北欧本を出版したナシエさんにお聞きしました。表現したい、フリーランスで生きていきたい。そんな読者さんへヒントになることでしょう。大切なのは始めることだけ。発表する場所がなければ、路上だっていい。自分が主人公のロールプレイングゲームを楽しんじゃえ。
INTERVIEW
路上から北欧まで。絵で好きな世界を伝えたい
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好きを仕事にできる人は限られた人だけ。その説もきっと正しい。たとえば、絵を描くのが好きな人は多いけど、仕事にして食べていけるのは、全員ではありません。でも、「すべての人が自分にしかできない役割がある」これも正しい。独立するための知識、経験も、コネもなかったナシエさん。両親から応援されたわけでもありません。それでも、「絵でなら、まわりに喜んでもらうことができるし、自分らしくいられた」アイデンティティーそのものだった。今できることからはじめていく。なければないで工夫する。そうやって乗り越える。自分の役割はこれしかない。信じてはじめれば、不思議と世界が協力しだす。ナシエさんのストーリーは「表現したい」、「フリーランスで生きていきたい」そんな読者さんへヒントになることでしょう。そう、大切なのは始めることだけ。発表する場所がなければ、路上だっていい。自分が主人公のロールプレイングゲームを楽しもうではありませんか。
聞き手:深井次郎 (オーディナリー発行人 / 文筆家)
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【お話してくれた人】ナシエ さん
フリーランスのイラストレーター。大阪府出身、東京都在住。幼少時代から絵やキャラクターを描き続け、美大を卒業し、1年間のデザイン会社勤務を経て独立、フリーになり上京。書籍、雑誌、企業広告、TV番組を中心にイラストを数多く手がけ、コミックエッセイ、えほんを日々制作。こども向け絵画教室も開催。北欧好きが高じて始めた工芸品「ダーラナホース」を作るワークショップも好評。受賞歴に、村上隆主催『GEISAI-2』にてスカウト賞、ホワイトキューブPBにて『荒井良二が選んだ12人展』選出など。2015年12月、初の著書であるコミックエッセイ本「北欧が好き!」が地球の歩き方シリーズとしてダイヤモンド・ビッグ社より発売された。 |
PEOPLE(ピープル)とは、オーディナリー周辺の「好きを活かして自分らしく生きる人」たち。彼らがどのようにやりたいことを見つけていったのか。今の自分を形づくった「人生の転機」について、深井次郎(オーディナリー発行人)と語るコーナーです。
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アーティストデビューは大阪の路上、天王寺陸橋の上
「描くことで自分の存在を確かめることができた」
深井次郎 ナシエさんはフリーのイラストレーターとして、お仕事ではすでに本には多く関わられていますが、ご自身の単著となると今回の「北欧が好き!」が初ですよね。出版おめでとうございます。 ナシエさんの絵は、やさしくかわいい、元気な作風ですよね。
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ナシエ そうですね、主に女性、子どもやママ向けの仕事が多いです。書籍やウェブサイト、広告などのイラスト全般を手掛けています。
深井 前にぼくらオーディナリーのキッズワークショップ(主催:世田谷ものづくり学校)でも先生をやっていただきましたよね。絵本をつくるテーマでしたが、面白かったな。ご自分でも子ども絵画教室をしているんでしょう?
