何度か足を運ぶうち、彼らが着ている衣装や売っている雑貨はすべて彼らの手仕事なのか、というと必ずしもそうではない、というのが分かってきました。「あなたが作ってるの?」と聞くと「ううん、仕入れてる」とか出所を素直に答えてくれる。
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>
こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。
前回までは、お店のロゴマークを作ることで自分たちの活動にどう思いを込めてゆくのか、という点について2回にわたりお届けしました。第12回目は少数民族の手仕事を買いつけるにあたり、現地に行って感じた「そもそも手作りとはなんぞや? 」という難しさについて綴ってみようと思います。
衣装を着た民族の美しさにときめく!
「少数民族の人たちって、いまでも民族衣装を着て生活してるんですか?」
こんな質問をお客様からよく受けます。私たちがふだんは着物姿でないのと同じように、よく買付けに行くタイ、ベトナムあたりにいる多くの民族は、普段着として我々と同じようなTシャツにジーンズで暮らしている、という場合が多いのではないでしょうか。ただ、地域や集落によっては美しい民族衣装を日常着としている人たちもたくさんいます。
そういう人たちに会いたい場合、有名なのがベトナムと中国の国境近くにある街・サパ。標高1600メートル級の山々に囲まれた自然豊かな環境で、もともとは欧米人向けの避暑地だったと聞いていますが、いまは少数民族に会える観光地として有名です。
街の中心部にある市場の周辺に行くと、黒っぽい藍染めの衣裳を着た黒モン族や、赤いおざぶとんのような飾りを頭に乗せた赤ザオ族の人たちなど、多くの少数民族が衣装を着て集まっています。お年寄りなどは日常的に衣裳を着て暮らしているようですが、観光産業が彼らの欠かせない収入源である以上、物売りに着ている若者たちが衣裳を着ているのは、観光客にウケがいいというのも理由かもしれません。
黒モン族の衣裳は、両袖に刺しゅうの入った衿のある藍染めのはおり物が特徴。それに膝が見えるスカートを合わせ、ハイソックスのような脚絆(きゃはん)を合わせています。
赤ザオ族の衣裳は、日本の着物のように前を重ね合わせたデザインで、衿と背中に刺しゅうをあしらっています。ボトムは8分丈のパンツで、ここにもまた素晴らしい刺しゅうが。既婚女性の多くはまゆげをそり落として、赤いずきんやクッションのようなものを頭に乗せるのが定番です。
え、作ってないの!?
大変なのは分かるけど、ちょっぴり残念…
私も店主も、日本の日常ではほとんど着物を着る機会がないというのに、やっぱり異国の地で民族衣装を見ると「いいねえ」と目を細めてうっとり。我ながら調子がいいな、と思いつつ、沸き立つ気持ちは止められません。
しかし、何度か足を運ぶうち、彼らが着ている衣装や売っている雑貨はすべて彼らの手仕事なのか、というと必ずしもそうではない、というのが分かってきました。商売熱心な黒モン族の少女たちは「バイ フォー ミー」と口々に言いながら、旅行者の周りに集まってくるのですが、手にしている商品は自分たちで作ったものもあれば、どこからか安く仕入れたのだろう、あまりクオリティのよくない土産物用の品だったりすることもあり、玉石混合です。「あなたが作ってるの? 」と聞くと「ううん、仕入れてる」とか「おばさんに作ってもらってる」とか、出所を素直に答えてくれるあたりが、憎めなくて好きなのですが。
現地で聞いたところ、黒モン族の衣装の袖などに使うクロスステッチは、中国で(近いですから)モン族の伝統文様を刺しゅうしたテープを作って輸入されているケースもあるそう。たしかに黒モン族はこのあたりに多く住んでいますし、彼らだって刺しゅうの手間をかけるよりも買った方が楽だ、と思うこともあるでしょう。観光客もモン族の刺しゅうが入った服やらバッグやらを好んで買うので、販売用の材料としても使えます。さすが中国、商売の目の付け所としては悪くありません。
しかし、モン族の刺しゅうを探しに行く私たちとしてはちょいと困りもの。機械刺繍と手刺繍の区別をつけるのはさほど難しくありませんが、中国人の女性が刺したクロスステッチとモン族の女性が刺したクロスステッチを見ただけで見分けるなんて、絶対にムリ! しかも、どちらも時間をかけて作られた手仕事であることは変わらないわけです。加えてじゃあ、モン族の女性がそういう輸入の刺しゅうパーツを買って、手縫いでチクチク衣装に仕立てる。それは立派な「本物の衣装」なのですが、手仕事としてはどうなの? そんなことを最初はよく悩みました。
ちなみに、赤ザオ族の女性たちは、街のあちこちで立ったまま刺しゅうをしているのをよく見かけます。手仕事の習慣が暮らしにいまだ根付いているのか、女性同士が井戸端会議をしながらポケットから小さなキレを取り出し、おしゃべりの片手間とは思えないほど繊細な刺繍を刺していく様子はいつ見ても魔法のよう。赤ザオ族の刺繍はたいへん細かいので、量産品として機械刺繍で作ったり、第三者が真似して作ったりしようにも出来ないのかもしれません。
