実は旅に出る前にいろんな人から「2年も海外を旅するなんて、どれだけ成長するのか想像できないね」なんて言われることが結構ありました。言われる側としてはこの『成長』という言葉がものすごくプレッシャーになっていることに気がついた
連載「旅って面白いの?」とは 【毎週水曜更新】 世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。 |
第37話 終わりのない旅 – 流れのままに今を生きる –
TEXT & PHOTO 小林圭子
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読者の皆さま、お久しぶりです。
前回の第36話からすっかり期間が空いてしまったのですが、私は変わらず元気にやっています。
「今、どこで何をしているの?」
とご心配くださっている方もいらっしゃるかもしれませんが、今年の7月末、トータル2年4ヶ月に渡る旅を終え、無事に日本に帰国しました。(編集部注:帰国祝いの模様はこちらで)
ひとくちに2年4ヶ月と言っても、その道のりは決して平坦なものではなく、本当にいろんなことがありました。楽しいことや嬉しいこともあれば、つらいことや悲しいこともあり、まさに山あり谷ありで、そのたびに自分自身を見つめ直すことを繰り返しながら、旅に出る前と比べて、より自分らしくなって戻ってこれたんじゃないかと思っています。
と言うわけで、今回の第37話では、はじめに旅全体の流れを振り返り、そこから帰国してからのこの3ヶ月のこと、また今後のことも少し書かせていただこうと思います。
いつだって心のままに…
無計画だってずぼらだって
旅はできちゃいます!!?
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もともと今回の旅は「2年間で」と計画して出発したものだった。なぜ2年間にしたのかと言うと、えーと…… これと言って特別な理由はなかった… ように思う。しいて挙げれば、行きたい国や地域が多かった分、1年だとかなり駆け足になってしまうし、2年以上となると資金的にも厳しく、精神的・体力的にもキツくなるんじゃないかということから、なんとなくいろんなバランスを考えて2年、だったのかな。
そして実際、2年4ヶ月で帰国したことを考えると、「まだまだ物足りないよー」という気持ち半分でありながらも、やっぱりいろんな意味でちょうど良かったんだろうな。
次に、訪れた国や旅のルートを振り返ってみると、こちらは自分でもビックリするくらい本当にめちゃくちゃだった。たとえば、旅に出る前に
「どの国に行くのが一番楽しみか」
と質問されることが何度かあって、そのたびに
「うーん、イタリアかクロアチアかなぁ」
なんて答えていたけれど、ゆっくり縦断しようと思っていたイタリアは結局ミラノしか行ってないし、クロアチアにいたっては東欧をまるっと後回しにしてしまった結果、訪れる機会はいよいよ巡ってこなかった。
また、旅の中でどんどん期待値が大きくなっていったのが、心地良いラテン調の風が吹いているイメージのある中米メキシコやキューバだったのに、こちらも結局、大西洋を渡ることなく
「まぁ、またそのうち行けばいっか」
と、それまで西廻りで進んでいたところをあっさりと東廻りに方向転換して帰ってきてしまった。我ながら計画性が無いというか、気が変わりやすいというか…。
ルートについても、『キレイに一筆書きで進んでいく… 』なんて几帳面さはそこにはなく、幼稚園児の落書きのように、うねうねカクカクあっちへ行きこっちへ行きしたものだから地図上で線が絡みたい放題絡まる、という…(笑)。まさに心の赴くまま進んだ旅だった。
しまいには、次の行き先を『一番航空券が安いところに行こう』という決め方になることもあったりして…。当時は常に最善の選択をしているつもりだったけれど、こうして改めてみてみると、わりと邪道な旅人だったに違いない(笑)。
2度の一時帰国で旅をリセット
私の旅はなんと3部作構成です(笑)
私はこの長い旅の間に一時帰国を2度はさんでいて、
『第1章』はじめに出発してから1度目の一時帰国まで(約8ヶ月間)
『第2章』再出発から2度目の一時帰国まで(約9ヶ月間)
『第3章』再々出発から本帰国まで(約7ヶ月間)
このように自分の中ではそこにハッキリとした変化や違いが存在する。
