舛廣純子が聞く「しなキャリ図鑑」 【第34話】 脳科学マーケティングコンサルタントのチカラ / 永春啓太さんの場合

masuhirojunko_long_banner結局「自分が知りたかったのは人の心なんだ」と辿り着きました。どうしたら人の心は動くのか、触れてみたい、使いやすいと感じるのか、すべて脳科学や認知科学と紐づいていた。その時初めて学術的なものを学ぶ意義を感じたんです。目的があると勉強をする
連載「しなキャリ図鑑」とは  【毎月1回更新 / 第4月曜】
「しなやかに生きる人のためのキャリア図鑑」の略称。キャリアカウンセラー舛廣純子が、イキイキと働く仕事人にインタビューし、その仕事に大切なチカラを中心にキャリア・仕事そのものも掘り下げます。10年後の未来に自分がどんな風に仕事をしているのかも見えづらくなった今の時代。インタビューを読むことで、自分の持っている力にも気づいたり、したことのない仕事に興味を持ったり、これから伸ばしたい自分の力を見つけられたなら、あなたの仕事人生も変化に対してさらに強くてしなやかなものになっていくかもしれません。

 

.

第34   脳科学マーケティングコンサルタントのチカラ 
好奇心と疑いの目を持ち、徹底的に検証することでクライアントにより良い提案をする

TEXT : 舛廣 純子

永春啓太  脳科学マーケティングコンサルタント

教えてくれた人 
永春啓太      脳科学マーケティングコンサルタント 

高校中退後、ガソリンスタンドのアルバイトや自動車工場での製造ラインの仕事、ITベンチャーでの営業・ディレクター職などを経て、デジタルマーケティング領域のコンサルタントとして独立。大手企業のマーケティング支援を手掛ける。その後、「脳科学とITで人のつながりをデザインする」をコンセプトにRiveredgeを創業。インターネットを主戦場に、脳機能研究、マーケティング開発、クリエイティブの3つを柱に据えた事業展開を手がける。

.
.

<脳科学マーケティングコンサルタントにとって大切な能力はなんですか?>  
.

1. 徹底的に自分で検証してみる力    実験力   

仮説を立ててそれを実証する際、中途半端なところで終わらせず、とことんやってみることを大切にしていますね。例えば脳波を測定する時、一度の測定結果だけではその仮説が正しかったとは必ずしも言えません。サンプル数を膨大に集めて統計的に有意な値を出したり、その人の様々なコンディションで測定してみたり、あらゆる角度で徹底的に追求します。

どんなに優れた論文を読んでも、読んだだけで分かったような気になっていてはダメ。自分で得た体験というのは、そのプロセスを味わっているからこそ、他人にも自信を持って話すことができます。クライアントとコミュニケーションをとる際、自己の体験を通じた言葉には具体性があり、成功イメージを持ってもらいやすいですから。共同体としてプロジェクトを進めるため、クライアントにワクワクしてもらうことは非常に大切なので、そのためにもとことん自分で検証した上での言葉を伝えるようにしています。

.

2. 疑問を持つ力    批判的思考力 

日常の些細な出来事にも「なぜ?」と、疑問を持てることは大切だと感じています。仕事に限った話ではありませんが、実は前提条件が暗黙のうちに了承されていたりすることって結構あるんですよね。だから、「なんでそもそもこれをやるのか」というところに立ち返ると、「あれ、なんでだっけ?」とクライアント自身も深く理解していないなんてこともしばしば。クライアントには見えていない視点を持ち、「本当にそれでいいのか?」と批判的な思考を持って臨むことも、コンサルタントとしての大事な役割です。それが結果としてクライアントが抱える本質的な課題の発見につながるんです。

 

3. 好奇心  創造力 

新しい技術が日進月歩で生み出されていく業界なので、現状維持では衰退するばかり。あっという間に取り残されてしまいます。だから、新しいものを取り入れるのはもちろん、新しいものを自ら創造していくことが何より大事です。

また、好奇心がなければ探求・研究も進みませんし、クライアントに対する話の引き出し方も全く変わってきます。「もっと聴きたい」と、こちらが身を乗り出していると、クライアントもそれに触発されてか、どんどん饒舌になっていくんですよね。クライアントが自分達の商品やサービスについて楽しそうに話す姿は、未来への期待感をさらに膨らませてくれます。

 


 

  .
<なぜ脳科学マーケティングコンサルタントになったのですか?>  
.

