ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第40話】ちいさなお店が、横須賀に移転したこと

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。「今日、今から物件を見たい」と連絡すると、幸運にもOKの返事。駅まで迎えに来てもらい、現地に着いたときパッと雲が晴れたような気持ちになりました。その家は平屋で、太陽の光がさんさんと差し込むリビングに、ヨメが仕事場にできる部屋、商品をディスプレイ
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第40話  ちいさなお店が、横須賀に移転したこと  

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こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。

前回のコンテンツをアップしたのが昨年6/10のこと。何の告知もないまま、半年も連載をお休みしてしまい申し訳ございませんでした。

というのも、実は私たちノマディックラフト、東京・西小山のアトリエショップをクローズし、神奈川・横須賀に移転をすることになったのです(というか、もう引越しをしてしまいました!)

本来でしたら、皆さまにじわじわと案内をしながら事を進めるべきであるところ、本当に何かの波に乗るように横須賀までたどり着いたような心地で、かろうじてFacebookで告知した程度。経過報告が十分ではなかった……と深く反省しております。

今回は「ちいさなお店のお引越し」、その経緯について触れてみたいと思います。


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 アトリエ兼住まいの老朽化と
 時間に追われる問題を解決したい!

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私たちが西小山にアトリエショップを開いたのは2013年のこと。そのプロセスについては、この連載第1回でお伝えしていたかと思います。ひょんなことから出会った店舗付きの住宅。それから5年の歳月、山あり谷ありながら、ちいさなお店ライフを楽しんでおりましたが、2017年末くらいから「そろそろ引越ししなければいけないかも」という予感が高まっていました。その理由はふたつ。

① 家のあちこちにガタが出てきた!

途中、数度のリフォームを経ているとはいえ、建物は1970年築の木造建築です。最初スムーズに開いていたベランダのサッシが開閉しづらくなったり、トイレのドアがキチンと閉まらなくなったりなど、「これは家自体が歪んできてるかもしれない……」という兆候が出てくるようになりました。 さらにキッチンの床がベコベコとたわんで修理が必要になり、さらにさらに、少し大きめの地震があったときは、1階トイレの壁にビビっとヒビが入ったことも。もともと入居時には「築年数が古いので、住めるのは最長でも10年前後だと思って下さいね」と言われていました。その途中には、東日本大震災もありましたし、家自体の痛みを考えると、もうそんなに長くは住めないかもしれないな、と考えるようになりました。

② 制作ペースを整える時間がほしくなった

2016~2017年、私たちは積極的に各地のイベントに参加することで、自分たちの取り扱う「少数民族の手仕事」を知っていただきながら、アイテムの持つ可能性を探っていました。おかげさまで少しずつ名前を覚えていただき、オリジナルアイテムも増え、売上げも伸びつつあり、それはとても嬉しいことだったのですが、ジワジワと陥っていったのはインプット&アウトプットのサイクル不全です。 というのも、店主もヨメもダブルワークの身。平日の店主は飲食+アトリエショップでの作業、ヨメはライター業、週末はふたりでイベントとあって、2年間休みらしい休みはナシの状況でした。

もちろん、好きなことをやっているのでイベントに出ること自体は楽しいのですが、問題は時間がないことでインプットの量が減り、面白い発想が湧きづらくなってくることです。なかでも、オリジナルアイテムの重要度が高まっているのに、アイデアがうまく出てこず、実際に制作にかける時間もギリギリ、という状態にはストレスがあり、常に「このままではいけない」と焦燥感を覚える日々。 この状況を打破するには、都心である品川区を出て、もう少し地方に移ることで家賃出費=固定費を減らし、そのぶん制作ペースを整える時間を捻出することが必要なのでは、と考えるようになったのです。

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 迷いながら悩みながら、
 足かけ8ヶ月の物件探し 

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これらふたつの理由から、近い将来この場所を離れることになるだろうな、というのが私たち夫婦の共通認識でしたが、じゃあいつ? どこに? というのは特に希望があった訳ではありません。 自宅兼アトリエにできて、犬が飼えて、なおかつライターのヨメが都心での仕事を継続できる場所にある家、という必須条件だけでも物件はそう多くないはずです。

次の更新は1年後でしたが、希望の物件がすぐに見つかるとは限らない以上、まずは時間がかかることを前提に、都下~神奈川・千葉・埼玉の中から、気になる物件を探して見に行きつつ、その街の雰囲気を見てみながら考えよう、という話になりました。

