てっきり私も「そっか、海外に行けば、そんなにたくさんの素晴らしい出会いが待っているんだ」なんて単純に思ってしまっていた。中国四川省・成都で出会った旅人のある言葉を聞くまでは…。「旅先で、おもしろい人やすごい人、もしくは変わった人とか、やっぱりたくさん会いました? 」
連載「旅って面白いの?」とは 【毎週水曜更新】 世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。 |
第24話 人との出会いが旅を彩る – 大切なのは出会い運があるかどうか – 〈中国〉
TEXT & PHOTO 小林圭子
「 旅 = 出会い 」
どんな出会いが待っているんだろう
期待でいっぱいだった出発前
ーーー
長期で旅に出るって決まってから、いろんな人にいろんなことを言われたけれど、その中でも特に、何度も何度も言われて印象に残っている言葉。それは人との出会いに関するもの。
「海外にいるおもしろい人やすごい人にたくさん出会えるだろうね」
「俺が旅したときには日本では出会えないような奇人変人や、仙人みたいな人もいたよ」
「いろんな人に出会って、あなたもすごく成長すると思うよ」
具体的にどうおもしろいのか、どうすごいのか、どんな奇人や変人がいて、仙人てどういう人のことを言うのか、全く想像できなかったけれど、みんながみんな揃って、そんなふうに言うものだから、てっきり私も「そっか、海外に行けば、そんなにたくさんの素晴らしい出会いが待っているんだ」なんて単純に思ってしまっていた。中国四川省・成都で出会った旅人のある言葉を聞くまでは…。
怖い、感じ悪い?
入国管理官が与えた中国人の第一印象
前回も少し紹介したとおり、ベトナムから中国へは一本の橋を渡って国境を越えた。両国の間にあるのはたった橋一本なのに、中国へ足を踏み入れた途端、そこはもう別の国なのだとすぐに認識できるくらい、一瞬で空気感が変わった。その様子に少し興奮していたのかもしれない。できるだけこの感覚を残しておきたいと、中国の入国管理局の中でも写真を一枚撮った。
カシャッ!
静かな管理局の中でシャッター音が響いた。すると、それに気付いた管理官がものすごい形相で私を睨みつけながら、
「写真を撮るな! 今の写真を消しなさい! 」
と大声で叫んで言ってきた。「おぉ…怖い…」こんなところでカメラを取り上げられるなんてまっぴらだと思い、彼の言う通り、私はおとなしく写真を消した。と思ったら、今度はその管理官、別の管理官と2人で私のパスポートを見てニヤニヤしながら
「シャオリン、シャオリン」
と言い出した。私の名字、「小林」を中国語で読むと「シャオリン」。大学1年生のとき、第二外国語は中国語を選択していたから、さすがにそれくらいは覚えている。ちょっと話してみようかと、自分の名前を中国語で言ってみた。
「我 是 小林圭子」
するとその管理官、一瞬驚いた顏をしたけれど、何も言わずまたニヤニヤしながらこっちを見てきた。「なんだ、感じ悪いな…」それが中国人への第一印象だった。
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まさか走って逃げられるとは…
こうなりゃ漢字で対応するっきゃない!
