人生を運転するうえで、アクセルでスピードを出すか、ブレーキを踏んで止まるか、しか方法を知らなかったヨメも、ようやく「ギアってものを使うとスピードがコントロールできるよ」と理解できたこの経験。おかげで、休むときはしっかり休み、働くときはしっかり働くと
第44話 東京から横須賀へ。ゆとりを手に入れて気づいた、「がんばる」という思考停止。
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こんにちは。ノマディックラフト ヨメです。
私たちが東京・西小山のアトリエショップから神奈川・横須賀に居を移したのは2018年10月末。「なんだか気に入った」というシンプルかつ勢い重視の理由でやってきて、丸1年が経ちました。なんの地縁もなかったこの街の“生活者”として、ようやく実感が湧いてきたように感じてます。
便利な都会から、山と海に囲まれた街に移住。「住んでみてどうですか?」と聞かれると、「すごく楽しんでいます!」と即答しているのですが、実はその言葉に至るまで、ヨメは少々心のギアチェンジが必要でした(店主は言葉のまま最初から今まで楽しんでいるご様子…… )。
今回はそのプロセスについて、書いてみたいと思います。
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環境を変えて手に入れたゆとり
そこに立ちはだかった「壁」
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私たちの横須賀生活を紹介する前に、ざっとこれまでのライフスタイルを振り返らせていただきます。 西小山にいた頃は、月・木・土にアトリエショップをオープン。店主は木・土を中心に店番をしながら制作活動、残り5日は朝~夕方まで飲食業で接客をしていました。ヨメは月曜の店番を担当し、残りはライター業。ふたりとも土日によってはイベント出店を行う、というのが一般的なリズムでした。
「あれ? 休日ないけど?」とお思いの方。そうなんです。最初はアトリエショップを開くといっても週3日だし、住宅街の中できっと混まないし、店にいるときはわりとのんびりできるだろうから、「休日なくても大丈夫じゃない?」なんて気楽に構えていたのですが、少々楽天的すぎたというか、蓋を開けてみると意外にやることがたくさんあり、休日らしい休日はなかなか取れないままの5年間。ふりかえると、楽しくはあれど想像以上にハードだったな……と苦笑いです。
そんな学びと反省を含め(建物の老朽化も含め)、第40話でも触れましたが、インプット不足を解消してもの作りに取り組む時間を増やしたいと、引越しを選択。横須賀に移ってきたわけです。それに合わせて生活リズムも改編しました。店主は飲食店勤務を週3に減らし(勤務地も通勤しやすい横浜になりました!)、残りの4日で制作・イベント出店・忙しいときを除けば休日……と調整ができるように。
ヨメは、イベント出店時の接客に加えて、都内と横須賀を行き来しながらライター業を続けています。自宅から横須賀のセントラルステーション、その名も『横須賀中央』駅まで15分ほどバスに乗り、京急電鉄で品川駅まで約60分。移動時間は、山手線沿線ならドアTOドアで1.5~2時間見ておけば、というところでしょうか。西小山時代は山手線のどこに行っても10~40分以内だったことを考えると、移動時間の増えっぷりに感心します。
小回りとかフットワーク、という目で見ると確実に「悪く」なり、「パッと行ける急ぎの仕事」には対応しづらくなってしまいました。しかし捨てる神あれば拾う神あり。代わりに「予定に基づいて進行する仕事」の分量が増え、忙しい時期こそあれど、前よりも時間の余裕が生まれるという嬉しい結果に。おかげさまで店主同様、仕事のない休日をちゃんと設けることができるようになりました。
環境を変えて手に入れたゆとり時間。ある意味、狙いどおりですし、待望の脱・東京を果たした店主は(東京生まれ東京育ちですが……)着々とイキイキしています。その一方で、ヨメが壁にぶつかりはじめたのはここからでした。
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忙しい=実はラクしてる!?
