ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第11話】大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>

ちいさなお店をはじめたこと。

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大地から植物が芽吹き、そこからとれた綿や麻が布になり、衣裳などに姿を変えて違う土地へと旅立つ。打合せのときにふたりで話した物語が原形にあるのは変わりません。シダのような植物と飛び立つ渡り鳥、両方をイメージできるよう描きました。

第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか <実践編>

こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。

「ちいさなお店がどうやって自分たちらしいロゴを作るか?」をトピックにした前回。今回の第11話では、ノマディックラフトのロゴがどうやって生まれたのか、というところに触れてみようと思います。

今回のインタビュー相手は店主(ちょっぴり気恥ずかしい…… )! 思いが反映されたロゴが形になるまで、いったいどんな道のりがあったのでしょう?

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ここからは、店主とヨメの対談形式でお届け。前回の対談相手であるデザイン事務所『project.E,inc』の太田 ロビン 紳さんからのコメントも合わせてお送りします。

 

初の挑戦!
マークの図案は
店主自ら描くことに

まずは一番初めの打合せのことを教えてください。どんなことを話したのか覚えていますか? (ヨメ)

「まずはイメージのすり合わせから始まった、と記憶しています。太田さんが感じたノマディックラフトのイメージについて話してくれて、その理解に間違いがないかを話し合って。僕は説明があまり上手ではないので、うまく伝えられるか不安な面もあったのですが、大切にしている部分の認識にほとんどズレがなく『プロはさすがだな』と思ったのを覚えています。ロゴマークがお店やブランドに対して、どういう役割を担うのか(※第10話参照)についても説明してもらいました」(店主)

ノマディックラフトのロゴは、店主が自分でマークを描いているのが特徴ですよね。この方法を選んだ理由はなんだったのでしょう。

「打合せの中で『文様は民族の人たちにとって、言葉のようなもの』という話題が出たんです。僕は趣味でアイヌ刺繍をしているので、スケッチブックにアイヌ文様の模写をしたり、自分なりにオリジナルの文様を描いたりしており、それを見せたところ『自分で描いた文様の中に、きっとロゴのモチーフになるものがあるはず。自分で描いてみては? 』とご提案いただいて。それで僕がマークを描くことになったんです」

ロゴタイプ(文字の部分)はどうすることになったのですか?

「ロゴタイプについては、すでに太田さんが素敵なイメージを膨らませてくれていました。少数民族の手仕事は大地に根ざした土着のものであり、綿や麻など自然な素材から作られている。植物が芽を出して果実を実らせるように、僕たちの商品も育って人の手に渡ってゆく。そんな大地に根づいたイメージの文字にしたい、と。その意見に関しては大賛成だったので、その方向で進めてもらえるようお願いしました」

打合せのあと、すぐにロゴタイプが届いたそうですね。イメージどおりでしたか?

「イメージしていたよりも洗練された印象で、少し驚いたのが正直な第一印象です。しかし『それも狙いのひとつ』と伺って。少数民族の刺繍や織は、エスニックやヒッピー的なイメージもあるため、チープに受け取られやすい面を持っています。ノマディックラフトが目指すのは『少数民族の文化に根ざした手仕事』として商品を紹介すること。土の香りがする商品にあえてきれいなロゴタイプを添えることで、ちょうどいいバランスに見えるはず、と聞いてすごく納得がいき、思いを汲んでくださっているのを感じました」

デザイナーの目線 「少数民族の助けになりつつ、彼らの伝統的な手仕事の魅力を日本で発信する。そんな活動に対して『ノマディック(旅や放浪者)』+『クラフト(手仕事)』=ノマディックラフトという店名をよくぞ考えた、と感じました。どういうショップに育てていきたいのか、というイメージにはまだ漠然とした点がありましたから、ロゴマークの制作を通じて目標地点をはっきりさせ、そこに向かっていく手助けができれば、という思いで打合せに臨みました」(太田さん)。

 

 

デザイナーの目線

デザイナーの目線
「少数民族の助けになりつつ、彼らの伝統的な手仕事の魅力を日本で発信する。そんな活動に対して『ノマディック(旅や放浪者)』+『クラフト(手仕事)』=ノマディックラフトという店名をよくぞ考えた、と感じました。どういうショップに育てていきたいのか、というイメージにはまだ漠然とした点がありましたから、ロゴマークの制作を通じて目標地点をはっきりさせ、そこに向かっていく手助けができれば、という思いで打合せに臨みました」

 

 

思った以上の産みの苦しみ
心の奥にあるエゴや欲を
一つひとつ手放して


次はロゴマークの番、となったわけですが、完成するまでどのくらいの時間がかかったのでしょう。

「実は5ヵ月くらいかかってしまいました。そのほとんどがマークを完成させるのにかかった時間です。スケッチブックに何気なく描いていた文様を見返しつつ、打合せで話し合ったロゴに込めたい自分なりの思いを文章に起しました。先に述べたとおり、文字を持たない少数民族の人たちにとって、文様は言葉でもあります。飛び立つための『羽』、生命や植物を象徴する『葉』。心に響いたキーワードを自分なりに文様化して組み合わせ、いろいろな象徴がひとつに融合したマークを作りたいと考えたんです」