ナシエ 友人の子どもたちのために始めたんですが、小規模な絵画教室をやっています。作品づくりを通して子どもの成長が見られるのが楽しくて。子どもが作るものってアートなんですよ、教えているけれど、逆に学んでいる部分もあり面白いんです。ずっとイラストの仕事だけをしていると、引きこもりじゃないけど、一人で家にいるから感覚が偏ってしまう。生活がイラストだけにならないように、外に出て人に会ったり、月一で子どもたちに教えるなどのアウトプットを心がけています。時々そうやってリセットすることが自分としては必要なんです。
深井 イラストレーターになりたいと思ったのは、子ども時代からですか。
ナシエ 小さいときから絵ばっかり描いていて、イラストレーターになりたい「自分はなる」と思いこんでいました。それ以外のことはできないし。レベルが高いとか低いとかはあるでしょうけど、絵を描いたり、表現したりする仕事が自分の天性には一番合っているんだと思います。学校でも先生や友達が褒めてくれたり、他のクラスの全然しらない子が上履きに絵を描いて欲しいと言ってきたり。絵を描くことで、自分の存在を認めてもらえていたし、自分でも確かめることができたんです。だから迷わず美大へ進みました。親も絵描きになるとは思っていなかったでしょうけれど、結婚する前に好きなことでもしたら?という感じで特に反対はされませんでした。でも、仕事として本気で絵描きで食べていくと言ったら、ウソでしょ、あなたやめなさい、と。
深井 親は心配しますよね。でも、ナシエさんは絵が天職なのかな、いいですね。好きを活かして、自分にしかできない仕事をすることはオーディナリーの哲学ですから。ナシエさんは一人で仕事をしてきたイメージがありますけど、ずっとフリーランスですか。
ナシエ 実は一年間会社員やりました。大学を卒業するとき一応就職しなくちゃなという感じで、みんなするから私もしようみたいな。デザイン会社に就職して、一年で辞めました。
深井 辞めようと思ったのは、どうしてですか。デザイン会社なら絵には関われそうですけど。どんなことがきっかけで仕事を辞めちゃったんだろう。
ナシエ デザイン会社でしたけれど、新人はイラストを描かせてもらえるわけじゃないし、そこの会社では電化製品の説明書を作るような仕事をしていたんですけれど、1年目の人も3年目の人も同じような仕事をしていて。3年もこの仕事するんだったら何か自分のやりたいことをしたい! と思ってしまって。辞めるきっかけは、たまたま見に行ったギャラリーで出会ったアーティストの言葉です。その人は路上で描いた絵を売っていて、誰に怒られることもなく、自由に好きなように絵を描いて暮らしているんです。その人に「やりたいことやったらいいやん」って言われて、はっとしました。それからすぐ会社を辞める準備をして、Mac買って、以来ずっとフリーランスです。
深井 それでナシエさんも路上アーティストに。
ナシエ 大阪の天王寺の陸橋上で。ポストカード作ったり、似顔絵描いたり。そのころ、心斎橋にはチョコチョコそういう人がいたけど、まだアーティストブームははしりで、天王寺界隈で路上画家やっている人は当時はまだあまりいなくて。会社を辞めて、自活するために貯金をはたいて一人暮らしをスタート。バイトを始めましたが、貧乏で、ほぼゼロ円スタートでしたけど、楽しかったし、充実していました。
深井 一文無しエピソード、ぼくもですけど若くして独立した人はみんな通ってますよね。まわりは「そんなひもじい思いしてまで、よく耐えられるね」って言うけど、本人は苦労と思ってない。ぼくも希望の方が大きかったなぁ。
ナシエ 不思議なことに、みんな助けてくれるんですよね。困ってるとか、何も言ってないのに。地元の友だちが、家財道具をくれたり、別の友達は、その子のお母さんのお弁当や手編みのセーターを持ってきてくれたことがありました。デザイン会社に勤めている美大時代の友達が会社の社長さんに私のことを話したらしく、その社長さんからホットプレートにトースター、おまけにパン3斤を頂いたことがありました。縁もゆかりもない方なのに、不思議でしょうがなかったです。私は後先考えず、無我夢中でやっていたんですが、人は応援してくれるんだなって、他人の温かい気持ちにずいぶん助けてもらいました。ゼロからの自分があるからこそ、人の優しさに対する感謝が身にしみるというか、今回の本でも北欧の人たちの優しさを描きたいと思ったのは、そこに繋がっているのかもしれません。
初めて自分の絵を並べるときは恥ずかしかったけれど、やってみると人が寄ってくれて、作品を不特定多数の人に見てもらえるのが嬉しかったな。会社にいる時には味わったことのない喜びでした。ギャラリーを借りればお金がいりますしね。今は路上でやってはいけない規定があるかもしれませんが、あの時代、あの頃の私ができる最善の方法でした。
深井 天職への道を歩みはじめた途端、不思議と助けてくれる人が現れたり、ありえない幸運が次々起こるようになると言います。まるで導かれるように。もちろんナシエさんの人柄の魅力もあるのでしょうけど、本気で絵で生きていこうという覚悟がまわりの人にも伝わったんですね。
ナシエ 覚悟なんて、自分では全然そうは思っていませんし、出来ていたのかもわからないですけど、本当に大変な毎日でしたが、すごく充実してて。自分が主人公のロールプレイングゲームをしてるみたいでした。路上で知り合った人と一緒に3人展をやったり、人が他の人を紹介してくれたりして人脈が広がりました。それから誰かの展覧会があると、会場で有力そうな人をつかまえて、作品を見せたりもしました。「一緒に二次会もおいで!」と誘って頂いたり。今思うと、その大物な人たちも同じような経験をしているからか、可愛がってくれたんだなぁと。無知という若い時代だからこそできたことかもしれませんが。この頃にはイラストレーターとしてのメディアの仕事もぼちぼち入ってくるようになりました。
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故郷を離れ腕一本、東京で仕事をはじめる
イラストレーターはどうやって仕事をもらうの?
