旅って面白いの?【第23話】吉と出るか凶と出るか… 全ては自分の感覚を信じるのみ! 〈ベトナム → 中国〉

「旅って面白いの?」なんで中国に行くつもりがなかったのかと言うと、たぶんその憧れを壊されたくない、というのがあったのかなと思う。というのも、正直、今の中国に対して持っているイメージがあまりにも良くなかったから(もし中国の方がこれを見ていたら、ごめんなさい… )。

連載「旅って面白いの?」とは  【毎週水曜更新】
世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。

 

第23話   と出るかと出るか… 全ては自分の感覚を信じるのみ!  〈ベトナム → 中国〉 

TEXT & PHOTO 小林圭子

 

 

 

旅に呼ばれる」って!? 
 よくわからなかったこの感覚を 
 体感できるときがついに来たー
 

ーーー

自分がこの問いへの答えを持ち合わせていないにも関わらず、「なぜ旅に出たのか?」とこれまで出会ってきた多くの旅人に問うてきた。

「世界中の絶景や世界遺産が見たかったから」
「もともと旅行が好きで、社会人になってからもずっと旅に出るのが夢だったから」
「自分は美容師で、旅をしながら世界中の人の髪の毛を切ってあげたいと思ったから」
「ダンスが趣味で、いろんな国の人と一緒に踊ってみたかったから」

など、その理由は人によって様々。

なんでわざわざこの質問をするのかと言うと、もしかしたらそこに自分の旅のヒントがあるんじゃないか、という淡い期待が隠れているのかもしれない。だけど、そういうのを抜きにしたって、話をしてくれた人の想いや夢を共有できたような気持ちになれることが単純に嬉しくて、ただそれを黙って聞きながら「あぁ、そういうのおもしろいよね」とワクワク思ったり。同時に、「そんな具体的な理由があって良いなぁ…」と少し羨ましく思わされたり。かと思えば、

「いやー、なんかよくわかんないけど、旅に呼ばれたんだよねー」

なんて軽いノリで言ってくる人もいたりして。そしてこの『旅に呼ばれた』というフレーズ、昔からよく耳にはするけれど、それを聞くたびに「なんかカッコイイっぽいこと言ってるけど、正直よくわかんないや」という感想をいつも持っていた。それなのに、まさかそんな私が「あ、私、この国に呼ばれたのかもしれない」と、この旅を通して初めて思わされた国があった。そう、それはなんとお隣の大国、中国。

 

 

 

興味がない」は実は憧れの裏返し? 
 裏切られるのが怖くて、踏み込めなかった大国 

 

 

実は中国には初めっから全く行くつもりがなかった。「中国はいつ行くの?」と誰かに聞かれるたびに、

「ううん、全く興味ないから行かないよ」

と答えていた。おまけに今回の旅ではロシアも行き先から外していたから、「ユーラシア大陸のその2大国(ただ面積が大きいというだけの意味)を飛ばして、よく世界一周なんて言えるね」なんて皮肉を言われることもあったけれど、何と言われようがそこを変えるつもりはなかった。

ただ、今思えば、「興味がない」というのはウソだったんだろうと思う。そう、間違いなく興味はあったんだ。そういえば、昔から中国史が好きで、20代の頃、ある作家の中国歴史小説にハマって、ずっとその作家の作品ばっかり取っ替え引っ替え読んでいた時期があった。それを思えば、むしろ中国に対して憧れのようなものさえ抱いていたかもしれない。

じゃあ、なんで中国に行くつもりがなかったのかと言うと、たぶんその憧れを壊されたくない、というのがあったのかなと思う。というのも、正直、今の中国に対して持っているイメージがあまりにも良くなかったから(もし中国の方がこれを見ていたら、ごめんなさい… )。「うるさい」「汚い」「マナーが悪い」というのが代名詞のようになっていて、なかなかその世界に足を踏み入れる勇気が無かったし、これまで自分の中に築き上げてきた中国の壮大な歴史観が、一気にひっくり返されそうな気がしてイヤだったというのもある。

さらに、その「うるさい」「汚い」「マナーが悪い」に対して、強い反発みたいなものさえ感じていて、中国といえば、老子や荘子などの道家や、孔子や孟子などの儒家を輩出した思想国家であるはずなのに、どうしてそういった素晴らしい教えが現代の道徳観や倫理観に反映されないんだろう… と(一度、中国人にこのことを聞いてみたら、「それは昔の人のことだから。今は違うのよ」と軽く流されてしまった… 笑)。

そんなこんなで、中国に対しては複雑な想いを抱えつつも、今回の旅のルートとしては外すことにしたのだった。

 

 .
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 どこにいたって気になる存在 
 きっと私の前世は中国人に違いない…!? 

