TOOLS 52 感謝の心を育てるには / 諸星 久美( 小説家 / エッセイスト )

普段あるものがなくなった時。それらがどれほど有難いものであるかを知ります。我が家は毎年3月11日に、家族でキャンドルを灯して夜を過ごします。もしも、家族の誰かが欠けてしまったら… と想像することは、家族が元気でそろっていることを有難く思う気持ちを育てます。

TOOLS 52
感謝てるには 
諸星 久美  ( 小説家  /  エッセイスト )

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自由に生きるために
日常はあたり前の連続ではないと思い返そう

 
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 感謝の心って育てられるもの? 
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子どもの中に感謝の心を育ててあげたいと願うのは、親になった誰もが感じる想いではないでしょうか? ですが、願いや想いを抱いているからと言って、実際に感謝の気持ちを育てられるのだろうか? と思案すれば、応えは曖昧になるような気がします。

なぜなら、感謝の気持ちと言うのは、そもそも持たせたり、育てたりするものではなく、自分の中から生まれでるものだと思うからです。

「○○してくれてありがとう」というのが、子どもが触れやすい、単純で分かりやすい感謝の気持ちだと思います。○○に入るのは、「おもちゃを買ってくれて」とか、「ディズニーランドに連れてってくれて」など、具体的に与えられたものや経験へのお礼として出てくる言葉だと思います。
 
そのような言葉を自身の中から発するためには、幼少の頃より、「人に何かしてもらった時にはちゃんとお礼を伝えようね」と教え、親自身もそのような姿を見せることで、子どもの中に習慣として身についていくことでしょう。

ですが、単なる習慣としてではなく、心からの感謝の気持ちを持ってほしいと願う時には、どのようなアプローチが必要になるのか?

我が家の3つの取り組みについてお話しながら追っていきたいと思います。

 
 感謝の心を育てる取り組み 
1.  思いかえすアイテムを、身近に置く

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私自身のことで言えば、感謝の想いの質が大きく変化した背景には、東日本大震災が大きく影響しているように思います。

目を覆うほどの映像を見続ける日々の中で、日本中が漠然とした不安の中におちていきそうに思えた当時、テレビの映像や、新聞の情報に胸を痛めながらも、毎日温かいご飯を食べられること、お風呂に入れること、そして、家族が健康で傍にいてくれることの有難さが、被災地の方への申しわけなさを含んだ心の中に、深く刻まれたのです。

それから私は、毎夜眠りにつく前に一日を感謝するようになりました。子どもとの関わりにおいても、その時抱えている悩みと子どもが健康であることを天秤にかけ、大抵のことは、大したことではないではないかと思えるようになりました。

感謝の想いに触れる日々が心の安泰に繋がることを知った私は、改めて、震災の犠牲になった方々のためにも、毎日を大切に生きようという思いを強くしました。そして、我が子にも、自分の命に限りがあることを知らせ、できることを懸命に頑張ることが大切なのよ、と伝えました。
 
当時まだ2年生だった長男をはじめ、小さかった次男、長女が、どの程度その言葉の意味を理解したのかは分かりません。ですが、その意識を育ててほしくて、また、震災のことを忘れてほしくなくて、震災後、漫画家の井上雄彦氏が被災地支援のために発表したポストカード集『Smile』( BUMP OF CHICKEN とコラボしたシングルCD『Smile』も発売されました)の3作全てを購入しました。

 

いつも目にする場所に飾ってある

いつも目にする場所に飾ってある

 

井上雄彦氏は、有名な『スラムダンク』や、車椅子バスケを題材にした『リアル』などを生みだしていますが、この『Smile』には、老若男女に混ざって、各都道府県のミニバスユニフォーム(小学生のバスケットボールユニフォーム)をまとった子どもたちが多く描かれていました。1枚1枚手に取り、「岩手、宮城、福島の子は必ず入れようね」と主人と相談しながら額を作成し、震災の事を忘れてしまわないようにと、いつも目にする場所に飾りました。

