大手スクールと同じことをしても勝てるはずがない。金城さんが考えたのが「私らしさを大事にして、私という人間性を打ちだしていこう」というもの。だからこそ彼女は「人を否定しないで愛せる力=彼女の人間性の根幹」を大事な力としてあげました。
連載「しなキャリ図鑑」とは 【毎月2回更新 / 第2第4月曜】
「しなやかに生きる人のためのキャリア図鑑」の略称。キャリアカウンセラー舛廣純子が、イキイキと働く仕事人にインタビューし、その仕事に大切なチカラを中心にキャリア・仕事そのものも掘り下げます。10年後の未来に自分がどんな風に仕事をしているのかも見えづらくなった今の時代。インタビューを読むことで、自分の持っている力にも気づいたり、したことのない仕事に興味を持ったり、これから伸ばしたい自分の力を見つけられたなら、あなたの仕事人生も変化に対してさらに強くてしなやかなものになっていくかもしれません。
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第2話 ダンスインストラクターのチカラ
すべてをまるごと愛し、子どもたちの心の幹を太くする
TEXT&PHOTO : 舛廣 純子
教えてくれた人
金城 亜紀 (きんじょう あき) ダンスインストラクター(フリーランス)
高校時代からダンスを始める。20代前半はフリーターや学生をしながら、ミュージカルやダンスの勉強をし、ミュージカル女優を目指す。その後、ミュージカル女優への道は断念し、一般企業に就職。3社の会社で、受付、事務職、研修講師を経験後、独立してキャリアカウンセラーになる。結婚、離婚を経て、自分自身のキャリアを見つめ、独立し自立して自分のキャリアを形成していこうと、2009年に東京中野区でダンス教室「Heart Grow Dance」を立ち上げ、現在に至る。
<フリーランスのダンスインストラクターとして大切な能力は何ですか?>
1. 一人一人を見て、ニーズを拾う力 観察力 相手を思いやる力
生徒さんの視点で考えられるか、一歩先を見た指導が出来るか、その時々に合わせて瞬時に対応出来るかが大事だと思います。レッスンはたくさんの人がいますが、上達したいのか、単純に楽しみたいのか、友達に会いたいのか、今日の気分はどうなのか、一人一人の状態や潜在的・顕在的に考えていること、反応、満足度は常に意識しています。
また、生徒さんのニーズを汲んだプログラム、生徒さんが満足できる教え方、関わり方を大事にしています。例えば、生徒さんがやりたい曲をヒアリングして振付を作ることもあります。子どもには、笑わせるようにふざけてみたり、遊びながら練習する方法にしたり、感覚でキャッチ出来るような指導をしています。一方大人は、体の動かし方のしくみや音の取り方を理屈で説明し納得してもらう必要があります。また、「面白い」「わかりやすい」といった感じ方は人それぞれなので、集団レッスンの中で、どこまで個々人に近づけるか、妥協するか、フォロー出来るか、相手に今何が必要かを出来る限り考えていますね。
2. 人を否定しないで愛せる力 多様性理解力 受容力
特に意識しているわけではありませんが、どんな人でも「オールオッケー」と思いますし、誰かを贔屓することもまずありません。子どもの場合、小さい時に「あなたでいいのよ」「今のあなたでオールオッケー」といった「今を尊重する」関わりが、成長した時の自己肯定感につながると考えているからです。大人になった時に、自分らしい人生を歩んでもらえたらいいなと思います。微力ですが、ほんの少しでも役立っていたとしたら嬉しいですね。
親御さんの関わりについても一緒です。親御さんの悩みやお話しも必要であれば伺います。これは力というより、関わることが好きといった私の性格だと思いますが。テクニックとしてキャリアカウンセラーの知識経験は活かせていると思います。
