第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり 

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 この調子でいくのかと思うと、想像するだけでぞっとしてしまう

連載「旅って面白いの?」とは  【隔週水曜更新】
世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない..」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。

 

第1話  世界一周、ふたを開けたらため息ばかり

TEXT & PHOTO 小林圭子

 

 「ああ、なんてつまらないのだろう……」

2年間。なかなかの長期ひとり旅を計画し、2014年4月18日に日本を出て、早くも5ヶ月が経った。

この「5ヶ月」という数字を見ると、正直、もうそんなに経ってしまったのか、という単なる驚きだけでなく、落胆にも似た思いで胸がいっぱいになるとともに、アタマを石でガツンと殴られた後のようにクラクラ目眩を覚える。その場にへたりと座り込んでしまいたいような衝動をなんとかこらえ、2本の足で必死に踏ん張る。そして、この思いを誰とも共有できず、いつも自分の気持ちの中だけで消化しないといけないことに、なんだか空しさを感じてしまう。この空しさこそ、避けることのできない、ひとり旅につきまとう孤独。なのかもしれない。

「時間が経つのを早く感じるということは、毎日が充実した証拠」なーんて言う人もいるかもしれないけれど、自分の旅を振り返ってみると、とてもそんなふうには思えない。もしこれからの1年7ヶ月(2年ぴったりで終わるとすれば)が、この調子で淡々と進んでいくのかと思うと、想像するだけでぞっとしてしまう
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アユタヤ遺跡と言えばこの仏様。これを見るのを一番楽しみにしていた。正直、もっと大きいものを想像していたので、いざ目の前にしてみると意外に小さくてビックリ (笑)

タイ。アユタヤ遺跡と言えばこの仏様。これを見るのを一番楽しみにしていた。正直、もっと大きいものを想像していたので、いざ目の前にしてみると意外に小さくてビックリ (笑)

 

32歳のバックパッカー1年生
危険ばかりと思いきや

 

私はバックパッカーというものをしたことが無かった。これまでの旅行といえば、航空券とホテル、さらに、いくつかの現地ツアーがセットになっているような、お手軽パッケージ旅行ばかり。なので、32歳にしてついにデビュー! の新米バックパッカーなのである。

期間にしても、大学2年生の夏に4週間、カナダのバンクーバーに遊びに行ったのが最長。それがまさか2年もバックパックを背負って世界を旅してまわる、なんて言い出したものだから、家族はもちろん、親しい友人もかなりビックリしたに違いない。
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ワットアルンから眺めたバンコクの街並み。ものすごく急な階段を手摺りに捕まりながら必死に登った。ぜえぜえ言いながらふと対岸を見渡してみると、いつものカオスなバンコクとは違い、少しヨーロッパっぽい趣きが感じられた。

ワットアルンから眺めたバンコクの街並み。ものすごく急な階段を手すりに捕まりながら必死に登った。ぜえぜえ言いながらふと対岸を見渡してみると、いつものカオスなバンコクとは違い、少しヨーロッパっぽい趣きが感じられた

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そんないわゆる旅初心者の私が、今回、旅に出る前にバックパッカーに対して抱いていたイメージと言えば、毎日安宿を探して歩き回り、移動は飛行機なんて使わず、どれだけ時間がかかったってバスと電車で国境を越え、ごはんはローカル屋台で済ます、というような、とにかく節約命! の貧乏旅人。にも関わらず、なぜか、運悪くぼったくりや盗難事件に遭ったり、怖い外国人に追いかけ回されたり、まさかの日本人同士で昼夜騙し合いが行われる、といった常に危険と隣り合わせの恐ろしい生活を送ることを余儀なくされる。そして私もデビューしたからには、そんなドキドキワクワクの毎日が待っている・・・はずだった。