「がんばる中毒」のワナ
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ヨメがぶつかった壁とは、休むことへの恐怖でした。引越して間もないうちは、仕事の予定がない休日になると、ふと「これで本当にいいのかな?」と不安が頭をもたげるようになったのです。「いやいや、世の中では週休2日とか普通だし!」と自分にツッコミを入れるものの、まるで時間をムダにしているかのようでザワザワと心が落ち着きません。それで結局「2時間だけ原稿書くか」なんて、何か仕事をしてしまったりして。何か仕事をしているとザワザワは無くなるものの、今度はわざわざ引越しまでしたのに、せわしない自分がいることにガッカリし、モヤッとします。
もしかすると「ヨメは働き者だなあ」と良く解釈してくれる人もいるかもしれません。しかし、真実はそんなステキなものではなく、どうも「仕事で忙しくしている=ラク」だから引っ張られてしまうのです。
忙しいことがラク、というのは矛盾しているようにも聞こえます。でも実際はこんなにたくさんのラクが。代表的な例をいくつか挙げてみましょう。
① 仕事をしていると「誰かに必要とされている」という承認欲求が満たされてラク。
② 働いた分は収入が入ってくるので、生活に対する充足感・安心感が得られてラク。
③ 自由時間と違い、仕事はあらかじめやることが決まっているので悩まなくてラク。
④ 「忙しい=仕事の依頼がたくさんくる人」というイメージがついてラク。
⑤ ①~④を回すだけで「ちゃんと働いている!」という自己満足ができてラク。
などなど。明日の仕事がもらえる確約のない自営業やフリーランスにとって、①~⑤の感覚は一種の精神安定剤みたいなもの、と言えるかもしれません。
この「ラク」状態、感じているのは心の奥深くですから、表には出てきません。①~⑤のサイクルを回している最中は「仕事」という行動を伴っているので、表面的には「がんばってる」感じになります。ここでの根深い問題は「がんばってる」=ポジティブな行為、と周囲はもちろん、自分自身までも誤解をしやすいこと。実際は「目的地を見失っているのに、必死でボートを漕いでいるだけ」の状態に陥ってしまっているかもしれないのに、です。
西小山にいた5年間、多分私たちはがんばってきました。活動を知ってもらわなければ。結果や実績を作らなければ。よりよい環境を目指さなければ。そんな気持ちはノマディックラフトでもライター業でも共通。どれも必要ですし、大切な心構えである一方、「まだ足りないもの」を追いかける行為に終わりが来ることはありません。ジワジワと疲労が溜まる心身を感じるほど、「ラク」の精神安定剤がほしくなる。だから次の「やるべきこと」に身を投じ、忙しく「がんばる」。すると、ちょっと安心する。ヨメが陥っていたのは、そんな状態だったと思います。
店主はそういう「ラク」の感覚に依存をしていなかったのでしょう。だからこそ、ゆとりを手にしたとき自然に楽しむことができたのだと思います。一方、「ラク」の精神安定剤を投与することで走り続けてきたヨメは、すっかり「がんばっていれば何とかなる!」という思考停止=「がんばる中毒」になっていたようです。
その結果が、休日を楽しむことすら不安にかられるほどの自分。「がんばれ、がんばれの生活に消耗したから横須賀に来たのに、休むのが怖いってなに?」と、情けなさが湧いてきたのを覚えています。
そんな「がんばる中毒」の自分に気づいたところから、ようやくリハビリが始まったのでした。
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仕事は「生活」の一部、という
“あたりまえ”を忘れていた
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最初は、少し予定が空くだけで「引越して不便な場所に来たし、この先仕事が減ったらどうしよう……」なんて、不安がよぎっていた頭も、面白いもので、自分が中毒になっていることに気づくと、少し冷静になりました。フリーランスになって15年、ノマディックラフトをはじめて5年、これまで安定して仕事を続けてこられた過去を信頼して、目先の数日で慌てるのはやめよう、と思えるようにもなりました。