インストラクターという「人」に生徒さんが来てくださるお仕事ですし、生徒さんはこちらが思う以上に先生を見ているので、常に私自身も自分らしく、ごまかさず、どんなにふざけていても人間としての根っこの部分は真摯であること。自分軸をブラさず、良く見せようとかカッコつけずにありのままの人間性を見せていくこと、自分の状態を理解し受け入れることが基本的には大切な気がしています。
3. 自分に負けたくないと思う力 負けず嫌い 粘り強さ
地元でもなく、知り合いもいない引っ越したばかりの中野区で知名度もない私が、多い時で週に100名程のお客様を持てるようになったのは、一番は運の良さですがやはり粘り強く続けてきたことは大きいと思います。
フリーのダンスインストラクターで生計を立てるのは決してたやすいことではありません。
今はホームページなどを検索してきてくださるお客様が増えましたが、当初は区内中の掲示板に自分で貼り紙をしていました。実は知人を介すSNSでの拡散等は利用しませんでした。友人や知り合いの力を借りるのではなく、ゼロから一人で出来る限りやってみたい、挑戦したい。大変でも、諦める・妥協する=「自分の弱さに負ける」のは絶対に嫌。ご縁で助けて頂くこともあり、なんとかここまでやってきたことが今の自信にもつながっています。
余談ですが、子ども達とのかけっこや鬼ごっこも毎回本気でやりますよ。子ども達から「大人げない」と言われるほど。それも負けず嫌いのひとつなのかもしれません、笑。
<なぜダンス教室を立ち上げ、ダンスインストラクターになろうと思ったのですか?>
元々、漠然と「女社長ってかっこいい」という憧れがありました。30歳になった頃は起業ブームで、独立起業の本を読んだりセミナーに参加したりしていました。直接のきっかけは、30代前半に離婚をし、自立して生きていかなくてはならなくなったからです、笑。おままごと気分での女社長への憧れが突如現実として訪れた。
高校時代から始めたダンスはもちろんずっと好きでしたが、ミュージカル女優の道をあきらめてからは、私の中にダンスで仕事をしていくという道はありませんでした。自分の「できる仕事」として20代後半は受付や事務職など出来そうな仕事をしていました。たまたまキャリア教育会社に転職し研修講師を経験、その間に結婚もし、キャリアカウンセラー資格を2団体で取得した直後から、ネット相談の仕事をしはじめました。そして数年後に離婚。30代前半でようやく自分のキャリアにはじめて本気で考え始めました。
起業志向があったため、自分の方向性を探りながらまずはキャリアカウンセラーとしてオフィスもかまえたものの、ふとした時に「自分のカウンセリングサービスに自信を持てない」と気づきました。しかし、自信をつけるための経験と知識を付ける興味関心も持てなかったのです。
同時期に、キッズダンス教室も週2回で始めてはいたのですが、まだこの頃は模索期で、ダンスで完全に生計を立てようという腹決めは全然なかったのが正直なところです。
いつしか「お金に不自由しない“小金持ち”を目指す!」と具体的な年収を掲げたものの、その手段は漠然としていました。当時は、その年収を得るために、1ヶ月、1日、どのくらい稼げばいいのか、どうすればいいか、お金の事ばかりを考えていましたね。
コールセンター、キャリアカウンセラー、ダンス教室のインストラクター、3足の草鞋だった時もあります。どうしたら自分の力で稼げる女性になれるか悩みに悩み、改めて自分の経験や強みを棚卸し、ようやく自分が、今一番の力を発揮して、仕事にできることはダンスだな、と腹決めができたのです。組織を作るよりも今の私には個人で動く方が良さそうだとも思いました。借金する勇気も予算もなかったのも理由のひとつです。
ダンスは好きですが「ダンスを教えたいからダンスの先生」というスタートではなく、それは今でも変わりません。
ただ、生徒さんによく言われて知ったのですが、教えるのは向いているみたいです。カウンセリングの勉強や経験を通して培った一対一で人に関わる力もダンスインストラクターでは大切です。結果として、それまでの経験をすべて統合して、自分の力を活かせ、かつ好きなのがダンスのインストラクターの仕事だったのです。大人向けダンスレッスンも受講者の方が増えてきた38歳の時に、ダンスインストラクター1本に絞って活動を本格化させました。