しかし、蓋を開けてみてビックリ。想像していたような、常に危険と隣り合わせの恐ろしい生活なんてどこにもない。いや、確かに、夜は極力出歩かない、とか、ドミトリーの部屋ではたとえ他の人が誰もロッカーに鍵をかけていなかったとしても自分は絶対鍵をかける、とか、できるだけ危険やトラブルを避けるように意識はしている。でもこれは恐らく、バックパッカーにとっては、基本中の基本のはず。バックパッカーのバイブル『地球の歩き方』や、これまでの諸先輩旅人のブログにも、これくらいの注意事項は当たり前のこととして書いてある。

つまり、これらの基本的注意事項にどれだけ気をつけていたって、いろんなトラブルに巻き込まれるのがバックパッカーたる所以! そして、それこそまさに旅の醍醐味!のはずではなかったのか。にも関わらず、自分の旅は至って平和。平凡。普通。なんだか拍子抜け・・・どころか、少なからず刺激を求めていた身としては、なんてつまらないんだろう、とすら思ってしまう。

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ゲストハウス近くに出ていた屋台。溶き卵に野菜やソーセージなどをいくつか混ぜてオムレツみたいなのを作ってくれる。それをごはんにのせるだけのシンプル料理。お手軽さと、約100円という安さに惹かれて、2日連続夕飯はここで(笑)

ゲストハウス近くに出ていた屋台。溶き卵に野菜やソーセージなどをいくつか混ぜてオムレツみたいなのを作ってくれる。それをごはんにのせるだけのシンプル料理。お手軽さと、約100円という安さに惹かれて、2日連続夕飯はここで(笑)

 

たいしたトラブルがない私
これでいいのか?

 

そんなとにかく平々凡々なこの5ヶ月をさかのぼって、何かトラブルエピソードを必死に探してみる。私が遭った被害らしい被害と言えば、タイでタクシーに乗ったときだ。

推定200バーツ(約600円)くらいのところを1,000バーツ要求された。「はぁ!? ふざけんなー! 」一瞬イラッとしつつも、1人で乗っていたこと、荷物が多くて後ろの荷台に積んでいたこと(降りた瞬間発車して荷物を持っていかれたら、というリスクが頭をよぎった)、ここで戦って飛び道具を出されても怖いと思ったことなどから、おとなしく戦うのをやめ、相手の手のひらに思い切り1,000バーツ叩き付けて降りてやった、ということくらいしか出てこない。(もしかしたら、他の国でもうまいことぼったくられたりしているのかもしれないが、私自身が気付いていないので、それはそれで良し、ということで)

私は別に平和主義者ではない。どちらかと言うと、自分の意見ははっきり言う方だし、その場の空気を読んで相手に合わせる、というのも好きではない。そんな、日本人にしては血の気の多い自分が、トラブルについてこんなエピソードしか持っていないなんて、情けなくすら感じる。切実な思いを込めて、『あぁ、なんてつまらないのだろう・・・』
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ウィークエンドマーケットの近くにあったローカル市場。ウィークエンドマーケットで洋服など衝動買いした後、少しでも夕飯代を浮かせようとこの市場をウロウロ。活気があってローカルの人で賑わっていた

ウィークエンドマーケットの近くにあったローカル市場。洋服など衝動買いした後、少しでも夕飯代を浮かせようとこの市場をウロウロ。活気があってローカルの人で賑わっていた

 

アユタヤ遺跡。バンコクの寺院は観光客でごった返しているのに比べて、アユタヤは人もそれほど多くなく、青空が広がって開放感満開。穏やかな空気の中、遺跡をゆっくり見て回れるのが◎

アユタヤ遺跡。バンコクの寺院は観光客でごった返しているのに比べて、アユタヤは人もそれほど多くなく、青空が広がって開放感満開。穏やかな空気の中、遺跡をゆっくり見て回れるのが ◎

 

バックパッカーの申し子もいるもんだ
タイのヒロシさんの場合

 

