PUBLISHERS 06 佐久間裕美子 「なぜあえてZINE(Sakumag Zine VOL.1)をつくるのか」

NY在住ライター佐久間裕美子さんに聞いた。 商業出版でのヒット作も持つ著者が、なぜあえてZINEをつくるのか


「商業出版のヒット作を持つ著者が、なぜあえてZINEをつくるのか」NY在住ライター佐久間裕美子さんに聞いた。
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ぼくたちオーディナリーも出店した本好きのためのマーケット「TORANOMON BOOK PARADISE」で、急遽、「佐久間さんが新作ZINE(Sakumag Zine Vol.1を販売する」というニュースが入った。NY在住の彼女と話せるのは今がチャンスとばかりに、自分たち出店ブースのお世話もそこそこに、ZINEを買い求め、突撃インタビューをさせてもらった。  

                          インタビューと文:深井次郎

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「ウェブに掲載? いいですよー、ぜひ載せてください」

アポなしにもかかわらず、気さくな大きな笑顔で快諾してくれた。直前にSNSで告知しただけなのに、次々とお客さんがやってくる。たった2時間の滞在時間を独占してはいけないので、気をくばりながら、隙間を狙ってお聞きした。過去のパブリッシャー記事よりも、内容が簡潔なのは、こういう事情によるものです。

佐久間さんの存在を知ったのは、「ヒップな生活革命」が出版された2014年。ぼくたちが2009年から運営してきた自由大学も、言葉にするなら「ヒップな」空気をキャッチしようとしてきた。1年の半分を旅して過ごすクロテルこと黒崎輝男さん(自由大学ファウンダー)のアンテナから降りてくるアイデアを実行、啓蒙するのは立ち上げメンバーのぼくたちの仕事で。ポートランドで起きている変化、つまり「大量生産からDIYへ」「もう高級ブランドはダサい」「車より自転車」という価値観など、新しい時代の流れを、おカタい大企業の偉い方々に説明するときには難儀していた。

だから「ヒップな生活革命」を本屋で見つけた時は、「待ってました」と思った。ポートランドカルチャーがこれ以上になくまとまっていてコンパクトに理解できたからだ。少し話しても伝わらない時は「佐久間さんのヒップな本を読んでください」と勧めてきた。そんな背景もあり、NYからの発信に興味を持ってきたのだ。

さて、時間のないインタビュー時に心がけているのは、聞きたいことを1つに絞ること。今回は「あえてZINEという手段を選んだ理由」を聞いてみたい。

ニューヨークを拠点に発信を続けている、佐久間裕美子さん。イェール大学大学院を修了後、アメリカ生活は20年を超えている。キャリアの始まりは新聞社のニューヨーク支局で、出版社、通信社勤務を経てフリーライターとして独立。『BRUTUS(ブルータス)』など数々の雑誌で記事を書くかたわら、自ら創刊者としてデジタルのiPadマガジンも立ち上げたこともある。前述したように2014年には著書『ヒップな生活革命』でポートランドカルチャーを日本に紹介し、話題になった。17年の『ピンヒールははかない』は、ニューヨークで生きる自分や周囲の人間関係、シングルとして暮らす気持ちを、細かく描いたエッセイだ。これら商業出版でのヒット作も持ち、ブログやSNSなどウェブでも積極的に発信している。

マスからパーソナルまで「文章メディアのほぼすべて」と言ってもいい広領域を経験してきた今、このたび500部のZINE(https://www.sakumag.com/our-story/)を販売することにした。64ページ、値段は1500円。

ヒット実績のある著者なら、書きたい企画があれば、商業出版でいかようにも発表できるはず。雑誌の連載などもあるし、発表の場はいくらでもあるはずだ。にもかかわらず、500部しか刷らない「あえてのZINE」は、どういう考えがあったのか。(ZINEで500部は十分多いと思うけど、発信力のある彼女にとっては少ない印象)

NY在住ライター佐久間裕美子さんに聞いた。 商業出版でのヒット作も持つ著者が、なぜあえてZINEをつくるのか

虎ノ門ヒルズでのブックマーケット中に、新作ZINEを販売。2時間の滞在中、多くの読者、友人知人が訪れた

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なぜ、あえてZINEなのでしょう?