エゴの押しつけにならないように
手仕事を大切にしたい
そんな輸入パーツ問題を皮切りに「どこまでを少数民族の手仕事の定義にいれていいんだ… 」と悶々と考えていた店主とヨメ。気分を変えて花モン族の大きな市場があるバックハーに行きました。花モン族という名前のとおり、彼らの民族衣装はピンクやグリーンを基調にした華やかで美しいもの。しかも多くの花モン族は日常生活でも衣装を身につけ暮らしています。これはいったいどんな手仕事に出会えるか、ワクワクしてバスを降りました。
しかしですね。
花モン族の衣装を作るパーツは、ほとんどが化学繊維で作られたチロリアンテープやプラスチックのビーズ。ほとんどがケミカル由来のものです。チロリアンテープを重ねたジャケットは彼らの特徴でもあるので、百歩譲ってしょうがないとしても、彼らが履いているプリーツスカートもポリエステルなどの化学繊維で、花モン族的な柄はすべてプリント。そう、デイリーに衣装を着る生活であるがゆえに、すでに現代版へと進化していたのです。
「もう全部これなの? 」
と聞くと、
「軽いし、洗濯しても早く乾くから、こっちの方がずっといい」と。
その通りだ、と思いました。全自動の洗濯乾燥機を使って、ボタンひとつで洗濯から乾燥まで終わらせる。そんな我々よりも、はるかに家事の手間がかかるのです。色落ちもせずにすぐ乾き、着ていても楽なウエストゴムのスカートは歓迎すべき進化に他なりません。細かいプリーツだって、今までは手で折って、糸で留めて作っていたのに、洗ってもひだが取れなくなったのですからそれは便利なはず。
勝手に期待してやってきた外国人2名は、「手仕事を期待するのは、私たちのエゴでしかないよな… 」と勝手にがっかり、勝手に少し理解した気分で市場をとぼとぼ歩きました。気を取り直して、いまモン族女子の間で流行しているスカーフ(みんなが頭に巻いてるチェックのやつ。お部屋のインテリアに使うとかわいいのです☆ )を仕入れたほか、ベトナム人がやっているアンティークショップで古いモン族の衣装を見つけました。こちらは手でプリーツを作っていた時代のもの。手織りの綿を細かく折って作るため、持って見るとずしりと重く、乾かすのも大変そうです。でも正直、こちらのほうが美しいんですよね。
私たちが夫婦で話し合った結論は、すべてを自分の手で作っている人を大切にすること。でも実際に、輸入のパーツがこれだけ少数民族の人たちに浸透しているのだから、それを理解した上で素敵なものなら仕入れよう。でもお客様にはその違いをちゃんと伝えよう、とそういう形に落ち着きました。
市場でも街でも、観察していると「空き時間にせっせと手を動かして刺繍や縫い物をしている人」と、「よそと変わらないものばかりを品揃えしている=どこからか仕入れて売っている人」がいて、その違いが徐々に見えてきます。自分で作っている人たちは、布やパーツがあればさっとジャケットをリメイクしてくれたりする技術もあるので、できるだけそういう人たちから仕入れるようにしています。
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買いつけに行くのは楽しいですが、市場で良質な手仕事を見つけるのは、年々難しくなっています。だからこそ、現地の生産者団体とおつきあいを深め、顔の見える生産者さんから直接作っていただいたものを買いつける。両方を大事にしていかなければ、としみじみ感じています。
というわけで次回は、店主が生産者さんを訪ねた時のお話などをお届けしますね。どうぞお楽しみに!
ノマディックラフトのイベント出店情報
安穏朝市 @東京中央区・築地本願寺前広場 11月15日(日)・12月20日(日) ともに 9~15時 詳細は http://annon-asaichi.blogspot.jp 毎月1度、本願寺さんの広場で開かれる暮らしの温もりや匂いを感じる素朴な朝市です。採れたての産直野菜から暮らしの雑貨までが揃います。私たちも看板犬レラと一緒に、ゆるゆると出店中。築地の場外市場からも歩いてすぐ。気持ちいい休日の朝、ぜひ足をお運びください。 |
(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)
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連載バックナンバー
第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話
【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!
【関連サイト】 ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/ ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft 木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/ |