ちいさなお店をはじめたこと。【第29話】ちいさなお店の海外買い付け④アイテム探しと値段交渉 / ノマディックラフト ヨメ

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。ボラれているのを適正な金額で買うのはアリですが、すでに適正な金額を出してくれているのに「もっと安くしろ」と値切り倒すのはやっぱり気持ちのよいものではありません。自分なりに「この価格なら十分だな」と思えるところで納得して線を引き、かなり安くしてもらった実感があるなら多めに買うとか、売り手への配慮も大切にすると
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第29話 ちいさなお店の海外買い付け
④アイテム探しと値段交渉

 

こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。

「海外買い付けに興味がある方に向け、私たちの体験からノウハウをご紹介するプチ・シリーズ、今回は「販売するアイテム探しと値段交渉」について触れてみようと思います。
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税関を無事に通過できるよう
関税や検査についてもチェック

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買い付けで「何を仕入れたいか」考えるとき、つい「おしゃれさ」や「可愛さ」のほうに気持ちが向きがちです。しかし「こんなもの見つけよう!」とあらかたイメージがついた後に考えたいのは「税関での検査」について、という実務面。

というのも、海外から持ちかえる販売用途のアイテムは、手持ちの荷物であろうと配送しようと、必ず税関を通す必要があります。その際、関税がかかったり(輸入先やアイテムによって異なる)、検査の対象になったりするものがあるので、買い付けたいアイテムに高額な関税や手間のかかる検査規定がないかどうか、あらかじめ調べておくと安心です。

たとえば、よく「注意が必要」と言われるのが革製品。「革靴」を仕入れた場合は課税対象額の30%、「革のバッグ」は8~14%の高額な関税をかけられます。「やりたいお店のコンセプトを考えると、どうしても革製品を扱わないと!」という場合は、この関税も欠かせない必要経費ですが、「扱っても扱わなくても、どちらでもいい」くらいのイメージならば、最初から取り扱わないのも作戦のひとつです。税関のウェブサイト を参照すると、関税率を調べられますので、買い付けに行く前に、必ず販売予定アイテムの関税について目を通しておきましょう。

 

 

 

税関のウェブサイト

税関のウェブサイトにある「主な商品の関税率の目安」。「せっかく安く仕入れたのに、高額な関税がかかったので販売価格を高くせざるをえなくなった……」ということのないよう、必ず目を通しましょう。

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しかもこの関税、国により内容が異なるのが面倒なところ。たとえば、上の図では「シャツ、肌着」は7.4~10.9%と記載がありますが、私たちがよく買い付けに行くタイやベトナムでは、協定により現在関税は0円となっています。そのような国による違いを調べられるのが、財務省のウェブサイトにある「実行関税率表」。この最新版をチェックすると、国による関税の違いが一覧できるようになっています。

 

財務省貿易統計

日付を確認し、最新のものをチェックするようにすると、現在の関税率が分かるようになっています。

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もうひとつ、関税の違いについて触れるなら、押さえておきたいのが「小口輸入」と「個人輸入」の違いについて。これまでに書いてきたのは販売を目的にした「小口輸入」のことですが、自分で使うために輸入する「個人輸入」の場合は、関税が軽減されるケースが多数あります。個人で旅行に出かけたときに、気に入った物を買い付けて「個人輸入」として日本に持ち込み、気に入った物だけ手元に置いて、後はフリーマーケットで販売するような方も中にはいます。ここは限りなくグレーで「個人用で買ったけど、不要になったのでフリーマーケットに出した」とも理解できるので、おそらくおとがめを受けるまでにはなりにくいケースです。

しかし「個人輸入」の関税が少ない以上、「見つからなければいいや」という感覚で、販売目的の商品を「個人輸入」で申告するのは虚偽申告であり、脱税にあたります。「買い付けた中で、この数個だけ気に入っちゃって、販売しないで家に飾っておこう」というものを個人輸入扱いにする、などはよいと思いますが、関税を下げて利益幅を上げるために不正申告をするのは本末転倒なので、払うべき税はキチンと払い、それでもちゃんと利益が出るように価格設定をするのが健全な方法だと思います。

もうひとつ、関税同様に気をつけなければいけないのが検査のこと。たとえば食器の輸入をする場合は、口に入る物なので「食品衛生法」にもとづく安全性の検査が必要になります。観賞用としての食器であれば検査は不要ですが、税関にその旨について届け出をしなくてはいけません。多くの場合、輸入する毎に検査費用や届け出の手間がかかるので、やはり買い付ける前に扱うべきか否かを確認しておくと安心です。

 

 

 

「卸価格の設定はありますか?」
と、まずは聞いてみよう!

