旅って面白いの?【第30話】ミラノ EXPO 2015 レポート – 日本パビリオンに翻弄された2日間 – (イタリア)

「旅って面白いの?」

「ただ物価が高いだけじゃないんだぞ。見たか、これが日本だ! 」思わず叫び出したくなるらい、日本という国を心から誇らしく感じた。このパビリオンを完成させるのに、どれくらい多くの人が関わっていて、どれくらいの時間とお金と労力を費やしているのか。各分野の知の結晶をそこに見た想いがした。

連載「旅って面白いの?」とは  【毎週水曜更新】
世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。

 

第30話  ミラノEXPO 2015 レポート – 日本パビリオンに翻弄された2日間 – 〈イタリア〉 

TEXT & PHOTO 小林圭子

 

 

皆さん、こんにちは。いつも連載を読んでくださって、ありがとうございます。連載ではまだタイのチェンマイですが、実際の旅はいろいろありつつもなんとか順調に進み、この夏はヨーロッパをメインにまわっています。そして今月12日(水)、現在開催中の『ミラノ国際博覧会( EXPO MILANO 2015 )』に行ってきましたので、今回はその模様をレポートしたいと思います。ただ、ここに記載することは、あくまで私の独断と偏見に基づきますので、ご了承ください(笑)。

 

『ミラノ国際博覧会( EXPO MILANO 2015 )』
・テーマ: ”地球に食料を、生命にエネルギーを”
・開催地:イタリア ミラノ
・期間:2015年5月1日~10月31日
その他、詳細は下記をご覧ください。
・イタリア政府観光局ホームページ: http://visitaly.jp/expo-milano-2015
・日本館ホームページ: https://www.expo2015.jp

 

 

 生まれて初めての万博はミラノ!
エキスパートの友人に連れられて
ひょんなことからレッツゴー
 

.

実はこれまで私は一度も万博というものに行ったことがなかった。2005年の愛知万博も、当時住んでいた大阪からだと1時間程度で行けるにも関わらず、あまり興味がなかった。むしろ、「わざわざ人が多いところに行くなんて…」と避けていたほど。そんな私が、今回なぜミラノ万博に行くことになったかと言うと、スイス人の友人クリスティーナが万博スタッフとしてミラノに滞在していたから、というのが主な理由。

「EXPO 行きたい?」

彼女に聞かれ、お調子者の私は万博がどんなものかよくわかっていないにも関わらず、つい

「行きたい、行きたい! 」

と答えてしまったのだった(笑)。きっと彼女がいなかったら万博に行くことはなかったかもしれない。そう思うと、これもまた何かの縁だな、と思ったり。おかげでとても楽しませてもらったし、何より会場に知っている人がいる、というのはかなり心強い。そして下調べも何もしていない私としては、いろんな情報をもらえるのが何よりもありがたかった。

もちろん、彼女はスタッフだからと言って、全てのパビリオンについて知っているわけではない。仕事の合間にちょっと覗きに行ったりするくらいなので、全部で150以上あるパビリオンのうち、彼女自身、まだ10コくらいしか行けていない、とのことだった。

「1日だとたぶん10〜15コくらいしか行けないと思うよ。特に8月はこれまでよりもお客さんが多いし。混み具合とか並び具合にもよるけどね」

そんな彼女のオススメのパビリオンは、ポーランド、エクアドル、カザフスタン、韓国、ブラジル、モロッコと、そしてもちろん彼女の母国スイス、の7つ。この中で、カザフスタンは2017年に万博開催が決定しており、またUAEも2020年に万博が開催される予定。そういう意味では、この2ヶ国は今回の万博には相当力が入っているだろうから、見ておいても良いかも、とのこと。そういえば、5月にドバイを訪れた際、街のいろんなところで万博のポスターやら何やらを見かけたのを思い出した。

その他に、いくつかの国が共同で運営している「コーヒー」や「チョコレート」、「ライス」のパビリオンもおもしろいよ、と。ふむふむ、なるほど、なるほど…。また、チョコレートを愛する私に、