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深井 フリーランスになってから、東京に行こうと思ったきっかけは、どんなことでした?
ナシエ 大阪時代に「Hanako WEST」とか「関西ウォーカー」の仕事をしていましたが、あるとき東京の出版社の「MOCA」というキャラクター系の雑誌でイラストの連載が始まったんです。それから時々行き来するようになって、クリスマスパーティや忘年会に顔を出したりすると、友達もできたりして、引っ越して来ればいいのにって言われて、上京を決めました。
深井 生まれた土地を初めて離れて、東京の暮らしはどうでした。この10年は?
ナシエ 東京は大都会なぶん、人があまりに多く、慣れなかったですね。大阪も第二の都市で大きいと思っていたのですが、規模が違っていました。駅員さんの対応が冷たいというか、忙しいから余裕がないんですよね。しょうがないんですが。大阪は過干渉な人が多かったぶん、東京に来た最初の頃は辛かったです。20代後半だったんですけど、少しウツっぽくなりました。
深井 新しい土地で仕事を始めるのは大変ですよね、具体的にはどんな営業をしたんですか? イラストレーターとかライターなどのフリーランスでは、「どうやって仕事を始めたらいいかわからない」という声が多いです。ナシエさんは突破力があるんだと思いますが、やはり上京当初は持ち込み営業をしましたか。ヒントになりそうなエピソードはありますか。
ナシエ そうですね、知り合いができるとそれなりに仕事が回り始めるんですが、軌道に乗るまでは大変ですね。イラストの場合、見てもらわないと始まらないので、まずは営業ですね。自分が掲載されたい雑誌を見つけたら、編集部に電話して、大概「忙しいから会えないけど、資料を送って」と言われるので、ポートフォリオを送ったりして。
上京したては、手あたり次第に目についた媒体にファイルを送っていたんですが、「なんでウチなの? 」と言われることもあって、自分の作風に合ったところにいかなくちゃいけないんだ。と思うようになりました。とりあえず営業と思ったけれど、ターゲットをしぼらなくちゃと思いだして。苦手意識があるかもしれませんが、持ち込みで編集さんに会いに行くと、会社の様子もわかるし、制作現場を見られて勉強になるし、面白い経験だと思います。
そんなこんなで仕事が回るようになってくると、プロとして相手のニーズを汲んで表現をしなくちゃいけない。お金もらっているのだから、相手を意識して、クライアントと一緒に作る感覚が大事だなと思えてきて、それから仕事にも広がりが出てきたと思います。
深井 この10年、東京での仕事はお仕事が途切れたりもせず順調だったんですね。挫折とかなさそうだ。
ナシエ いえ、挫折ばっかりですよ。やりたいことがありすぎておっつかないですし。だから毎年、目標を何個か書き出して達成しているかしていないかチェックしています。今年(2015年)の始めに「本を出す」って書いたけど、それはギリギリ間に合いましたね。
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北欧本ができるまで
いざ、企画書もって出版社へ
深井 初めての本、これは北欧の旅についてですが、どんな経緯かお聞きします。本にも書いてありましたが、北欧に惹かれた最初のきっかけは写真でしたね。
ナシエ そう、フィンランドの湖と森の写真を見たことがきっかけ。なんて神秘的なんだろうって心を奪われてしまって、それからまずフィンランドについて調べ始めました。森や湖だけではなく、文化や歴史、ライフスタイルをいろいろ知りたくて。それから北欧旅行にも行って、北欧全般に興味をもつようになりました。
深井 この企画は依頼されたのですか、持ち込みですか。どうやって版元のダイヤモンド・ビッグ社に出会いましたか。
ナシエ 持ち込みました。イラストの仕事でたまたまダイヤモンド社の仕事をしていたんですが、その本の社内デザイナーの方が私の個展に来てくれたのがご縁でした。たまたまその人がフィンランド好きの人で、系列会社「地球の歩き方」シリーズで出しているフィンランドの本をくださったんです。その頃は北欧ブーム前で、フィンランド単体で出してる出版社ってほぼなかったので、頂いた時はテンションが上がりました。フィンランドのデザインの魅力を全面に出した本で、この出版社、わかってるやん!って。何目線だって話ですけど(笑)。それがきっかけです。「地球の歩き方」を出しているダイヤモンド・ビック社から出したいと思い、コンタクトを取りました。
深井 本は提案した当初のイメージ通りに仕上がりましたか?