 

関税や検査の件がいったん頭に入ってしまえば、あとは店舗や市場でのアイテム探しに入ります。

店舗で仕入れる場合の方法は大きく分けてふたつあり、

ひとつは、一般客として購入する方法
もう一つは、卸価格で購入する方法です。

お店によっては、バイヤーのまとめ買いに対応して「〇〇円以上のまとめ買いの場合は卸価格で販売可」というルールを設けています。店頭を見て、買い付けたいアイテムがたくさんありそうな場合は「Do you have wholesale price?(卸価格はありますか?)」とぜひ聞いてみましょう。設定は店によりけりですが、「合計5万円以上買えば、ついている値段から30%OFF」など、ルールに応じた卸価格を提示してくれる場合もたくさんあります。

 

バンコクにあるショップで卸価格を聞いたら、「バイヤーならこんなのもあるよ」と、奥にあるストックも見せてもらえました。恥ずかしがらず、聞いてみるのがおすすめです!

バンコクにあるショップで卸価格を聞いたら、「バイヤーならこんなのもあるよ」と、奥にあるストックも見せてもらえました。恥ずかしがらず、聞いてみるのがおすすめです!

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.そんな嬉しい卸価格があるとはいえ、もし単価が500円だとしたら5万円というミニマムロットをクリアするために100個も商品を買わなくてはいけません。「10個あれば十分」という場合は、一般価格で購入する使い分けが必要です。

また、市場などのお店では正規の卸価格がない場合も多く、そのときの価格のやり取りは、いわゆる「値切り交渉」という形になります。この交渉が買い付けの醍醐味とも言えますし、定価で物を買うのに慣れている日本人からすると不安でもあるところ。地元の人は価格相場が分かっているので、売り手も変な値段は言いませんし、買い手も無茶な値切りはしていません。しかし私たち外国人はどうしても高めの値段をつけられやすいのも事実です。

適正な価格で買い物をするには、リサーチをする時間を取るのがポイントです。市場に行く前に、ホテルのフロントにいるスタッフやタクシードライバーなど、現地の人に「〇〇を買いたいんだけど、だいたい幾らくらいだと思う?」と聞いてみると「△△市場なら、だいたい□□円かな」と教えてもらえることが多数あります。後は、シルバーのアクセサリーショップの店員さんに「〇〇の布製品って、このあたりで探すと幾らくらいでしょうね?」と聞くなど、別ジャンルで商売をしている人に聞くのも方法です。

現地の人にヒアリングした値段を何となく頭に入れたら、後は目当てのアイテムを扱ういろんなお店に行って価格を聞いてみると「だいたい幾らくらいと提示されるな」という相場が分かってきます。時間に余裕があれば、買い物客を眺めて、他の人がいくらで購入するのかチェックしてみるのもよいと思います。

また、買い付ける品物の中には、日本ですでに他の方が似寄りのアイテムを販売している、という場合もあるはずです。逸脱した価格で買い付ける失敗を防ぐには、日本では似寄りの物が何円で流通しているのか、という目線も押さえておき、「仕入れ価格で〇〇円以内なら相場で販売ができる」という感覚も持ってアイテムを探すとよいですね。

 

 

ものすごく広い市場の中をウロウロしながら、値段をリサーチ。

ものすごく広い市場の中をウロウロしながら、値段をリサーチ。休憩を挟みながら調べて行くと、欲しいものの相場が何となく分かってきます。

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日本人はケチ!?
値切りすぎにも注意を

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あらかたリサーチが済んだら、明らかに高い金額を提示してきた店は候補から外して、相場の平均値を目安に交渉をスタート。「これいくらですか?」「〇〇円です」「何枚買うから□□円にしてもらえますか」……と、やり取りしていく流れになります。ときどき、拍子抜けするくらいあっさりと「その値段でいいよ」と言われて「もしかして私たち高く買っちゃった?」と不安になることもあります。後から調べてみて「だいぶ安くしてくれたんだ!」と驚くことがあったり「ちょっと高かったか……」と思ったり、その時々いろいろです。

しかし毎回気をつけているのが「安く買えばいいのではない」ということ。市場でやり取りをしていると、「日本人はケチだからね」と言われることがあります。聞いてみると、それはやっぱり限界なく値切りする人がいるのが原因のよう。価格交渉のはずが、いつしか「いかに安く買うか」というゲーム感覚になってしまうのかもしれません。