「チョコレートパビリオンで売っているチョコレートアイスはここで作られていて、すごくフレッシュだから絶対食べてね! 」

と取っておきの情報を教えてくれた。

逆に、

「イタリアパビリオンだけは絶対行っちゃダメよ。単に全面に鏡が張り巡らされてるだけで、他に特別なことは何もなくて、とてもつまらないから。ケイコ、時間を無駄にしちゃダメよ」

と、開催国イタリアに対してはかなり毒舌な評価だった(笑)。実際のところ、イタリアパビリオンはとても人気があり、連日、たくさんの人が並んでいる。だけど、彼女のアドバイスもあり、結局、私は行かなかった。逆にどんなものか見てみたい気もしたけれど、炎天下の中、わざわざ並ぶのもなぁ… と思ったので。

 

 

 まずはやっぱり日本パビリオン
…と思ったら
まさかの待ち時間3時間!? 

 

パビリオンは朝10時開場。私たちもそれに間に合うように、家を出た。まず向かったのは、私の希望もあって、日本パビリオン。せっかく来たからには、我が祖国・日本がどんなふうに日本の食文化を世界に発信しているのか知りたかったし、自分の目で見てみたかった。クリスティーナも日本パビリオンはまだ入ったことがなく、ちょうど良い機会と言うことで、一緒に行くことに。

日本パビリオンは東出入口の近く。南出入口から入った私たちは楽しくおしゃべりしながら、足取り軽く、そっちに向かって歩いた。私は会場のいかにも楽しげな雰囲気に少し圧倒されつつ、ディズニーランドに来たときのようなワクワクした高揚感を抑えきれずにいた。「あー、やっぱり来て良かったなー! 楽しいなー! 」と暢気に歩いていた私に、クリスティーナがいきなりビックリしたように大きな声を出した。

「ケイコ、あれ見て! 日本パビリオン! すごい人! 」

確かに遠目で見ても、もう列ができているのがわかる…。小走りで近づいて看板を見てみると、『ただいまの待ち時間、3時間』と…。

「3時間!? 信じられない!! 今、まだ10時10分よ! 」

腕時計を指差して驚く彼女。スタッフの彼女がこんなに驚くくらいだから、この状況は尋常ではないのだろう。確かに他のパビリオンはまだ人がまばらで、列ができているところなどひとつもない。日本パビリオンだけがそんな状況なのだ。これは一体どうしたことだろう。

行列の日本パビリオン。開場10分後の様子。この人気ぶりには本当にビックリした(笑)

行列の日本パビリオン。開場10分後の様子。この人気ぶりには本当にビックリした(笑)

「日本てそんなに注目されているの…? 人気があるの…? 」

私も正直驚きを隠せず、どうやったらたった10分間で3時間分もの人が並ぶのか、むしろそこに興味を覚えた。この人たち全員、ゲートが開くと同時に、日本パビリオン目がけて走ってきたのかなぁ… なんて想像すると、ちょっとおかしかった。

彼女は仕事があるし、私も今日しかないのにここで3時間も使うのはイヤだったので、日本パビリオンはとっとと諦めることに。

 

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 「色」で表現のモロッコパビリオン
旅行前のイメージトレーニングはこれでバッチリ!  

 

「ケイコ、ごめんねー」

本当に申し訳なさそうに謝るクリスティーナ。だけど、別に彼女が悪いわけではない。まさか、開始10分で日本パビリオンにものすごい行列ができているなんて、全く想像できなかったのだから。私たちは代わりに彼女がオススメするモロッコのパビリオンに一緒に行くことにした。

モロッコのパビリオンは何種類もの植物や果物が色鮮やかに展示されていて、南国をイメージさせる。パビリオンとしてはわりとシンプルだけど、「色」で食を表現していて、緑の木々、赤いフルーツ、そして青い海と褐色の砂漠。「あー、モロッコ行きたい! 」と思わずにはいられないほどに、美しい空間に彩られていた。クリスティーナが好きだと言うのも納得。

また、グッズ売り場にはタジン鍋やオリーブオイル、香辛料、キャンドルや雑貨類、基礎化粧品などいろんなものが販売されていて、思わず財布の紐が緩みそうになったけれど、もともとヨーロッパの後にモロッコを訪れようと思っていたので、ここで買うのはガマンガマン…。

