ちいさなお店をはじめたこと。【第30話】ちいさなお店の海外買い付け ⑤価格はどう設定するか / ノマディックラフト ヨメ

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。仕入れた商品を「いくらで」売るか、と決めることは商品の価値を左右する大切な瞬間です。一度決めた価格をかんたんに上げ下げしてはお客様に迷惑がかかり、正統な理由がないと信用をも失うことがあります。いろいろ計算する作業が多く
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第30話 ちいさなお店の海外買い付け
⑤価格はどう設定するか

 

こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。

海外買い付けに興味がある『ちいさなお店』に向けて、私たちの体験からノウハウをご紹介するプチ・シリーズも、いよいよ最後。

今回のテーマは、仕入れたアイテムの「価格設定」について。今回は数字にまつわるお話ですが、お仕事として販売を続けていく上では欠かせない要素です!
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価格を決めるため
まずは「原価率」を把握しよう

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仕入れた商品を「いくらで」売るか、と決めることは商品の価値を左右する大切な瞬間です。

一度決めた価格をかんたんに上げ下げしてはお客様に迷惑がかかり、正統な理由がないと信用をも失うことがあります。いろいろ計算する作業が多くて面倒なプロセスでもありますが、販売活動を続けていくためにもキチンと考えていきたい大切なポイントです。

原価率の設定方法など、価格設定については細かい計算方法がいろいろあり、調べるほど「難しい!」と悩んでしまうものですが、まずはだいたいの感覚をつかむことが先決。小売業の場合は、価格に対して原価率が 30%~40% になるのが目安と言われているので、まずはここから逸脱しない価格を仮に設定します。

たとえば仕入価格(自分で作っている場合は原材料費)が1500円だとします。
仕入価格1500円の商品を、原価率30%で販売したい場合は、以下のように計算しましょう。
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1.  最初に10%あたりの金額を出す
1500円÷3(割)=500円(1割あたり)

2.  1割あたりの金額を10倍する
500円×10(割)=5000円

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つまり、1500円で仕入れた商品を原価率30%で販売するためには、価格【5000円】が適当、ということになります。

2でだした価格から、仕入価格を引いて、残った3500円が「粗利益」。先ほどの例で言えば、価格5000円-仕入価格1500円=3500円分がそれにあたります。

なぜ “粗い” 利益なのか、というと、ここから販売にかかった「経費」を引いて初めて “純粋な” 利益「純利益」が出てくるからです。

この「経費」をちゃんと価格に反映しないと、いくら販売しても自分のお給料が出ません。商品の価格を決めるときは、

① かかった経費をペイし
② どのくらいの利益を設定するか

というのがポイントになります。

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「卸販売」をするかしないか
最初に考えておくのも大切よ

 

さてここで、最初のうちに考えておきたいのは「将来的に、卸販売をするのか・しないのか」という目線。つまり、自分で直接販売するだけでなく、セレクトショップなど他の小売店に自分たちの商品を置いてもらい、代わりに販売してもらう、という方法を取るかどうか、という点です。

卸販売のメリットは、自分たちで販売力が足りない分を補ってもらえる点です。デメリットは、販売先に「販売手数料」を払うため、利益の割合が減るという点です。

下記のグラフを見ると、利益の差がよく分かります。先ほどの原価1500円の商品を例に考えてみましょう。

・自分たちで小売販売した場合は、粗利益が3500円。
・販売価格5000円の80%の価格で卸した場合は、1000円の販売手数料が取られるため、粗利益は2500円。
・60%で卸した場合は、販売手数料2000円、粗利益は1500円。

 

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こうしてみると、直接販売するのが最も粗利益が高い、ということになりますが、自分たちがまだ十分な販売力がない場合はどうでしょうか。いくら利益率が高くても、売れなければ現金にはならず、商売としてお金がまわっていきません。手数料を払っても、たくさん販売してくれるところに卸した方が、最終的には商いが回転していく可能性もあります。

この商品手数料のことを「掛け率」と呼び、販売価格の80%で卸すことを「8掛け」、60%を「6掛け」などとも表現します。どのくらいの掛け率になるかは、販売先との話し合いで決まりますが、販売先が商品を預って販売し、売れなければ返品する「委託」形式の場合は8掛け、販売先が商品を買い取って、返品をしない「買取」形式の場合は6掛けになることが多いようです。

もし卸売をする可能性がある場合は、粗利益の中から販売手数料を差し引いた金額で、さらに経費をペイし、利益を出せるか、という目線で価格を決めなくてはいけません。

個人作家さんや、ちいさく輸入販売をしている人たちからよく聞かれる声として、この卸価格の悩みがあります。最初は自分たちで販売するつもりで価格を決めたけれど、あとから「うちのお店に置かせてもらえませんか?」と相談され、卸に興味を持ったけれど、販売手数料を差し引いたら利益が残らない……という問題は決して珍しくありません。

「大きく販売する気はない。自分の手で売れるだけで商売します」という人はよいとして、将来的に販売量を増やしていきたい、という目標のある人は、最初のうちに卸をするか、しないかを考えておいたほうが、あとで慌てなくてよいように思います。

 

 

「市場価格」とのバランスも
忘れずにチェックして!