これまで東南アジアを順番に旅してきた中で、ベトナムが一番英語が通じないと感じた。他はだいたいどの国でも、みんなそれなりに英語を話せるものだから、道を聞いたり、宿でちょっとした雑談なんかをするたびに、毎回感心すると同時に、それに比べて日本の英語教育レベルの低さと、閉ざされた島国であることを痛感させられてばかりだった。その点、ベトナムに関しては、「まぁ、日本と同じようなものだな」という感じ。「一応学校で勉強はしたけれど、話すのはちょっと…」みたいな。
だけど、中国にいたっては、もはやそんなレベルではなかった。95%くらいの確率で、ほぼ英語が通じない(上海とか外国人の多い国際的大都市に行けば、もちろんそんなことはないのかもしれないけれど…)。
そういえば、こんなこともあった。ベトナムとの国境の町・河口から、雲南省の省都・昆明への移動には長距離バスを利用するため、まずは長距離バス専用のバスターミナルに向かわなければならない。あらかじめインターネットで調べておいた情報によると、すぐ近くにローカルのバス停があるはずなのに、なかなかそれが見つからない。重いバックパックを背負って、何度も同じ場所を行ったり来たり… を繰り返す。
さすがにおかしいなと思い、誰かに聞いてみることに。年配の人よりかはまだ若い人の方が英語が通じるかな、と通りかかった20代前半と思われる男の子に話しかけてみた。すると、なんとその青年、一瞬ギョッとした顏をしたと思ったら、何も言わずに走って逃げてしまったではないか…。その様子に今度はこっちがギョッとさせられてしまった。いやいや、「I don’t know. 」くらいはさすがに言えるでしょ… と。その光景はまるで漫画のようなひとコマだった。そしてこのとき、「あぁ、この国は一筋縄ではいかないな」と早くも悟った。
逃げられたのは後にも先にもこのときだけだったけれど、中国人は、こちらが中国語を一切理解していないにも関わらず、容赦なく中国語で話してくる。こうなったら日本人であることの利、漢字を使って、筆談でなんとかコミュニケーションを取る作戦でいくしかない。もちろん、中国で使われている漢字と、日本で使われている漢字は、異なるものも多いけれど、それでもこちらが漢字を書いてそれを見せれば、なんとか理解しようとしてくれる。他のアジア諸国に比べて、中国では欧米人の姿を見ることが圧倒的に少なかったのは、おそらくこの言葉の問題が一番大きいんじゃないかと思う。
あれあれ… 中国ってこんなんだっけ…?
うるさくないし汚くない
無機質な街に「間違えたかも… 」
さて、無事にバスを乗り継ぎ、昆明へ。雲南省の省都であり、とても大きな都市であるはずなのに、その街の様子はとてもこざっぱりしていて、どこか無機質な印象すら与える。思っていた中国の姿とは全くかけ離れていた。誰も大声で話していない。誰も道端に唾をはかない。むしろ人通りの少なさにちょっと薄気味悪さすら感じた。「これが省都だなんて…。キレイな街には違いないけれど、この人気(ひとけ)の無さは逆に廃れた感じがしてしまうな… 」なんて違和感を覚えながら、ちょっと早足で歩いた。
訪れた時期も関係していたのかもしれない。10月中旬。少し肌寒くて、行き交う人は暗めの色の長袖を着て、いわゆる「普通の格好」をして歩いていた。ベトナムから入ってきた私はこれまでと変わらず、ゾウ柄のタイパンツやらTシャツやらを着ていたんだけれど、そのアジアンテイストな格好は明らかに浮いていて、その街に決して馴染むことはなかった。
いろんな意味で、「ちょっと間違えたかな… 」と思いつつ、この街は単なる通過点で1泊だけの滞在だったので、翌日、気を取り直して、今度は四川省の省都・成都へと飛んだ。今回、中国を訪れた最大の目的であり、どうしても行きたかった場所「九寨溝」への窓口になっている、この成都という街へ。
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「そうそう、これこれ!」
歴史好きのミーハー女は思わず狂喜乱舞
成都は古き良きものと新しい刺激的なものがMIXされた、独特の雰囲気を醸し出す街だった。たくさんのショッピングセンターや映画館など、現代の若者が好きそうな建物が多く立ち並ぶ、まるで原宿のような顏もあれば、一歩路地を入れば、ひと昔もふた昔もタイムスリップしたかのような感覚に人々を陥らせる顏もあり、その相反する二つがうまく共存していた。
また、なんと言っても、かの諸葛孔明や劉備が祀られた武候祠や、杜甫の故居だった美しい庭園(杜甫草堂)などもあり、歴史好き、文学好きには興奮を抑えきれない、ミーハー心をくすぐる街でもあり、「そうそう、これこれ! 中国と言えばやっぱこれだよねー! 」と思える風景の中、自転車で颯爽と駆けまわるのがなんとも言えず快感だった。