お金を稼ぎたくて頑張ってきたところは確かにありましたが、結局はお客さんを見て、お客さんを想う方に私自身が変化していきます。私自身がダンスでやりたいことは、仕事では殆どしていません。
喜ぶ人と回数が増えたその先にお金はついてくるものなんだな、とここ数年で悟りました。レッスン料以上の価値として、プラスαの何をすれば生徒さんや親御さんに喜ばれるんだろう、っていつも考えています。人のためにどれだけ働けるか、何をできるか、何を返せるか。たくさんの人に喜んでもらえることに関われたら、私も幸せなんですよね。
ここ数年は、収支を考えるのは当然ですが、思考の大半を占めるのは、お客様をどう喜ばせるか、もっと増やすにはどうするか、です。私自身も含めみんながハッピーになれたらいいですよね。
<ダンスインストラクターはどんな仕事なのでしょうか?>
レッスン時間以外に、準備、事務作業、メール対応など様々な仕事があります。私の場合は、拠点を持たずにスタジオなどを借りているので、スタジオ手配やスケジュール調整、新しい振付の創作、インフォメーション、ブログの更新、予約制クラスもあるため出欠管理、日々の売上集計、フリーですから何から何までやります。
毎日違う振付を行うため、1週間前の振付を忘れてしまい思い出すのが一苦労です、笑。イベントや発表会が続く時期はイベント側とのやりとりや衣装探しもしますし、1週間に15クラスを超えるレッスンをする時期もあります。毎年そうした繁忙期が半年間ほど必ずありますが、朝の9時から夜の10時まで、あちこち移動しながらレッスンをするもので、毎年喉をつぶして声が出なくなります。
<一日の仕事スケジュールは?>
10:30 起床 洗濯物をする 11:30 ブランチ 食べながら新聞を読み、メールチェック。今日の予約状況やキャンセルを確認し、メール対応。 13:00 レッスン準備 新しい振付を考えたり、ブログ更新をしたりする場合も。 16:00 キッズレッスン開始 曜日によってレッスン場所は異なる 19:00 一時帰宅、軽めに夕食 移動。 20:00 大人のレッスン開始 23:00 帰宅。 メールチェック。売上集計。 2:30 就寝 |
<仕事のやりがいや面白みはどんなことですか?>
人の成長に携わらせてもらえることです。練習中はもちろん、発表会でも生徒さんのキラキラした目を見るのが嬉しいですね。
上手になったことも嬉しいけれど、内面からの輝きや成長を感じられる方がより嬉しいですね。出来なかった事がふとした瞬間出来た時の喜ぶ姿、下の子の面倒を見ている姿、個人からチームを意識出来るようになった姿、親御さんの喜ぶ姿を見られるのは、本当に嬉しい。
相手が人なので、接し方の教科書がありません。あっちでは上手くいってもこっちではどうも上手くいかない。色々と挑戦したがる人もいれば、尻込みする人もいる。反応は十人十色です。時に寄り添い、時にハッパをかけ、時に一歩前先を見据えて提示する。答えのない世界を経験と共に手探りで進んでいくのが、難しくもありやりがいで、面白いと感じます。
<一番嬉しかった経験は何ですか?>
人の成長や喜びに関わる小さな嬉しさは日々あり、どれも等しく嬉しいのですが、ひとつ思い出したのは、数年前、企業の創立記念パーティーで社員さんがダンスを披露するため2ヶ月程レッスンに携わった時のことです。ある女性はダンスに憧れていていたけど、絶対出来ないと思っていたそうです。彼女は一生懸命練習してどんどん変化していき、最後のレッスン日に泣きながらお礼を言ってくださいました。嬉しい以上に「良かったね、頑張ったね、ひとつ出来ることが増えたね」と思ったことがあります。
<一番大変だった経験は何ですか?>