 

一言で表現するのが難しいんですが、遡って考えると「高校中退」が大きなきっかけだったように思います。高校へ進学してから間もなく、学校生活が無性につまらなくなったんです。勉強が嫌いとか苦手ということではなかったんですが、学校に行く意義を感じられず、悶々とした日々を送っていました。高校って中学とは違い、学力レベルもある程度フィルタリングされるじゃないですか。だからなのか、周囲の人間が皆同じように感じられ、良くも悪くもはめをはずさない、意見や考えも似通っていて画一的というか、それが物足りなさにつながっていたんだと思います。それで高校一年生の三学期初日に自主退学したんですが、親も学校の先生も、「高校に行くだけが道じゃない、自由に生きていいんだ。」と背中を押してくれました。その後、定時制高校に編入したものの、やはりその時点では学校で学び続ける意義を感じられず、結局その学校も長くは続きませんでしたね。

中退したことで、同年代の人より早く自立について考えるタイミングを得、世の中のことについても目を向けるようになっていきました。明確な夢や目標はありませんでしたが、尊敬する坂本龍馬のような高い志と広い視野を持ち、「世界で勝負できるような仕事がしたい」と小学校の頃から漠然と思っていたので、企業勤めではなく、いつか自分で何かをやっていくんだろうなとは思っていました。

中退後、最初に就いた仕事はガソリンスタンドのアルバイトでした。お客さんとコミュニケーションをとるのは本当に楽しかったですし、「ありがとう」の一言が自分にとっての喜びでもありました。当時、親から「今までが嘘だったように生き生きとしているね」と言われたのを、今でも鮮明に覚えています。

その後、海外を拠点とする生活に憧れを持っていたため、より資金が貯まりやすい仕事に変えようと自動車工場の製造ラインで契約社員を一年半ほど経験しました。お金を貯めるための仕事ではありましたが、接客のやりがいとはまた異なり、効率よくやることや丁寧で品質の良い仕事をするのを、一種のゲーム感覚で楽しんでいました。自分の人生やキャリア自体も、いつもどこかゲーム感覚で俯瞰してみているところがあります

お金も貯まり、オーストラリアに留学しようと旅立ったのですが、滞在から間もなくして、衝撃的なことが起こりました。仲良くなった現地の友達が日本のことに詳しく、まるで日本の話を逆輸入するかの如く聞かされたのです。彼は自国についてもとても詳しくて、それに対して自分は日本のことをほとんど語れなくて、そんな自分のことが恥ずかしくなりました。もっと日本のことを知りたい、世界に目を向ける前にまずは日本のことを知らなくてはいけないと思うようになり、滞在期間も残っていたのですが、すぐに帰国し、日本を自転車で一周する旅に出ました。

大した知識もない状態でスタートした自転車旅でしたが、いざ各地に赴いてみると、心底楽しい刺激的な毎日でした。人と触れ合うことを通じて、日本の文化や歴史を知ることもできましたし、地方が抱える課題について向き合う機会もいただけました。

無事に旅を終え、帰ってきた時に残ったのは、「地域課題、日本が抱える課題を解決できるような仕事がしたい」という強い思いでした。その後も「困っている人を助けたい、自分のチカラになれることってどんなことだろう」という気持ちが日に日に強くなり、独立起業を視野に、まずは上京することにしました。当初、地域課題を解決する会社を考えてはいたものの、具体的にどう解決するかについてはまだ不鮮明で、「デジタルマーケティング領域で何かやろう」くらいしか考えていませんでした。

独学でプログラミングなどの技術的なことは勉強し始めていたのですが、色々な出会いもあり、「自分の考えがどう受け取られるのか勝負してみたい」と思い、創業半年のベンチャー企業に三人目の社員として入社しました。そこはインターネット回線などを販売している会社で一部ソフトウェアの販売もしていました。その頃から急速にソフトウェア開発にも目を向けるようになり、仕事をしながら、休みの日にはプログラミングやマーケティングの勉強をしていました。勤めた約2年間は、ともかく勉強の日々でしたね。当時はYouTubeが世の中に広く認知されるようになってきた頃だったので、地域の魅力を伝えるべく、地域住民の物語を配信する動画メディアを作りたいと考えていました。人の物語は唯一無二のもの、競合性がないので面白いものが作れるとは思っていたのですが、当時はマネタイズが全然できていなかったですね。勢いで会社を辞めたものの、起業しようにも、会社の運営や計画には無知・無計画で、どう起業すればいいのかも最初は分からずじまい。まずは個人事業主としてのスタートでした。もう今更後戻りはできないと思い、最初は知人をあたって、ホームページ制作やインターネット上のマーケティングなどでどうにか仕事をいただいていました。そんなとき転機が巡ってきたんです。