そして、パビリオンの外にある、これまた南国風カフェでクリスティーナとモロッコ名物ミントティーを飲み、後で一緒にランチをする約束をして、彼女とはいったんここで別れた。

 

モロッコパビリオンにて。ひとつめに入ったのはモロッコ! 色鮮やかで美しいパビリオンだった

クリスティーナとモロッコパビリオンにて。ひとつめに入ったのはモロッコ! 色鮮やかで美しいパビリオンだった

 

 

 無料サンプルにポストカード
さらには無料ワークショップまで
どこまでもお客さん想いのスイスパビリオン 

 

いくつかのパビリオンやライブ演奏を見て、チョコレートアイスを食べた後、そろそろランチの時間になったので、私はクリスティーナがいるスイスパビリオンに向かった。彼女はパビリオンの下で私が来るのを待ってくれていた。

「ケイコ、まだスイスのパビリオン見てないよね? せっかくだし、私が案内するから、行きましょ! 」

と私を中へ誘う。スイスパビリオンのスタッフに直接案内してもらえるなんて、なんとも贅沢。

まずはたくさんの風景写真のパネルが展示されている部屋へ。手元のレバーを引き上げると水が流れ落ちてきて、パネルにライトが付く、という水力発電の仕組み(?)が使われていた。実はミラノ入りする直前、私はちょうどスイスのジュネーブに滞在していたので、そこで見た美しいアルプスの山々がここで展示されている写真と重なってフラッシュバックされる。クリスティーナの説明を、「あー、スイスは東部も北部も、どこもかしこもホントにキレイだなー。次回は他の都市もいろいろ回ってみよう」なんて夢見心地で聞いていた。

他にもスイスの高い技術力をうかがわせる、理科の実験室みたいな部屋があったり、スイスで作られているリンゴやコーヒー、塩が展示されている部屋もあった。ちなみに、これらは無料サンプルが配られていたんだけれど、食品サンプルやポストカードを無料で配っていたのは、私が見た限りでは、このスイスパビリオンだけだった。

また夕方にはチョコレートをカカオから作る、という無料ワークショップがあり、これにも参加させてもらったんだけど、お客さんが参加できるワークショップをやっていたのもおそらくスイスパビリオンだけだと思う。そういう意味では、一番、お客さん想いだった国は、スイスかもしれない。

スイスパビリオンのWEBサイトに掲載
スイスのコミュニケーション担当者から簡単なインタビューを受けました。イタリア語がわかる方はぜひ読んでみてください。私はページの一番下に登場します。まぁ、たいしたこと言ってませんが…笑。

 

 

 お昼は日本館のレストランで
その値段にビックリ仰天
そりゃ「日本は物価が高い」わ…  

 

「ケイコ、お昼ごはんは何を食べたい? 」

各国のパビリオンが揃っているわけだから、どこの国の料理でも食べられる、というなんとも贅沢な状況。本当だったら選びたい放題で迷ってしまうところだけど、実は初めから日本食を食べる、と決めていた。というのも、もともとクリスティーナから「日本パビリオンのレストラン、おいしかったよ」と聞いていたし、パビリオンに入れなかったからせめてレストランくらいは味わっておきたい、と思い。

「日本食が食べたいんだけど良いかな? 」

と聞くと、クリスティーナはじめ、他のメンバーも

「もちろん! 行こう、行こう! 」

と快く、私の希望を受け入れてくれた。

海外にもたくさん日本食レストランはあるけれど、結構当たり外れがあって、「いやいや、これ、日本食じゃないから! 」みたいな偽物日本食もわりと多い。なので、日本人シェフが作る、ちゃんとした日本食は食べられるときに食べておかないと! ね。

さて、そんな楽しみにしていた日本食レストラン。パビリオンが人気なだけあって、レストランの方も席は全部埋まっていて、券売機にも列ができるくらい大盛況だった。だけど、お客さんの回転が早かったので、それほど待たずにチケットを買うことができた。5店舗のお店が出店していて、本格派懐石、天ぷら&そば、すき焼き、寿司、カレーなどなど、どれもおいしそうだった。

