面倒な映画帖47話 ダメな人にダメな人『私の男』/モトカワマリコ
「ホール係なのに注文を取らない」とか「オーダーを間違える」にとどまらず、客の料理を食べ、酒に口をつけてしまう。暗黙の了解として、厨房からテーブルまで「客に権利」があるはずの料理や酒が、彼女の手に渡ると、盆の上のものの優先…
「ホール係なのに注文を取らない」とか「オーダーを間違える」にとどまらず、客の料理を食べ、酒に口をつけてしまう。暗黙の了解として、厨房からテーブルまで「客に権利」があるはずの料理や酒が、彼女の手に渡ると、盆の上のものの優先…
コンビニのビニール袋が、どこへ行くつもりだったのか、誰にもわからないのは、袋に意図がないからなのだが、人間の行動が謎なのは未知なる独特な価値観があるから。フロンティアにいるなら本人の中で顕在化していないので、説明も難しい…
写真も大嫌いだった。自分が自分の価値観に合わない容姿をしていることを受け入れるのがとても難しかった。まるで前世の悪行がたたって生まれ変わった美女が、罰として与えられた醜い顔に苦しむかのように、なによりも私の審美眼に何から…
デジタルの力で、4万の断片であることをやめ、なめらかに動く「ラ・ジュテ」が何を語るのか、知りたいような知りたくないような。世界にはどんな先端技術でも補えない崇高な欠落というものがある、たぶん。 < 連載 > …
詩人の仕事は世界が発する何かを受けてとめて記録することにある。マクロにもミクロにも、全方向に拡大し、曖昧で、本当は確かなことなどひとつもない複雑な世界と向き合い、フロンティアに立って、そこから飛んでくる言葉を、電波天体望…
貨幣経済の外で生きるのは、少しぐらい寒くても、病気の時に不安でも、自由ですがすがしいものなのかもしれない。しかも棲家があるのは、鹿が跳ねる美しいベルサイユの森。フランス史に残る王妃が贅を尽くして建てさせた優美な城を従えて…
そこに流れるのはどこにも到着しない駒子の時間だ。線路や旅館の廊下、往来のような、どこかからどこかへ向かう途中のような。毎日をしのぐだけの駒子は実際、何か目的を持ったことなどあるのだろうか。少女の頃、東京に売られ、雪国に流…
いよいよ風船が、空に向かって飛んでいってしまうと、手を離した後悔と、自由にしてやったという確信犯的な気持ちがないまぜになり、風船が視界を外れて点のようになり消えていくまで眺め、涙があふれる。自由にしてもらったのは、実は私…
そのころの私は女子高に通う学生で、まだ恋など知らない。柳のような女だと実母に言われてきょとんとしてしまった。本当にそうかどうかはわからないけれど、普段は辛辣で厳しい母のほぼこの時一度だけの賛辞を今でも心の支えにしている。…
さっきまでの「ダサダサオヤジ」は特殊メイクでした・・・みたいに、髭も剃られ、垢じみたシャツがなんとなくきれいになり(どこで調達したのだろう)ついには彼女をぐっと抱き寄せ、熱いキスをする姿も無理がないほどに、二枚目と化して…
「軽蔑システム」だけは違う、これが発動すると、相手との依存関係が解消されて、きれいに関係が終わるのだ。 最初は片方だけに起こることかもしれないが、やがて、二人の間の「対幻想=恋愛モード」が解除され、恋の幻が破られ、相手の…
日焼け止めもせずに真っ赤な顔でプールから帰ってくる日もあれば、口紅をつけてイヤリングを揺らし、ハイヒールで出かける日もある。少女は大人の片りんをチラチラさせながら、時には子どもの表情に揺り戻し、少しずつ完成されていく。 …
あの鼻でなくては、こんな風に悲し気に、毅然と生きるウルフを造形しえなかったのかもしれない、本当に。イングランドの緑が萌える流れにオフィーリアのように身を沈める彼女、鼻も入水していく・・・ある意味潜水艦の潜望鏡のように、 …
親切は一面「フリフリのついた暴力」のようなものだ。だからどうしても奉仕したい場合はばれないように、あるいは「親切への報復」を覚悟して、肝を据えるべきだ。最悪仕事も愛も家族も捨てるほどの大きな勇気で徹底してやらなくてはなら…
だからスーパーマーケットは危険なのだ。フランスの恋愛番長フランソワーズ・トリフォー先生も同意見、恋をするならスーパー。あそこには滅多な相手と行ってはいけない、深みにはまる危険がある。 < 連載 > モトカワマ…
人は生き延びるために生きる、世の中と共存しながら、できる限り幸せな一生を送ることが一番の目的だ。それができない人種は苦しみながら「自分の人生」というライブ活動以外の形でエネルギーの痕跡を残そうとするんじゃないのか。 &l…
友情を証明するのにディープキスでは唾液が多すぎる。挨拶でつばを掛け合う国もある、相手が信用できるかどうか判断するために必要なのだという。理屈はわからないけれど、人と人の親密度は受け入れうる唾液の量で決まるのだろうか。 &…
しかしながら、社会は行動するものに微笑む。弟の命がけの行動は、結局私を死ぬほどうらやましがらせる結果を生む。それから姉が病院に行くたびに、彼は自分用の瓶に入った「お薬」をもらえることになったのだ。 < 連載 >…
