TOOLS 89 「期待外れ」を無くす整理術 / 磯村幸太(ビジネスコンサルタント)

他者の行動をコントロールできないことは、誰もが分かっています。分かっているはずなのに、なぜ自分たちの期待を押し付けてしまうのでしょうか?それは逆説的ですが、私たち自身が他者の期待に応えようとして生きているからです。他者からの評価を得たいがために
「期待外れ」を無くす整理術
磯村 幸太  ( ビジネスプロセスコンサルタント )

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自由に生きるために
自分で変えられることに集中しよう


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なぜあの人は、期待に応えてくれないのか? 

 

「いくら指導しても、後輩が言う通りに仕事をしない」
「友達がなかなかメールを返してくれない」
「子供が全然勉強してくれない」…

私たちは普段、周りの人たちにいろいろな期待を持ちます。例えば自分の成果に対して評価してもらうこと、他人に優しく対応してもらうこと、自分も助けたから他人も助けてくれると思うこと。

しかし必ずしも他者は、自分の期待通りに行動してくれるとは限りません。そして私たちは他者の行動が、自分の期待通りにならないことに不満を抱き、「なぜあの人は、私の期待に応えてくれないの?」と嘆きます。

その答えは簡単で、「あの人は自分ではない」からです。そんな当たり前のこと、言われなくても分かっていますよね。私たちは、自分が他者の行動を完全にコントロールできないことくらいは分かっています。

分かっているはずなのに、それでも他者に期待し、思い通りにならないことに対して不満を抱きます。自分の期待が満足されないと、今度はより強く、他者が期待に応えることに執着していきます。

何とかしてこの「期待する」→「期待が外れる」→「不満を抱く」→「より強く期待する」→ … という負のスパイラルから抜け出して、さっぱりと生きていきたいものです。

 

期待を裏切られた話「バイトを紹介してくれなかった知人」

私は学生時代、1年間大学を休学して海外放浪の旅をしていました。その準備として、必死に旅の資金を貯めていた頃のお話です。旅の資金150万円を10ヶ月で用意することは学生だった私にはとても困難な課題でした。1日2時間の睡眠で、昼も夜も必死に働いていました。

そんな時、いつもお世話になっている知人から時給の高いバイトがあると話を聞きました。私はすぐに、ぜひやりたいと申し出ると、世話焼きな彼は「自分がバイト先に紹介してあげるよ」と引き受けてくれました。ちょうど旅の出発までに必要なお金を貯めるのが難しくなってきていた状況だったので、彼に感謝し、期待していました。

しかしそれから1ヶ月以上経っても、彼から何の連絡もありません。私はそのアルバイトをあてにしていたので、焦りました。彼に会いに行ってみると、「その話は無かったことにしてほしい」と断られてしまいました。「あのバイトができないせいで、旅の資金が貯められない」と思い、私は彼に失望しました。普段からとても尊敬していた人だった分、その反動が大きかったのだと思います。 それからしばらくの間、私は彼に会うことを避けるようになってしまいました。

後になって振り返ってみると、彼に対する失望は、私が勝手に作り出した期待のせいだと分かりました。たしかに彼は自身の提案を実現しませんでしたが、そもそも「旅の資金を貯める」ことは、彼の課題ではなく、私の課題です。最終的には私が責任を負うべき問題であって、彼を責めるのはお門違いでした。

当たり前のことですが、「本来自分の課題であることは、自分自身で解決すべきだ」と痛感しました。さらに逆に言うと、「本来他者の課題であることは、自分は手助けはできても、最終的には他者自身が解決するべき。だから自分も他者の課題にむやみに介入して期待を押し付けるべきではない」ということも学ぶことができました。

 

「自分の課題」と「あなたの課題」を分けよう

 

本来、自分がどう行動するかは自分の課題です。同じように、他者がどう行動するかは、他者の課題です。決めるのはその人自身であり、その結果責任を負うのもその人自身です。自身以外がその領域に土足で入っていくことはできません。私たちは他者の課題に対して手助けや励ましはできますが、結果を求めて介入することはできません。

