TOOLS 18 人生で一番おいしいニンジンの食べ方

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有機栽培でミネラルが多いとか、瀬戸内の日光の強さだとか、掘りたてだったとか

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人生で一番おいしいニンジンの食べ方
モトカワマリコ(フリーランスライター)



自由に生きるために
濃い体験は好悪をふっとばす


ニンジンは好きですか? 私はあんまり好きじゃないです。カレーならなんとか。給食がカレーの日は憂鬱だった。入ってるでしょ100%。肉は一片も入っていないこともあるけど、ニンジンは結構なサイズのやつを給食係が律儀に全員のお皿に入れる、義務みたいに。しょうがない、栄養あるから。おいしくないけど、うすらエグいし、青臭いし、ほとんど漢方の生薬みたいな味。強制されなければ絶対子どもが手を出さないキケンな味です。でもお母さんになってからは、子どもに食べさせるために(栄養があるからね)がんばって食べました、示しがつかないから。「おいしいねニンジン」とかいったりして、なんて偉いんでしょ。

それがこの6月、脳内のニンジン担当部位に異変が起こりました。

深井さんとふじたさん(オーディナリー編集部。 むらかみさんはお仕事で行かれず残念!)と尾道自由大学の「おのみちの台所」に参加したんです。瀬戸内の野菜を収穫したり、料理したり、みんなで食べたりするワークショップ。当日は、農家さんに協力をいただいて、畑で収穫体験できるというのでウキウキしてました。初夏の瀬戸内、野菜といえばトマトとかキュウリとかソラマメかなと思うじゃない、せめてピーマンとか。

でも行き着いた先は、なんでかニンジン畑。

 

にんじん畑

「ニンジン抜きたい人いますか?」 農家の村上さんが声をかけてくれました



畑には、夏の陽射しが燦々と降り注ぎ、鮮やかなグリーンが島風に波打っています。うねにそって整列した株からは、数本に分岐した茎から細い繊細な葉が伸びていて、ニンジンって美しい植物なんですね。ビタミンが豊富でとっても栄養があるんだよ。」産地ではニンジンリーフも炒めたりして食べているそう。「ニンジン抜きたい人いますか?」農家の方から声がかかり、初ニンジン畑での農業体験、抜くだけなら抜いてみたいと軍手をお借りしました。

実際に抜いてみると、大きそうだと思っても、見えている部分だけが太くて、中は細かったり、予想外に短かったり、予想外に大きかったり。有機肥料で育てる野菜は、そう規格通りには育たないらしい。生産者の方は大変なんですね。でも素人としては、ギャンブルみたいに楽しくて、気付いたら両手にいっぱいになっていました。調子に乗ってたくさん収穫しちゃったし、フードの仕事をしている手前、素材を生で食べることに意欲を見せないといけないよね・・・そういうプロ意識は働いたんだけど、ニンジンだし、掘りたてで土がついてるしい・・・別にいいよね、かじらなくても。ごまかそうとした矢先。行動派のルーカスさん(ワークショップのゲストでPAPERSKYの編集長)がガリッとニンジンを味見。


しまった!

ルーカスさんをスタートにニンジンが人々の手をバトンのように渡ってくる。流れで輪に入って受け取っちゃった。しょうがないぞ、一口かじりました。鼻に通る香りは青々してまさしくニンジン、ほのかに土の匂いもする。まず甘い、旨みが強い、滋味がある。超ニンジンなのに、それまで食べたことのあるニンジンとは違う。上等なワインのように、一口目、二口目と段階的な味わいがあり、深みがあり、好き嫌いを凌駕した鮮烈な味覚体験でした。

 

もとかわさんとにんじん

「えへへ、獲れたてだぜ」  私、モトカワとニンジンたち



もちろん、理由はいろいろあるでしょう。有機栽培でミネラルが多いとか、瀬戸内の日光の強さだとか、掘りたてだったとか、農業体験で興奮してたとか。ただ今言えることは、あれを味わってしまった私はもう前の私ではなく、ニンジンを味わう回路をもった別のニンゲンになってしまったということ。瀬戸内のニンジン畑では、こんなミラクルがおこる、こともあるようです。

 

人生で一番おいしいニンジンの食べ方
1. ニンジン畑初体験の人がニンジン畑に行く
2. 株を選ぶ、茎の根本を見て、土が盛り上がって赤い根が見えていると、地中のニンジンも太くなっている可能性が高い
3. 茎の根本を掴んでぐっと引っこ抜く
4. 暑さの中、自分の手で抜いたニンジンは、初体験の興奮や環境など、複雑な情報の影響で特別な味がする、はず
5.以後、他の適当なニンジンを食べても「あの時の味」が脳内に自動再生され、ニンジンを愛さずにいられなくなる、可能性が高い

 

 


モトカワマリコ

モトカワマリコ

フリーランスライター・エディター 産業広告のコピーライターを経て、月刊誌で映画評、インタビュー記事を担当。活動をウェブに移し、子育て&キッズサイトの企画運営に10年近く携わる。現在は、ウェブサイト、月刊誌プレジデントウーマンでライターとして、文化放送で朝のニュース番組の構成作家としても活動。趣味は映画と声楽。二児の母。