 

「何冊かやってきて、現在進行中の本もありますが、商業出版はしっかりと作りこんだクオリティーの本を、全国、多くの人たちに届けられる喜びがあります。その反面、出版社、流通、本屋など多くを経由するので、読者と直接つながるチャンスが少ない。それと、制作期間が1年くらいかかりますよね。商業出版は長距離走で、なかなか大変なのです。

ZINEなら、いまの熱をすぐに閉じ込めて印刷すれば、すぐに読者に手渡すことができる。短距離走者なので、短期でも作れるZINEにもトライしてみました。実際にやってみて、楽しかったですよ」

過去のインタビュー記事では、こんな発言をしている。

「メディアやプラットフォームがどんどん変わっていくなかで、自分が書いたものを読んでくれる人と直接繋がれないと脆いという気もしている 。直接どういう人たちと繋がって、どういう人たちにものを言っていくか、ということは意識しています」

直接つながれるのは強い。SNSでフォロワーの数字を増やしても、流行りのプラットフォームが廃れたら、つながりが切れてしまうことはある。会って話したり、顔の見える人間同士、アナログのつながりの価値は高まっているように感じる。ZINEは本よりも手紙に近いのかもしれない。

「日々、たくさんのことを感じたり考えたりすることがありますよね。変ないい方ですが、書いてしまわないと便秘のようになってしまうんです。吐き出さないと、溜まっていくものがあって…」

商業出版では「広く売れる企画」が当然求められる。売上を目指すとすると、ニッチなテーマや実験的なチャレンジは、「またいつかの機会に」とこぼれ落ちてしまいがちだ。けれど、「言いたいこと」は消えずに日々たまる。

SNSで言えばいいかもしれない。それでもフォロワーが何千人にもなったら、立派な公だ。シェアされて、知らない人までどんどん拡散することもある。

言わずにはいられないけれど、不特定多数相手に公の場でスピーチするほど「お行儀の良い内容」でもない。友人の前だから言えること。いま熱のあるうちに言っておきたいこと。それは、誰でもあるのではないだろうか。便秘になる前に流していけば、循環が良くなり、知的生産のサイクルがぐるぐる活性化するように思う。

商業出版の本のフォーマットは、だいたい200ページ前後。サイズも厚みもだいたい決まっている。内容によっては、200ページも書かなくても済んでしまうこともあるだろう。本当は50ページで十分言い切れるのに、200ページまでわざわざ膨らませてるんじゃないの?と感じてしまう本もある。50ページで言い切れる本は、50ページで出版できたらいいのに。その方が、読者の時間を無駄にしない。

商業出版だと「これが全国の本屋に並ぶ…」と力んでしまい、いい子ぶった内容になってしまう著者も多いように思う。ZINEなら「友人やフォロワーのために」と顔を浮かべて、手紙の延長で書ける。ほぼクローズの場だし、どうしたって価値観の近い人にしか届かないから、無駄な炎上の心配だってない。

A面B面になっていて、こちらは赤い面。1度目の旅で起きたことが書いてある。

A面B面になっていて、こちらは赤い面。

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ZINEの内容は、どんなものにしましたか?