すっかり立ち止まることがヘタになっているヨメを思いのほか助けてくれたのは、横須賀の自然です。横須賀市とひと口にいっても、その人口39万人。横浜、川崎、相模原に次ぐ、神奈川県第4番目の都市として、ビル街、住宅街、農地や漁村と市内にはさまざまな風景がありますが、私たちが住んでいる衣笠エリアは、横須賀=海のイメージとは打って変わった山っぽいところ。近所には「鳥獣保護区」の看板もあるほどです。家でワタワタ原稿を書いているときも、開け放った窓からウグイスやトビの声が聞こえます。顔を上げると、見えるのはモリモリとした山の緑。「なんか平和だなあ……」と、自然に心が落ち着いてゆくのを感じました。
歩いて行けるところにある『衣笠山公園』を散策。周辺には野鳥もたくさんおり、わが家の庭にヒヨドリやメジロが遊びに来ることも。
また、引越すときはあまり意識していませんでしたが、横須賀のある三浦半島は「日本で一番食材が豊富な半島」と言われているそう。なかでも“三浦・横須賀野菜”は有名で、市内にある農産物直売所に行くと、生産者さんの名前が記された旬の野菜がずらっと!
自宅からクルマで15分のところにある農産物直売所『すかなごっそ』。農産物のほか、加工食品やお魚も充実。遊びに来た友人を連れていくと喜んでもらえます。画像引用:NAVITIME Travel
農産物直売所の魅力もさることながら、地元のスーパーにもびっくり。東京から1時間離れただけなのに、鮮度のよい食材がこれまでよりも安く買えます。前は忙しいとつい外食することもありましたが、現在は歩いて行ける外食スポットがファミレスのみ。安くておいしい食材が身近にあり、時間の余裕もできたことで(引越す前よりキッチンも大きくなりましたし)、自炊をする時間がグッと増えました。
仕事を毎日の主軸に据え、それをスムーズに進められるように食事や睡眠を取る……というのがこれまでのヨメの暮らし方。でも環境を変えたことで、「生活が主軸。仕事はその中で行いましょう」というバランスとは、こういうものだったか!という手応えを、恥ずかしながら初めて感じました。
かつて会社を辞め、その後にライターになることなど夢にも思わず、「この先どうやって生きていこうかな」と考えながら無職でいた時期があります。不思議ですが、裸一貫で何も手にしていなかったそのときのほうが、ずっと恐いものなどありませんでした(きっと、若さもあったのでしょう)。打ち込める仕事も見つかり、大切な家族もできた今は、スペックだけ見ればそのときよりも充実しています。なのに守りたいものが増えたことで、それらを失う恐怖も生まれてきた。その怖さを払拭するため「がんばる」うち、中毒にまでなっていたとは。
なんとも皮肉で、単純な自分に笑ってしまいますが、同時にヘタクソながら走り続けてきたことについては「よくがんばったね」と自分を褒めてあげることにしました(笑)。なにしろ一生懸命であったことは紛れもない事実。そこはちゃんと評価しようかな…… なんて。
人生を運転するうえで、アクセルでスピードを出すか、ブレーキを踏んで止まるか、しか方法を知らなかったヨメも、ようやく「ギアってものを使うとスピードがコントロールできるよ」と理解できたこの経験。おかげで、休むときはしっかり休み、働くときはしっかり働くというメリハリが、今さらながらに身についてきたような気がいたします。
今日もリビング兼アトリエでは、店主がチクチクともの作り。輸入して販売するアイテムだけでなく、自分たちで制作するオリジナルも着々と充実してきています。引越しの紆余曲折(主にヨメ)を経て、よい形で充実に向かっているノマディックラフトのこれからを、どうかこれからもお見守りください!
次回も、ちいさなお店についてお届けしますね。どうぞお楽しみに!
