ひとつの星座 – 3児のママが小説を出すまで【第9話】 動いたことで繋がったご縁について 2014年〜 / 諸星久美

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返事が待ち遠しい。いや、うそ、本当は怖い。そんな思いで待つ私のもとに届いた横里さんの返事を、私は何度も、何度も読み返した。読み返すたびに、緊張で凝り固まっていた心が、喜びで肥大してほどけていくのを感じた。そして、その大きな喜びのせいで、私は、私自身が切望していた思いを痛感した。私は、書くことを許されたかったのだ。私自身ではない、誰かによって。
連載 「 ひとつの星座 」 とは  【毎月25日公開】
母になっても夢を追うことはできるのでしょうか。諸星久美さんが約15年前、27歳で母になると同時期に芽生えた夢。それは「物語を書いて多くの人に読んでほしい」という夢でした。とはいえ、3児の子育てあり、仕事あり、書く経験なしの現実。彼女は、家事や育児、仕事の合間をぬって、どのように書いてきたのでしょう。書くことを通じて出会ってきた方たちや、家族との暮らし、思うようにいかない時期の過ごし方など、記憶をなぞるように、ゆっくりとたどっていきます。42歳の現在、ようやく新人小説家としてスタートラインに立ったママが、本を出版するまでの話。

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第9話   動いたことで繋がったご縁について 2014年〜 

TEXT : 諸星 久美

 

天狼院書店の「本気で小説家を目指す 小説家養成ゼミ」と「人生が変わるライティング・ゼミ」を受けたところまでが前回のお話。

ものすごくベタなネーミングだけれど、私にとっては、本気で目指して人生が変わったと思っているのだが、さてどんなふうに変わったのか……、ということを記していく前に、今回の連載では、天狼院書店に通う間に訪れた、ひとつの大切な出会いについて記していきたいと思う。

 

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 既視感の混ざる出会い 

 

私には、出会いの瞬間が長く記憶に残る人と、そうでない人がいる。

過去、12年ほどお付き合いをした恋人との出会いの瞬間は、彼に出会った頃の、12歳の私の記憶のまま残っているし、夫との出会いの衝撃については、その瞬間の映像も含めて、生涯忘れることはないだろうと思っている。二人に共通しているのは、「あれ、君、前に会ったことあるよね……?」という既視感の混ざる直感で、もしかしたらそれは、思い込みという言葉に置き換えられるものかもしれないが、私は案外その感覚を信じているのだ。

実際、彼ら以外にも、男女問わず、出会いの瞬間にその感覚を抱いた人とは、濃い時間を重ねてきているものだから、私にとっては、大いに信憑性のある直感なのである。

そして、今回この連載に記しておきたい方との出会いの瞬間もまた、私にとっては記憶に残るものであると思っている。

 

 横里隆さん

 

横里さんとの出会いは、2015年の秋。

翌年開催の「第3回 東京国際文芸フェスティバル」に、オーディナリーとして参加するため、オリジナルイベント企画案を持って、日本財団のビルへ面談に訪れた夜だった。

2014年開催の「第2回 東京国際文芸フェスティバル」には、参加者としてイベントを堪能していた私が、どうして今年はここにいるのかしら? と僅かな興奮と緊張の中、深井さん、藤田さん(オーディナリープロデューサー)と共に、面談部屋の扉を開けた。

「事務局長の、横里です」

穏やかな笑顔で迎えてくれた紳士を前に、「以前、どこかでお会いしたことありますよね……?」と、またあの感覚がよぎる。けれど、横里さんから大きなエネルギーを感じるせいか、「以前、どこかでお会いしたことありますよね……?」という感覚は、大きなエネルギーを前にして錯乱しているから、今回に限っては信用できないかもな……。それにしても、この方、ただ者ではないよな……。などと思いながら、オリジナルイベントのプレゼンを終えたところで、深井さんが呟いた、「あの方は、元・ダヴィンチの編集長だよ」という言葉に、穏やかな笑顔では隠し切れずにいた大きなエネルギーに合点したものだった。

 

 

 イベントを生み出す力

 

ありがたいことにご縁が繋がり、「第3回 東京国際文芸フェスティバル」にオーディナリーとして参加することが決まった。

私たちが開催するイベント名は「DEATH CAFE」。死生観に影響を与えた1冊を持ち寄り、ゆるりと死生観について語り合おうという選書交流会だ。イベント前にも、オーディナリー周辺の本好きメンバー30人からなる「あなたの死生観に影響を与えた本は何ですか?」というスピンオフ企画も走らせる中、イベント当日は、2月の寒い中にも関わらず、本好きの20人が会場に集まってくれた。

20人という小規模イベントではあったが、イベントを企画し、場を決め、人を呼び、開催するまでの流れを目の当たりにする中で、海外からもノーベル賞作家を招聘する「東京国際文芸フェスティバル」という巨大プロジェクトの事務局長を務められた横里さんの、物凄い力量を想像して目が回り、やはりただ者ではなかったわ……と感嘆したのを覚えている。

 

 直感は、錯覚か否か

 

イベント後に、オーディナリーでインタビュー記事を掲載させていただき、後日、横里さん、深井さん、藤田さんと共に、自由大学の屋上で飲んだ夜、私はいつになく開放的な気分だった。

「以前、どこかでお会いしたことありますよね……?」という既視感の混ざる感覚を信じて付き合ってきた人たちに共通するものの中に、人見知りで自分をさらけ出すのに時間がかかる私の習性が、その人たちとの前では崩壊する、という傾向があるのだが、ほろ酔い気分が加担したことを差っ引いても、その夜の私は開放的だったように思う。