 

「今回は、あまりにバンコクの旅の体験が強烈だったので、文章に残したいと思いました。いろんな場所を旅してきたけど、これだけ何かを感じさせてくれた場所はなかなか出会わない」

世界一刺激的な街と言われるニューヨークに住み、世界中さまざまな場所を旅してきた彼女が、いま「バンコク」というのも意外で興味深かった。

海外旅行の人気ランキングでも常連のタイ。「初めて海外に行くなら、まずバンコクとか安全でいいんじゃない?」とぼくも学生時代勧められたことがある。それくらいメジャーな国だけど、知ってるようで知らないのがタイなのだ。

「バンコクに来いよ」

ある日、佐久間さんは友人のデザイナーに誘われ、呼ばれるままにチケットを取った。友人づたいに、人気のヒップホップアーティストやテレビ・パーソナリティー、100万人以上フォロワーがいるクリエイターと出会い、次々に未知の世界へ潜入していく。ぼくらがちょっと観光に行っただけでは到底知りえないことだ。

「いま、バンコクが熱い」

世界中からバンコクにエネルギーのあるクリエイターが集まっている。彼らと何を話し、何を感じ、何を見たのかを記したのがこのZINEだ。

商業出版だったら校正が入っていたであろう誤字だってある。それが逆に、ライブで歌詞を間違える歌手みたいで、より「ナマ」を感じた。いま熱いうちに書きのこしたい衝動が伝わり、ワクワクする。

著書『ヒップな生活革命』では、客観的に事例をレポートしたり、冷静に考察しているけど、このZINEはもっと主観的。

「パーソナルなものだから、偏ってます」

こう本文中にも書いている。

「これは私が2018年に2度にわたってバンコクを訪れた2回の旅を、きわめて主観的に書いた紀行文である。出会った人々が差し示す場所を訪れ、指し示してくれた人に会い、彼らとした会話の記録である。だから当然、偏っている。だって旅はパーソナルなものだから」

こちらが青い面。2度目の旅を綴った。

こちらが青い面。2度目の旅を綴った。

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印刷部数は、どう決めましたか?

 

 

「500部か1000部かで迷いました。なるべく手売りにこだわりたくて、そうすると1000部は多いかも、と」

在庫があまりに重いと、「無料でもバンバンあげてしまって、軽くなりたい」という気持ちになる。そういうのは嫌だった、と言う。無理せず届けられる範囲に限定した。見渡すところ、だいたい500円から1000円が相場のZINEとしては、少し高めの1500円の値付けだが、パーソナルなものだから、本当に欲しい人に買ってもらえればいいのだ。

実際、販売の手応えはどうだろう?

「感覚としては、500部完売は見えていて、これなら1000部刷っておけば良かったかも、という感じ。旅費や労力を考えると利益は出ないけど、やって良かったです」

ZINEの場合、デザインや製本もDIYで自分でやる人が多いが

「デザインは、前から何か一緒にやりたくてたまらなかった長嶋りかこさんにお願いしました。出産直前のギリギリのタイミングなのに快く引き受けてくださいました」

日本を代表するグラフィックデザイナーの長嶋りかこさんがZINEをデザインするとこうなるのか、勉強になった。製本方法は、中ミシン綴じ。糸をミシンで縫って綴じている。

中綴じミシン縫い。味がある

中綴じミシン縫い。味がある

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次回作はあるのでしょうか?

 

「次もやりますよ。今回Sakumag Zine VOL.1と表記したので、VOL.2も出ます。このZINEは旅をテーマに、毎回2つのテーマでシリーズ化します。3冊くらいできたら全国まわりたいなあ」

売り方は?

「基本的に、手売りにこだわって。あとは、友達の店においてもらっています。今のところ、東京だとToriba Coffee(11/10まで)FLYING BOOKSSPBS、鹿児島の OWL、金沢のPhaeton、今後増えます

商業出版もZINEも両方いいところがあるので、これからも両方やっていくつもりなのだそう。

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まとめ:自由に生きる、ZINEをつくる

 

佐久間さんは、学生時代からずっと本を読むこと、書くことは好きだったそうだ。中学生の頃は、音楽のZINEをひとりでつくったりした。イェール大学で修士号を取得。当時研究者を目指したが、圧倒的にすごい人たちに出会い、勝ち目がないと諦める。曰く「私なんて全然甘かった」。