マンテーニャが欲しいと思う、ルネッサンス絵画を見に行く動機の底には無意識にそれがある。本当の私は目の前のマンテーニャに手を伸ばし、家に持って帰りたいのだ。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは …
葉巻の香りがすると、思い出が蘇り頭を掻き毟りたくなる。作家先生のあの表情、あの沈黙、冷たい空気、追い詰められてギリギリで吐き出したマズイ質問を詳細に追体験し、甘苦しい後悔に胸を掴まれる。 < 連載 > モトカ…
身ぎれいなおばあさんが二人で切りまわしていて、どことなく白粉匂い風情なので、元は芸妓さんだったりするのかしら、と思わせる。粋筋の人って甘いモノに口が肥えているというし、引退して菓子屋をやろうなんてよほどの味通なんだろうな…
誰かと話している時に、相手の顔にかつての友人の表情が浮かぶのだ。顔は似ていない、でも刹那彼女は男の顔を乗っ取って現れ、独特な微笑をうかべ、消える。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画なら…
タラップを降りるテリーはジョン・ウェインのような表情をしていた。一部始終を見ていた私も彼女の感情の嵐に巻き込まれ、ついでに心の整理ができてしまった。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画な…
時にはエモーション全開になってみるのもいいと思うのだ。たまにこういう気分と欲望だけの人間が右往左往する世界に溺れてみるのも悪くない。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさん観てい…
どんな手であろうが、ステージに上がったことがあるかどうか、実力より経験。出たとこ勝負でも現場で得たノウハウはいずれ実力として身についていく。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさ…
境遇がどうであれ、よく考えて、自分の仕事を実践していくこと、その人ならではの仕事を構築していける人でありたいと思う。子どもの目にも、おじさんの道具は機能的で美しく、無駄がなかった。 < 連載 > モトカワマリ…
あの肝臓はお前の中から出てきた表現だったのか、他の人間には撮れない映画というわけか。俺はすごくいいと思う、支持する。他の先生は評価しないかもしれない、でもね、作品というのは、誰か一人でもすごくいいと評価してくれる人がいれ…
郊外の市街地で静かに生きているこの人が、サイキックかもしれないという奇妙な説得力が気に入ったのか。あまりにも打算ばかりの生活を送りながら、どこかで人知の及ばない何かを信じたい、そういうものが存在して、ありえないことが起こ…
後ろを気にするたびにぐらつく私に気づいて師匠が言う。「僕のことは忘れろ、前に進むことだけを考えろ!自分を信じて、前に向かって走るんだぞ!」ゴーゴーゴーと掛け声をかけられ、ひたすら漕ぐ。 < 連載 > モトカワ…
突然、おじさんがスプーンでグラスをカンカンたたく。テーブルのお客が注目する中、大声で「おいみんな、俺は決めたぞ、このかわいい日本の女の子と結婚することにした!」おじさんにギュウギュウ抱きしめられ、ほっぺにチュウされ、何が…
3時間離れているのが無理なのは長男じゃなくて、自分なのだと気が付いた。頭ではどうでも、体は「お母さん」になってしまっていて、仕事の都合がどうであろうと、息子を求めている。ちょっとしたこと、ブタの赤ん坊がクビをかしげてさえ…
「おい、姉ちゃん、そこの時計で8時になったらバスが出るってよ。ボンヤリしてねえで荷物まとめとけよ!」夜が明けていく食堂で半分眠っていた私を揺さぶり起こしたのは例のドイツ人だった。旅なれた不良オヤジは探りまわって、接続便情…
マガリの軽い失望に熟年の人間関係のヒントがあるように思える。大人同士が出会い、これから親しくなれるかどうか?相手だって同じようなもの。お互いに頑固にもなり、融通が利かなくもなり、ひょっとしたらちょっと耳が遠かったり、引き…
マダムは私がデブなのを心配してくれていたのだ。 「あなたくらいの年頃の女の子は恋愛をしなくちゃいけないのに、そんなにおデブじゃ男の子が寄ってこない。これからはブラックのコーヒー以外飲んじゃいけません。」心遣いはうれしかっ…
「私はこっちで彼はあっちなの?」「そうだよ、あたしにははじめからわかってたんだ。」そういって豊満な胸をぎゅっと押し付けてきた。生ぬるい肌がたまらなく悲しい気持ちにさせる。彼女を突き飛ばしたい衝動に駆られた。 だってAはわ…
この手の映画では、活躍するヒーロー以上に、彼ら犠牲者キャストが重要。存在感があり、人間の薄暗いさもしさを象徴し、かつ愚かさゆえに滅びる運命。X時間に向けて自らの命の重さを割引いていき、小気味よく頭からパクリとモンスターの…
