ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第35話】安定している時期だからこそ、未来に種をまくこと

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。少女の後ろ姿は今もはっきりと覚えています。彼女を思い出すのと一緒に「私はどれだけ一生懸命やれてるかな」という思いが湧いてきますし、そのたびいつも自分が恥ずかしいように思えて、毎回ちょっとだけ落ち込みます。安定しているように見える
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第35話  安定している時期だからこそ、未来にをまくこと   

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こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。

あっという間に2017年が終わり、もう次の新しい年、2018年の幕開けです。

年末年始はひとつの節目ですから、やはり自分たちを振り返ってしまうもの。「がんばったな」と思う部分もあれば「もっとできたことがあるのでは」と反省する部分もありますが、最近とみに感じるのは「どうすれば成長し続けていけるのだろうか」ということです。
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あぐらをかくには まだ早いぞ、
という焦りと戦う

自分たちなりに商品を作ったり輸入したりして、アトリエショップでお客様と話し、イベントにも出ていろんな方に見てもらう。そしてときどき新作をリリースする。ここ数年はそれを繰り返し、安定した流れができてきたように思います。でも同時に「これを繰り返すだけでもダメだぞ」という思いをずっと抱えていました。

というのも、「安定した流れをキープする」ということをラクラクやれているか、というとそうではありません。何度も来ていただくお客様にとってつまらなくならないか、と新商品を考えてみたり、ディスプレイを変えてみたり。それでも繰り返すうち経験値が高まってくるので、商品の動きに対して「たぶんこんな感じになるのでは」と見通しがつくようになってきます。それは努力の結果であり、よいことでもあるのですが、悪い意味では少し緊張感が減るようにも感じられます。

作りたくて作っていない物もたくさんあるし、もっと頻繁に買いつけに行けるような体制づくりもしたい。やりたいことや課題はまだまだたくさんある以上、どんどん新しいチャレンジをしたい。それなのに、リズムをこなしていくことに力を使ってしまい、新しいことに対しちょっと腰が重くなっているような、そんな危機感がいつもあった一年でした。

 

先日の『テラデマルシェ』でお目見えした新作のポットカバー。モン族の衣装に使うろうけつ染めの藍布をはじめ、少数民族の衣装の生地をあちこちに使っています。

先日の『テラデマルシェ』でお目見えした新作のポットカバー。モン族の衣装に使うろうけつ染めの藍布をはじめ、少数民族の衣装の生地をあちこちに使っています。

日々が安定しているときこそ、先を見すえて種をまかなくては。そういう危機感を感じるとき、いつも思い出す出来事があります。それはベトナムの北部の街サパに買いつけに行ったときに出会ったモン族の少女のことです。

     
 目先の「売る」より
もっと先を考えていた
モン族の少女 

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サパは高原にある避暑地で、決して大きい街ではありません。しかし少数民族との出会いを目当てに多くの観光客が訪れるところです。街の中心部には小さな市場があり、そこにはモン族やザオ族の女性たちが手仕事を販売する常設の店舗が集まっています。私たちのような外国人が中に入ると商品を片手にした女性たちが口々に「マダム、バイフォーミー(買って!)」と言いながらワッと押し寄せてきます。  

広場には物売りの女性がたくさん集まっています。藍色の衣装を着ているのは黒モン族の女性たちです。

広場には物売りの女性がたくさん集まっています。藍色の衣装を着ているのは黒モン族の女性たちです。

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彼らが扱う商品の内容は雑多で、自分たちでチクチクと作って店に並べている人もいれば、少数民族が作ったのかどうかも分からない“それっぽいもの”を仕入れて観光客に売りつける人もいて、私たちは伸びてくる手をよけながらその中を歩き、良さそうなものを探すのです。

そんなとき、ある奥まったお店にとても丁寧な刺繍のパーツが並んでいました。目の前にいる老婦人が作っているようですが、外国人が苦手なのか恥ずかしいのか、あまり目も合わせず、口も開こうとしません。「これはいくらですか?」と英語で聞くと、言葉が分からないのか困ったような顔をしています。身振り手振りで、これが何枚ほしいのだ、と伝えて計算機を渡すと、ビックリするような安い値段を提示して、持って行けというばかりにこちらに手をふりました。

え? たしかに何枚も買うんだけど、いくらなんでも安すぎない? そんな気持ちでいると、横からサッと少女が現れて老婦人に対してちょっと怒ったようにワーッと何かを言いました。そしてサッと彼女の手から計算機を取り、パパッと数字を打ち直してこちらに渡し「ディス プライス(この値段)」と提示しました。少女は孫娘なのでしょうか? 安く売ろうとしたおばあちゃんに対し、その後も何か文句を言っています。