以前ビジネススクールに通っていた際、大手メーカーの子会社であるマーケティング会社の役員の方と知り合い、勉強の後に一緒に飲みに行くなど、とても可愛がってもらっていたのですが、その方から仕事の声をかけてもらうことができました。社員ではなく、ある一定期間、デジタルマーケティングのコンサルティング業務を請け負うという仕事で、いきなり舞い込んできたビッグチャンスでした。

本当は、実績のある経験豊富な方がやるような高い成果を求められる仕事でしたが、今までの自分の経験・実績も包み隠さずお話しした上で、契約締結していただきました。会社の方針として、社内からの声ではなく、全く新しい外部の力、それも若い人材を活用したいということで、「今までと違う人間であること、信頼できること」の二点だけが採用条件で、あとはご自身の直感で僕に声をかけてくれたとのことでした。「今まで実績ベースでやってきてダメだったので、変化球が欲しかった」と後からその役員の方には言われました。その時に「君が中卒だったのもよかった」と言われました。周囲はみんな大卒。高校中退後、「自分で自分の道筋を作ってきた」私自身のキャリアを買ってもらえたところもあったようです。自分の辿ってきた道を肯定してもらえたようで、とても嬉しく自信になりましたね。あとはちゃんと実績を残そうと思いました。

3か月契約を4回ほど更新していただいたのですが、とても勉強になる仕事で、取引する中心が大手企業だったのもあり、非常に良い経験となりました。データを解析し、どういう施策を打つのか、それを実現するシステムの仕様をどうするのかというディレクションに始まり、既存品や新製品のプロモーション企画、TVCMにどうオンライン上の広告を連動させていくかという動線設計、会員サイトでのプロモーション企画ではユーザーとどう接点を持っていくか等、いわゆる広告代理店のとりまとめ業務のようなことをしていました。いま成果があがっていないサイトをどうやって改修していくかなど、技術者との橋渡しをすることも多かったのですが、技術もプロモーションも分かっている人はあまりいなかったらしく、そこが重宝されたようです。技術者とのコミュニケーションの中で、様々な技術について教えてもらうこともでき、次のステップへの実績を伴った足掛かりであり、貴重な学びの時間でした。

その後、脳の研究者との出会いが、自分の人生をまた大きく動かしていきました。昔からなんでも疑問を持つタイプでしたが、脳の世界を知れば知るほど、自分の長年の疑問がどんどん晴れていき、結局「自分が知りたかったのは人の心なんだ」というところに辿り着きました。どうしたら人の心は動くのか、どうしたら人は触れてみたいと思うのか、どうしたら人は使いやすいと感じるのか、それらはすべて脳科学や認知科学と紐づいていたんです

半年間ぐらい引きこもり、研究論文や専門書を読み漁り、脳の勉強ばかりしていました。脳を理解するには、生物学や物理学などを含む非常に幅広い学問知識が必要なんですが、その時初めて学術的なものを学ぶ意義を感じたんです。目的があると勉強をすることはものすごく面白く、疑問に思っていたことが研究論文で立証されたりすると、自分の仮説が立証されたような気持ちになりました。まさに寝食を忘れ、1日15~16時間、休みもなく毎日勉強していました。仕事はほとんどその時引き受けていなくて、このまま行くと貯金が尽きることは分かっていたのですが、面白すぎて勉強を止めることがどうしてもできませんでしたね。

半年間学んできたことを体系化したところ、出資して一緒に事業を興してくれる仲間も出てきたんです。より研究を深め、そこで得た知見から開発したものを目に見える形へ昇華していく、そんな一連の流れを事業化しようということで、法人化することにしました。「知る」「考える」「創る」の3工程をそれぞれ川の流域に見立て、上流から下流まで一気通貫でやっていこうということで会社名をRiveredge(リバーエッジ)と名付けました。今は自分を含めて6人のスタッフでやっています。

永春啓太  脳科学マーケティングコンサルタント

 

 

.  
<脳科学マーケティングコンサルタントとはどんな仕事?>

脳科学とITで人のつながりをデザインする仕事、と人にはよく説明しています。企業の業績をあげるために、脳科学を活用し、デジタル領域で企業をサポートする仕事で、デザイン、プログラミング、データ解析、広告代理店のようなこともします