ナシエ 絵とかデザインの上でも100%思った通りにできています。編集さん、デザイナーさん、印刷会社の方に感謝感謝です! 中のページの素材(紙質)まで考えが及びませんでしたが、合うもの選んでくださって、ぴったりで。「こういうのを作りたい! 」と頭の中でずっと描いてた通りにできて、とても満足しています。絵は本当に何も言われなかったので、自由にのびのびとやりたいように描けました。
深井 どういうプロセスですすめましたか、企画が出版会議で通って、そのあとはまずネーム(ストーリーの下書き、ラフ画)でしょうか。
ナシエ ネームは内容が大変で、編集者のOKが出るまでストーリー構成をしなくちゃいけないでしょう。ふだんイラストは描いても文章は書かないから、絵は描けるのに何で!? と、はがゆくて。イラストレーターとしては、仕事が速い方だけれど、最初の本なので勝手もわからず、無駄な手間ひまがたくさんあったと思います。スケジュールが全然押してました。
最初はイラストの本もいいかなと思ったけれど、漫画にすれば、情景が伝わりやすいなぁと思い、挑戦してみました。時間の流れや、旅をしている時の気持ちも一緒に知ってもらうには、漫画の方がより伝わると思ったんです。
深井 旅ガイドだと情報の検証とか、写真を集めるとか、全部自分でやったんですか。
ナシエ ひと仕事でした。過去の旅の写真や記録を掘り起こして整理して… すごく大変でした。制作期間は他の仕事をすべてストップして、本当にこれ一本に集中して取り組みました。仕上がってみると、旅ガイドとして実用的な情報に加え、漫画風のストーリーもありつつ、ページページを1つのイラストとして成立させようという欲張りなことをしていたんだなってわかりました。
深井 初めての本ですから、気合いと思い入れは相当ですよね。1冊目は人生で1回しかないし。実際に本屋に平積みになったのを見てどうですか。
ナシエ イラストレーターとして初めて掲載された雑誌が本屋に並んだときの気持ちを思い出しました。その時はちょっとしたカットだったけど、嬉しくて、そばを通る人に「これ私が描いたんです」って言いたいくらいでした。この本が出て、その頃の初々しい気持ちが蘇りました。
深井 ぼくも初めての本のことは忘れられません。本屋に様子を見に行って、買ってほしいって陰からみているけど買わない。手に取る人はいて、「頼む、そのままレジに持っていってくれ」と念じるんだけど、また戻してしまうんですよ。ぼくの本を購入してくれた人は、1回だけ目撃できたことがあります。その人を本屋の出口までずっと見守っていたんですけど、感動とドキドキと、話しかけたくなる、へんな興奮がありました。書店をチェックして、平積みが減らないのを毎日みていて10冊が9冊になったのは一週間後でした。たったひとりに本を届けるのがこれほどに大変なことなのかと。でもそれを経験して、出版社に任せきりじゃなくて、著者自身が全力で広めるために動かなきゃと思った。
ナシエ 描き終えて終わりじゃないですよね。がんばろう。
深井 これだけ密度の高いものをつくった直後はぐったりで、何もしたくないって感じでしょうけど。
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ひとつ目標がかなっても、描きたいことはたくさん
トーベ・ヤンソンが好き、アンデルセンが好き
北欧クリエイター作品に共通するものが好き!