毎晩毎晩、スケッチブックと向かい合っていたのはヨメも見ておりました。イメージを形にするのは大変そうでしたね。

「描いたり消したりを繰り返して3ヶ月です(笑)。どうしても納得できるものにならなくて、精神的にかなり煮詰まりましたね。ひとりでは、あと一歩のところからどうしても抜け出せないので、描いたスケッチを持って太田さんに相談に行きました。それを見て『要素が多すぎるから、もっとシンプルに削ったら? 』とアドバイス。時間がかかっていることに対しても、デザインのよしあしに関しても『いい・悪い』という言葉は一切なかったのが印象的でしたし、それに助けられた気がします」

デザイン案のスケッチ

 

いま振り返って、煮詰まった理由はなんだったと思いますか。

「どうしても思い入れが強くなるんですよ。『ずっと大切にできるマークにしたい』という欲も出るし『自分らしいものにしたい』というエゴも強くなる。それに加えて『いろんな民族のエッセンスを入れたい』とか『花の要素を入れたい』とか、憧れも次々と湧いてきます。マークを描いてみて、自分がいかに煩悩にしばられているのかよく分かりました。『そぎ落としてみたら? 』と言われたのはある意味、そういうエゴや欲を手放す精神的なきっかけにもなったと思います」

 

書きためたアイデアスケッチを、ふり返りながら店主にインタビュー。ヨメも初めて聞く事実がたくさんあり、あらためてロゴマークに愛着が深まりました。

書きためたアイデアスケッチを、ふり返りながら店主にインタビュー。ヨメも初めて聞く事実がたくさんあり、あらためてロゴマークに愛着が深まりました。

 

デザイナーの目線

デザイナーの目線
「ひとつのデザインを生み出すにあたり、時間をかければいいわけでも早ければいいわけでもありません。どれだけの時間をかけるのか、という部分は笹本さんの起業家としての感覚にお任せするつもりで、こちらからは催促しませんでした。だいぶ産みの苦しみがあったようでしたが(笑)、その結果として生まれてくるべきものが生まれてきたのではないでしょうか


空と大地、植物や動物
さまざまな生命が
世界中を旅するイメージで

なるほど。大変だったのがよく分かりました。現在のロゴマークは、どのようにできあがったのでしょうか?

「時間をかけたデザインをいったん白紙にするべきか迷っており、頭の中を整理するためにネットサーフィンをしながらいろんな民族の文様を見ていました。そのときふとメヘンディ(ヘナタトゥーのこと。ヘナの葉で肌に模様を描く皮ふ装飾の一種。魔除けやお守りなどの意味も持ち、インドや中東、北アフリカをはじめ世界各地で愛されている)の図柄を見ていたら、凝り固まっていた文様のイメージから少し自由になれた気がしました。

もともと『羽』と『葉』を描きたかったのは、植物と動物が交じりあったものにしたい、という思いです。それを植物の芽吹きのような、まったく違うイメージに変えていけそうな閃きが生まれました。そこから1ヵ月くらい描き続け、現在のマークにまとまったんです」

FotorCreated2

 

ようやく完成したマーク、そこに込めた意味について教えてください。

「大地から植物が芽吹き、そこからとれた綿や麻が布になり、衣裳などに姿を変えて違う土地へと旅立つ。打合せのときにふたりで話した物語が原形にあるのは変わりません。シダのような植物と飛び立つ渡り鳥、両方をイメージできるよう描きました。鳥の胴体でありシダの若芽でもある部分は、火と水が混じり合った象徴。ここはアイヌ文様のモレウ(渦巻き)に影響を受けています。写真を撮って太田さんに送り、大地を象徴するようなロゴタイプと一緒になって、ついに完成。嬉しかったというよりも『ようやく終わった… 』という達成感のほうが勝っていましたね (笑)」

 

デザイナーの目線

デザイナーの目線
「名刺など小さなものにも印刷することを考えると、ロゴマークとしてはディテールが細かすぎるのではないか、という懸念もありました。しかし店主の笹本さんが描いた“種を抱えてどこの地へでも飛んでいく”イメージをできるだけそのまま活かす方向で使用することにしました。ロゴタイプはしっかりと地に足のついたフォントを選び、地域に根ざした伝統や、民族が踏みしめる大地のイメージを思わせるように。上品ななかにも、文字の表面にはざらりとした土や砂の雰囲気を残して仕上げました。自然の息吹を感じるロゴマークになったのではないでしょうか



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ロゴマークを使い始めてから数年。「名前」であり「文字」として人に読まれる店名とは異なり、「文字」でありながら「絵」でもあるロゴマークは、人の想像力に「なんだろう? 」と働きかけてくれます。「より店のイメージを出しやすくなりました。これができたことは僕たちの大きい力であり、財産ですね」と店主。ヨメも同感です。

次回も私たち、ちいさなお店のお話をお届けします。どうぞお楽しみに!

取材ご協力/project.E,inc 

 

 

 ノマディックラフトのイベント出店情報 

ベジ&フォーク マーケット
@神奈川県 川崎市・麻生環境センター
11月7日(土)・8日(日) 10~16時
詳細は http://vegeforkmarket.com/
「動物性食品、乳製品、白砂糖、食品添加物を使わない」をコンセプトにした野外マルシェに今回初出店です。飲食店や農産物の販売のほか、手作りの雑貨やクラフトワーク、数々のワークショップ、キッズが遊べるエリアやリラクゼーションブース、アーティストによるミニライブと見どころが盛りだくさんの人気イベントです。

 

(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)
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 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.03)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17)
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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/