ひとつの映像がいつまでも心に焼き付くことがあるだろう、その感覚が154分継続する強烈な濃度をもつ痺れるような映画なのだ。むかし映画学校の先生が言っていた「摂理があって撮る時は、映画の神様が手を貸してくれる。突然絶妙な角度…
豆腐屋のばあさんは頭に無数のカーラーを巻いている。開店しているのに、お客がいるのに…である。午後2時すぎてもまだ巻いている。いつ外すんだろうか。カーラーババアの本番はいつなんだろうか。何に備えておしゃれをしているんだろう…
いったいどういう顔をすればいいのか…カイザー・ソゼが誰かわかった上でもう一度観るこの映画は、俳優の超絶技巧をじっと観察するというまったく別の魅力を放ち始める。まるで違う作品のように。 < 連載 > モトカワマ…
映画が始まればイェンタウンは蘇り、そこで美しいグリコは笑い、嘆き、唄い、同じ過ちを繰り返す。監督はCHARAのためにイェンタウンを創りだしたんじゃないか。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映…
彼女は小さな生活で満足だった。受け取るものは少なくても、幸福感をやりくりする才があった。 < 連載 > モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさん観ている。多分1万本くらい。いろんなジャンルがあるけ…
視力を失った彼は何も映らない映画を撮影する。1時間余り、筋書きもなく、何も動かない青いだけの画面・・・目を開けているのか、閉じているのか、どちらかわからなくなってくる。自分は何を観ているんだろう、この引力は一体なんだ。…
まだくちばしが黄色い少女の時、私が不用意に知ってしまった男というもの、それが高倉健だった。 <連載> モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさん観ている。多分1万本くらい。いろんなジャンルがあるけ…
蝶よ花よの愛されようだったのが、ホーチミンから来た美人がアオザイで歩いてきたとたん、彼の心がバビュン!パパイヤのジャングルにふっとんだんだそうだ。 <連載> モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたく…
ここで挽回しないと、目の前のドアも、輝く前衛ライフも閉じてしまう。 <連載> モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさん観ている。多分1万本くらい。いろんなジャンルがあるけど、好きなのは大人の迷子…
傍観者でいることより、痛みでも悲しみでもいいから感じたい、生きることを体験したい <連載> モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさん観ている。多分1万本くらい。いろんなジャンルがあるけど、好きな…
作家には不安と憂鬱が必要だ、生業がないことを非難されても怯むな <連載> モトカワマリコの面倒な映画帖 とは 映画ならたくさん観ている。多分1万本くらい。いろんなジャンルがあるけど、好きなのは大人の迷子が出て…
面白くないのは観るほうが貧しい。この精神だと、面白くない映画は存在しないこ モトカワマリコの面倒な映画帖 第0話 新連載はじまりの挨拶 ーーーー 自分を見失うほど映画が好き 一番古い記憶、小さな布団に腹ばいになって、雨戸…
有機栽培でミネラルが多いとか、瀬戸内の日光の強さだとか、掘りたてだったとか TOOLS 18 人生で一番おいしいニンジンの食べ方 モトカワマリコ(フリーランスライター) 自由に生きるために濃い体験は好悪をふっとばす ニン…
恐怖の裏には、強い関心が生まれるものなのかもしれない TOOLS 14 弱虫を退治する方法 モトカワマリコ (フリーランスライター / エディター) — 自由に生きるために 挑戦は、いつでもやめられると思って…
おいしいが同じ人を大切にしよう。トマトソースの作り方 TOOLS(ツール)とは 「好きを活かして自分らしく生きる人たち」「大きなものに寄りかからず生きる小さな表現者たち」そういう人たちに向けて、「知っておくと暮らしが面白…
自由に生きるために 欲しい服がないなら、自分で作ろう スカートがない 中年になると、巷で売っているスカート、若い人向けのデザインって、着られたとしても居心地が悪い。無理して若いカラに潜り込んだ中年の肉体がムズムズする。見…
前回は発酵や菌について話しましたが、今回は水について。 深井次郎と編集部が安房滋子さんのお宅を訪ねた第2話です。 深井:浄水器も何種類かあるんですね。水回りにはこだわりがあるんですか? 安房:ええ、3歳くらいの頃、父…
ある8月の朝、深井次郎は、「自分の本」メンバー安房さんのお宅を訪ねました。 そこは千葉の住宅地にある鎮守の森に囲まれた一軒家。気になってしょうがなかった安房さんの「冷蔵庫なし、クーラーなし、発酵ライフ」がどういう暮らしな…