企業の経営課題から洗い出すケースもあれば、この商品・サービスを売り出したいというプロモーションのご依頼に応えるケースもあります。小さな会社や商店から上場しているような会社まで幅広くお取引させていただいています。

商品が売れない問題の解決策を、プロモーションを変えるだけでなく、商品そのものに問題がないのかという点で探っていくこともします。実際に商品を消費者に触ってもらい、その際の心理活動を調べたり、アイトラッキングという計測器を使って店舗での商品陳列の改善を図るなど、大学の研究室にも協力を得ながら、脳科学をマーケティングに取り入れています。

また、企業のコーポレートサイトに対してお問い合わせがないという場合には、メディアを立ち上げたり、広告配信をしたり、そこに必要な技術開発もしています。一番目に見える形で分かりやすいのは、そういったアプリやサイト開発・変更ですが、そこに至るまでにはリサーチが必要なので、クライアントの予算にもよりますが、そういったリサーチや開発途中の設計やテストなどにも脳科学を用いています。

.

<一日の仕事スケジュールは?>


7:00      起床・朝食
9:00      メール返信・スケジュール確認・その他事務作業
10:00    データ解析・資料作成
13:00 クライアントと打ち合わせ
16:00 データ解析・資料作成
21:00 帰宅・夕食
22:00 論文チェック・読書
25:00 風呂・就寝

  .

<仕事のやりがいや面白みはどんなことですか?> 

お客様に喜んでもらえた時、笑顔を見ることができた時はやりがいですし、その先のエンドユーザーの笑顔につながっている時もとても嬉しく思います。自社が開発に携わったアプリを電車の中で使っている人が「コレ、すごい便利なんだよ」なんて話していたりするのを聞くと、とても嬉しいですね。

あとはアプリなどを仲間と一緒に作っていく、カタチになって人に届く、というモノづくりの部分にもとても大きなやりがいを感じています。他にも自分のコントロールのできないところで、プロモーション効果が波及していったときなども面白さを感じますね。ツイッターなどでの「バズる」みたいなのは、まさにそういう思いがけない波及効果だと思います。

. . 

<一番嬉しかった経験はどんなことですか?>

ある人材支援関連の中堅企業様から自社サービスのプロモーションに関するご依頼を受けた時のことが印象に残っています。今まで数社のマーケティング会社を使ってホームページ上でプロモーションを打ってきたけれど、ほとんど効果がなかったとのことで、お声がけいただきました。

まずはどこに問題があるのかを調査するため、ビジュアル上の問題、設計上の問題など、様々な角度から分析しました。最終的に分析した結果、ビジュアルの問題が最も大きいことが分かったんです。そのビジュアル上の問題を徹底的に調べていったわけですが、まずはユーザーのマウスの動き(PC)や指の動き(スマホ)を領域ごとに隈なく取得していき、どの部分を何秒間触れていたのか、何秒後にどこに指を動かしたのか等を分析し、どこで引っかかりが生まれるのかをあぶり出していきました。すると、本来スムーズにいっていいところで、ユーザーに大きなストレスが掛かっており、ユーザーの行動を妨げていたことが判明したんです。

ここが問題だろうということの仮説を持てた時点で、今度はデータの傾向を捉えながらページの細部にわたってストレスレベルを考察し、このストレスはデザインによるものなのか、文章の表現によるものなのかを深掘りしていきました。

結論として、硬い表現を優先させすぎて、行動を促進する快ストレスよりも、むしろ抑制する不快ストレスを与えてしまうホームページの作りやプロモーションページのデザインになっていたことが分かりました。より行動を促進させるには色やデザイン、文章のリニューアルが必要で、我々のデータ考察に基づきページをリニューアルしたところ、目標に対して約3倍、現状に対して約6倍の成果を生み出すことができたんです。この時は、自分たちのやってきたことで成果が出て、クライアントにも喜んでいただけてとても嬉しかったですね。

 

<逆に今まででもっとも大変だった経験は?>

大変だったというか、自分の中の反省なのですが、前出したその企業の案件の成功などもあり、データ至上主義のようになっていた自分がいて、それが原因で壁にぶつかったことがありました。ある教育会社のプロモーションのお仕事のご依頼を頂いた際、それまで自分の中でデータを使った一つのセオリーができていて、実際それで運用してみたら、全くと言っていいほど成果が出ず、ユーザーのアクセス数もほとんど伸びなかったんです。

