TOOLS 123 自分の力を思い出す居場所のつくり方 / くりはら せいこ(場づくりセラピスト)

くりはらせいこ長年、無力感や居場所のなさを抱えて生きてきた人間でしたが、そこから一歩抜け出せたのは、15年前に勇気をふりしぼって自分で「場」を作ったことからでした。試行錯誤しながらその一歩を踏み出したことで、「たとえ小さくても、自分の足元から世界に影響を与えていけるのだ」
自分の力を思い出す居場所のつくり方
くりはら せいこ ( 場づくりセラピスト )


自由に生きるために 
この指とまれを始めよう

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「自分は無力だ… 」

「世界は自分とは無関係なところで動いていて、自分はこの世界に対して砂粒ほどの影響力もない… 」

そんな風に感じたことはありませんか。

もしそう思っているなら、自分がほしいと思う「場」、この世界にあったらいいなと思う「場」を、どんなに小さくてもいいから作ってみることをおすすめします。

かくいう私自身が、長年、無力感や居場所のなさを抱えて生きてきた人間でしたが、そこから一歩抜け出せたのは、15年前に勇気をふりしぼって自分で「場」を作ったことからでした。

試行錯誤しながらその一歩を踏み出したことで、

「たとえ小さくても、自分の足元から世界に影響を与えていけるのだ」

そんな手応えを覚えました。その後、今に至るまで数々の「場」を作り続けています。

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「場」とは何か?

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そもそも「場」とは、なんなのでしょうか。

「場」とは、「何らかの目的によって集まった人と人とで作られた関係性や空間」みたいな意味になるのでしょうか。夫婦や家族や仲間や組織も「場」だし、友達同士の集まりやお茶会やワークショップや講座なども「場」です。

そして「場づくり」とは、主催者の思いを中心にして、つながりや集まりやコミュニティを形成すること。簡単に言うと、「この指とーまれ!」と手をあげた人のまわりに、共感する人たちが集まるイメージです。

最近では「ファシリテーター」という、会議やミーティングやワークショップなどの場において、中立的な立場で、合意形成や相互理解を促進するような場づくりの専門家も登場しています。

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 最初に「場」を作ろうと思ったきっかけとは?

 

私が最初に「場」を作ったのは15年前。作ったのは「自分の生きづらさについて語るグループ」でした。

当時の私は、本当に生きづらかった! でもそういう気持ちを本音で語れる「場」がなかったんです。

その頃フリーライターをやっていて、そこそこ仕事はあったものの、「結果を出さないと自分の居場所がなくなるんじゃないか」という焦りの中で仕事をしていました。また、同じ頃に参加していたセラピーグループで、リストカットをしたり人間関係で悩んでいる人たちと出会っていて、追い込まれる前に人と人とがつながって助け合える「つながり」を作りたいと思い始めたのが最初だったと記憶しています。

自分の生きづらさを語れる「場」を作ろう!!

そう思いました。でも、どうしたらそういう「場」が作れるのか、まったくわかりません。

それまで私は、依頼された原稿を、期待通りに完成させるのが得意なライターでした。つまり、自分の書きたいことを書くのではなく、求められたことをパーフェクトにこなす。それが一番得意でした。

それまでの人生もそうでした。期待されたことや指示されたことを、自分なりの最大のパフォーマンスでこなす人生。(それが限界に来ていたのが、この時期だったのかもしれないのですが)

文章を書くのは好きだったはずなのに、依頼されないと何を書きたいのかわからない、それどころかそもそも何をやりたいのかもわからない…。それがその時点での私の状態でした。

それなのに、ある時、天啓が降りてきたかのように、自分の生きづらさについて自由に語れる「場」を作ろうと思っちゃったんです。

やろう!と思った。
だけど、その次に来た気持ちが「こわいよー!」でした。

人に頼まれてやることなら自分には責任はありません。あの人に言われたからやったんだよ、と言える。でも今回はそうじゃないんです。

・誰からも頼まれていない。
・お金にもならない。
・もしかしたら誰からも必要とされていないかもしれない。
・まわりに何か言われるかもしれない…。

私の中の私がささやきます。

「そんなことやって何になるの? ムダだよ。いったい何を変えたいの? 何も変わらないし。他にやることあるんじゃない? 」

などなどなど。

そうやって次から次へと湧いてくる声を振り払って、それでもやろうと思ったのは、何よりも私がそういう「場」を必要としていたからなんです。

人に言えないままにしてある自分の無力感や生きづらさを、誰かと話す場がほしい! それを隠したままでは、もうやっていけない。(そこまで追い込まれていました)

もし地球上にそれがないなら、私がそれを作る!
なぜなら、誰よりも私がそれを求めているから。

 

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 たった一枚のチラシから場づくりが始まった

 