「おー! すき焼き! すき焼きにしよう! 」と思ったのも束の間、ビックリするのはその値段設定。35ユーロ(4865円)から40ユーロ(5560円)は平気でかかる。めちゃくちゃ食べたかったけれど、さすがにランチにそんなには出せない…。泣く泣く20ユーロ(2780円)の天丼を食べることに。20ユーロの天丼だってハッキリ言ってめっちゃ高い。だけど懐石も寿司もやっぱりお高くて、この中では一番安いカレーでも12ユーロ(1668円)もした。どんだけ高級天丼に高級カレーなんだ…。私が見た中では、各国の中でこの日本食レストランが一番値段が高かった。そして正直、この値段設定には疑問を感じてしまう。
※編集部注:1ユーロ=139円換算

 

お昼に食べた高級天丼。日本で食べる天丼の味に、日本食がますます恋しく感じられた。おいしかったけれど高い!(涙)

お昼に食べた高級天丼。日本で食べる天丼の味に、日本食がますます恋しく感じられた。おいしかったけれど高い! 2780円(涙)

よくホステルやゲストハウスで一緒になった外国人に「日本から来ました」と自己紹介すると、

「おー、ジャパン! 行きたいけど物価が高くて行けないんだよねー」
「東京って世界の中でも桁違いで物価が高いんでしょ? 」

なんて言われることが頻繁にある。私からしてみれば、よっぽど北欧やスイス、オーストラリア、ドバイの方が高いと思うけれど、世界中で『日本は物価が高い』というイメージがもう定着してしまっている。「こんな値段にするから、『やっぱり日本は物価が高い』と思われるんだ! まったく… 」となぜかちょっと腹立たしささえ感じてしまった。味の方は天丼も、ひとくち味見させてもらったカレーも、まぁ確かに美味しかったけれど…。

 

 

 他国のパビリオンはどんなかなー?
その内容を一挙紹介  

 

ここで、その他、訪れた各国のパビリオンの印象と評価を簡単に。

スロベニア: あまりお客さんが並んでいなかったので、とりあえずすぐ入れるところに入ろう、と入ってみた。塩と蜂蜜、ミネラル水の紹介をしていた。それほど見所があるわけでもなく5分で終了(笑)。

ポーランド: 入り口の階段を上がっていくと、そこには素敵な花や木々でいっぱいの庭園が広がっている。砂漠の中のオアシスのようで、ほっと癒される空間。クリスティーナがオススメと言うだけのことはある。館内の食品に関する展示はそれほど多くはないけれど、ポーランドの歴史を紹介する「CINEMA 3D」の上映が素晴らしかった。過去1000年を10分程でまとめていて、見応え十分。「絶対ポーランドには行こう! 」と思わされる内容だった。

アルゼンチン: 少し並んだけれど、わりとすんなり入れた。特に何があるわけでもなく、壁に海の映像などを映し出しているだけ…。パビリオンを見る時間よりも並んでいる時間の方が長かった。クリスティーナがイタリアパビリオンについて「時間の無駄」と言っていたけれど、ここも同じような感じかも…。

韓国: 最新の映像技術を駆使しているので、一瞬、「おっ! 」と思わされるけれど、だんだん奇をてらいすぎている感じがした。「バランスが大事」というメッセージを掲げていたけれど、それも正直、あまり伝わってこず…。もっと韓国料理の紹介なんかを入れれば良かったのに…。

ネパール: ここはどうしても見たかった。と言うのも、4月の大地震の後、ネパール国内が今どんな状況なのか、ずっと気になっていたから。地震後すぐの万博開催ということで、準備も思うように進まなかったんじゃないかと思うけれど、ネパールの素朴さがにじみ出ていて良かった。音楽や仏像から、3月に訪れたときの感覚が思い出されて、ちょっと泣きそうになった。

ネパールパビリオン。3月に訪れたときの様子が思い出された。お客さんも結構入っていたし、募金もたくさん集まっていて、なんだか自分のことのように嬉しかった

ネパールパビリオン。3月に訪れたときの様子が思い出された。お客さんも結構入っていたし、募金もたくさん集まっていて、なんだか自分のことのように嬉しかった

アイルランド: あまり列もできておらず、内容もそれほどたいしたことない感じ… 苦笑。牧場の様子を映像で流したりしていたけれど、もっと他にもいろいろできたんじゃないかと思う。

