フリーランスになった当初も「結果がついてくれば自信もついて不安がなくなる、というシナリオがやってくるのでは」とイメージしていましたが、10年経った実際のところは「不安の芽はどこにでもあるんだから、探しだしたらキリがないない」と諦めがついた
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット
等身大のちいさな店。限られた「時間」と「おカネ」をどう使う?
こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。
さてさて、第3話目となる今回は、ちいさなお店を営むうえでとっても大事な「働きかた」の問題。わたくしヨメが仕事を持ちながら、夫とともに週3回のペースでお店を開いていることは第1話でもご紹介いたしましたが、ここでのポイントは、店主である夫もまた別な仕事を持っていること。そう、私たちは夫婦そろって兼業しながらノマディックラフトを運営しているのです。
夫婦それぞれ、どのように「時間」と「おカネ」を使ってお店を続けているのか、生活スタイルと合わせて触れていきたいと思います。
夫婦それぞれ仕事をしながら 手分けしてお店を運営中
お店をオープンするときは、開業資金として物件の取得費用や改装費、当座の運転資金などを用意するのが一般的だと思います。この「まとまったおカネが必要」という点が、お店を持つひとつのハードルになっているのではないでしょうか。しかし第1話でご紹介したとおり、私たちは引越しと同等の費用で物件を借りたため、資金面ではかなり助けられました。同じように、運営の仕方も自分たちの生活に合わせて等身大に行っています。
月・木・土を基本に営業は週3回。お店番は店主2回、ヨメが1回の交代制。実作業の内訳はこんな感じです。
<店主の場合>
ノマディクラフトの運営は、店主を中心に行われています。週7日間のうち2日を店頭で過ごし、残りの5日は飲食業で接客をして働いています。朝~夕方までのシフトなので、夕方以降に帰宅してからウェブショップの出荷や管理をしたり、伝票の整理や海外とのやりとりをしたりと、運営業務を行います。店頭にいるときも同様の作業を行うこともありますが、できるだけ新しい商品を生み出す創作の時間に充てるよう意識しています。イベントの前は飲食業をお休みして準備を行うことも。
<ヨメの場合>
ヨメは主に運営のサポート役をしています。週7日間のうち店番は1日のみ。残りの6日間はライターとしてお仕事をしています。取材に出たり、自宅で原稿を書いたりするのが主ですが、イベント前の準備はお手伝いできるよう予定を調整します。その他、Facebookの更新などお店のPR活動を行うのもヨメの仕事。また、どんな新商品を作るかなどの企画やバイイングも一緒に手がけています。
店主はあえて「飲食×お店」の形をとることで好きな料理と好きなお店の運営、同時に触れることができますし、それぞれが接客スキルの向上にもひと役買っています。ヨメはヨメで、大好きなライターという仕事を続けながら、これまた大好きな物づくりや手仕事にまで触れることができるので、両方に対してモチベーションがアップしています。こうしてお店のことを文章にする嬉しい機会をいただけたのも、兼業生活の結果かもしれません。夫婦ともども、あえて「この道!」とひとつに絞り込まない選択をしたことが、心地よくお店を続けていける要素なのかな?と感じています。
…とお話しすると、なんだか聞こえはいいのですが、「兼業の自由」がもたらす一長一短の重みをしっかと味わいながら生きてます!というのが正直なところ。「自由」がもたらすメリット・デメリットについても触れねばフェアではありません。その重みとは、こんな部分だったりします。
「時間」「おカネ」「心」3つの自由。 それぞれに 一長一短ありまして
ちいさなお店を続けていくうえで、兼業を選択している私たち。メリット・デメリットを感じる「自由」は大きく分けて3つあります。
時間の自由
☆メリット
店主はシフト制、ヨメはフリーランスと兼業することで、自分たちの計画に応じたスケジュールを組むことができます。時には動かせない用事ができることもありますが、そのときは無理せずお店の営業日を変更させていただく、などの手段をとります。バイトを雇うなどすると、責任や出費も増えますから、今はあくまでも等身大の健全運営を続けることが優先。ビジネス絡みの接待や頼まれ残業などもないため、仕事仲間でも友人でも、一緒にいて楽しい人たちと過ごすのに時間を割くことができるようになりました。
★デメリット
兼業で好きなことをやっていると、仕事の楽しみが増えるぶん際限もなくなります。特にお店の場合は拘束時間も決まっておらず、場所も自分たちで借りているので、やろうと思えばいくらでも仕事ができてしまうことに。オン・オフを意識的に切り替えしないと、ダラダラとお店で作業を続けて私生活に割く時間がどんどん減っていき、家が荒れ放題になることも(特にイベントの前後は自宅が壊滅状態に…)!
