コミュニケーションをさぼってしまうことがある。言葉が通じないからではなくて、自分自身が心を強く保てなかったせいで。だから、自分の弱いところを鍛えてみたい。いまセブに来て2日目ですが、もうそうとうにストレスです。でも15年間見て見ぬふりをしてきたことにやっと手をつけられるチャンスがきたのだから、頑張ってみよう
連載「もういちど帆船(はんせん)の森へ」とは 【毎月10日更新】
ずっとやりたいように生きてきたけど、いちばんやりたいことってなんだろう? 震災をきっかけにそんなことが気になって、40歳を過ぎてから遅すぎる自分探しに旅立った田中稔彦さん。いろんな人と出会い、いろんなことを学び、心の奥底に見つけたのは15年前に見たある景色でした。事業計画書の数字をひねくり回しても絶対に成立しないプロジェクトだけど、もういちど夢のために走り出す。誰もが自由に海を行くための帆船を手に入れて、帆船に乗ることが当たり前の未来を作る。この連載は帆船をめぐる現在進行形の無謀なチャレンジの航海日誌です。
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第31話 さぼらない
TEXT : 田中 稔彦
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1月2日が、2018年の仕事納めな感じでした。年末からずっと仕事が続いてたし、なによりそれから一ヶ月ほど、全然仕事が入ってないからです。
ということで、いまはフィリピンのセブ島にいます。一ヶ月間、この島に語学留学して英語を学びます。ぼくの英語力は「お察しくださいレベル」なので、「せめて海外で簡単なコミュニケーションがとれるくらいまでにはなりたいなあ」と思って、留学を決めました。
具体的な理由は、ふたつ。石川仁さんという探検家で葦舟職人の活動のサポートを始めて、そのプロジェクトで今年からアメリカに行く機会が増えるかもしれないというのがひとつ。もうひとつは、海外から日本に帆船を招致して航海を企画したいからです。まあ、どちらもまだまだ夢物語みたいな段階なんですけどね。
そして、そんなわかりやすくて具体的な理由以外にもうひとつ、英語がうまくなりたいわけがあるのです。
何度か海外で帆船に乗ってきましたが、言葉で苦労したことが2度あります。一度は、2002年に帆船海星でボランティアクルーとして参加した「セイルコリア」という韓国での帆船レース。もういちどは、2003年に訓練生として乗船した、ロードネルソンというイギリスの帆船での2週間の航海でした。
セイルコリアでは、クルーとして韓国人の参加者をサポートする立場でした。ロードネルソンでは、船内でたったひとりの日本人。言葉が通じない船で、2週間暮らしました。そのときに感じたのは、言葉が通じないと他人への関心がなくなってしまう、ということでした。ぼくの心のクセ。
ぼくにとって、セイルトレーニングの大元はコミュニケーションだと思っています。ひとつの船にたまたま乗り合わせた初めて出会う人々が、お互いへの関心を持ち続けるなかで生まれるなにか。それが、ぼくが航海で大切にしたいことです。
でもね、言葉が通じないと疲れてしまうのです。そして疲れてしまうと、他人への関心は弱くなってしまいます。もちろん、航海のなかで楽しい瞬間や大切な時間はたくさん訪れました。だけど、どうしてもひっかかってしまうのです。自分の想いに、自分の力が届かなかったことを。
実のところそれからも、コミュニケーションをさぼってしまうことがあるのです。日本で暮らしていても。言葉が通じないからではなくて、自分自身が心を強く保てなかったせいで。だから、もういちど自分の弱いところを鍛えてみたいと思ったのです。
いまセブに来て二日目ですが、もうそうとうにストレスです。周りに知ってる人もいないし、英語はぜんぜんしゃべれないし。まあ、でも、15年間見て見ぬふりをしてきたことにやっと手をつけられるチャンスがきたのだから、頑張ってみようと思います。
実はセブ島は、世界の航海の歴史で、ある重大な事件が起こった場所でもあります。関連する史跡もあるみたいなので、時間があったら見に行きたいと思ってます。そんな余裕ができるかなあ…。
(次回もお楽しみに。毎月10日更新予定です) =ー
田中稔彦さんへの感想をお待ちしています 編集部まで |
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連載バックナンバー
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第3話 ぼくが「帆船」にこだわりつづける理由(2016.9.10)
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第5話 帆船の「ロマン」と「事業」(2016.11.10)
第6話 何もなくて、時間もかかる(2016.12.10)
第7話 夢見るのではなくて(2017.1.10)
第8話 クルーは何もしません!?(2017.2.10)
第9話 小さいから自由(2017.3.10)
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