(月1回 第4土曜日更新の予定でがんばります)
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ノマディックラフトのイベント出店情報
●11月30日(土)・12月1日(日)
「ZOU-SUN-MARCHE アジアンマルシェ vol.4」@横浜みなとみらい
みなとみらいにある、横浜市の文化観光交流拠点『象の鼻テラス』で開催される、アジアンマルシェです。台湾・ベトナム・タイ・インド・カンボジアなど、様々なアジアの国々のフードや雑貨が並びます。インド・ラジャスタンのダンスやトゥバ共和国に伝わる民謡&ホーメイ、沖縄民謡などのライブパフォーマンスも開催予定です。
横浜市中区海岸通1丁目 ※みなとみらい線「日本大通り駅」1番出口徒歩3分 11:00~18:00 https://zounohana.com/schedule/detail.php?article_id=1262
メディア掲載
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ノマディックラフトの店主が、雑誌に取材していただきました!
おしゃれなインテリア事例がたくさん載っているリノベーション専門誌『relife+(リライフプラス)』Vol.32号。その中にある、タレントのちはるさんが様々な作家を紹介する連載『ちはるの手』に、ノマディックラフトが登場してます。
連載バックナンバー
第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>(2015.11.14)
第13話 お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。(2015.11.28)
第14話 美しいものよ、輝け!お母さんとの約束。(2015.12.12)
第15話 生産者さんを訪ねて <鳥の笛ネックレス編>(2016.1.14)
第16話 生産者さんを訪ねて <アカ族の村編>(2016.1.30)
第17話 始まった… 年に一度の確定申告(2016.2.13)
第18話 手仕事は同じじゃないから美しい~『ORDINARY』とコラボグッズを作ったこと(2016.3.11)
第19話 生産者さんを訪ねて<カレン族の村編>(2016.5.21)
第20話 生産者さんを訪ねて<ラフ族の村編>(2016.6.18)
第21話 夫婦で働きながら、煮詰まったときにしていること。(2016.7.20)
第22話 おしゃれに見せるって難しい! イベントのディスプレイで四苦八苦。(2016.8.26).
第23話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪前編≫(2016.8.26)
第24話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪後編≫(2016.11.26)
第25話 ちいさなお店がイベントに出た1年を振りかえる(2016.12.24)
第26話 ちいさなお店の海外買い付け① 買い付け方法と情報集め(2017.01.30)
第27話 ちいさなお店の海外買い付け②航空券の準備 (2017.02.28)
第28話 ちいさなお店の海外買い付け③スケジュール決め&宿探しのパズル (2017.03.31)
第29話 ちいさなお店の海外買い付け④アイテム探しと値段交渉 (2017.04.30)
第30話 ちいさなお店の海外買い付け⑤価格はどう設定するか(2017.06.05)
第31話 寝台特急は楽しい出会いの宝庫(2017.06.25) .
第32話 オリジナル商品ってどう作るの?(2017.07.29)
第33話 成長し続けていくために考えること(2017.09.30)
第34話 ちいさなお店の意見の違い、どう乗越える?(2017.11.04) .
第35話 安定している時期だからこそ、未来に種をまくこと(2018.1.09)
第36話 イベント成功のカギは、出店前後の「イメージトレーニング」にあり?(2018.1.27)
第37話 迷ったら、手を動かすこと(2018.4.3)
第38話 押しつけ? それとも説明不足? ちょうどいい「接客」の距離感とは(2018.5.3)
第39話 ちいさなお店の安全を守るために、考えておきたいこと(2018.6.10)
第40話 ちいさなお店が、横須賀に移転したこと(2019.1.20)
第41話 ちいさなお店をアトリエにするまえに、床のDIYに挑戦したこと(2019.3.05)
第42話 マルシェが増えた今だから考える、どこに出店し、誰に見ていただくのか(2019.6.06)
第43話 時代が変わったいま、改めて考える「複業・副業」をして生きること(2019.8.26)
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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話
【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!
【関連サイト】 ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/ ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft 木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/ |