ここも昆明同様、中国という国から連想されるギラギラしたイメージからは程遠かったけれど、この国が長きに渡って培ってきた伝統や歴史、そこからにじみ出る重厚感のようなものがあり、かと思えば、飾らない庶民の暮らしぶりもそこかしこから感じられ、この街が持つ全てに心が躍った。
本当に我ながら呆れるくらい単純だと思うけれど、昆明で感じた「間違えた」から一転、成都では「あー! やっぱり来て良かった! 中国! 」とたった一日、二日で、その感情は180度違ったものになっていたのだった。
「出会い運が無かった」
ある旅人の言葉に
思わず覚悟を決めた夜
一方、成都という街は多くの旅人が途中で立ち寄ろうと考える、中国の中では珍しい街でもある。と言うのも、中国からチベットへ行く旅人や、ヒマラヤ山脈を越えてネパールに抜ける旅人は、いったんこの成都で情報を収集したり、仲間を集めたりすることが多いから。ただ、そのわりには、ゲストハウスやユースホステルの類はそれほど充実しておらず、旅人が集まる宿は自然と絞られてくる。私も今回、日本人旅人の間で有名なユースホステルに滞在していた。私の場合はチベットでもヒマラヤでもなく、九寨溝に行くための情報を集めるためだった。
もともとあまり日程的に余裕は無かったため、この成都にもたった数日間しか滞在できなかったけれど、その短い間にも何人かの日本人旅人と、共に時間を過ごすことができた。今まさに、私と同じように世界一周中の女性、中国やチベットをテーマに撮り続けているプロカメラマンの男性、世界一周し終わったのに、どうしても最後にチベットだけは行きたくなって来てしまったという男性、などなど。
やはりこういう場所に来るような人は旅慣れていることが多い。それぞれのこれまでの旅話や、旅中のハプニング、楽しかったこと、ツラかったこと、などなど、深夜になってもそのネタは尽きなかった。ひと通り盛り上がった後、私は既に世界一周経験者のトシさんに質問してみた。
「旅先で、おもしろい人やすごい人、もしくは変わった人とか、やっぱりたくさん会いました? 」
てっきり「そりゃもう、たくさん会ったよ! 中東の国にはこんな人がいて、アフリカにはあんな人がいて、南米にはビックリするようなこんなすごい人がいたよ! 」みたいな答えを期待しての質問だった。だけど、意外や意外、トシさんの口から出てきたのはこんな言葉だった。
「うーん、俺、1年も2年も旅してたけど、そのわりには、そんなに人に出会わなかったんだよね。なんていうか、『出会い運』が無かったというか… 」
なんと…。この『出会い運が無い』という言葉に、思わずハッとさせられた。そう、旅をしているからといって、必ずしも常に素敵な出会いに満ち溢れているわけではない、という現実を突きつけられた瞬間だった。人との出会いを楽しめるか、貴重なものにできるかは、その人次第ということも、もちろん大きいとは思う。だけど、やはりそれだけではないのだ。人と人との出会いは、そのときそのときの巡り合わせだってあるし、良い出会いに恵まれることもあれば、そうじゃないことだってある。
私はこれまでの自分の旅を振り返ってみて、いつもいろんな人に助けられてここまで来られたし、優しい人や良い人との出会いに本当に恵まれてきたと思う。だけど、正直、まだ「自分の人生や価値観を変えてしまうような衝撃的な出会い」を経験してはいなかった。人との出会いを求めて旅をしているはずなのに、まだ自分が求めているような出会いができていないという物足りなさはいつもどこかで感じていた。
そして、このトシさんの言葉を聞いて、これから先の私の旅にどんな出会いが待っているかはわからないけれど、もしかしたら『出会い運の無い』旅になってしまう可能性だってないわけではない、ということはちゃんと覚悟しておかなきゃいけないな、とこのとき思わされたのだった。(了)
【写真でふりかえる → 中国 】
(次回もお楽しみに。毎週水曜更新目標です)
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連載バックナンバー
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第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
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第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
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小林圭子さんが世界一周に出るまでの話
『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため」(2014.5.19)