それはもちろん自分自身の内側の変化でもあり、旅のスタイルそのものの変化でもあるんだけど、まさにそれを可能にしてくれたのは、実はこの2度の一時帰国だった。そしてまた、そのおかげで私の旅はある意味とても特徴的なものになったと思う。
第1章:はじめに出発してから1度目の一時帰国まで
「窮屈で一番しんどかった8ヶ月」
まず第1章については、既にこの連載でも書かせていただいたとおり(つまりこの連載の第1話~第36話は旅の第1章にあたる)。
全体の旅を通して、このはじめの8ヶ月間が一番しんどかったな。何がそんなにしんどかったんだろう。単純に旅慣れしていないことも大きかったかもしれない。日々のめまぐるしい変化の中で、自分が置かれているその環境に戸惑いを覚え、言葉やコミュニケーションの問題も含め、できないことや失敗ばかりに目がいってしまい、自分自身をもどかしく感じることが多かった。
「あぁ、自分て本当にたいしたことないな…」
「1人で外に飛び出してみると思っていた以上に何もできないや…」
と、どんどん自信を失っていったし、そしてそんな自分を嫌いになった。
また、これはもともとのクセでもあったんだけど、人目を気にしすぎたり、自分の旅を他の旅人さんの旅と比べたりすることで、「あれはしちゃダメ」「こうしなきゃ」みたいに、自分で自分をガチガチに縛ってしまっていた。そうなってくると、もはや自由であるはずの旅が全く自由じゃなくなっていた。今思えば本当に窮屈で仕方なかった。
『旅って何なんだろう。私は何のために旅をしているんだろう』
と考えることが多くなり、みるみる旅に対する熱量が冷めていったのだった。
そして1度目の一時帰国。タイのチェンマイにいたときに、何かに導かれるように帰国することを選んだ。結果的にこの選択はこれまでの自分の殻を破る大きな一歩となり、このタイミングで帰国することで完全に自分のマインドをリセットすることができた。
第2章:再出発から2度目の一時帰国まで
「自分を解放することがテーマだった」
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再出発してからの第2章は、ひとことで言うと、『自分を解放すること』がテーマだったように思う。たとえば、その中のひとつは『思い込みからの解放』。「旅にルールなんて無いんだから、自分がやりたいようにやろう」って割り切ることで、徐々にラクな気持ちで旅ができるようになった。
それまでは何をするにも行動にはそれなりの理由が必要で、その理由があって初めて行動して良いんだと思っていた。だけど、本来、心の底からふつふつとわき上がる熱い衝動や情熱、もしくは「なんだかわからないけどそう思っちゃう」みたいなちょっとした直感だけで動くことがあっても良いんだと思う。むしろその方が、頭でゴリゴリ考えて導き出したもっともらしい理由よりも、精神と肉体が純粋に結びついている状態なんじゃないかな。
あとは、
他人から良く思われたいとか
嫌われたくないとか
良い評価がほしいとか
何かを選択するうえで自分の中にクセとして持っていた『客体性からの解放』も自分にとってはすごく大きかった。自分の行動が主体的でなく客体的になってしまうと、どうしても自分の人生を生きている感じがしなくなっちゃうもんね。そして案外、このことに気がついてない人って多いんじゃないかなと思う。
何でも自由に選択できる現代社会を生きているにもかかわらず、その選択に自分以外の他人の判断軸が入ってしまっている人。たぶん私もずっとそうだったんだと思う。だから何をするにもどこか頭の中にモヤモヤしたものがあったり、迷いの消えない未消化な感じがあったんだろう(たとえば転職とか資格取得とかキャリアを積むとか…。あ、そういうの全部が全部を悪いって言ってるわけではないよ。自分にとっては不自然な選択をしたこともあったということ)。
だからこそこの旅の中で、
「もっと素の自分をさらけ出す練習、他人から嫌われる練習をした方が良いよ」
と言ってもらえる機会があったことは、本当にラッキーだった。なーんて言いつつ、先日久しぶりに会った友達から同じようなことを指摘されてしまったので、まだ完全には解放できていないみたいなんだけど。まぁ、今もなお解放している途中…ということで(笑)。
第3章:再々出発から本帰国まで
「自分を深く掘ることがテーマだった」
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そして、第3章のテーマは『自分を深く掘ること』。