 

こうして中国のことは、ひとまず今回の旅から切り離して、どこか遠くに置いておいたはずなのに、「そんなことは許すまじ」とばかりに、なぜかたびたび私の前に現れては、自分の存在を主張してくるのがこの国の恐ろしさ(笑)。インドネシアやマレーシア、シンガポールやベトナムなど、どの国に行っても、どこかしらで中国の影がちらついていた。バンコクで出会った、バンコク在住の日本人の方が

「オレの前世は絶対タイ人だと思う。今、ここにどっぷり漬かって生活しているのもご縁だと思うし、何より、タイのことがめちゃくちゃ好きだし」

と言っているのを聞いて、私はふと「私の前世は中国人かもなぁ… 」と何の根拠もなく思ってしまうほど(別に今のところご縁も無ければ、どっぷり漬かってもないし、今の中国が好きかと言われれば、まぁそうでもないんだけれど… 笑)。

そしてこの「影」を感じた理由を考えてみたところ、何と言ってもやっぱり華僑とチャイナタウンの存在が大きいのかな、と思う。だいたいどこの国にもそこに住んでいる日本人がいて、ちょっとした日本人街と呼ばれるようなエリアがあるものだけれど、この華僑の存在とチャイナタウンの規模はそれとは全く比にならないくらい大きい。「ホント、中国人てどこでもいるんだな… 」と東南アジア各国をまわっていて、何度思わされたことかわからないし、彼らのもつビジネスセンスを賞賛する声も幾度となく聞いた。

たとえば、フィリピンに留学していたとき、その街で一番土地を持っているのは華僑の家系だった。また、シドニーで働く女性は「やっぱり中国人とインド人のお金儲けに対するパワーはすごい! 日本人には絶対かなわない」と言っていたし、カンボジアに出張で来ていた女性も「身内(一族)で助け合いながらビジネスを拡大していく華僑のやり方は日本人も見習った方が良いよね。彼らの仲間意識の強さが、世界中に華僑が拡大していった理由のひとつ」と言っていた。そんな話を聞くたびに、単純な私は「いやー、やっぱり中国人はすごいわぁ… 」とただただ感心するばかりだった。

 

ゴックサンテンプル。ハノイのホアンキエム湖に佇むお寺。中国統治時代の名残りで、街の至る所で漢字を目にすることができる

ゴックサンテンプル。ハノイ(ベトナムの首都)のホアンキエム湖に佇むお寺。中国統治時代の名残りで、街の至る所で漢字を目にすることができる

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 直前になってルート変更!? 
 そんなに「何もない」って言われると… ねぇ… 

 

さて、ベトナムにビザ無しで滞在可能なのは15日間、というのは以前もどこかで書いたとおり。南部のホーチミンから中部のダナン、ホイアン、フエと順調にきて、日程的にちょっとカツカツになりつつも、残すは北部のハノイだけとなっていた。その後は、陸路でラオス、タイのチェンマイと進んでいく予定。11月上旬にチェンマイで開催される1年に1度の有名なお祭り「ロイクラトン祭」にどうしても参加したかったので、それに合わせて日程を調整しながら進んでいく、ということだけをざっくり決めていた。ハノイからチェンマイ入りまで約2週間。それだけあれば、まぁ、ラオスも十分見てまわれるだろう、という感じで。

そんなわけで、ハノイからどうやってラオスに移動できるのかをフエに滞在中に調べていると、ラオスに行ったことがあるという日本人の中年男性が声をかけてきた。

「ラオスは特に何もないよ」と。

もともとそんなにガッツリ観光するタイプでもないし、何もなければ何もないで別に良かったんだけど、

「行っても行かなくても良いんじゃない? ハノイからだと、陸路での移動も結構大変だし」

とまで言われてしまうと、さすがに悩んでしまう。しかも調べてみると、確かにハノイからビエンチャンまでバスで20時間、かなりの悪路、ときた。もうこうなってくると、移動嫌い病が早速発病して、行く前からただただ憂鬱になってしまうわけで…。「あぁ、どうしようかなぁ。行きたくなくなってきた…。行っても何もないらしいし… 」と頭の中がグールグル。行かない理由を必死に探してしまうのだった。本当はもっとベトナムにいられれば良いけれど、ビザがないからそれも難しいし…。さっさとチェンマイに行ってしまっても良いけれど、そんなに早く行ってもやることないし…。うーん、うーん、さてどうしよう…。

 

 

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 こうなりゃ行くしかないでしょう! 
 ついに歴史に立ち向かうときがやってきた! 

