルが走っている。ドライバーさんも親切な人が多くて安心。乗り合いタクシーなので、他のお客さんと相乗りになることがよくあった

トライシクル。街中をたくさんのトライシクルが走っている。ドライバーさんも親切な人が多くて安心。乗り合いタクシーなので、他のお客さんと相乗りになることがよくあった

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学校に通う穏やかな日々の中で
インタビュープロジェクトの作戦を練ろうとしたのだが

さて、そんな落ち着いた環境の中、以前少し述べた『なんともならなかった旅の準備』について進めようと当初は考えていた。つまりは、旅の企画として企業にも提出した『インタビューの準備』ということになる。フィリピンは留学のための滞在であり、旅の準備のための期間であり、正直、自分の中ではまだ旅が始まったという感覚ではなかった。

インタビューをどうやって実施するか、記事をどうやって発信するか、発信媒体は自分のブログで良いかどうか、ブログの中で記事をどうやって魅せていくか、などなど考えるべきことがたくさんあった。

人と話すことも文章を書くことも好きだし、どちらかと言うと苦手ではないと思っていたけれど、所詮は素人。これまで会計の仕事しかしてきていない身としては、人へのインタビューも、それを記事として発信することもやったことはない。これといったノウハウも無い以上、どう進めれば良いのかについては思った以上に悩むところとなった。

ところで、私は本当に極端な人間だとつくづく思う。ちゃんとできているかはともかくとして、やりたいことは集中してどんどん進められる。やりたくないことは、たとえやらなきゃいけないことでも後回しにしてしまい、最終的にどうしようもなくなって泣きながらやるか、もしくは結局やらない、なんてこともちらほら。

得意なことと苦手なことの差も大きい。得意なことと言っても別に人より飛び抜けて何かができるなんてことはほとんど無いんだけど、苦手なことは人と比べてもずば抜けてできない。たまに自分のことをどうしようもない欠陥人間だと思うこともしばしば。謙遜でも冗談でもなんでもなく、とにかくバランスが悪いのである。

そして、そんな欠陥人間は、結局これからの旅やインタビュー企画の準備に手を付けられず、日々の英会話の授業と宿題に(あと、学校の友人や先生たちとの遊びにも……笑)ただ追われる日々を送ることになったのだった。(了)

 

【左】ゴミ箱。学校近くのレストランでおもしろいゴミ箱発見! 顏が怖くてゴミが捨てられなかった。 【右】マネキン。ショッピングモールのオシャレな洋服屋さんで、気怠そうにしているマネキンに遭遇。「しっかり働かなきゃダメだよ…」と肩をポンポンしてあげた(笑)

【左】ゴミ箱。学校近くのレストランでおもしろいゴミ箱発見! 顏が怖くてゴミが捨てられなかった。
【右】マネキン。ショッピングモールのオシャレな洋服屋さんで、気怠そうにしているマネキンに遭遇。「しっかり働かなきゃダメだよ…」と肩をポンポンしてあげた(笑)

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馬車。週末になると、ココはヨーロッパか!? と見間違えるほどのかわいらしい馬車が街を走っていた。東南アジアらしからぬ美しい街並が印象的

馬車。週末になると、ココはヨーロッパか!? と見間違えるほどのかわいらしい馬車が街を走っていた。東南アジアらしからぬ美しい街並が印象的

 

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(次回もお楽しみに。隔週水曜 更新予定です)
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連載バックナンバー

第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)
第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)

小林圭子さんが世界一周に出るまでの話

『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため(2014.5.19)

 


小林圭子

小林圭子

1982年、大阪生まれ。米国公認会計士の資格取得後、ベンチャー企業および楽天にて約5年半、会計業務に従事。同時に会計士の専門学校では学習カウンセラーを、自由大学でキュレーターをするなど、パラレルキャリア志向が強い。2014年3月末で楽天を退社し、同4月より約2年間かけての世界一周の旅に挑戦。世界中の多様な働き方やライフスタイルに、刺激を受ける日々を送っている。 「一身上の都合」小林圭子さんの場合 http://ordinary.co.jp/series/4491/ https://instagram.com/k_co_ba_326/