実は旅に出る前にいろんな人から、
「成長して戻ってくるのが楽しみだね」
「2年も海外を旅するなんて、どれだけ成長するのか想像できないね」
なんて言われることが結構ありました。
言っている本人には何の悪気もないんだろうけど、言われる側としてはこの『成長』という言葉が正直負担というか、重荷というか、ものすごくプレッシャーになっていることに旅に出てしばらくしてから気がついたのです。
「そうか… 旅をするってことは、それなりの成長を伴う必要があるのか… 」と。
また、それと同時に自分の成長が感じられないことに相当長い間悩んでいたと思う。と言うのも、『成長』という言葉から連想されるイメージって、木で例えれば、上へ上へとグングン伸びていき、さらにたくさんの枝葉に分かれ、なおかつ美味しい果実もたわわに実って… みたいな… 笑。だけどとてもじゃないけれど、自分がそんなふうに変化しているとはどれだけ高く見積もっても思えなかった。
(もしかして自分は全く成長していないのかもしれない…。このままだとヤバイんじゃ…?)
そんなことを考えていたある日、インドで仲良くなった日本人女性になんとなしにこのことを質問してみた。
「ねぇ、長く旅をしていて、自分て成長してるなーって感じることある?」
「うーん… 成長してるかどうかはわからないけど、自分をどんどん深く掘っていってる気はするよ」
「!!!」
そのときの彼女の言葉は私の胸にドンピシャで刺さった。
「確かに! ホントそうだよね! 」
さっきと同じように木で考えてみても、確かに彼女が言っているとおりだ。木はただ上にだけ伸びていっているわけではない。ついつい見えている部分にだけ目がいきがちだけど、見えていない部分にだって変化はある。そう、地面の下では、木の中身がスカスカにならないように水分や栄養分を吸収しながら、また太い幹や枝葉など木全体を支えながら、一生懸命、根っこを下へ下へと張り巡らせていっているのだ。
(そうか、私もこの旅を通して、自分を掘っていっているんだ!)
そう思ってはじめて、「あぁ、私の旅はやっぱりこれで良かったんだ」と安心できたのだった。
さて、長くなりましたが、そんなこんなで、ここまで簡単にまとめてみた旅の第2章・第3章については次回第38話からいろんなエピソードを交えながら、またつらつらと書いていきたいと思います。
はい、まだまだこの連載は終わりません(笑)。
帰国後はなんと流浪人!?
家なし金なし仕事なしで
日本全国行脚中!!
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最後に、帰国してからのことを少し。
7月末に帰国してすぐに、原因不明の体調不良に襲われた。本帰国を決めた理由のひとつはこの『体調』への不安が少なからずあったから。
と言うのも、帰国する10日ほど前からたびたび目眩や吐き気などの異変を感じていた。いくら健康で体が丈夫と言えども、度重なる移動や食生活の変化、日本とは異なる生活習慣の違いなどによって、体は相当疲れていたに違いない。いよいよ悲鳴を上げてしまったのだろう。
この時点で旅を続けようと思えば続けることもできたけど、手遅れになる前に帰国したいという想いが強く出てきた。この「手遅れ」というのは、実は既に海外旅行保険が切れていたことを指している。それも2ヶ月以上も前に。海外で倒れてももはや病院にかかることができない状況だった(もしくは高額の治療費を払って治療を受けるか)。
そういう意味ではこのタイミングで帰国したことは正解だったと言わざるを得ない。なんと帰国して3日後に倒れて病院に運ばれ、生まれて初めての検査をいろいろ受けることになってしまったのだ。検査の結果、心配していた膵臓や胃腸を含め、体はさほどどこも悪くなくて一安心だったんだけど、やっぱり今回も帰るべくして帰ってきたんだな、と(苦笑)。
その後、
「まずは住む場所を探すか」
とさっそく家探しをスタート。旅をしているときから考えていた「海の近くに住むこと」を実行すべく、友達に紹介してもらった藤沢(神奈川県)の不動産屋さんへ。こちらの希望を伝えて憧れの地、湘南・鎌倉エリアの物件をいくつか見せてもらう。
( ……。あれ、何か思っていたのと違うな… )
湘南鎌倉という土地にも、見せてもらった物件にも全くピンとこなかった。それこそ物件との出会いも全てはタイミングだと思うので、仮に3ヶ月後、もしくは半年後に見せてもらっていたらめちゃくちゃ気に入るものが出てきたかもしれない。だけど、このときは