さらに悶々としている私に追い打ちをかけるように、ほんの数日前、ある facebook の投稿が目に飛びこんできた。

バンコクの宿で知り合った(おそらく)30代後半のヒロシさん。このとき、私は猛烈おなかの調子が悪く、このヒロシさんに正露丸をもらったり、今後の食事はどういうものを摂れば良いか、などのアドバイスをもらったり、という具合だった。あまりゆっくりお互いの旅話ができなかったのであるが、どうやらこのヒロシさんもバックパック初心者で、しかもまだ日本を出て間もない、というステータスのよう。言うなれば自分の方がちょっとだけ旅の先輩だった。にも関わらず! このヒロシさんは既にものすごいエピソードの持ち主に一気に駆け上がってしまったのである。

まずは、出発の日。成田空港でなんとパスポートを忘れたことに気付き、急遽飛行機のチケットをキャンセル。そして翌日の便を押さえ、そのまま空港で40時間を過ごすことになる。その後、無事にバンコクに到着するも宿で引きこもりの生活を約2週間。本人いわく、早くも沈没化。そこから旅の計画を立て直し、ベトナムへと移動。入国審査の際、空港で悪徳係員に賄賂を要求される。ホーチミン、ハノイの社会主義的生活とゲテモノ食材を十分堪能し、ここはなんとか乗り切ったと思ったのも束の間、ラオスのルアンパパーン行きのバスチケットを買ったにも関わらず、無理矢理ビエンチャン行きのバスに乗せられ、もしかして途中、ルアンパパーンで降ろしてもらえるかな、という淡い期待もむなしく、やっぱりビエンチャンに到着する。という、たった3週間のバックパッカー生活にも関わらず、早くも波瀾万丈! ネタ満載! まさにバックパッカーの申し子! とも言える活躍ぶりなのである。

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バンコクから乗り合いバンでナコンパトムへ。寺院の中に僧侶の学校があり、ちょうど休憩時間だったらしく、若い僧侶の皆さんが和気藹々おしゃべり中。片手にコーラ持ってたのが、なんだか違和感があり、さらに微笑ましく感じられた(笑)

バンコクから乗り合いバンでナコンパトムへ。寺院の中に僧侶の学校があり、ちょうど休憩時間だったらしく、若い僧侶の皆さんが和気藹々おしゃべり中。片手にコーラ持ってたのが、なんだか違和感があり、さらに微笑ましく感じられた(笑)

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そりゃ確かにヒロシさんにしてみれば、旅に出て早々、散々な目に遭ったと思ってるかもしれない。きっと大変だったに違いない。誰もトラブル的ハプニングなど遭いたくはないだろう。

それはわかる。わかっている上ではっきりと言わせてもらう。ヒロシさんのエピソードは「おいしい」のだ!  関西人じゃなくたって(私はバリバリ生粋の大阪人だけど)、旅人であれば、こんなネタのひとつやふたつ、持っていて損はないのである。それに比べ、自分の平和な日々といったら・・・。ため息が出てしまう。敢えてもう一度、繰り返す。

『あぁ、なんてつまらないのだろう・・・』

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(次回をお楽しみに。隔週水曜 更新予定です)
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連載バックナンバー

第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)

小林圭子さんが世界一周に出るまでの話

『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため(2014.5.19)

 

 


小林圭子

小林圭子

1982年、大阪生まれ。米国公認会計士の資格取得後、ベンチャー企業および楽天にて約5年半、会計業務に従事。同時に会計士の専門学校では学習カウンセラーを、自由大学でキュレーターをするなど、パラレルキャリア志向が強い。2014年3月末で楽天を退社し、同4月より約2年間かけての世界一周の旅に挑戦。世界中の多様な働き方やライフスタイルに、刺激を受ける日々を送っている。 「一身上の都合」小林圭子さんの場合 http://ordinary.co.jp/series/4491/ https://instagram.com/k_co_ba_326/