TOOLS 56 子どもの危機回避力を高める4つの方法 / 諸星 久美( 小説家 / エッセイスト )

 吹雪いて視界が悪くなっていく、雪山の天気の急変を体感する中で、「ここにいたらやばいぞ」という自然への怖さを学ぶこともあるでしょう。海では、足のつかない場所でヒヤリとした経験や、波に体をひっぱられる経験から怖さを学び、危険を察知する力を育むことにつなげています。

TOOLS 56
子どもの危機回避力を高める4つの方法
諸星 久美  ( 小説家  /  エッセイスト )

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自由に生きるために
親が先回りしすぎないようにしよう

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子どもが巻き込まれる悲しい事件を知るたびに、いつか我が子もそのような事件に遭遇してしまうのでは? と不安を持つ親御さんも多くいることでしょう。ですが、不安ばかりで過保護になりすぎてしまっては、子どもの成長を妨げてしまうことになりかねません。

そこで今回は、危険なことを知らせながらも、自分の身を自分で守っていけるような諸星家のとりくみについて、お話ししていこうと思います。

 

1.  限界ギリギリの体験をさせる 


高さの異なる台や木などから飛び降りる遊びの中で、「ここまでなら飛べる」「これは怪我をしそうだからやめよう」というジャッジを肌感覚で学んだり、実際飛んでみて怪我をした経験から、自分の「大丈夫ライン」を記憶に刻んでいくことが大切です。

我が家の例で言えば、スキー場で、どの程度の傾斜なら滑り降りてこられるのか?また、どの程度のスピードなら自分が対応できるか? ということを考え、「これ以上の傾斜(スピード)は危険だ」というジャッジを持てるようになることがひとつ。また、吹雪いて視界が悪くなっていく、雪山の天気の急変を体感する中で、「ここにいたらやばいぞ」という自然への怖さを学ぶこともあるでしょう。

海では、足のつかない場所でヒヤリとした経験や、波に体をひっぱられる経験から怖さを学び、「これ以上深い場所はあぶないな」「このまま流されたら、戻れないかもしれないな」というような想像力を高めることが、危険を察知する力を育むことにつながると思っています。

しかし、体験が乏しかったり、親が何でも先回りして子どもの危険をとりのぞいてしまっては、子ども自身が「これは危ない! 」と自分で感じとる機会も失われてしまいます。

・親が転ばないようにと手を貸し、痛みを知らずに育った子
・安全と思える場所ではあえて手を伸ばさずに、転ぶ様子を見守られてきた子

この2人では、親から「痛かったね」と共感してもらい、自分で立ち上がることで、「偉かったね」と褒めてもらうという体験も含めて、原体験の差が生じることでしょう。

多くの原体験が豊かな情緒を育んでいく中で、安定した穏やかな心が想像力の成長に好影響を及ぼすと仮定すれば、やはり傍で親が見守ることのできる幼少期や幼児期にこそ、さまざまな体験(できれば、怖さや痛みを含んだもの)を重ねることが大切なのではと思えてきます。

じじのマンツーマンレッスン

じじのマンツーマンレッスン

「靴のセレクトミスだ~」と言いながら登る長男

「靴のセレクトミスだ~」と言いながら登る長男

 

 

2.  もしものシミュレーションをする 

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怖さの体験が必要と言っても、本当に身も凍るような体験をさせるわけにはいきません。体験できないことは、想像、シミュレーションする。テレビのニュースなどを通して、「もし君がこういう状況になったらどうしたらいいかな? 」と問いかけ、自分の頭で考える時間を持つようにしています。

【例1】幼い2人の兄弟が、両親が留守中にライターを触って火事になり、トイレに逃げ込んで亡くなってしまった

このようなケースであれば、まずは外に逃げる。ベランダでは逃げきれない可能性があるから玄関から逃げよう(玄関付近が燃えている時はベランダに)。次は人を呼びに行こう。などと子どもたちからも意見がでるように話しあいます。そして、そもそも火事にしないためにはどうしたらいいかな?という、危険を察知する能力が彼らの中にあるかどうかも探っていきます。

【例2】小さな子どもが川に落ち、命を落としてしまった

こちらのケースでは、なにか物が落ちてしまっても、君たちの命より大切なものはないのだから、取り戻す努力をしてはいけないことをいちばんに伝えます。もし落ちてしまったら、慌てず呼吸をキープできる場所を探すこと。誰かが落ちてしまったら、助けることよりも大人の援助を求める方が先ということを、子どもとの対話の中から引きだします。そして、できるだけ子どもだけの時は、川べりに近づかない方がいいよね、という確認もします。
シミュレーションはシミュレーションでしかないかもしれませんが、あらゆる場面を想定して、起きてしまったことを防ぐことよりも、まずは命を守るための選択が大事なのだということを知って欲しいと思っています。