 

そんなとき、フッと横から顏を出してきたのが、またしても中国。中国もラオス同様、陸路でベトナムから入ることができる。私はこれまでただの一度も「中国」と入力すらしたことはなかったのに、ここで初めてこの国について調べてみることにした。

ハノイから国境付近の街ラオカイまで夜行列車で約9時間、そこから国境の橋を越え、中国へ入国、河口という街へ。さらに河口からバスで7時間、雲南省の省都、昆明へ、というのがどうやら一般的なルートのよう。電車に乗ったり、橋を超えたり、バスに乗ったりと、トータルすれば18時間くらいはかかるので、ビエンチャンへの20時間とさほど変わらないように思えるかもしれないけれど、この「乗り換え」があることが私の精神的負担を幾分も軽くしてくれる。

「中国に行ってみようか… 」

だんだんそちらに気持ちが傾いてきた。中国とひとことで言ってもその面積はとてつもなく広い。調べていくうちに、行きたいところ、見たいものがどんどんどんどん出てくる。さすがは4000年の歴史を擁する国。

だけど、今回はとてもそんな時間的余裕も精神的余裕も無い。仕方なく、絶対に見に行くものは1つだけに絞ることにした。そしてもし中国のことがどうしてもイヤだったり、気に入らなかったり、合わなかったらすぐに出よう、と自分の中にある程度の逃げ道を作って、1週間~10日という短めの日程で中国に入ることを決めた。

日本から近いようで遠い国、日本と似ているようで全く異なる国。掴みどころがなく、どこか得体の知れない国。そんな中国にいよいよ行くことになってしまった。楽しみなのか、怖いのか、自分の感情がよくわからなかったけれど、胸が高揚してくるのだけは強く感じることができた。(了)

 

 

 

【写真でふりかえる ベトナム → 中国 】

孔子廟。広い敷地に立派な廟(ハノイにて)。ここでも中国の存在をまざまざと見せつけられた。孔子の思想はベトナムでもしっかり根付いているようだった

孔子廟。広い敷地に立派な廟(ハノイにて)。ここでも中国の存在をまざまざと見せつけられた。孔子の思想はベトナムでもしっかり根付いているようだった

ベトナム絵画。どこか懐かしさを感じるタッチ。博物館でたくさんの絵画を見ながら、日本とベトナムの文化や感性は結構近しいのかもしれないと思ったり…

ベトナム絵画。どこか懐かしさを感じるタッチ。博物館でたくさんの絵画を見ながら、日本とベトナムの文化や感性は結構近しいのかもしれないと思ったり…

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水上人形劇。ホアンキエム湖近くの劇場にて。夕方、少し時間が空いたので、見学してみることに。思っていた以上にしっかりした作りで、人形が水上で動き回る仕組みは全く解明できず。ストーリーもとても充実していてオススメ

水上人形劇。ホアンキエム湖近くの劇場にて。夕方、少し時間が空いたので、見学してみることに。思っていた以上にしっかりした作りで、人形が水上で動き回る仕組みは全く解明できず。ストーリーもとても充実していてオススメ

  

駅の掲示板。ハノイ駅の構内でピカピカ目立っていた。あまりにの仰々しさに、「いやいや派手すぎるやろ! 」と思わず突っ込む(笑)

駅の掲示板。ハノイ駅の構内でピカピカ目立っていた。あまりにの仰々しさに、「いやいや派手すぎるやろ! 」と思わず突っ込む(笑)

夜行列車。見た目も中身も古くてボロボロの電車(別に汚くはない)。実は初めての夜行列車だったので、かなり緊張していた

夜行列車。見た目も中身も古くてボロボロの電車(別に汚くはない)。実は初めての夜行列車だったので、かなり緊張していた

同室だったメンバー。私は2段ベッドの上だった。下にはそれぞれひとり旅をしていたアメリカ人男性とカナダ人女性。上の段に寝っ転がっているのはフランス語ガイドをしているベトナム人男性

同室だったメンバー。私は2段ベッドの上だった。下にはそれぞれひとり旅をしていたアメリカ人男性とカナダ人女性。上の段に寝っ転がっているのはフランス語ガイドをしているベトナム人男性