これは堪えるというのは言えないのですが、笑。単純に「量」です。発表が重なる時期は、1週間に何曲ものダンスを行います。さらに振付を覚える仕事もあり、休日もなく頭も疲労困憊。疲れているのに朝まで仕事量のストレスで寝られないことが忙しい時に限って結構あります。疲れてやる気が起きなくても創らなくてはならない。お仕事があるありがたみは忘れませんが、大変ですね、笑。
嬉しいことも、辛いことも、お客様という「ヒト」が関わるため口外も出来ず、個人事業なので喜びも悩みも共有できず、何事も一人で抱えるのはしんどいなぁと思います。最近は慣れましたけど。そうした精神的な強さも独立する上では必要なのだと思います。
<ダンスインストラクターの仕事の未来はどうなっていくと思いますか?>
世界中で小さな子どもからご年配の方まで親しまれるダンスですから、インストラクターはなくならないと思います。上達したいなら指導者に直接教えてもらうのが最善かつ最短と思う一方で、動画でのレッスンや振付は今でもありますし、今後はロボットや仮想キャラクターが指導することもあるかもしれませんね。私は人との触れ合いや関わりを一番大切にしているので、現状のまましばらくは続けますが、時代に合わせてニーズも変化するのではないでしょうか。
<今の仕事と同じように向いていそうな仕事はありますか?>
研修講師はとても楽しく、継続するご縁はありませんでしたが一生続けても良いと思える仕事でした。接客やお世話をする仕事は向いていそうですが、経験があるだけで好きではないです。人に影響を与える仕事、自分が主役でいられる仕事、新しい何かを創造すること、そういった仕事の方が私自身ワクワクしますね。
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キャリアカウンセラー舛廣純子の シゴトのチカラ考察
ダンスインストラクターに必要な力を想定した時、「指導力」とか、体形や体調を維持するための「自己管理能力」、ダンスレッスンを作る「創造力」そんな力があがってくるのかな、と勝手に想像していましたが、ゼロベースからフリーランスとしてダンスインストラクターを始めた金城さんが挙げた力はどれも「なるほど」とうなるものでした。
お客様を増やしていくためには、やってやるという「自分には負けたくないと思う力」や成功するまでやり続けた「粘り強さ」が大事でしょうし、お客様をみて満足させようという「一人一人を見てニーズを拾う力」がなければお客様は増えもしなかったし、離れて行ってしまった人もいたかもしれません。また、大手スクールと同じことをしても勝てるはずがないと考えた時に彼女が考えたのが「私らしさを大事にして、私という人間性を打ちだしていこう」というものであり、だからこそ彼女は「人を否定しないで愛せる力=彼女の人間性の根幹」を大事な力としてあげました。
フリーランスで仕事をしていくということは、彼女のように何が自分の強みで自分にとって何が大事なのかをしっかりとらえる「自己理解力」がとても大事なのだなとも強く感じたインタビューでした。同じダンスインストラクターでも、スクールに所属しているインストラクターの方なら、また違った強みが出てくるのかもしれません。
事務の仕事で磨いた「事務処理能力」「マルチタスク能力」、受付の仕事で磨いた「親和性」「観察力」、研修講師として磨いた「指導力」「創造力」、キャリアカウンセラーとして磨いた「傾聴力」「受容力」「共感力」「多様性理解力」、彼女の今までの経験と能力を統合して、その上で自分らしさを大事にしているからこそ、今フリーランスのダンスインストラクターをしている彼女がとても輝いているのではないかと私には感じられました。
(次回もお楽しみに。毎月2回、第2第4月曜更新です)
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PEOPLE 04 舛廣純子(キャリアカウンセラー)
「就職は子育ての最終章。就活生の親に読んで欲しい本を出版」