江の島アウトリガーカヌー

江の島アウトリガーカヌー

 

 3.  加害者になるかもしれない、と想像させる 

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とりくみ2では、自身に起こりうる危険回避に必要なシミュレーションでしたが、反対に自分が加害者になってしまうかもしれない、というシミュレーションもまた、数々の事例を通して話しあっています。

【例1】 小学生の乗った自転車が老人を死亡させてしまったケース

どうすればそうならなかった?と問いかけ、「スピードをださない」「よそ見をしない」などの意見を引き出します。そして、スピードを出し過ぎなければ、ある程度の事故は防げるね、という答えにたどり着けるよう対話をします。

【例2】 蹴ったボールが校庭の外に飛び出し、それを避けようとしたバイクの運転手が大けがをしてしまったケース

「ここから蹴ったら、ボールがフェンスを越えてしまうかもしれない」と予測できると良かったよね、と話しあうとともに、日常の遊びの中にも、危険を察知する場面はあるのだということを知らせていきます。
さらにきびしい例としては、もしも、誰かを故意に死亡させてしまうような犯罪を犯してしまったら、君はもちろん、家族をはじめ、祖父や祖母や従妹にいたるまで、君が犯した罪を背負って生きていくことになるということや、君が追っている夢や目標を追うこともできなくなるよ、と伝えてきました。

とりくみ2と同様、こちらのシミュレーションもシミュレーションでしかありません。しかし、危険の先につながる厳しい現実を知らせておくことは、成長にともない自分でジャッジをしていくようになっていく中で、正しい選択を選びとるための大切なアイテム(or 歯止め)になるのではと思っています。

 

 

交通公園で交通マナー習得中

交通公園で交通マナー習得中

 

 

4.  さまざまなタイプの人と関わらせる 

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人に対しての危険を察知する能力を高めることは、とても難しいことかもしれません。

なぜなら、事件の犯人への印象を尋ねて回るインタビューを見ていると、「そんなことする人(子)には見えなかった」という回答が混ざっていることも少なくないからです。

悪い人のイメージが、黒い服、帽子、サングラス、マスクという分かりやすいものではなくなり、近所の顔見知りの人や、友だちのママが犯罪者になることもある現在では、人を見る目を子どもの中に育てることが一番難しいように思えてきます。

ですが、親以外の大人との関わりの中で、

「この人はなんとなく気を許せるな」
「この人は怪しいな」
「見た目怖かったのに、話してみたら良い人だったな」

というような経験を通して、近づいて良い人かダメな人かという肌感覚的ジャッジができるようになっていくのでは? と想像する時、やはりさまざまな人との関わりを持つことは大切なのだろうと思うのです。

そして、もしかしたらこれは、ひどく夢想的な考えかもしれないのですが、幼少期より、親をはじめ、祖父母からも十分な愛情を注がれて育ってきた子の中には、愛ある眼差しの基盤のようなものができ、そこに異色なものが入り込んできた時には、警戒を示すアラームが鳴り響いて拒否反応が起きる、ということもあるのではないかとも思うのです。

それこそ肌感覚というか、潜在的に危険を感じとる力なのかもしれない、と思う時、幼少期からの愛情の積み重ねこそが、子どもの成長の中に、自身で危険を感じとる力を育む養分になるのでは、とも思えてきます。

しかし、シミュレーションやとりくみをして怖さを知らせることも大切ですが、そのインプットばかりになってはいけないとも思っています。外へ出るのが怖い。何かにチャレンジするのが怖い。誰かと関わるのが怖い。というように、怖いものだらけになってしまっては、日々を楽しむことができなくなってしまうからです。

怖さも知りながら、自分の心のままにチャレンジできる子に育っていけるように、親自身が過保護になりすぎず、けれど、「ここで1人にしたら危ない」という場所、場面を読みとる力を育てていくことが必要なのかもしれません。

そして、人との関わりを楽しめる子になるように、親自身がいろんな人と楽しみ関わる姿を見せていくこと。その中で、「悪い人もいるだろうけど、きっと良い人もいっぱいいるんだろう」という思いを育てていければと思っています。

 

ビビる右2人を引きつれ、江の島岩屋の闇を体験

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危険を察知する能力を高めるには
1.  痛みや怖さを含んだ経験を、見守りの中で体験させてみよう
2.  シミュレーションを通して、自分で考える機会を持たせよう
3.  さまざまな人に触れる中で、人を見る目を育てよう


PHOTO : Travis Swan(一枚目),その他、筆者本人


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)小説家、エッセイスト。1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。