最初にやったのはチラシ作りでした。
A4ペラ、一枚のチラシ。

自分の中にある「生きづらさ」について話しませんか、みたいな呼びかけ文で始まるチラシを作りました。

「ここは安全な場で、何を言っても否定も批判も助言もしません。ただ自分の言いたいことを言い、黙ってそれを聞く。そこで話されたことは外に持ち出すことはありません。本音で話して大丈夫。あなたの中にある本当の気持ちが、人と人とをつなげ、橋をかけ、この世界につながりを作っていきます」

みたいな内容だったかと思います。

こんな、たった一枚のチラシを書くのに、確か1か月くらいかかりました。フリーライターで、どちらかというと書くのが速かった私が。

人から依頼されてやるのと、自分の意思で自分の主体で自分の責任で何かをやるのは、全く違っているんです。

自分の力と責任で動くのは、本当にこわい。おそるおそるでもその一歩を踏み出したのが、まさにこの時でした。

書きあがった原稿を目の前に置いて、しばらく呆然としていたような記憶があります。無から、何もないところから、何かを始めようとした記念碑を見るような気持ちで眺めていたのかもしれません。

その後もとんとん拍子にいったわけではありません。チラシは書いたものの、人が集まれる会場をおさえてなかった! 地域の交流センターなどで借りられるところを探して、チラシを置いてくれるところを探して。

そうやってチラシを置いてもらって、実際におひとりから連絡が来た時には震えました。この方と一緒に始めたのが、正真正銘の私の場づくりのスタートでした。

 

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 小さな一歩を踏み出した、ひとりひとりの勇気が世界を変えていく

 

あの一歩から15年経ちます。この15年の間で、本当にさまざまな場を作りました。

古民家を借りてイベントをやったり、数十人集まって対話する場を作ったり、読書会や食事会や自分が話すお話会やワークショップや、数えきれないくらい。15年前の私には全く想像できないくらい、たくさんの場を作りました。

「笑いヨガ」のワークショップ

「笑いヨガ」のワークショップ

 

最初の一歩こそは一番たいへんだったけれど、踏み出すとあとはスムーズでした。行動したことで足りないことが見えてくるんです。「場」に参加している人が心地よくいられるためにはどうしたらいいかと考え始めたり、自分はどういう「場」を作りたいのか考えたり。

そして自分の足りない部分がわかるから勉強に行って、勉強に行った先でいろんな人と知り合って、そこで気の合う人たちと出会って一緒に「場」を作ったり。

そんな風にして、あとは勝手に流れていきました。

いま、いろいろな場を作っていると、「せいこさんだからできるんだ」とか、「自分にはできない」とか、そのような声を時々いただきます。

そう。15年前の私も、そう思っていたんです。自分で何か始めている人、新しいことをやっている人を、自分とはまったく別の世界の、特別な人だと思っていました。

でも、私を変えたのは、やろうという気持ちと小さな一歩と一枚のチラシだけでした。それが私をここまで連れて来たんです。

人に与えられたものを受け取るだけの人生と、自分から自分がほしいものを作り出す人生は雲泥の差があるほど違う。けれど、それは特別な人だからできるということじゃないんです。

私のセラピーには、「何かを始めたいけれどもどうしていいかわからない」とか「自分には人に提供できるものなどない」とかおっしゃる方がよくいらっしゃいます。

そういう方に、私は時々こう言います。

「あなたがほしいと思っていて、でもまだこの世界にないものはなんですか。それに気づいたとしたら、それをやれるのはあなたしかいないかもしれませんよ」と。

友達をひとり呼んで、自分の言葉を発することからでも、「場」は始められるのです。

「この指とーまれ!」と手をあげたひとりひとりが、この世界を変えていっているのかもしれません。その人は何も特別な力があるわけではなく、本当に小さな一歩を、今いるところで、足元から始めた人なのかもしれません。

そして、あなたにもその力はある。
その力を思い出すのに必要なのは、小さな一歩を踏み出す勇気だけなんです。

 

場をつくるには?
1.  欲しい場を想像する
2. 呼びかけ文を書く
3. 最少人数から始める

 

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くりはらせいこ

くりはらせいこ

くりはら せいこ 場づくりセラピスト。慶應義塾大学文学部卒業後、コピーライターを経てフリーライターに。アダルトチルドレンという言葉を日本に広めた精神分析医・齋藤学氏と出会い、精神療法を学びつつ、共著で『ヘンでいい。』(大月書店)を執筆。15年前から「場づくり」を始め、10年前の実父の死をきっかけにしてファシリテーションを学び、「死を考え学ぶ会」など色々な場を立ち上げる。ここ数年は、ひとりひとりに自分の力を思い出してもらうセラピーを提供しつつ、笑いで人と人がつながるための笑いヨガクラブなども主催している。