当時はまだバスケを知らなかった子どもたちですが、この絵に興味を持ち、自宅にあった主人の『スラムダンク』を読み、3か月後には長男がミニバスチームに入り、半年後には次男が、そして主人もチームでコーチを務めるようになりました。あっという間にバスケにのめり込んでいった息子たちに、「健康で好きなことができることはあたり前ではないのよ」と教え、改めて、震災後に額を作った経緯を話して聞かせました。

このように、日常があたり前ではないということを思いかえすアイテムを、身近に置く(飾る)ことが、感謝の気持ちを育てるための、我が家の取り組みの1つです。

 

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 感謝の心を育てる取り組み 
 2.  特別な日にキャンドルナイト

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そして、2つ目の取り組みは、普段あるものがなくなった時に、それらがどれほど有難いものであるかを知るという体験を持つことです。

我が家は毎年3月11日に、家族でキャンドルを灯して夜を過ごします。もしも、家族の誰かが欠けてしまったら……、と想像することは、家族が元気でそろっていることを有難く思う気持ちを育てます。

キャンドルの灯だけで過ごす夜の闇は、電気の有難さを知ることになります。普段あたり前にあるものがなくなる、という想像や経験を通して、それらがあたり前ではないという思いに気づき、それらがあることへの有難さや、感謝の想いを育むことに繋がると思うのです。緊急地震速報にビクビクしながら過ごした夜や、計画停電の続いた夜を思いかえしながら、1年元気で過ごせたことに感謝する夜の習慣は、今後も続けていこうと思っています。

 

恒例のキャンドルナイト

恒例のキャンドルナイト

 

 

 感謝の心を育てる取り組み 
 3.  世界のニュースを見て、家族での会話時間を持つ 

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3つ目の取り組みは、世界で起きている事がらに関心を持ち、自分の置かれた環境の有難さを知る機会を持つということです。

我が家では、様々なニュースを見て、家族での会話時間を持つようにしています。いじめ問題が起きれば、「君ならどうする?」と問いかけ、その子に自分を置き換えて思考する時間を持たせたり、そうならないための解決策を考えさせるのです。

先々週の6日にも、NHKスペシャル「きのこ雲の下で何が? 」という特集を家族で見ました。3人とも漫画『はだしのゲン』を読破していることもあるせいか、やけどで皮膚のただれた人の映像や、黒焦げで道端に倒れている人の映像を、拒否することなく静かに見ていました。

子どもたちには、様々な歴史的出来事を経て、多くの犠牲や、多くの人間力の上に自分たちが生きているのだということを、折に触れて学んでほしいと思います。飢餓で苦しんでいる子や、幼い頃より銃声を聞いて育つ子と、自分を重ねて見ることは難しいと思いますし、人と比べて自分の存在意義を知ることは、もしかしたら好ましくない捉え方なのかもしれません。

ですが、あらゆるものに恵まれた日本という国に生きながら、感謝の心を育てない(持てない)ということは、生きている有難さに目を向けていないということになると思うのです。

そして何よりも、感謝の心を持って生きる方が、不満ばかりを持って生きる日々より、充実した時間を過ごせると思うのです。

子どもたちに、豊かな人生を生きてほしいと願う時、まずは親である私自身が、様々なこと、様々なもの、自分に関わる全ての人に対して、感謝の気持ちを持つという姿勢を見せていくことが大切なのだと痛感するのです。そして、取り組みをしているからといって、親の思うようには、子どもの中に感謝の心が育まれるわけではないということも、頭の片隅にいれておくことが必要なのかもしれません。

 

昨年の夏の写真。1年健康に過ごせたことに感謝

昨年の夏の写真。1年健康に過ごせたことに感謝

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感謝の心を育てるために
1.  親自身が、感謝の心を持って日々を過ごす
2.  日常が、あたり前の連続ではないことを思い返すものを身近に置く
3.  日常が、あたり前の連続ではないことを思い返す時間を持つ

 

 PHOTO : Ed Schipul(一枚目),その他、筆者本人

 


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ) 小説家、エッセイスト。1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。IID世田谷ものづくり学校内、スノードーム美術館に自費出版著書『Snowdome』を持ちこみ、置いてもらうようになる。また、インディーズ文芸創作誌「Witchenkare」のイベントに参加し、寄稿のチャンスを貰うなど、「書くことが出逢いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、三児の母。