駅の外にいたツアーガイドや客引きたち。ラオカイ駅の外の様子。朝6時頃だというのに、あまりの人の多さに驚いた。ラオカイからサパという少数民族が住む村に観光に行く人が多い

駅の外にいたツアーガイドや客引きたち。ラオカイ駅の外の様子。朝6時頃だというのに、あまりの人の多さに驚いた。ラオカイからサパという少数民族が住む村に観光に行く人が多い

ラオカイの出国管理ビル。ここで出国スタンプを押してもらって、奥の出口から出れば、もうそこはベトナムと中国の国境。この建物がベトナム最後の砦

ラオカイの出国管理ビル。ここで出国スタンプを押してもらって、奥の出口から出れば、もうそこはベトナムと中国の国境。この建物がベトナム最後の砦

国境の橋。手前の門がベトナム側の、奥の三角の門が中国側の門。橋1本で両国が繋がれているなんて、なんだか不思議な感覚。一歩一歩踏みしめるようにゆっくりと歩いた

国境の橋。手前の門がベトナム側の、奥の三角の門が中国側の門。橋1本で両国が繋がれているなんて、なんだか不思議な感覚。一歩一歩踏みしめるようにゆっくりと歩いた

 

 

 

(次回もお楽しみに。毎週水曜更新です)
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連載バックナンバー

第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)
第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
第6話 カスタマイズ自由が魅力のフィリピン留学(2014.12.17)
第7話 出国していきなりの緊急入院で知った、フィリピン人の優しさと健康に旅を続けていくことの難しさ(2014.12.31)
第8話 世界の中心でハマったいきなりの落とし穴 。負のスパイラルに突入だ!【オーストラリア】(2015.1.14)
第9話 いきなり挑むには、その存在はあまりにも大きすぎた! こんなに思い通りに進まないなんて…【オーストラリア(2015.1.21)
第10話 いざ、バリ島兄貴の家へ!まさか毎晩へこみながら眠ることになるなんて…【インドネシア】(2015.1.28)
第11話 今すぐ先入観や思い込みを捨てよう! 自分で見たものこそが真実になるということ<インドネシア>(2015.2.4)
第12話 心の感度が鈍けりゃ、人を見る目も曇る。長距離バスでの苦い出会い  〈マレーシア〉 (2015.2.11)
第13話 海外に飛び出すジャパニーズの姿から見えてくる未来 〈マレーシア〉(2015.2.18)
第14話 欲しい答えは一冊の本の中にあった!「旅にも年齢がある」という事実 〈マレーシア / タイ〉(2015.2.25)
第15話 ボランティアで試練、身も心もフルパワーで勝負だ! 〈タイ / ワークキャンプ前編〉(2015.3.4)
第16話 果たせなかった役割と超えられなかった壁 〈タイ / ワークキャンプ後編〉(2015.3.11)
第17話 目の前に広がる青空が教えてくれた、全てに終わりはあるということ  〈カンボジア〉(2015.3.18)
第18話  偶然か必然か? 新しい世界の扉を開くとき   〈カンボジア〉(2015.3.26)
第19話  強く想えば願いは叶う!? 全ての点が繋がれば一本の線になる   〈ベトナム〉(2015.4.2)
第20話  移動嫌いな私をちょっぴりほっこりさせてくれた、ある青年の純朴さ
   〈ベトナム〉(2015.4.8)
第21話  強面のおじさんが教えてくれた「自立」と「選択」の重要性    〈ベトナム〉(2015.4.16)
第22話  ワガママだって良いじゃない!? 自分が楽しんでこそのコミュニケーション!    〈ベトナム〉(2015.4.22)

 


小林圭子さんが世界一周に出るまでの話

『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため(2014.5.19)


小林圭子

小林圭子

1982年、大阪生まれ。米国公認会計士の資格取得後、ベンチャー企業および楽天にて約5年半、会計業務に従事。同時に会計士の専門学校では学習カウンセラーを、自由大学でキュレーターをするなど、パラレルキャリア志向が強い。2014年3月末で楽天を退社し、同4月より約2年間かけての世界一周の旅に挑戦。世界中の多様な働き方やライフスタイルに、刺激を受ける日々を送っている。 「一身上の都合」小林圭子さんの場合 http://ordinary.co.jp/series/4491/ https://instagram.com/k_co_ba_326/