ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第33話】成長し続けていくために考えること

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。個性の強い少数民族の手仕事ですが、それらを用いて日常の定番となるアイテムが作りたい。いまそんな構想を温めています。が、そこでぶつかっている壁は「時間」の問題。定番となるものは、やはりデザインや機能面でたいへん優れていることが
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第33話  成長し続けていくために考えること   

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こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。

相変わらずイベントが続いていますが、その分たくさんの新しい出会いをいただいています。 先日出店した、茨城県の水戸芸術館で開催された『あおぞらクラフトいち』では、日本のさまざまな場所からやってきた作家さんたちと、販売の苦労話や制作のやりがいについてお話する機会がありました。

自分がいいと信じたものを作り、誰かに届ける。シンプルではありますが簡単ではありません。. .
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新鮮さをキープするにはどうすれば?
乗越えなければならない課題

私たちが活動を続けていけるのは、取り扱うアイテムを好きになっていただき、購入してくださるお客様たちのおかげです。購入の理由は、緻密な手仕事に惹かれる人もいれば、個性的な色柄が気に入る人、求めている用途に合った、など多岐に渡ります。

まだまだマイナーなアトリエショップということもあり、初めてノマディックラフトを知った、という人に見てもらうために定番アイテムの取り扱いは外すことができません。しかしその一方、お客様との関係が深まるにつれ、いつも同じ定番ばかりの品揃えでは、購入の意欲を持ったお客様の期待に応えられず、新鮮さのある「新作」「新入荷」商品のニーズも増えてきます。ファンを獲得し、少数民族の手仕事の魅力をひとりでも多くの人に楽しんでいただくには避けられないステップですが「じゃあ何か増やそう!」とパッと増やせる物でもない、というのが悩みどころです。

というのも、できるだけフェアトレードを意識して仕入れる場合は、生産団体の背景を無視できません。少数民族の生産者たちと関係を築き、商品クオリティを一定化させる指導を行っている彼らからしてみると、同じ物を一定数、安定したペースで仕入れて雇用につなげた方がありがたいはずです。でも「同じ物は何個もいらない」と思うのが一般的な意見ですし、私だってそうです。ここはお店側が工夫して乗越えるべき課題です。

水戸芸術館で開催された『あおぞらクラフトいち』での展示の様子。現代美術に定評がある場所だけあって、カスケードの噴水もモダンでカッコよかったです。

水戸芸術館で開催された『あおぞらクラフトいち』での展示の様子。現代美術に定評がある場所だけあって、カスケードの噴水もモダンでカッコよかったです。

 

     
生産背景を活かして
アイデアで新作を作る

解決策として試してみたことはいくつかありますが、ひとつは「定番的な素材を使って新しいデザインに置き換えること」。たとえば、このラフ族のクッションポーチは以前タイのチェンマイに行ったときに、生産団体さんに直接別注したものです。もともと生産団体さんがオリジナルデザインでポーチを作っていましたが、同じ生地と縫製技術を使って、形を変えて作ってもらいました。

型紙を新たに起こす必要がありますが、生地の制作と縫製のノウハウはほとんどそのまま利用できるため、生産者を変えずに制作できます。生地を織るところからお願いしたとは思えないほど、サンプルができるまでの流れもスムーズ。その後もリピートを続けていますが、品質も安定しています。

上がもともと生産団体で作っていたポーチ。下がノマディックラフトの別注です。生地の色を変える、切りっぱなしの部分を活かしてフリンジをつける、持ち手を付けるのをやめる、などの変更に加えてファスナーにボンボンを付けてアクセントにしました。

上がもともと生産団体で作っていたポーチ。下がノマディックラフトの別注です。生地の色を変える、切りっぱなしの部分を活かしてフリンジをつける、持ち手を付けるのをやめる、などの変更に加えてファスナーにボンボンを付けてアクセントにしました。

 
人気のある定番商品ならば「新色を作ってもらう」という方法もあります。たとえば、ノマディックラフトが立ち上がってから数年間販売しているアカ族の刺繍コインケースは、当初カラフルな色使いで展開していました。生産者の意図は小銭を入れる用途でしたが、お客様の話を聞いていると「口が大きく開いてけっこう大きい物も入るので、リップクリームや目薬などを入れている」「手芸をするので針や糸など小物の収納に使っている」などの声も。

そこで、シックなベージュやホワイトなども展開したところ、ふだんあまりカラフルなアイテムを選ばない、ナチュラルなライフスタイルがお好きな方にも購入していただけるようになりました。また二個買い、三個買いする方のバリエーションとしても喜ばれています。

上がもともとあったカラフルなシリーズ。赤や青などのカラーは少数民族らしくて好きですが、人により好みが分かれます。新作の白やベージュは、自然でナチュラルな雰囲気が好きな方にも選んでいただけるようになりました。