リトアニア: それほど特別な感じはしないけれど、影絵の展示があったり、白い雪? 花? のイラストをたくさん壁に散らばせていて、北欧の国らしくかわいらしい感じ。

イスラエル: 個人的にここはかなりオススメ。イスラエルの農業の発展を映像で紹介しているんだけど、この国の豊かさとポテンシャルの高さをひしひしと感じる。また、イスラエルが農業を通じて他の国々と繋がっている様子がわかるのも、とても興味深い。これまで宗教的な観点でイスラエルは絶対行きたい! と思っていたけれど、それだけじゃない魅力を知って、ますます行ってみたくなった。

トゥルクメニスタン: 万博のテーマである「食」とは全く関係ないものが多く紹介されていて、逆におもしろかった。例えば、民族衣装とか石油産業の様子とか。はたまた教育事業とか。そういう意味で、この国だけはなんでもありだった(笑)。

エストニア: 中には入っていないんだけど、夕方、パビリオンの外で、巨大ブランコを使ったパフォーマンスをやっていて、それがすごく盛り上がっていた。一般のお客さんも希望すれば挑戦できるみたいで、見ているこっちがハラハラしてしまった(苦笑)。ジェットコースターの類が全くダメな私には絶対できない…。

エストニアパビリオン。巨大ブランコでパフォーマンスが行われている様子。ブランコが一回転しそうなくらい揺れていて、見ていて怖かった

エストニアパビリオン。巨大ブランコでパフォーマンスが行われている様子。ブランコが一回転しそうなくらい揺れていて、見ていて怖かった

エクアドル、カザフスタン、ブラジル、UAE: 一日中、列が途絶えることなく常に1時間以上の待ち時間。入りたかったけれど、今回は断念。私はクリスティーナからオススメされていたので、これらの国のパビリオンが良いって知っていたけれど、他のお客さんはどうやって情報を得ているんだろう…。やっぱり口コミとかで評判の善し悪しも回っているのかな。

 

 

 日本パビリオンに再挑戦
なのにまさかの本日終了…
その理由になんじゃそりゃー!  

 

夕方18時半頃、再び日本パビリオンへ。さすがにもう行列はなくなってるかな、という淡い期待を持って覗いてみたところ、なんとそこには『本日、終了』の看板が! 「通常、21時まで開館しているはずなのになんで!? いくらなんでも閉めるの早すぎでしょ! 」と不思議に思い、すぐそばにいた日本人スタッフを掴まえて聞いてみる。

「あの…、パビリオンもう閉まってるんですか? 何時までだったんですか? 」

「今日は18時頃で終了しました」

「21時までじゃないんですか…? 」

「こっち(イタリア)の法律で、1日に何人までしか入れないって決まってるので、その人数に達した時点で終了なんです… 」

と申し訳なさそうに答える彼女。

なんじゃそりゃー!! どんな法律なのよ!? 全く意味不明…。だけど、他にもたくさんの外国人に詰め寄られている彼女を見ていると、ちょっとかわいそうになり、それ以上、追及するのはやめた。ここでぶーぶー文句を言ったところで、閉まってるものは仕方ない。とは言え、朝イチから大行列でなかなか入れず、夕方も早々に閉まってしまう、というのは、なかなかにお客さん泣かせなパビリオンだな、というのが正直なところだった。

夜、部屋に戻ってクリスティーナと万博の話で盛り上がりつつ、私は日本パビリオンに入れなくて残念だったことを伝えた。

「ケイコ、明日の午前中の予定は? 」

明日は午後にミラノを発つ予定。午前中は特に何も決めておらず、ゆっくり過ごそうかと思っていた。

「特に決めてないけど」

「シティセンター(街の中心地)に出るなら車で送っていくし、もう一度、日本パビリオンに挑戦してみる?」

彼女の言葉に一瞬心が揺らぐ。確かに午前中、もう一度万博に行こうと思えば行けなくはない。せっかくここまで来たんだし、日本パビリオン、見れるなら見たい。

「もし行けるなら、明日の朝、もう一度行ってみたい… かも… 」

ちょっとだけ遠慮がちに伝えてみた(笑)。

「了解。じゃあ、明日は今日より早く出なきゃね。チケットは私の方で準備するから任せといて」

頼もしい彼女の言葉。まさか2日も続けて万博に行けるなんて。いろいろ対応してくれた彼女には本当に何から何まで感謝。

 

 日本パビリオンのスタッフもビックリ
ちょっと行くのが早すぎたね(笑)
おかげで今日のお客さん第一号!  