ボラれているのを適正な金額で買うのはアリですが、すでに適正な金額を出してくれているのに「もっと安くしろ」と値切り倒すのはやっぱり気持ちのよいものではありません。自分なりに「この価格なら十分だな」と思えるところで納得して線を引き、かなり安くしてもらった実感があるなら多めに買うとか、売り手への配慮も大切にすると、次回以降行ったときにもよい関係を築けるように感じています。

 

 

.他と比べられない1点物は
自分たちの価値観を信じて選ぶ
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もうひとつ、難しいのが1点物の価格の判断です。少数民族の手仕事を扱う私たちが買い付ける品の中には、手作業で作られた1点物が多数あり、他と比較して相場を得ることができないケースが多くあります。この場合は、「自分たちが、そのアイテムにいくらの価値を見出すか」で、買うか買わないかを判断しなくてはいけません。単価は普通の物より高くても、完成までにかけられた労力や、どんな用途に使えるのか、物としての美しさ、文化的背景などを加味していくと、その値段を払う価値があるのか・ないのかが見えてきます。

この場合、売り手からできるだけ情報を聞き出すことが必要なのですが、誠実な人も多くいる一方、お金目当てにウソを並べ立てる売り手もやっぱりいます。以前ベトナムで、機械で大量生産された刺繍を「すごい手刺繍」と勧めてくる売り手がいたので「これ機械で作ったやつでしょ」と言うと、急に笑顔を封印してぷんぷん。「日本人は手仕事かどうかが分かるから(売るのが)面倒くさい。欧米人は言ったままを信じて買ってくのに」と文句を言われて、「それ、私たちに言われても」と苦笑いしたことが。お客様に安心して使っていただける物を揃えるために、選ぶ側が責任を持って探さなくては、と思うといつも気が引き締まります。

 

市場の一角に山積みになったバッグやポーチ。

市場の一角に山積みになったバッグやポーチ。刺繍は刺繍でも、大量生産された工業製品の刺繍なので、こういうところはコンセプトと異なるため立ち寄りません。

 

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今回はどう買うか、ということを中心に触れてきましたが、私たちが個人的にこだわる買い付け方法は「できるだけ生産者の顔が見えるところから買う」ということです。

以前、第4話 でも触れましたが、少数民族の手仕事を紹介しはじめたきっかけの中には、少しずつ姿を消してゆく彼らの手仕事が残ってほしい、という思いがあり、どうせなら少数民族の暮らしをサポートしているフェアトレード団体から仕入れをしたい、という思いがあり。どちらのケースでも、作り手の背景や思いを預り、伝えながら売っていく、という点は共通で、それには「誰が作っているか分かる」ということが大切だからです。

少数民族をサポートしているフェアトレード団体は、彼らの生活支援の一環として刺繍や織などの手仕事を使った商品を開発し、販売する取り組みを行っています。職業訓練のような側面もあるため、作り手の技術がまちまちである場合もあり、刺繍や織のクオリティという面では市場の片隅でチクチクと針を動かしながら「刺繍が好きだから」と作っている個人の方が、素晴らしい仕上がりであることもあります。

じゃあ、どちらがいい物か、という面について判断するのはやはりお客様。「この刺繍の技術はまだ発展途上だけれども、この商品の売上げはキチンとした団体が管理して、生活のサポートと技術向上のために使われます」という面に価値を見出してくださる方もいれば、「これを作っているのは、おばあちゃんから習った刺繍の技術を受け継いで、コツコツと市場で販売している女性の作品です」というバックストーリーを楽しんでくださる方も。どちらも上下がつけられない、大切なもの作りの物語ですし、私たちができるのはその背景をキチンとお伝えすることだと考えています。

 

 

フェアトレード団体のショールームにて。

フェアトレード団体のショールームにて。世界中にアイテムを輸出しているので、色や形もさまざま! そんな中から、日本のお客様の好みに合った色やデザインを選び、時には別注でアイテムをオーダーします。

 

次回はいよいよ買い付けプチ・シリーズ最終回。仕入れたアイテムの価格設定について触れたいと思います。どうぞお楽しみに!


(月1回 第4土曜日更新です)

 

 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
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第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
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第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
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第26話 ちいさなお店の海外買い付け① 買い付け方法と情報集め(2017.01.30)
第27話 ちいさなお店の海外買い付け②航空券の準備 (2017.02.28)
第28話 ちいさなお店の海外買い付け③スケジュール決め&宿探しのパズル (2017.03.31)

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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!

 

【関連サイト】
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木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/