もういちど帆船の森へ 【第11話】 コミュ障のためのコミュニケーション修行 / 田中稔彦

もういちど帆船の森へ 田中稔彦「コミュニケーションが苦手なので、コミュニケーションについて人よりたくさん考えて、だから仕事にしようと思ったのです」この言葉に衝撃を受けました。そういう向き合い方をしてもいいと知ったのは初めてだったからです。船に乗っている時にはいつもたくさんの時間を
連載「もういちど帆船(はんせん)の森へ」とは  【毎月10日更新】
ずっとやりたいように生きてきたけど、いちばんやりたいことってなんだろう? 震災をきっかけにそんなことが気になって、40歳を過ぎてから遅すぎる自分探しに旅立った田中稔彦さん。いろんな人と出会い、いろんなことを学び、心の奥底に見つけたのは15年前に見たある景色でした。事業計画書の数字をひねくり回しても絶対に成立しないプロジェクトだけど、もういちど夢のために走り出す。誰もが自由に海を行くための帆船を手に入れて、帆船に乗ることが当たり前の未来を作る。この連載は帆船をめぐる現在進行形の無謀なチャレンジの航海日誌です。

 

 第11話  コミュ障のためのコミュニケーション修行

                 
 TEXT :  田中 稔彦
                      

人見知り系 帆船乗り

 

 

基本的には個人行動が好きで、知らない人と話したり行動するのはあまり得意ではありません。帆船に乗るようになり、初対面の人と一緒に船で暮らしたりするようになり、いまでは少しはマシにはなりましたが。

帆船の航海ではいつも自己紹介の時間がありますが、ぼくはすごく苦手でした。初めて乗った帆船「あこがれ」は大阪が母港なので、クルーやゲストも関西の人が大勢いました。いわゆる関西人と世の中で呼ばれている人種です。自己紹介でマジに笑いを取りに来ます。1,2分の短い時間でキッチリと笑いのツボを押さえてきます。そんな中にいると、人見知り的にはものすごくコンプレックスを刺激されたりするんです。

その後、自身はスタッフとなり乗船してきたみなさんと関わるようになるのですが、このコミュニケーションへの不安というのはずっとつきまとっていました。帆船でのぼくの立場はワッチリーダーという参加者グループのまとめ役でした。セイルトレーニングの核のひとつは参加者同士のコミュニケーションで、それが生まれるのをサポートするのもワッチリーダーの仕事のひとつでした。

チームがうまく結びついて楽しい航海になったこともありますが、いまひとつ参加者同士の関係性が生まれずに個人的に釈然としない航海もありました。意見のぶつかり合いもあったけれど、だからこそ最後には強い絆が芽生えた時もありましたし、表面的には楽しく過ごしながらもそれ以上のコミュニケーションは生まれなかったこともありました。

セイルトレーニングは、海のコンディションや集まった人のキャラクターなど、偶然性に結果が左右される部分が大きいです。ワッチリーダーとしての関わり方から生まれる要素はそれほど強くないかも、とも思っていました。けれども当事者として関わっていると、そこまで冷静に捉えることもできません。航海が終わるたびにエネルギーを使い果たしたような虚脱状態になっていました。終わった航海を振り返っては、自分ができなかったことに悩み、ああすればよかったのではという後悔にいつも苛まれていました。

もちろん、自分でも納得できるいい航海も何度も経験しました。参加者同士、自分と参加者、他のクルーと参加者、そんな航海に関わったメンバーの間にステキなコミュニケーションが生まれたこともありました。

ただ個人としては、よい関係性の生まれる打率の低さと、うまくコミュニティーが回らないときに対応できるスキルの低さがずっと気になっていました。乗る船がなくなって現場を離れてからも、コミュニケーションについてはずっと気になっていました。セイルトレーニングというコミュニケーションがキモとなるプログラムの運営にスタッフとして関わっていたのに、その自分がコミュニケーションがつたないことに、妙なこだわりも感じていました。
人と関わることが苦手なのに、人と関わることをやっていきたいと考えるのは矛盾なんじゃないかと悩んでいました。

田中稔彦

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苦手だからこそ考え続ける

 

2012年の初めくらいに、株式会社エンパブリックという場作りやチームビルディングのサービスを行っている会社の代表である広石さんという方とお話する機会がありました。お仕事の内容からいうと正に「コミュニケーション」のプロフェッショナルです。

その広石さんの言葉に

「ぼくはコミュニケーションが苦手なので、コミュニケーションについて人よりたくさん考えて、だから仕事にしようと思ったのです」

というのがありました。

ぼくはこの言葉に衝撃を受けました。コミュニケーションが苦手だから人よりたくさん時間を費やして仕事にすることにした。そしてコミュニケーションを事業化してキチンと結果も出している。そういう向き合い方をしてもいいと知ったのは初めてだったからです。