深井 今後はどういう風に仕事を展開する計画がありますか。
ナシエ 北欧が好きなので、それは続けて行きたいです。とはいえ、日本には北欧の知識をたくさん持ったプロの方がいらっしゃいますし、私ごときが… と思いますが、イラストレーターである自分目線での北欧を自分なりに表現できたら嬉しいなと思っています。やっぱり絵を通じて楽しく人に伝えられることが私の一番の喜びなので。
深井 情報の新鮮さや詳しさでいえば、たとえば現地に住んでいる人とか研究者のほうが得意ですよね。でも、ナシエさんにはイラストと言葉という強みもあるし、教えることも上手だし、ナシエさんにしかできない役割があります。今回の本は、旅情報としても親切だと思いますが、北欧の表現者について触れているのも、クリエイターであるナシエさんの強みですね。旅好きだけでなく、クリエイターたちにも響く本になっているのではないでしょうか。
ナシエ 北欧好きな人みんなに見てもらいたいんですけど、ディープなファンだけではなく、「最近北欧って流行ってるけど、知らない」みたいな方にも興味をもってもらいたいと思っています。北欧は雑貨やデザイン、あとは自然がやはり魅力なんですが、その背景を探っていくと本当に楽しくて。歴史や地理的な背景、自然が豊かで厳しい場所だからこそ、インスパイヤされ、創作につながる。北欧の自然が好きだからこそ、北欧のクリエイターの作品に共通するものが好きというか。
自分もクリエイターなので、自分に重ねて、というとおこがましいですが、ジーンと深く感じれることも多くて。クリエイターの生き方、表現もクローズアップしているのはそのためなんです。例えばデンマークなら、私はアンデルセンが好きで、彼の紆余曲折な人生は、個人的にも思い入れがあって、すごく重ねていましたね。まだまだ描くことはたくさんあります。簡潔で読みやすくして、いろんな事をみなさんにお届けできたらと思っています。
深井 まさに「北欧が好き!」。直球のタイトルどおり、好きな気持ちが伝わってきます。好きなことがあって、それを大声で「好き!」って言えるのは幸せなこと。いちおう仕事はしていても自分は何が好きなのかわからない、夢中になれるものを見つけたいという声もよく聞きますから。好きなことで本を出したナシエさんの生き方に共感したり、憧れる人は多いと思います。そこまで北欧が好きになった理由はなんですか。
ナシエ ひと口では言えませんが、まずはフィンランドですね。昔からトーベ・ヤンソンの絵が好きでした。かわいいだけじゃなくて、光と影があり、人の心の深い部分を感じるというか。子どもが見たら少し怖くミステリアスだと思いますよね。北欧のデザインは、地味で簡素でシンプルであっても、そこに至るまでに深い考察があり、研ぎ澄まされているんです。洗練というのはこういうことだと思います。
他国に支配されてきた歴史的背景、アイデンティティが抑圧されている国の人は表現に抜きんでてくるものなのでしょうか。万博でデザイン大国として世界で一躍認められたのは比較的最近のことですが、それだけに国策として表現に重きを置いている。医者をやめてクリエイターになる人もいるし、アーティストが尊敬される凄い国。
芸術家だけじゃなく、自分たちのライフスタイルをみんなが大事にしている。夏なんて2か月も電気もないようなサマーハウスで暮らして、自然と向き合ったりするんです。東京にいたら忙しくて忘れそうになりますよね…。
厳しいけれど圧倒的な自然も力がありますね。北欧の芸術はフィヨルドとか森なくてしてありえない、自然ありきでモノづくりをしているところも魅力的です。みんな自国のものを愛していて、何年も代々大事に実際に使っているし、伝統に重きをおいてるのも感じます。
知れば知るほどのめりこんでしまいますね。これからも好きになるスパイラルが続いていくんでしょう。スウェーデンの伝統工芸品のダーラナホースのワークショップも行っていて、ホームページのアクセス数もすごく、いろんな場所でさせて頂いていてとても嬉しいです。壁にぶつかることもあると思いますが、これからもひとつひとつ目標をクリアしながら、頑張っていきます!
深井 好きなことを話しているときに、人はもっとも輝きます。そして、まわりの人にもそれを伝播させる。良いふうにころがっていきますよ。聞いてるみんな(編集部)も、ますます北欧、掘り下げたくなってきてるんじゃないかな。やっぱり、好きなことをやっている人と話すと、そのエネルギーに感化されて、ぼくも自分のテーマをちゃんとやらなきゃ、って気になります。また何か、いっしょにコラボしましょうね。
構成と文 : モトカワマリコ( オーディナリー / タコショウカイ )
取材日 : 2015.12.12