( あぁ、私、今、鎌倉に呼ばれてないんだな… )
というある種、悟りのような想いとともに、家探しは一瞬で打ち切ることにした。家なし、金なし、仕事なし…。我ながら笑っちゃうような状況だけど、不思議と焦りみたいなものは全くない。
私よりもむしろ両親の方があれこれと心配しているようで
「そろそろちゃんと地に足つけて」だの
「早く仕事見つけないとこれからどうすんの」だの
いろいろ口やかましく言ってくる。もちろん彼らの言ってることも理解はできるし、ごもっともだとも思う。
だけど、人生というのは不思議なもので、動くときはすごい勢いで動いていくし、動かないときは何をやってもダメなのだ。そして今はきっと動かないときなんだと思う。家がうまくみつからなかったのもそういうことだろうと思っている。こんなときに焦って何かを始めても空回りする可能性が高く、進もうとしても結局元の場所に引き戻されることも少なくない。そう、つまりは状況が動き出すまで待つしかないのだ。
実は帰国した理由の2つ目としては、日本でやりたいことがいくつか出てきていたから。頭の中にアイデアはいろいろあった。だけど、実際に帰国してみると何から手をつけて良いのかわからず悶々としていた。おそらくこれも『今じゃない』ってことなのだろう。そんなのらりくらりしている私を見て、ある友人からは
「随分のんびり屋さんになって帰ってきたんだね。光陰矢の如しだよ」
なんて皮肉まで言われてしまったけれど、何でも早ければ良いというものでもないんじゃないかな。物事にはその人その人のタイミングというものが存在する。今はきっとその来るべきタイミングに備えるとき。
というわけで、「住む場所を探す」という名目のもと、今は、日本全国いろんな場所をふらふらしています。
表参道の自由大学で『みんなの航海術』のキュレーターをやったり、「ぜひけいちゃんに」と舞い込む頼まれごとをこなしながら先日まで北海道に滞在していて、ここからは千葉の房総や長野の八ヶ岳などを訪れる予定。自分でもこの状況がいつまで続くかもわからないし、確かなものは何もないけれど、今はこの不確定さを楽しもうと思っています。そんな暢気者ではありますが、どこかで見かけたらぜひお声がけください(笑)。
(次回もお楽しみに。毎週水曜更新予定です)
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連載バックナンバー
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第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
第6話 カスタマイズ自由が魅力のフィリピン留学(2014.12.17)
第7話 出国していきなりの緊急入院で知った、フィリピン人の優しさと健康に旅を続けていくことの難しさ(2014.12.31)
第8話 世界の中心でハマったいきなりの落とし穴 。負のスパイラルに突入だ!【オーストラリア】(2015.1.14)
第9話 いきなり挑むには、その存在はあまりにも大きすぎた! こんなに思い通りに進まないなんて…【オーストラリア】(2015.1.21)
第10話 いざ、バリ島兄貴の家へ!まさか毎晩へこみながら眠ることになるなんて…【インドネシア】(2015.1.28)
第11話 今すぐ先入観や思い込みを捨てよう! 自分で見たものこそが真実になるということ<インドネシア>(2015.2.4)
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第34話 やっと全てがひとつに繋がったよ「さぁ、日本に帰ろう!」 <タイ>(2015.12.09)
第35話 旅人は場所を選ばない − 1年の幕開けは日本の旅から − <日本>(2015.12.30)
第36話 初心にかえった家族旅行 − 親への感謝、弟からの自立 − <日本>(2016.1.27)
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小林圭子さんが世界一周に出るまでの話
『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため」(2014.5.19)