 

翌朝、前日より少し早めに家を出て、クリスティーナが手配してくれたとおりに、私は万博会場入りした。開場時間よりもだいぶ早く、スタッフ専用の入り口から入ったので、会場内はまだパビリオンや売店のスタッフ、清掃員、警備員などの関係者しかおらず、それぞれがバタバタと開場に向けて準備を進めていた。そんな中、ひとり日本パビリオンに向かう私。お客さんが全くいない開場は広々としていて、私はそこを悠々と気分良く歩いた。「あー、天気が良くて気持ち良いなー! 今日も暑くなるぞー」なんて思いながら。

日本パビリオンに着くと当然ながら、そこにはまだ誰も並んでいなかった。昨日とは全く異なる風景。列が無いとどこに並べば良いかわからず、近くにいたスタッフに声をかける。

「あのー、すみません…。どこが入り口ですか? どこに並んでいれば良いですか? 」

「えっ! えっと… ちょっとお待ちください。あれ、どこから入っていらっしゃったんですか…? まだゲートは開いてないですよね…? 」

訝しげな表情を浮かべながら質問されてしまった。そりゃそうか(苦笑)。

「スタッフゲートから入ってきたんです」

「あぁ…、そうなんですね…。もうゲートが開いてるのかと思ってビックリしました。ちょっとお待ちくださいね」

なんだかみんながみんな、バタバタしている。「毎朝こんな感じなのかなぁ…? にしては、ちょっと要領悪いけど… 」と思いながらその様子をぼんやり眺めていた。そして、しばらくして入り口に案内される。

「お待たせしてしまってすみません。今週からお客さんが急に増えて、開場早々、行列ができてしまっている状態なので、今日から並び方に変更があったんです」

と説明してくれた。なるほど…。日本パビリオンがまさかこんな大盛況になるなんて、どうやら当人たちも予測していなかったらしい(笑)。不測の事態やハプニングがあれば、それに応じて臨機応変に対応しないといけないし、いろいろ大変なんだろうな…。

 

 

 抜群の日本パビリオン
3時間待ちにも納得の内容
世界に誇るべき日本の総合力  

 

ドキドキワクワクしながら、列の先頭を陣取って、いよいよ待ちに待った日本パビリオンへ入場。

結論から言って、日本パビリオンは予想以上に素晴らしかった。これなら連日大盛況なのも頷ける。贔屓目なしに、日本パビリオンの出来が絶対に一番良い。全てのパビリオンを見たわけじゃないけれど、見なくても日本パビリオンが一番すごいって思えてしまう。それくらい群を抜いていた。まず、入るとすぐに農村のおとうさん、おかあさんたちがほのぼのと歌を歌っている映像で出迎えてくれる。歌がうまいとかじゃないけれど(笑)、なんだか微笑ましくて懐かしくて、これだけでちょっと泣きそうになった。外国人のお客さんたちからも温かい笑いがこぼれていた。

そして、日本館のサイトにもあるように、日本パビリオンは「プロローグ」から始まり、5つのシーン別に部屋が分かれていて、それぞれで日本の四季や地方の伝統文化、「一汁三菜」や「出汁」など日本特有の食生活などが紹介されている。また、愛知万博のマスコットキャラクター「モリゾー」が出てくる心憎い演出を使った映像では、これからの「農業革命」ということで、地球を取り巻く現在の環境とそれに対するソリューションがたくさんのデータを用いて展開されている。さらにこれだけで終わらないのが日本のホスピタリティの高さ。一番最後のライブパフォーマンスシアターでは、「future レストラン」と題して、そこにいるお客さん全員が、共に体験と会話を楽しみながら日本の「和」の心を学べるようになっている。