逆に自分の行動が他者の期待に答えられないとき、他者は自分の行動に介入してくるかもしれません。多くの場合、そのような状況は何かしらのトラブルを引き起こします。

自分の行動は自分の課題、他者の行動は他者の課題と区分した上で、自分が取り組むことができる課題に集中しましょう。ベストセラー「嫌われる勇気」(岸見一郎 著)で注目を集めたアドラー心理学では、このような考え方を「課題の分離」と呼んでいます。

他者が自分の期待に応えてくれなくてイライラしたとき、「そもそもこれは、誰の課題?」と問いかけてみてください。そもそも自分が介入すべきではない「おせっかい」をしているだけかもしれません。

 

なぜ他者に期待してしまうのか? 「他者に自分の人生を捧げないで」

 

私たちは他者の行動をコントロールできないことは、誰もが分かっています。分かっているはずなのに、なぜ自分たちの期待を押し付けてしまうのでしょうか?

それは逆説的ですが、私たち自身が他者の期待に応えようとして生きているからです。他者からの評価を得たいがために、他者の満足がいくように行動しようとします。自分が常にそのように行動するからこそ、私たちは他者にも自分の期待通りに生きて欲しいと執着するようになります。

他人に期待することを辞めるには、どうすればいいのでしょうか?それは、他者から評価されたいと思う気持ちを捨てて、他者の期待に沿って生きることを辞めることです。そのようになるために、自分を他者に認めてもらうのではなく、自分自身の価値基準で自分を評価できるようになりたいものです。

現実的に考えると、自分を取り巻く多くの他者の期待を同時に満たすことはほぼ不可能と言えます。誰かの期待に応えようとすると、他の誰かの期待を裏切ることになります。そんなジレンマに苛まれて、私たちは思い悩みます。そうやっていると、他者に自分の人生を捧げてしまっています。どうせ悩むのなら、自分の望みを叶えるために思い悩みたいですね。

 

自分で変えられることに集中する

 

経営戦略の考え方で、「選択と集中」という言葉があります。売上拡大のために得意分野も不得意分野も、何でも自社で手がけるのではなく、限られた経営資源を得意分野に集中させる考え方です。この考え方は、個人においても言えることだと思います。限られた時間とキャパシティを使うならば、自分がより幸せになれる所にフォーカスしたいものです。

繰り返しになりますが、他者の行動はコントロールすることはできません。変えられないことに執着しても良い結果は生まれず、逆に不満を募らせていくだけです。一方で、自分の行動は自分でコントロールできます。自分で変えられることに集中することで、他者に不満を募らせていただけでは考えつかなかったような打開策も出てきます。

そして同じように、「期待しがちだけど、変えられないこと」に「未来」があります。未来は「期待しているだけでは」変わりません。変えられるのは「現在」だけです。現在の行動を変えることで初めて、未来も変わっていきます。「○○年後には、××していたい」と期待だけするのではなく、「そのために今△△しよう」と考え「現在」を変えていきます。

「未来」や「他者」ではなく、「現在」の「自分」にフォーカスしましょう。これは、他者や未来のことを諦めてしまう甘えた考えに聞こえるかもしれません。しかし「望みを実現できるのは、今の自分の行動しかない」という意味で、実は逃げ場を作れない厳しい考え方だと言えます。

あなたが期待や執着から解放されて、さっぱりとした気持ちで生活できるヒントになれば幸いです。

 

 

「期待外れ」を無くす整理術
1. 自分の課題と他者の課題を分別する
2. 他者から評価されたい気持ちを捨てる
3. 他者への期待を捨てて、自分が変えられることに集中する

 

PHOTO:Pablo Peiker


磯村幸太

磯村幸太

磯村幸太(いそむらこうた)ビジネスプロセスコンサルタント。愛知県瀬戸市生まれ。一橋大学商学部卒業。あらゆるものを整理整頓して、さっぱりと生きている”さっぱりすと”。世界40カ国放浪の旅の経験をもとに、人生を整理整頓する「幸せの仕組み」を探求している。ブログ「さっぱりと生きる」