【第172話】コミュニティーづくりで通る試練 / 深井次郎エッセイ

Ian Broyles

これだけ集まれば、それぞれ求めるものが違うからね

ガチのチームは、大会で勝つのが目標ですので、自分にもチームメイトにも厳しいです
コミュニティーをつくるときに大事なポイント

エンジョイかガチか
集まる人の志向を統一すること

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興味深い事件がおこりました。ここ一年ほど参加しているバスケのサークルがあります。この間、参加メンバーのレベル設定が問題にあがりました。そのチームは、もともと「初心者も男女問わずOKで、自己中プレーに走らず、まわりと協調して楽しめる人」とレベルを掲げて活動していました。エンジョイ(仲良く楽しむ)とガチ(大会で勝ちにいく)に分けるとしたら、前者の方針です。

しかし、どうしても紅白戦をやってると、試合ですから勝ちたくなってくるんですね。特に競ってる試合では、ちょっと熱くなると上手い人たちだけでパスが回ってしまう。スピードも速いし、初心者たちは蚊帳(かや)の外になり、つまらなくなってしまいます。

エンジョイかガチか。活動開始から一年がたったので、改めてどちらの方針でいくかを決め、舵をきる必要が出てきたのです。結局、そのチームは、当初の思いの通りにエンジョイの方針をとりました。空気を読み、全員が楽しめるようにすること。初心者にもパスを回すこと、まわりと仲良くすること、気持ちよく挨拶もすること。リーダーがきちんと明言しました。チームメイトからは賛否両論ありました。しかし、異を唱えたガチ志向のメンバーは違うチームに去っていきました。別れは寂しいですが、コミュニティーを維持するためには、必要な事件です。

ぼくとしては、エンジョイで賛成です。ぼく個人の参加目的は、「楽しいバスケを末永く続けること」です。勝つことではなく、続けること。そのチームはみんな感じよく居心地が良いので、末永く続いて欲しいのです。なくなってしまって、また新しいサークルを見つけるのも面倒です。自分で立ち上げる余裕もありません。

続く団体というのは、常に新しいメンバーの出入りがあるものです。初心者を締め出して、ガチに向かうと、メンバーを集めにくくなります。ガチ志向のレベルの高いメンバーのほうが採用が難しい。190センチ以上のセンタープレイヤーなどは、滅多にいませんので取り合いです。人づての紹介や他チームからヘッドハンティングしないと集まらない。ガチのメンバーはすでにどこかのチームで重要なポジションを担って活躍してますから、なかなか移籍はしないわけです。優秀な人材は、なかなか転職市場に出てこない。ヘッドハンティングしかない。企業の人材採用と同じ構図があるのです。

バスケの練習は5対5ができないと面白くありません。ガチプレイヤーをスカウトし10人毎週集めるのは、かなり難しいものです。社会人になると仕事の都合や転勤などもあります。コンスタントに毎週10人集まらずに、それで1年持たずに消えていったサークルが無数にあります。その点、エンジョイレベルなら、ネットでもメンバーを集めやすいので継続できます。

以前にぼくもガチのチームでやってたことがあります。でも、ぼくのような不規則な仕事の人にはなかなか難しかった。大会の日にも、突如欠席せざるを得なかったり。チームの結束を深めるために頻繁に飲み会があったのですが、それもほとんど行けずに、申し訳ない思いがありました。

あと、ガチのチームは、大会で勝つのが目標ですので、自分にもチームメイトにも厳しいです。ダメ出しをバンバンしますし、お互いのバスケ理論を戦わせたりします。正直言って、週末の息抜きや健康維持のためにやってる人からしたら、厳しすぎて楽しくないわけです。なんで仕事でもないのに、ダメ出しされなきゃならんのよと。でも、大会で勝ち進みピラミッドを昇っていく時の喜びはあるし、上手くなるスピードも速いです。今もたまにガチでやりたい時は、違うガチチームに顔を出します。やっぱりみんな上手いし、勉強になります。けど、バスケで食っていくわけでもないし、そこまでストイックな環境は求めてません。

あなたがなにかコミュニティーをつくりはじめるとき。趣味のサークルは、どこのレベルに合わせるか。エンジョイかガチかを、はじめにリーダーがはっきり考えを整理しておくといいです。そうしないと、エンジョイ志向の人もガチ志向の人もどちらも不満がたまります。

実はこれ、企業や学校の場合も同じです。結婚でもバンドもそうですけど、なんでも2人以上の人が集まるチームには、大事なことですね。楽しめれば良いのか、それとも勝ちにいくのか。ときどきお互いの価値観を話し合っておくといいです。

(約1728字)

Photo: Ian Broyles


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。