日本パビリオン。「futureレストラン」の様子。日本の「和」を紹介する映像に盛り上がるお客さんたち

日本パビリオン。「futureレストラン」の様子。日本の「和」を紹介する映像に盛り上がるお客さんたち

あまり多くを書きすぎるとこれから万博に行く人にネタバレになってしまうので、これ以上詳しくは書けないけれど、とにかく見所満載、ボリュームたっぷり、所要時間50分という本当に大満足な内容。「ただ物価が高いだけじゃないんだぞ。見たか、これが日本だ! 」と思わず叫び出したくなるらい、日本という国を心から誇らしく感じた。このパビリオンを完成させるのに、どれくらい多くの人が関わっていて、どれくらいの時間とお金と労力を費やしているのか。各分野の知の結晶をそこに見た想いがした。

「やっぱり日本はすごい」とそこにいる全ての人が思ったに違いない。そう、なんてったって、「やっぱり日本はすごい」のだ!

 

 

 大満足の初万博
ストレスフリーな環境作りは
いろいろ勉強になりました  

 

今回、初めて万博というものに行ってみて、思っていた以上に楽しんでいる自分がそこにいた。はじめは「ちょっと覗きに行ってみようかな」くらいに軽く考えていたはずなのに(笑)。

確かに暑いし、人多いし、並ぶし、思ってるようには動けないんだけど、そういう状況も込みで楽しかった。パビリオンもそんなにたくさんは見れないけれど、だからこそ、「あーまた来たいな」って何度も足を運びたくなってしまう。おなかいっぱい食べ過ぎると「もうしばらくこれは食べたくないや」ってなるけれど、ちょうど良い腹八分目くらいで止めておくのがやっぱり良いんだな(笑)。

また、各国のパビリオンだけでなく、野外ではマスコットキャラクターたちが音楽に乗りながらパレードをしていたり、南米やアフリカの国の人たちがライブ演奏をしていたりするのも、お祭りの雰囲気をさらに盛り上げていて良かった。

あと事務的なところで言うと、飲料水が無料で飲めるスポットが会場内に何ヶ所か設けられていたり、携帯電話も無料でチャージできる機械がいくつも置いてあるのも、ちっちゃいことだけれど、なにげに助かった。トイレの数もたくさんあったので、並ぶことは一度も無かった。また、Wi-Fiも会場内のどこにいてもサクサク繋がるので、待ち合わせや連絡のやり取りもスムーズにできた。こういうのは、日本が2020年にオリンピックを開催するときの参考になるんじゃないかな。人が多いのは当然のことで仕方ないにしても、お客さんがいかにストレス少なく時間を過ごすことができるか、そういう点ではしっかり考えられている今回の万博だったんじゃないかと思う。

最後に、今回のミラノ万博に行くきっかけを作ってくれ、いろいろサポートしてくれた友人クリスティーナに、心から感謝して、このレポートを締めくくりたい。(了)

 

【写真でふりかえる ミラノ万博 】

 

パレード。万博のキャラクターたちが音楽に合わせて踊ったりしていてかわいい。陽気なお兄さんも(笑)

パレード。万博のキャラクターたちが音楽に合わせて踊ったりしていてかわいい。陽気なお兄さんも(笑)

スイスパビリオンを案内してくれるクリスティーナ。スイスの地理や名所などいろいろ教えてくれるので2倍も3倍も楽しめた

スイスパビリオンを案内してくれるクリスティーナ。スイスの地理や名所などいろいろ教えてくれるので2倍も3倍も楽しめた

スイスパビリオンのワークショップ。一緒にチョコレート作りをしたイタリア人の姉妹。スタッフがイタリア語で説明しているのをわざわざ英語で通訳してくれたりと優しかった

スイスパビリオンのワークショップ。一緒にチョコレート作りをしたイタリア人の姉妹。スタッフがイタリア語で説明しているのをわざわざ英語で通訳してくれたりと優しかった

チリパビリオンでライブ演奏。パビリオンからパビリオンへの移動中、野外で目にすることができるので、時間を無駄にせず楽しめて良かった

チリパビリオンでライブ演奏。パビリオンからパビリオンへの移動中、野外で目にすることができるので、時間を無駄にせず楽しめて良かった

 

 

(次回もお楽しみに。毎週水曜更新目標です 旅の状況によりズレることもございます…
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連載バックナンバー