上がもともとあったカラフルなシリーズ。赤や青などのカラーは少数民族らしくて好きですが、人により好みが分かれます。新作の白やベージュは、自然でナチュラルな雰囲気が好きな方にも選んでいただけるようになりました。

ほかにも、前回触れた「少数民族の素材を使ってリメイクアイテムを作ること」、また「コンセプトに共通点のある作家さんからアイテムを仕入れること」も、日本にいながら短いサイクルで新鮮なアイテムを届ける有効な方法。何が求められているのか、どうすればお客様も、生産者も、私たちもよいバランスで循環してゆくか、日々トライ&エラーです。

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いま一番悩ましい壁は
創作の時間をどう作るか

実は、まだ形にできていないアイデアとして「本当の定番を作る」という試みがあります。というのも、いま私たちが「定番」と呼んでいる物は、あくまで「生産側が定番的に作って」「私たちが定番として扱っている」という、言わば売り手側の都合による位置づけ。本当の「定番」というのは、ジーンズであったり白いシャツであったり、小物ならば生成りのトートバッグとか、日常の中に入り込んで流行に関わらず使えるものであるはずです。

個性の強い少数民族の手仕事ですが、それらを用いて日常の定番となるアイテムが作りたい。いまそんな構想を温めています。が、そこでぶつかっている壁は「時間」の問題。定番となるものは、やはりデザインや機能面でたいへん優れていることがほとんど。どれだけそぎ落とすか、何を残すかを丁寧に考えないと形になりませんし、長く使ってもらうための耐用性も考えなければいけません。

一度生みだされたら長く愛される、そんな姿を目指すにはじっくりと練り込む時間が不可欠。なのにダブルワークの店主とヨメは、イベント出店や日々の業務に追われてゴーサインを出せるほどアイデアを煮詰め切れていない、というのがお恥ずかしい実情です。それはまるで、作家ミヒャエル・エンデの名作童話『モモ』に描かれていた、無意識に、無自覚に時間を盗まれていく大人たちのよう。

「時間」の壁をどう乗越えるか、そんな課題をクリアするための真剣な解決法として、いま都心を離れることを前向きに検討しています。そのことはまた、改めてこの連載でも触れていく予定です。

川崎市北部の柿生で開催されるイベント『ベジ&フォーク』の様子。少しだけ都心を離れるだけでも、環境ががらりと変化することを実感!

川崎市北部の柿生で開催されるイベント『ベジ&フォーク』の様子。少しだけ都心を離れるだけでも、環境ががらりと変化することを実感!

(月1回 第4土曜日更新です)    

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 ノマディックラフトのイベント出店情報

テラデマルシェ
9月30日(土)・10月1日(日)10:30~17:00@宋雲院(東京・台東区上野)
上野駅からすぐのお寺「宋雲院」さんで開催される手作り市。作家のクラフトや雑貨、カフェやお菓子など様々な手づくりのものが集まります。小さな子や赤ちゃんもウェルカムの、ベビーフレンドリーなイベントです。バッグに入れればワンちゃんも室内まで同行OK!
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 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25) 第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>(2015.11.14)
第13話 お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。(2015.11.28)
第14話 美しいものよ、輝け!お母さんとの約束。(2015.12.12)
第15話 生産者さんを訪ねて <鳥の笛ネックレス編(2016.1.14)
第16話 生産者さんを訪ねて <アカ族の村編(2016.1.30)
第17話 始まった… 年に一度の確定申告(2016.2.13)
第18話 手仕事は同じじゃないから美しい~『ORDINARY』とコラボグッズを作ったこと(2016.3.11)
第19話 生産者さんを訪ねて<カレン族の村編>(2016.5.21)
第20話 生産者さんを訪ねて<ラフ族の村編>(2016.6.18)
第21話 夫婦で働きながら、煮詰まったときにしていること。(2016.7.20)
第22話 おしゃれに見せるって難しい! イベントのディスプレイで四苦八苦。(2016.8.26).
第23話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪前編≫(2016.8.26)
第24話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪後編≫(2016.11.26)
第25話 ちいさなお店がイベントに出た1年を振りかえる(2016.12.24)
第26話 ちいさなお店の海外買い付け① 買い付け方法と情報集め(2017.01.30)
第27話 ちいさなお店の海外買い付け②航空券の準備 (2017.02.28)
第28話 ちいさなお店の海外買い付け③スケジュール決め&宿探しのパズル (2017.03.31) 第29話 ちいさなお店の海外買い付け④アイテム探しと値段交渉 (2017.04.30)
第30話 ちいさなお店の海外買い付け⑤価格はどう設定するか(2017.06.05)
第31話 寝台特急は楽しい出会いの宝庫(2017.06.25)
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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!  

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/