ぼく自身も、船に乗っている時にはいつもコミュニケーションについて考えてきたつもりです。初めの頃は、自分でもコミュニケーションについて考えているという実感もありませんでした。その時々の感情のおもむくままでした。未整理なままでした。それでもたくさんの時間を、ゲストに対して真剣に向かい合って過ごしてきたこと、それだけは嘘ではありませんでした。

ぼくにはコミュニケーションについて考える資格があるのか。

それからいろんな機会に他の人の場作りやコミュニケーションの作り方を少し意図的に観察するようになりました。そこで思ったのは、コミュニケーションが得意と一般的に思われている人の場作りが必ずしも有効とは限らないこと、場合によっては雑だと感じることも多かったことでした。一方的な情報の伝達が多くて双方向のコミュニケーションになっていなかったり、少数の声や発言に積極的でない人の言葉を引き出すことができていないと感じたりしました。

そういう視点で場を見るようになったのも、すべては広石さんの「コミュニケーションが苦手だからコミュニケーションを考えた」という言葉からでした。そして苦手な人間だからこそ、同じようにコミュニケーションが苦手な人の振る舞い方を理解できるという強みもあると感じるようになったのです。

声の大きい人の言葉だけでなく、声にならない言葉を浮かび上がらせるような場作り。それがぼくが理想とするコミュニケーションのあり方なのでは、と考えるようになりました。

かといって自分がうまく立ち回ったり、他人の言葉を引き出せるようになったかというとまたそれは別のお話で、自分のコミュニケーション能力に対しての不安感はまだまだ拭いされるものではありませんでした。

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声なき声を聞くために

 

2013年の11月の初旬、こんなツイートを目にしました。

ツイートの主は西村佳哲さん。働き方研究家として、著作なども多い方です。実は、あるところで一度だけこの人のワークショップを受けたことがあったのだけど、その時は台風が直撃して中途半端な形で終わりになっていました。

ワークショップそのものはとても面白くて、自分の働き方を模索していた時期でもあったのでその後何冊か著書を読んだものの、それほどピンとくる部分はありませんでした。なので西村さんのTwitterもフォローしませんでしたし、ワークショップなどの情報もフォローしているわけではありませんでした。なので、どうしてそのツイートを目にしたのかもよく覚えていません。けれど、どういうわけかこの短いツイートに心惹かれたのです。
内容について分かっていたのは、この告知だけでした。

田中稔彦http://www.livingworld.net/megamiyama_winter/

なぜ心惹かれたのか、なぜ受けてみようと思ったのか、自分でもはっきりしないまま5泊6日という泊りがけの長いワークショップに参加したのです。

インタビューにそれほど強い興味があったわけではありませんでした。ではなぜワークショップに参加しようと思ったのかというと、やはり「発せられない言葉」への想いからではなかったかと考えます。

表面に現れてくるもの、人が意図して語る言葉、それだけではすくいきれない内面に潜んでいる「何か」、それを理解するためにはどうすればいいのか。ワッチリーダーとして航海に参加したゲストたちと接する中でずっと悩んでいたそのことについてなにかヒントを得ることができるのではないか、そう感じたのでした。
もっとも、その時点ではそうしたことについて考えを深めても、それを実践できる場はなかったのですが。それまで関わっていた船はもうなくなっていましたし、新しい船のクルーに応募したものの、もう落選の返事をいただいていました。

それでもコミュニケーションについて考えることは、ぼくにとっては大事なことになっていたのだと思います。これまでのセイルトレーニングについて考え、これからのセイルトレーニングについて考えるには、コミュニケーションとはなにかを考えることが不可欠だと考えていたのだと思います。

 

WS会場の女神山ライフセンター 林の中に建物が点在している

WS会場の女神山ライフセンター 林の中に建物が点在している

 

答えのない問いを旅する

 

ワークショップの会場は女神山ライフセンター。長野県の上田から別所温泉までローカル鉄道に乗り換えます。終点の別所温泉駅からさらに車で30分ほど雪が積もった山の中へ。意外と広い敷地にいくつかの建物が点在しています。周囲にはなにもありませんが、寝室やワークショップで使うスペースは開放感のある気持ちの良い場所でした。

参加者はぼくを含めて12名。男女はほぼ半々。ワークショップの内容については細かく書くことは控えますが、とても刺激的な時間でした。

ワークショップのテーマは、当たり前ですが「人の話をきく」ことです。西村さんのインタビューへの姿勢はやや独特です。相手に対して「できごと」ではなく「感情」について語ってもらうような流れをつくり、感情を手掛かりに相手の心に寄り添うというのが西村さんの考え方でした。

人の心のあり方とはなにか。
言葉として表現されたものと本当に考えていることとの違い。
自分のことを一番よく知っているのはだれなのか。

人の意識のあり方や人と人との関わり方についてのレクチャーと、西村さんが参加者にインタビューするセッション、そして参加者同士がお互いにインタビューがワークショップの流れでした。

外界から隔絶された環境でただ「人の話をきく」ことだけを考える時間。インタビューをしてインタビューされて、あるいは人がインタビューする様子を見る。そしてインタビューが終わるとその中で起こったこと、感じたこと、自分の内面に生まれた感情の動きををお互いにフィードバックする。ただひたすらそれを繰り返す日々でした。