いろいろな物件を見に行きましたが、ここはパッと見はお庭のようで、実は木が生えているベランダ!というお家。山の中にありました。

いろいろな物件を見に行きましたが、ここはパッと見はお庭のようで、実は木が生えているベランダ!というお家。山の中にありました。

2018年の年始から、町田市、川崎市、相模原市、三浦市、小田原市などを見て歩きましたが「ここだ!」という出会いには至らず、春には「いったん引越しそのものを止めようか」という迷いの時期もありました。そのときは自分たちが何を目指し、どうなるために引越すのか、何度も話し合いケンカもしました。ロケーションひとつ、間取りひとつとっても、見つめているものが違うと決定打を出すことができなかったのです。たくさんの物件を見て感じた「住みたい家の条件」をノートに書き出したりもしました。

そんなことを続けていた6月、行ってみたのが横須賀市です。物件探しには主にネットの不動産サイトを活用していたのですが、ペット可で広めの一軒家を探すと横須賀の物件が多くヒットしたからです。特に、築年数が古いけれども広めの平屋が多く見つかるのが特徴で「平屋に住めたらいいね」と話していた私たちには魅力的に映りました。しかし、ネットであたりをつけていた物件はすべて、日当たりが悪かったり、道路から長い長い階段を上がった先にあるためイベント出店の荷物運びに適していなかったりと、今ひとつぴったり来ませんでした。

広めの平屋を探していると、横須賀市内の物件がたくさん出てきました。写真のお家は残念ながら、条件に合いませんでしたが、いろんな家を見られるのは楽しい!

広めの平屋を探していると、横須賀市内の物件がたくさん出てきました。写真のお家は残念ながら、条件に合いませんでしたが、いろんな家を見られるのは楽しい!

ひととおり見て、もう帰ろうかと思った夕方、最近サイトに登場したばかりの気になる物件があったことを思い出しました。ダメ元で不動産屋に「今日、今から物件を見たい」と連絡すると、幸運にもOKの返事。駅まで迎えに来てもらい、現地に着いたときパッと雲が晴れたような気持ちになりました。すごく家の印象がよかったのです。

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 ひと目見てピンと来た
 その感覚を信じて 

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その家は平屋で、太陽の光がさんさんと差し込むリビングに、ヨメが仕事場にできる部屋、商品をディスプレイできる部屋、そして料理をちゃんと楽しめそうな広いキッチンが付いていました。さらにレラを自由に遊ばせられるお庭まで! 問題はアトリエとして使う場合、人の出入りが生まれます。普通の住宅とは用途が違うので、アトリエはNGと言われたことも何度かありました。ウェブサイトなどでも告知を行いたい以上、こっそりアトリエにするわけにもいきません。物件を案内してくれた不動産屋さんに相談したところ、こんな答えが返ってきました。

「いいですよ、アトリエにして。っていうのも、実は僕がこの物件の大家なんです」

30代くらいのまだ若い男性でしたが、この物件を購入したばかりとのこと。彼はこんな嬉しいことを言ってくれました。

「横須賀は高齢化が進んでいるので、正直なところ、古い平屋だからお年寄りのご夫婦が越してくると思っていたんです。それなのに東京から来た若い人に興味を持ってもらって、アトリエにするとか面白い使い方をしてもらえるのは僕も嬉しいので。必要なら看板も出してもらって問題ありません」

お邪魔した当日はまだ内装作業の途中で、和室の壁を塗り直していました。写真には映っていないですが、味わい深い吊り天井なのも気に入った点のひとつ。

お邪魔した当日はまだ内装作業の途中で、和室の壁を塗り直していました。写真には映っていないですが、味わい深い吊り天井なのも気に入った点のひとつ。

そんなに若くないけど……と内心思ったことはさておき、嬉しいことに求める条件ほとんどをクリアしたこの物件。即決したい気持ちをグッと押さえて「とても気に入ったのですが、少しだけ夫婦で相談させて下さい」とお答えしたのは、実際に東京と行き来することを想定してシミュレーションをしておきたかったからです。