少女の出した価格は適正な値段だと感じたのですが、最初よりも値段が高くなったのを見ていた横の店の女性が「チープ、チープ(うちならもっと安いよ)」、と言いながら手元の布を差し出そうとしました。すると少女はその女性に対してもワッと食ってかかって、何やら話した後にやはり計算機を手に「ディス プライス(この値段)」と同じ値段を提示したのです。

あまりにしっかりした様子に感心して話しかけると、とても流ちょうな英語を話します。「ここに来る人たちにとってはこの値段だって安いでしょう?」と少女は堂々と言いました。

「おばあちゃんたちはね、今日のお金のことしか考えないから、売るために何でもすぐ安くしちゃうの。でもあれを作るのにどれだけ時間がかかるか分かる? それをみんなで安くしちゃったら損をするでしょ? だからちゃんとみんなで値段を決めたほうがいいの。これからはあなたもさっきの値段で買ってね」

 

安定しているときこそ先を見る。
できそうでできない、そこが歯がゆい

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その賢くしっかりした彼女がすっかり好きになり、私たちはそこで刺繍布を購入し、その後も彼女とお話をして過ごしました。10歳だという彼女の驚くべき英語力は、すべてこの市場に来る観光客と話すことで覚えたのだそうです。

「あと5年くらいしたら多分、誰かと結婚してお母さんになってるんだと思う。だから今からでも少しずつ多くお金を稼げるようにしたほうがいいでしょ?」

15歳と言えば、日本なら中学生である年齢です。でもここで出会う女性たちの多くは16や17歳でも子どもを背負い、物を売りに来て生計を立てています。小さな彼女は自分に訪れるこれからの出来事を見すえて、今日・明日の食事のことより、未来のこれからを考えて行動を起こしていたのです。

「学校に行ってるの?」と聞くと、午前中だけ行っている、と言います。「勉強はきらいじゃないけど、畑の手伝いがあるから」とぶっきらぼうに答える姿を見ていると、外から来た人間の勝手な思いと分かりながら、こんな賢い子が学校で好きなだけ勉強を続けられたらどうなるのだろう、という思いが頭をよぎりました。

「明日もいるから、また買い物に来てね!」と手を振りながら、泥まみれの道を帰っていった少女の後ろ姿は、今もはっきりと覚えています。彼女を思い出すのと一緒に、「私はどれだけ一生懸命やれてるかな」という思いが湧いてきますし、そのたびいつも自分が恥ずかしいように思えて、毎回ちょっとだけ落ち込みます。

安定しているように見える時こそ、先に向かって種をまく。分かってはいるものの、ついつい日々に流されて時間だけが過ぎていく。そんな歯がゆさを味わった2017年でした。一年の計は元旦にあり、と言いますが、自分たちのがんばった部分も認めつつ、同時に「まだまだこれから!」という気持ちを忘れないようにして、新しい一年を過ごしていきたいと思います。

皆さんにとっても2018年がかけがえのない年になりますように!

次回もちいさなお店からのお話をお届けしますね。どうぞお楽しみに!

(月1回 第4土曜日更新です)    

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 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>(2015.11.14)
第13話 お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。(2015.11.28)
第14話 美しいものよ、輝け!お母さんとの約束。(2015.12.12)
第15話 生産者さんを訪ねて <鳥の笛ネックレス編(2016.1.14)
第16話 生産者さんを訪ねて <アカ族の村編(2016.1.30)
第17話 始まった… 年に一度の確定申告(2016.2.13)
第18話 手仕事は同じじゃないから美しい~『ORDINARY』とコラボグッズを作ったこと(2016.3.11)
第19話 生産者さんを訪ねて<カレン族の村編>(2016.5.21)
第20話 生産者さんを訪ねて<ラフ族の村編>(2016.6.18)
第21話 夫婦で働きながら、煮詰まったときにしていること。(2016.7.20)
第22話 おしゃれに見せるって難しい! イベントのディスプレイで四苦八苦。(2016.8.26).
第23話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪前編≫(2016.8.26)
第24話 ちいさなお店がイベントに出ることQ&A ≪後編≫(2016.11.26)
第25話 ちいさなお店がイベントに出た1年を振りかえる(2016.12.24)
第26話 ちいさなお店の海外買い付け① 買い付け方法と情報集め(2017.01.30)
第27話 ちいさなお店の海外買い付け②航空券の準備 (2017.02.28)
第28話 ちいさなお店の海外買い付け③スケジュール決め&宿探しのパズル (2017.03.31)
第29話 ちいさなお店の海外買い付け④アイテム探しと値段交渉 (2017.04.30)
第30話 ちいさなお店の海外買い付け⑤価格はどう設定するか(2017.06.05)
第31話 寝台特急は楽しい出会いの宝庫(2017.06.25)
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第32話 オリジナル商品ってどう作るの?(2017.07.29)
第33話 成長し続けていくために考えること(2017.09.30)
第34話 ちいさなお店の意見の違い、どう乗越える?(2017.11.04) . 
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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!  

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/