「修行」と「修業」という言葉があります。普段は同じような意味で使われているのですがふたつの言葉には明確な違いがあります。

「修業」は文字通り業(わざ)を身につけること。知識や技術、職能など具体的なスキルを、期限やゴールが比較的はっきりした中で手に入れるための行動です。

「修行」はもともとは仏教用語ですが、宗教はもとより武芸や技芸といった終わりのないものを追求していく過程だそうです。

ぼくにとって、冬の女神山で過ごした6日間は修行でした。答えのない問いかけ、目的地のない旅を、ひたすら続けていました。

前にも書きましたが、インタビューのワークショップに参加した理由は、ワッチリーダーとしてセイルトレーニングのプログラムに関わる中で、人の声を聞く精度を上げたいと思ったからです。参加するまでは、技術的なコツやマインドセットの改善の仕方など、具体的なメソッドが手に入れられるのではと期待していました。

しかし実際にワークショッブで行われたのは、スキルやメソッドの習得ではありませんでした。西村さんの個人的なメソッドやスキル的な部分も提示はされましたが、本質はその部分にはありませんでした。目の前の相手とどう向き合い、どう寄り添うのかという、答えのない問いかけに答えを考え続けること、それがワークショップで行われた全てだったのかもしれません。

そして自分がワークショッブを受けようと思った理由を考えると、それでよかったんだと思います。インタビューをすることが目的ではなくて、船の上で時間を過ごす中で航海の体験が自分の目の前にいる人にどういう感情の変化を与えているのか、そのことに少しでも触れることがぼくの望んでいたことだったのだから。そして航海ではない時間でも身の回りの人の心の動きを感じられるようになることが目的だったのだから。

いま思い返しても、とてつもなく濃密な6日間でした。そして時間を経たいま、こうして改めて文章に起こしてみても、あの時に感じたことをうまく伝えられないもどかしさもあります。

書いている途中で西村さんがこのワークショップについて書いているブログの記事をみつけました。

短い文章だけど読んでいるとあの時の感覚がよみがえるような気分になりました。「やり方」を伝えることの難しさや危うさ、人の話をきく行為と真剣に向き合う難しさ。

あれから3年が経ちましたが、修行はまだまだ終わりません。

 

ホワイトボードに残された6日間の足跡

ホワイトボードに残された6日間の足跡

 

(次回もお楽しみに。毎月10日更新予定です)
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田中稔彦さんへの感想をお待ちしています 編集部まで

 

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連載バックナンバー

第1話 人生で最高の瞬間(2016.7.10)
第2話 偶然に出会った言葉(2016.8.10)
第3話 ぼくが「帆船」にこだわりつづける理由(2016.9.10)
第4話 マザーシップが競売にかけられてしまった(2016.10.10)
第5話 帆船の「ロマン」と「事業」(2016.11.10)
第6話 何もなくて、時間もかかる(2016.12.10)
第7話 夢見るのではなくて(2017.1.10)
第8話 クルーは何もしません!?(2017.2.10)
第9話 小さいから自由(2017.3.10)
第10話 就活に失敗しました(2017.4.10)

 

 過去の田中稔彦さんの帆船エッセイ 

TOOLS 11  帆船のはじめ方(2014.5.12)
TOOLS 32  旅でその地を味わう方法(2015.2.09)
TOOLS 35  本当の暗闇を愉しむ方法(2015.3.09)
TOOLS 39 
 愛する伝統文化を守る方法(2015.4.11)
TOOLS 42  荒波でコンディションを保つ方法
(2015.5.15)
TOOLS 46  海の上でシャワーを浴びるには
(2015.6.15)
TOOLS 49  知ること体感すること(2015.7.13)
TOOLS 51  好きな仕事をキライにならない方法(2015.8.10)

 

田中稔彦さんが教授の帆船講義

自由大学「みんなの航海術」 帆船に乗ってまだ知らない個性とチームプレーを引き出そう



田中 稔彦

田中 稔彦

たなかとしひこ。帆船乗り。舞台照明家。29歳の時にたまたま出会った「帆船の体験航海」プログラム。寒い真冬の海を大阪から鹿児島まで自分たちで船を動かす一週間の航海を体験。海や船には全く興味がなかったのになぜか心に深く刺さり「あこがれ」「海星」という二隻の帆船にボランティアクルーとして関わるようになる。帆船での航海距離は地球を二周分に。 2000年には大西洋横断帆船レース、2002年には韓国帆船レースにも参加。 2001年、大西洋レースの航海記「帆船の森にたどりつくまで」で第五回海洋文学大賞を受賞。 2014年から「海図を背負った旅人」という名前で活動中。2016年に仲間と一般社団法人「スビリット・オブ・セイラーズ」立ち上げ。「日本一楽しい帆船乗り集団」と名乗って日本に帆船文化を定着させることを目指す。