もしこの家に住んだら、と仮定して最寄りのバス亭から東京とアクセスのいい横須賀中央駅まで行き、街を歩いてみました。店主は初めての横須賀。ヨメはこれまでに数回取材で来たことがありましたが、この街に住むかもしれない、という目で街を見てみると、スーパーのこと、交通の便のこと、いろいろ気になる点は違うものです。高齢化でお年寄りが多い一方、米軍基地があるせいか外国人も多く、この街独特の空気があるように感じられました。

「あの家いいよね」
「うん」
「横須賀の街も、なんかいいね」
「うん」

なんだか分からないけど、いろいろしっくり来た。それが一番の理由で、ふたりとも共通して感じたことでした。 そして翌日、不動産屋に連絡をし「契約をします」とお伝えすることになったのです。

ヨメが手帳に書き殴っていた「理想の家」。駐車場付きという条件以外(近所に駐車スペースを借りられました!)、すべてここに書いた条件を満たしていて、我ながらビックリ!

ヨメが手帳に書き殴っていた「理想の家」。駐車場付きという条件以外(近所に駐車スペースを借りられました!)、すべてここに書いた条件を満たしていて、我ながらビックリ!

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まとめると、右も左も分からない横須賀に、ピンと来て引越しを決めてしまった、という話なのですが、このときは、住んでみて嬉しいご縁が広がっていくことなど分かっていませんでした!

次回は、引越しの顛末と内装のプチリフォームについてお届けしますね。どうぞお楽しみに!

 

(月1回  第4土曜日更新の予定です)    

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 ノマディックラフトのイベント出店情報 

IUGEN CARAVAN POP UP SHOP
2019年1月20日(日)~1月23日(水)
11:00~18:00
ギャラリー懐美館@代官山

アクセサリー、東南アジア雑貨、うつわなど
「いうげん」優雅で深い味わい、奥深い境地。こんな意味のある日本の古語がぴったりの店主・作家・ブランド・しなものが集まり、月に一度場所をかえて実店舗の空間を作ります。しなものはどれも想いやこだわりを持った手仕事の技術で作られたもの。中には昔から伝わる伝統技術を用いたものも、現代の日常に取り入れやすいものばかりです。


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 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>(2015.11.14)
第13話 お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。(2015.11.28)
第14話 美しいものよ、輝け!お母さんとの約束。(2015.12.12)
第15話 生産者さんを訪ねて <鳥の笛ネックレス編(2016.1.14)
第16話 生産者さんを訪ねて <アカ族の村編(2016.1.30)
第17話 始まった… 年に一度の確定申告(2016.2.13)
第18話 手仕事は同じじゃないから美しい~『ORDINARY』とコラボグッズを作ったこと(2016.3.11)
第19話 生産者さんを訪ねて<カレン族の村編>(2016.5.21)
第20話 生産者さんを訪ねて<ラフ族の村編>(2016.6.18)
第21話 夫婦で働きながら、煮詰まったときにしていること。(2016.7.20)
第22話 おしゃれに見せるって難しい! イベントのディスプレイで四苦八苦。(2016.8.26).
第23話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪前編≫(2016.8.26)
第24話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪後編≫(2016.11.26)
第25話 ちいさなお店がイベントに出た1年を振りかえる(2016.12.24)
第26話 ちいさなお店の海外買い付け① 買い付け方法と情報集め(2017.01.30)
第27話 ちいさなお店の海外買い付け②航空券の準備 (2017.02.28)
第28話 ちいさなお店の海外買い付け③スケジュール決め&宿探しのパズル (2017.03.31)
第29話 ちいさなお店の海外買い付け④アイテム探しと値段交渉 (2017.04.30)
第30話 ちいさなお店の海外買い付け⑤価格はどう設定するか(2017.06.05)
第31話 寝台特急は楽しい出会いの宝庫(2017.06.25)
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第32話 オリジナル商品ってどう作るの?(2017.07.29)
第33話 成長し続けていくために考えること(2017.09.30)
第34話 ちいさなお店の意見の違い、どう乗越える?(2017.11.04) . 
第35話 安定している時期だからこそ、未来に種をまくこと(2018.1.09)
第36
 イベント成功のカギは、出店前後の「イメージトレーニング」にあり?(2018.1.27) 
第37 迷ったら、手を動かすこと(2018.4.3) 
第38 押しつけ? それとも説明不足? ちょうどいい「接客」の距離感とは(2018.5.3) 
第39 ちいさなお店の安全を守るために、考えておきたいこと(2018.6.10) 

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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!  

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/