第1話 世界一周、ふたを開けたらため息ばかり(2014.10.8)
第2話 旅は準備が一番楽しい。出発までの10ヶ月なにをしたか(2014.10.22)
第3話 ダメでもともと、初めての協賛(2014.11.5)
第4話 出発まで5日。ついに協賛決定!(2014.11.19)
第5話 最初の国の選び方。わたしの世界一周はフィリピンから(2014.12.03)
第6話 カスタマイズ自由が魅力のフィリピン留学(2014.12.17)
第7話 出国していきなりの緊急入院で知った、フィリピン人の優しさと健康に旅を続けていくことの難しさ(2014.12.31)
第8話 世界の中心でハマったいきなりの落とし穴 。負のスパイラルに突入だ!【オーストラリア】(2015.1.14)
第9話 いきなり挑むには、その存在はあまりにも大きすぎた! こんなに思い通りに進まないなんて…【オーストラリア(2015.1.21)
第10話 いざ、バリ島兄貴の家へ!まさか毎晩へこみながら眠ることになるなんて…【インドネシア】(2015.1.28)
第11話 今すぐ先入観や思い込みを捨てよう! 自分で見たものこそが真実になるということ<インドネシア>(2015.2.4)
第12話 心の感度が鈍けりゃ、人を見る目も曇る。長距離バスでの苦い出会い  〈マレーシア〉 (2015.2.11)
第13話 海外に飛び出すジャパニーズの姿から見えてくる未来 〈マレーシア〉(2015.2.18)
第14話 欲しい答えは一冊の本の中にあった!「旅にも年齢がある」という事実 〈マレーシア / タイ〉(2015.2.25)
第15話 ボランティアで試練、身も心もフルパワーで勝負だ! 〈タイ / ワークキャンプ前編〉(2015.3.4)
第16話 果たせなかった役割と超えられなかった壁 〈タイ / ワークキャンプ後編〉(2015.3.11)
第17話 目の前に広がる青空が教えてくれた、全てに終わりはあるということ  〈カンボジア〉(2015.3.18)
第18話  偶然か必然か? 新しい世界の扉を開くとき   〈カンボジア〉(2015.3.26)
第19話  強く想えば願いは叶う!? 全ての点が繋がれば一本の線になる   〈ベトナム〉(2015.4.2)
第20話  移動嫌いな私をちょっぴりほっこりさせてくれた、ある青年の純朴さ
   〈ベトナム〉(2015.4.8)
第21話  強面のおじさんが教えてくれた「自立」と「選択」の重要性    〈ベトナム〉(2015.4.16)
第22話  ワガママだって良いじゃない!? 自分が楽しんでこそのコミュニケーション!    〈ベトナム〉(2015.4.22)
第23話  吉と出るか凶と出るか… 全ては自分の感覚を信じるのみ!   〈ベトナム→中国〉(2015.5.06)
第24話  人との出会いが旅を彩る – 大切なのは出会い運があるかどうか   〈中国〉(2015.5.15)
第25話  異国で受けた『おもてなし』と中国人に対するイメージの変化   〈中国〉(2015.5.23)
第26話  たったひとつの出会いがその国のイメージを決めてしまうということ  〈中国〉(2015.6.10)
第27話  3人のケイコの運命的な出会い 〜年上女性から学んだ自分らしい生き方とは〜  〈タイ〉(2015.7.8)
第28話  久しぶりの学園生活スタート! 目指すは旅人マッサージ師!?  〈タイ〉(2015.7.15)
第29話  人種や言葉を超えてひとつになれた夜   〈タイ〉(2015.8.5)

 

 


小林圭子さんが世界一周に出るまでの話

『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため(2014.5.19)


小林圭子

小林圭子

1982年、大阪生まれ。米国公認会計士の資格取得後、ベンチャー企業および楽天にて約5年半、会計業務に従事。同時に会計士の専門学校では学習カウンセラーを、自由大学でキュレーターをするなど、パラレルキャリア志向が強い。2014年3月末で楽天を退社し、同4月より約2年間かけての世界一周の旅に挑戦。世界中の多様な働き方やライフスタイルに、刺激を受ける日々を送っている。 「一身上の都合」小林圭子さんの場合 http://ordinary.co.jp/series/4491/ https://instagram.com/k_co_ba_326/