新聞社などで、ずっと書く仕事をしてきたが、会社員が向いてなかった。頑張ったのに給料が変わらないシステムは、張り合いがなく感じたのだ。頑張りが数字に反映される、成果主義の方が好き。もともとアメリカに住みたいと思ったのも、個人主義で、すべて自己責任なところに惹かれたからだ。

ZINEも成果主義だから、性に合っているかもしれない。制作費、印刷代もかかってくるし、在庫の保管場所も必要だ。その代わり、売れたら利幅は大きい。すべて自分の好きなようにやり、責任もぜんぶ引き受ける。

最後に、書けるようになるコツを聞いた。

「ブルータスなどマガジンハウス系の雑誌で鍛えられた経験には、感謝しています。お金をもらいながら修行ができるなんて、本当に恵まれていた。自信を持って出した原稿なのに、「うーん… もっと面白くしてほしい」と言われて、途方にくれたり。そういう時間があったから、書ける自分になったのだと思う」

目利きの編集者たちとのキャッチボールをくり返し、言葉の紡ぎ方は磨かれていった。

ZINEは、すべて自由だ。もし10部しかつくらないなら、制作費は安く済む。何も形にしたことのない初心者にだって、すぐに始められる。ブログを書くのも簡単だが、受け手の反応をダイレクトに感じられるのはZINEだ。初めての表現手段として最適だと思う。

こういう「初めの一歩」でつくってみる人たちも多いし、プロとして商業ベースで長く活動してきたクリエイターたちの「原点回帰」の側面も多いようだ。クライアント仕事ではなく、いま一度、自分のお金で、好きなようにやりたいことをやってみる。また新しい自分を知るきっかけになる。

「なんでもありの自由って、実は大変なんですけどね」

動機が「初めの一歩」でも「原点回帰」でも、すべての人にZINEはひらかれている。気持ちが熱くなった瞬間を逃さず、あなたもつくってみてはいかが。

佐久間さん、ありがとうございました!

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プロフィール
佐久間裕美子(さくま ゆみこ) ニューヨーク在住ライター佐久間 裕美子(さくま ゆみこ)
ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京で育ち、慶應義塾大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。98年からニューヨーク在住。新聞社のニューヨーク支局、出版社、通信社勤務を経て2003年に独立。旅、カルチャー、人、生き方をテーマに執筆活動を行う。『ブルータス』『&プレミアム』『ヴォーグ』『WIRED JAPAN』など多数の雑誌に寄稿。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、ミュージシャン(坂本龍一、ビースティ・ボーイズ、マーク・ロンソン)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター、ゲリー・スナイダー)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード、トム・ブラウン)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司、ライアン・マクギンリー、エリザベス・ペイトン)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビューしてきた。2013〜2014年にはiPADマガジンPERSICOPE 主宰。著書に「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。
ウェブサイト 
https://www.yumikosakuma.com/
https://www.sakumag.com/
SNS
https://www.instagram.com/yumikosakuma/
https://twitter.com/yumikosakuma

 

※「PUBLISHERS(パブリッシャーズ)」とは、理想をもって出版に関わる人、メディアをつくる人たちのこと。オーディナリー発行人の深井次郎が彼らのクリエイティブアクションを紹介し、あなたの「自分らしい本づくり」を探求する読み物コーナーです。



編集部

編集部

オーディナリー編集部の中の人。わたしたちオーディナリーは「書く人が自由に生きるための道具箱」がコンセプトのエッセイマガジンであり、小さな出版社。個の時代を自分らしくサヴァイブするための日々のヒント、ほんとうのストーリーをお届け。国内外の市井に暮らすクリエイター、専門家、表現者など30名以上の書き手がつづる、それぞれの実体験からつむぎだした発見のことばの数々は、どれもささやかだけど役に立つことばかりです。