その頃は、感情や感覚を排除し、数字の根拠がないものは認めない、「データがすべて」に陥ってしまっていた自分がいましたね。ユーザーを見ているようで、数字のみを追っていたんだなと。数字と数字の間にある、文脈のようなものを捉え、自分たちの中で昇華していくことの大切さを痛感しました。そのために今はデジタルだけでなく、アナログ的な要素も会社としては大事にするようになりました。クライアントとのコンタクトも、チャットやメールで済ますのではなく、できるだけ対面でお会いすることを増やすようにしています。あとは教養も含め、アートに触れて感性を養うような時間も大事にしていますね。

永春啓太  脳科学マーケティングコンサルタント

 

,. .
<脳科学マーケティングコンサルタントの仕事の未来はどうなっていくと思いますか?>

人工知能は今でも、自動運転やデータ解析などの分野で幅広く活用されてますし、当社でも相棒的な存在ですが、今よりもっとそこに人間らしさというか人格のようなものを持たせることで、良きパートナーになっていくんじゃないかと思っています。そうなった時、私たち人間のコンサルタントは、感性や感覚を磨き、数字と数字の間の文脈を埋めていくところにより特化していくことになるのではと考えていますね。アナログとか感性とか無駄とか遊びとか、効率を求められる現代ではやや敬遠されがちなものが、むしろ大事になっていくのではないのでしょうか。そこは数字と異なり、100%がないところなので、人工知能では代用が難しいところじゃないかと思います。また、間違えることができるのが人間の価値であり、失敗することが人間の特権になっていくかもしれませんね。

マーケティングの領域においては「プロモーション」という仕事はなくなっていく可能性が高いと考えています。Amazonのレコメンド機能などはユーザーの行動を分析してオススメしているわけで、個人が個人向けに欲しい情報を得られる時代です。今後はマスに向けてのプロモーションというのはどんどん減少し、「あなたのこの商品を買いたい人を集めてきますよ」という感じにAIが機能するようになっていくと思います。今後はマーケティングの領域も、ブランディングやインフラをどう作っていくのかというところに注力していくのではないのでしょうか。

 . .

<他に向いていそうな仕事はありますか?>

モノを作ったり、物語を作ったりするのは好きですね。こんなところ誰も気にしないよっていう細かいところに想像を膨らませるとか。今の仕事においてもデータから人の心をああだこうだと想像を膨らませ、考えるのは好きなので。

だから、住空間を演出するような空間デザイナーとか建築家なんてけっこう向いていると思います。建築家の友人がいますが、話がとても合うので、そういう資質があったりするのかもしれないですね。

.


.

. .

キャリアカウンセラー舛廣純子の  シゴトのチカラ考察  .

 

「論理的に整合性があり、納得感のある言動を大切にする意志のとても強い方」―永春さんのインタビューをさせていただいたた私が感じた第一印象です。

とても丁寧でソフトな方ですが、「おかしい」「納得がいかない」という違和感をそのままにはできない、疑問を持ったものを納得感が持てるまで検証する、そんな研究者のような永春さんの資質は、永春さんのキャリアそのものにも現れているように思います。永春さんが、高校といういわゆるマジョリティが自然に選ぶレールを自ら下りたのは高校一年生の時。あまり疑問を持たず、その場の流れに乗り、ただ日々を楽しむ高校生なら、きっと永春さんは高校中退という選択をしなかったでしょう。その頃からはっきりとした自分の疑問や意志があったのだと思いました。自分のキャリアもどこか俯瞰して観ているとおっしゃっていましたが、ご自分のキャリアもどこか「検証している」ところがあるのかもしれません。

一方で学生生活は短かったものの、永春さんはとても知的好奇心や探求心の強い方。脳科学に出会った時に家に引きこもり寝食忘れて一日の大半を勉強に充てていたお話にもそれは現れていますし、これからの仕事への展望を伺った際にも新しいことを常に取り入れようとされており、脳科学だけでなくITという日進月歩の世界と永春さん自身とても相性がいいのだなと感じました。

高校中退という選択が、やがて独立した際のむしろ「強み」として評価され、道を切り開く手助けをしてくれるとは、永春さん自身も考えてはいらっしゃらなかったかもしれません。永春さんのお話は、人の人生はどんな選択をするかが大事なのではなく、その選んだ選択をどう歩むのか、そこにかかっているのだなということを改めて感じたインタビューでもありました。

 

 .  