けれど、その開放的な夜のおかげで、後日、横里さんが私の書いた原稿を読んでくれることになったのだ。長きに渡り、『ダ・ヴィンチ』の編集長として、幾多の文芸作品に目を通されてきた方を前に、私は縮こまりそうな心持ちで、天狼院書店のゼミで書いた、官能色の濃い原稿を送らせていただいた。

こういうことってあるんだな……。
夢のようだな……。
目を通してもらえるだけでラッキーなのだから、過度な期待などしてはいけない。
玉砕する可能性だって、大いに、大いに、大いにあるのだ……。
でも……、でも……。
返事が待ち遠しい。
嫌、うそ、本当は怖い……。

そんな思いで返事を待つ私のもとに届いた横里さんの言葉を、私は何度も、何度も読み返した。読み返すたびに、緊張で凝り固まっていた心が、喜びで肥大してほどけていくのを感じた。そして、その大きな喜びのせいで、私は、私自身が切望していた思いを痛感した。

私は、書くことを許されたかったのだ。
私自身ではない、誰かによって。

「初めて応募した小説が一次選考を突破したからって、それが何? その後、なんの結果も出てないじゃん。いつまでも、しつこくその世界にしがみついてみっともない……。もうやめなよ。あんたには才能なんてないんだよ……」

と、自分の才能の無さを嘆くたびに、それでも、いつかきっと、誰かが、私の書きたいという思いを許してくれる……。いつかきっと、誰かが、私の言葉を見つけてくれる……と、呪文のように唱えてきた。そんな孤独な戦いのような日々が、横里さんの返事によって報われたような気がしたのだ。

返事の詳細をここに記すことはできないが、その言葉が、つよく私を励ましてくれたことは事実であり、改めて、誰かの心を震わすことのできる文章を、心を込めて書き続けていきたい、という覚悟のようなものを持たせてもらったと思っている。

その後も、横里さんは、昨年京橋で開催したオーディナリーの企画展『TRANSITION』のトークイベントに登壇して下さったり、並行して、ご自身の会社、株式会社上ノ空から、『優しいのに無敵』(著・Dr.スティーブン・トルドー)の発行や、ビジュアルブック『Ribbon』(作・利光春華)の出版、今年2月には、ブックフェア『ポトラ』開催(こちらのイベントには、センジュ出版さんも出店され、『千住クレイジーボーズ』も並びました!!)。そして3月23日に、日比谷シャンテ内にオープンした女性のための本屋「HIBIYA COTTAGE」の立ち上げにも尽力される活躍ぶり。

横里さんの、多才で濃厚なエネルギーに触れることができたということは、作家を目指す者としてはもちろん、ひとりの人間としても貴重でありがたく、出会いの瞬間の直感は、やはり錯覚ではなかったと感じている。

 

 お知らせ

*インタビュー掲載

一人ひとりが輝く未来のウェブマガジン「STARRY FUTURE」にて、中安加織さんにインタビューしていただきました。連載と合わせて読んで頂けると嬉しいです。
「妻であり、母であり、私である」諸星久美さん(主婦・保育士・小説家志望)

 

*イベント出演

「作家23人合同サイン会まつり」
場所: くまざわ書店 南千住店
日時: 5月19日(土)15:00~17:00
https://twitter.com/ash1208kmzw/status/986982782898397186?s=19

私の恩人、くまざわ書店南千住店店長の阿久津武信さんの企画により、作家の先生方が集う、合同サイン会が開催されます。何作も出版されている著名な先生方に混ざり、「お前だれよ?」と思われるのは必至だな……と容易に想像される中で、私もちゃっかり参加させていただきます。なかなか、これだけ多くの作家さんが集ってのイベントはないと思いますので、お時間ある方は是非!

 

  

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<本の紹介> 「千住クレイジーボーイズ」諸星久美
『千住クレイジーボーイズ』は、かつて一世を風靡したことのある芸人、辰村恵吾(塚本高史さんが演じられています)が、千住のまちの人たちとの関わりの中で成長していく物語。ノベライズ本を書くうちに、恵吾との共通点に気づいた私は、作中に、ものを書く世界でどのように生きていきたいか、という私の想いも重ねて語っていますので、それも含めて、本を楽しんでくれたらうれしいです。

本のご購入方法は、版元であるセンジュ出版のウェブサイトにて。              

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<ドラマの紹介>

ドラマ「千住クレイジーボーイズ」【放送されました】ドラマ『千住クレイジーボーイズ』2017年8月25日(金)19:30~ NHK総合テレビ  ウェブサイトはこちら   .  

(次回もお楽しみに。毎月1回、25日に更新予定です) =ーー

ご意見ご感想をお待ちしています 編集部まで


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連載バックナンバー

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第2話 理想の母親にはなれず、もがく中で書くことに出逢う 2002年(2017.9.25)
第3話 多忙で書くことから離れ、読書に明け暮れる日々。2004年(2017.10.25)
第4話 書くことを再熱させてくれたもの 2009 – 2011年(2017.11.25)
第5話 自費出版から営業へ。数年後への種まきシーズン。2012 – 2013年(2017.12.25)
第6話 12歳の長男が、夢の叶え方を教えてくれた。2014 – 2015年(2018.1.25)
第7話 書きたいものを模索する日々 2015 – 2016年(2018.2.25)
第8話 小説を学ぶ中で、自分の不足と向き合う日々 2016年(2018.3.25)

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TOOLS 43  シンプル思考で「まずは動いてみる」
TOOLS 40  孤立に耐える、という経験が育むもの
TOOLS 36  肯定のループが育む賑やか5人家族
 

 

 


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。