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なんとなく、原価率の目安がわかったところで「粗利益って、いくらくらい取っていいの?」という部分に迷う人もいるのではないでしょうか。

これまでは「原価がいくらだったから、販売価格の目安はこの金額」という積み上げ式の目線で、販売価格を割り出していました。しかし、その発想はあくまで「一定の利益を出すための目安」というだけです。ここから考えるべきは「市場相場とのバランス」です。

先ほど、1500円で仕入れた商品を原価率30%で販売するためには、価格【5000円】が適当、と書きましたが、ではこのアイテムがポーチの場合と、ショルダーバッグだった場合でしたら印象はどう変わるでしょうか。

5000円のショルダーバッグ、と聞いてもそう驚きませんが、5000円のポーチはなかなかに高価です。この場合、価格に納得のいくほどのデザインや手仕事を用いたポーチでないと、なかなか売れづらい可能性があります。

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フェアトレード団体と一緒に作った、ラフ族の布を用いたポーチ。フカフカとしたクッション性があるため、アクセサリーやスマホの充電器など、傷つけたくないものを入れていただくイメージで企画しました。すべて手織りの生地を使い、内側には小さなポケットもつけて 2200円(税別)。「布のポーチに2000円は高い」と言われることもあれば「手織りでこの値段は安い」と言われることもあり、お客様の感じ方は人それぞれです。

 

ここで、粗利益を減らしても市場の相場とのバランスを考える必要を考えなければいけません。

 

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販売価格を変えたとしたら粗利益はこのように変わります。原価は変わりませんので、5000円で販売した場合だと3500円だった粗利益が、3000円の場合だと1500円、約60%下がるということになります。

これに、仮に経費を1個あたり500円入れたとすると……

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価格が5000円の場合では、3000円で販売するよりも利益が3倍出ることになります。

じゃあ、高く売った方がいいのでは?と思いますが、もし3000円にすることでお客様が買いやすさを感じ、回転が良くなって5000円の3倍の量売れるのなら、利益率はトントンということになります。

「原価から考えると、価格は2000円が望ましいけれども、1500円だったら迷わず買ってもらえると思う」というような場合は、価格を1500円に抑えてそのぶん数を多く買い付け、たくさん販売するようにする。また、これは「原価が安く入手できるけれど、他では取り扱いのない希少価値が高いアイテムなので、安売りせずに高く売ろう」など、利益率を確保できる商品があるなら、他の安くしたほうが売れそうなアイテムの価格を下げてバランスを取る。

一つひとつの商品だけでなく、取り扱いアイテム全体で赤字が出ないようにバランスを取りながら、価格を決めてゆくのが、安定してちいさなお店を続けていくためのポイントになると思います。
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「自分で作った物を販売するときは、自信がなくてつい『材料費がペイできればいいや』と、安めに値段をつけてしまうんです」というご相談を受けることがあります。気持ちはとても理解できますが、何かを生みだすには制作にかかる時間もあれば、形を決めるまでにアイデアを練る時間も必要です。

つい「自信がないから安くする」発想に寄りがちな気持ちをグッと押さえて、「どうやってお客様が満足・納得してもらう価格に完成させるか」を考えることに注力する。迷ったら信頼できる友人や仲間に、「これ、¥●●●●で販売しようと思うのだけど、どう思う?」と客観的な意見を求めるのもよいと思います。

 

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細かな刺繍があしらわれたコインケース。刺繍にかかる労力や、コインケースの形に縫製をする手間などがかかっているのを忘れてはいけません。生産者さんに負担をかけない金額で仕入れて、また次の発注につなげられる価格で販売することを忘れないようにしています。

 

私たちの取り扱いアイテムの中にも、利益率がとても低いもの、逆に利幅を設けているものが両方あります。「計算式だと3000円になってしまうけど、やはり3000円だと高いよね」というものは利益を減らしても買いやすい価格にしていますし、「たまたま安く見つけたけど、これは二度とこの値段では手に入らない」と思うようなものは、安く販売せずに一定の値段をキープして販売しています。

値段つけには毎回迷いますが、習うより慣れろ。何度も繰り返すうちに、自分たちに合ったルールがきっと見えてくるはずですよ!

次回もちいさなお店からのお話をお届けします。どうぞお楽しみに!

 


(月一第四週土曜日更新です)

 

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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!

 

【関連サイト】
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ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/