おカネの自由
☆メリット
以前、店主がサラリーマンだった時代、会社の経営状態が悪化して、残業が増えたのに給料が下がり、家計に深刻な影響を及ぼしたことがありました。店主の飲食業・ヨメのライター業・お店の売上げと、収入源が複数ある今のほうが、それぞれやるほどに伸び代があったり、万が一どこかが悪くてもどこかでカバーできたりと、変化の時代に合った安定性を生み出しています。また「3ヵ月後にイベント準備で時間を作りたいから、今のうちにそのぶん稼いでおこう」など、その時々に見合った収入と時間のバランスを調節しやすい点でもフレキシブルです。
★デメリット
当然ですが、会社員ではないため夫婦ともどもボーナスがありません。また国民年金&国民健康保険なので、福利厚生も充実しているとは言えません。病気やケガでどちらかが働けなくなったときの補償が少ないので、コツコツと貯金して万が一に備える意識は(いまも十分とは言えませんが…)永遠に欠かせない生活です。
心の自由
☆メリット
予定も仕事も自分たちで選択していく生活です。何が起きても「自分たちで選んだことだから」と思えるため、イヤイヤやらされている感とは無縁の生活。ストレスが少なくなりました。好きなことでお店を持ち、そのことで出会いが広がっていく楽しさはもちろん、職業・業界・住む場所などにしばられず、さまざまなコミュニティの人たちと繋がりやすくなった点もプラスになっています。
★デメリット
「自分たちで選んだことだから」の逆バージョンで、何があっても人のせいにはできません。トラブルが起こったときも自分たちで解決していくたくましさが必要になりました。また、複数の仕事を持つこと=不安定という先入観で捉えられることもあります。過去数年の確定申告の控えなどで安定した収入があることを証明したり、活動の様子をまとめた資料を用意したりするなど、楽しんで兼業する働き方の実情を理解してもらう努力が必要になる場面もあります。
不安探しをするより どう可能性を広げるか。いまも学んでいる途中
しっかりおカネを貯めて、じっくり腰を据えてお店を開き、その売上げで生活するのは素敵だとヨメも思います。でも、それが叶わない場合に諦めてしまうのではなく、仕事を持ちながら週末だけ好きなことを仕事にしてみるのもいい。夫婦でやらなくても、友人やパートナーとイベントで販売を始めてみるのもいいと思います。私たちもゆっくりした歩みではありますが、お店にも少しずつお客様が来ていただけるようになり、取り扱える商品の量も着実に増えてきました。何か動いてみれば必ず反応が返ってきますし、次へのヒントも見つかるものです。
余談ですが、ヨメもかつては会社員でした。とてもよい会社だったのですが、価値観の相違から退職という道を選び、ひょんなきっかけでフリーランスになることに。会社から毎月あたりまえにもらっていたお給料が出なくなり、自分で仕事を見つける生活に変わるのは本当に不安で、独立当初はよく「どうしよう、どこかで働いたほうがいいかな…」と無料のバイト情報誌を眺めていました。しかしそのうち「クヨクヨしてるヒマがあったら、動いて仕事探すしかない!ダメならダメなとき考える!」と覚悟ができまして。
迷いがなくなったとたん、心と身体のフットワークがググッと向上。おかげさまで独立して10年、一度もバイトのお世話になることなく仕事を続けてくることができました。
何を言いたいかというと、会社に勤めてようと独立しようと、人生に不安がなくなることってないんですよね! フリーランスになった当初も「結果がついてくれば自信もついて不安がなくなる、というシナリオがやってくるのでは」とイメージしていましたが、10年経った実際のところは「不安の芽はどこにでもあるんだから、探しだしたらキリがないない」と諦めがついた、というのがリアルな気持ち。その ”前向きな諦め” のような経験が、この兼業生活を楽しむパワーのひとつになっています。
不思議なもので、不安にかられてやめてしまったときよりも、「楽しい!」とか「やってみたい!」という気持ちを原動力に素直に動いたときのほうが、失敗も後悔も少ないようだ、というのも経験から分かってきました。いまはネガティブな気分に飲み込まれて自分の可能性を狭めることがないように、どうすれば心に正直になれるか、転んでもすぐに立ち上がれるか、片方が転んだときに片方がいかにフォローするか、お店をしながら夫婦で学んでいる気がします。
なんだか最後は精神論みたいになってしまってすみません…。次回からは、少し趣向を変えて仕入れにまつわるエピソードをお伝えしようと思います。どうぞお楽しみに!
ノマディックラフトのイベント出店情報
安穏朝市 @築地本願寺 |
集祭 vol.4 SodaCCoマルシェ夏祭り @代官山SodaCCo |
Tera De Marche @上野宋雲院 |
(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)
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連載バックナンバー
第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
【関連サイト】 ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/ ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft 木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/ |