(次回もお楽しみに。毎月1回、第4月曜に更新します) =ーー

ご意見ご感想をお待ちしています 編集部まで

連載バックナンバー

第0話 連載開始に寄せて(2016.11.14)
第1話 NPO法人ディレクターのチカラ – 宮崎真理子さんの場合(2016.11.28)
第2話 ダンスインストラクターのチカラ – 金城亜紀さんの場合(2016.12.12)
第3話 セラピストのチカラ – 狩野香織さんの場合(2016.12.26)
第4話 ソーシャルワーカーのチカラ – 金子充さんの場合(2017.1.9)
第5話 イメージアップコーディネ―ターのチカラ – 矢吹朋子さんの場合(2017.1.23)
第6話 石のインポーターのチカラ – 根岸利彰さんの場合(2017.2.13)
第7話 市議会議員のチカラ – いがらしちよさんの場合(2017.2.26)
第8話 弁護士のチカラ – 中嶋俊明さんの場合(2017.3.13)
第9話 秘書のチカラ – 上澤未紗さんの場合(2017.3.27)
第10話 新規事業プロデューサーのチカラ – 大畑慎治さんの場合(2017.4.10)
第11話 結婚カウンセラーのチカラ – 金田和香子さんの場合(2017.4.24)
第12話 ウェディングフォトグラファーのチカラ– 菊川貴俊さんの場合(2017.5.08)
第13話 建築家のチカラ– 仲村和泰さんの場合(2017.6.12)
第14話 子育て女性キャリア支援起業家– 谷平優美さんの場合(2017.6.26)
第15話 フードコーディネーターのチカラ– watoさんの場合(2017.7.24)
第16話 企画・編集者のチカラ– 内山典子さんの場合(2017.8.14)
17話 公認会計士のチカラ– 岩波竜太郎さんの場合(2017.8.28)
第18話 グラフィックデザイナーのチカラ – 仲平佐保さんの場合(2017.9.11)
19話 企業人事のチカラ– マチダミキさんの場合(2017.9.25)    
第20話 自然栽培料理家のチカラ – 溝口恵子さんの場合(2017.10.9)  
第21話 演劇人のチカラ –  山中結莉さんの場合(2017.10.23) 
第22話 育爪士(いくづめし)のチカラ / 嶋田美津惠さんの場合(2017.11.14)
第23話 造作大工のチカラ / 齋藤久洋さん 髙山和之さん(2017.11.27)
第24話 観光協会職員のチカラ / 渡辺美樹さんの場合(2017.12.25)
第25話 理学療法士のチカラ / 斉藤桃さんの場合(2018.1.22)
第26話 ライフプランナー(生命保険営業)のチカラ / 日野悟さんの場合(2018.2.26)
第27話 サプライチェーン業務プロセスオーナーのチカラ / 新倉菜摘さんの場合(2018.3.26)
第28話  シニア不動産コンサルタントのチカラ / 若杉アキラさんの場合(2018.4.23)
第29話  インテリアコーディネーターのチカラ / 山中智子さんの場合(2018.5.28)
第30話  オペラ歌手のチカラ / 鵜木絵里さんの場合(2018.7.23)
第31話  仕事のチカラ総集編 –  連載30話突破企画(2018.8.27)第32
話  コーチのチカラ / 畑さち子さんの場合(2018.9.24)第33
話  幼稚園教諭のチカラ / 石神建太郎さんの場合(2018.11.26)

 過去の舛廣純子さんの働きかたエッセイ 

TOOLS 13   自分を好きになるリフレーミング
TOOLS 19   後悔しない道の選び方(前編)
TOOLS 20  後悔しない道の選び方(後編)
 

舛廣さんってどんな人?

PEOPLE 04 舛廣純子(キャリアカウンセラー)
就職は子育ての最終章。就活生の親に読んで欲しい本を出版

 


舛廣純子

舛廣純子

ますひろ じゅんこ フリーランスキャリアカウンセラー。1972年、東京都出身。日本女子大学人間社会学部文化学科卒業後、化粧品商社に営業職として入社。会社の民事再生、自身の出産・育児を機に2 回の転職を経験。自らの転職経験からキャリア支援に関心を持つようになり、社会保険労務士、キャリアカウンセラーの資格を取得。2007 年、キャリアカウンセラー・講師として独立。大学生の就職支援・キャリア教育、社会人の転職支援・キャリア形成支援を中心に活動。支援学生の高い就職率とわかりやすいセミナーには定評がある。特技は長所探し。2013年12月に学研教育出版から『就活生に親が言ってはいけない言葉 言ってあげたい言葉』を出版。ブログ:http://ameblo.jp/shuukatsumamanoblog/