TOOLS 43 シンプル思考で「まずは動いてみる」/ 諸星久美(小説家、エッセイスト)

子育てを始めた頃。私は、何をするにも初めてで、新しい試みに対して、心配や不安が勝ってしまう、ネガティブ&フットワークの悪い新米ママでした。旅行に行くにも、道中の車内で長男が泣きじゃくったらどうしよう… とか、旅先で熱を出したら… とか、起きてもいない事がらに随分と気を揉んでしまうことも多くありました。

TOOLS 43
 シンプル思考で「まずは動いてみる 
諸星 久美  ( 小説家  /  エッセイスト )

.

自由に生きるために
フットワークを軽くして、子どもの経験値を高めよう

 
.

 案ずるより産むがやすし 
.

子育てを始めた頃の私は、何をするにも初めてで、新しい試みに対して、心配や不安が勝ってしまう、ネガティブ&フットワークの悪い新米ママでした。

初めての男の子(長男)は、多くのことに興味を示し、やってみたい! と思ったことを納得いくまでやりたい子。今なら、それこそが彼の長所であり、子どもらしい素敵な一面であると分かるのですが、当時の私は、彼を連れ歩く日々の中で疲労困憊することもありましたので、新しい場所に出向くということに対して、マイナスイメージが先行してしまいがちだったのだと思います。

旅行に行くにも、道中の車内で長男が泣きじゃくったらどうしよう…… とか、旅先で熱を出したら…… とか、起きてもいない事がらに随分と気を揉んでしまうことも多くありました。

そんな私に反して、外へ出て楽しむことが大好きな主人は、「とりあえず行ってみようよ! 」と、長男と私を、海や雪山へと連れ出してくれました。自由奔放な長男は、連れ歩くには疲れますが、楽しいことが目の前に差し出されると、嬉々としてその時間を堪能できる子でしたので、1歳を迎える前に出かけた初めての海も、初めての雪山でも、たくさんの笑顔を見ることができました。

「なんだ、心配することなかったんだ。来てよかった」と、家路に向かう車中で思いながら、連れ出してくれた主人に、「楽しかった。ありがとう」と、結局いつも私は主人にお礼を言うのでした。

日常から離れて自然と向き合うと、心が解放されていくのを感じます。それは単純に、家事や時間から解放されることで生まれる心の余裕なのかもしれませんが、海を前に子どもが大きな声で泣いても、泣き声など海風にかき消されてしまいますし、打ち寄せる波を見ていると、「そのうち泣き止むでしょうよ」と無理に泣き止ませることなどないのだと思えるのです。

また、普段の公園では洋服が泥や水で汚れると、「え~、洗濯大変…… 」などと思ってしまうのに、砂浜では微塵も気になりませんし、スキーで遊び疲れて寝てしまっても、「ご飯は? お風呂は? 」と日常の当たり前を持ちだす前に、「ま、いっか」と思えるのです。
 
もちろん旅先でも、不機嫌に泣きじゃくる子どもや、心のまま好きな場所へ向かって行く子どもにつき合う疲労はありますが、そんな疲労が吹っ飛んでしまうほど、家路に向かう時間には、決まって多幸感が訪れるのです。

後に、旅先で撮った写真を家族で見る時間も、「出かけてよかった」と嬉しく感じる時間を運んでくれます。また、成長した子ども達が、主人と私の間に挟まれてフレームに納まる幼き自分を見て、温かい時間の中で育ってきたことを実感するきっかけになれば、重ねた旅の思い出や写真は、更に豊かな実りを生むことでしょう。

 

.
.

 重ねた時間が見せてくれる風景 
.

主人の両親がスキー達者だったことが、長男の1歳前雪山デビューのきっかけになっていると思っています。

8ヶ月で出かけた初スキーは、雪に触れる体験を持つことに重点をおきましたが、1歳を過ぎてからは、お義父さんとお義母さんが交代で、長男を足の間に挟んで滑り降り、スキー靴を履けるようになってからは、個人レッスンを重ね、1人で滑れるように導いてくれたのです。

自分でスキー靴を履くことから、自分で板を運んで歩くこと。雪の上での板の扱い方、転び方、止まり方、リフトの乗り方と降り方、スキー場のマナーに関しても、ひとつひとつ、根気よく教えてくれる姿に、私はいつも感謝の混ざる感動を抱いていました。

足が痛いと泣く時や、思うようにできなくて泣く時は、両親が褒めて透かして声を掛け、板が重いと弱音をはく子には主人が渇を入れ、ギブアップも選択にいれながら、主人の両親と主人で、子ども達の経験値をあげてくれたのです。

次男、長女にも、同じように接してくれたことで、ここ数年は、お義父さん、お義母さんと、家の家族5人の3世代でスキーを楽しめるようになりました。
  
この2年程はスノーボードにチャレンジ中で、主人に叱咤されながら滑る長男と、スピードを気にせずビュンビュン飛ばし、目ざとく小山を見つけては飛び込んでいく次男。「私の後についてきてね! 」と両親を従えて滑る長女の後を追いながら、私はのんびりと滑るのです。

ゲレンデに人気がなくなり、白銀の世界に家族だけになる瞬間、「今、目の前に広がる景色は、重ねてきた時間と愛でつくられているんだな~」と嬉しくなります。

両親が、幼き頃の主人と重ねてきた時間の延長線上に、私と子ども達も混ぜてもらっているという不思議な気持ちが涙腺を緩ませる中で、私はしっかりと目の前の光景を目に焼きつけることに集中するのです。
 
4歳だった長女がスキーで足を骨折した次の年は、「また骨折したら嫌だな…… 」と思う私が、「今年はやりたくない…… 」と言う長女の言葉に便乗して、スキーを断念した年がありました。

今年も、進学する長男の怪我を懸念して、「今年はスキーじゃなくていいかな…… 」という気持ちがよぎる寒さ嫌いの私に、「そんなこと言ってたら何もできないじゃん」という主人の言葉と、「スキー、行きたーい! 」という子ども達に押されるようにして出かけた春スキー。

「気持ちい~い」と歓声を上げて滑る子ども達や、「もう一本いこうよ! 」と両親を誘う子ども達を前にして、やっぱり来てよかったと思いましたし、2人で息を合わせて滑る両親を見て、「じじとばば、シンクロしてる~ 」と笑う長女の言葉に、この景色もまた、彼女の中に大切に刻まれるのだろうな、と嬉しく思ったものでした。

 

 

.

 引っ張る力が運ぶ場所 
.

このように、時には強引でも「行こうよ!動こうよ!」と引っ張ってくれる主人の力が、子ども達の成長に、本当に大きな影響を与えてくれていると感じています。

海では、大量の水に触れる経験を通して、その怖さも知ることができます。足の裏を焦がすほどに熱い砂浜を走って海に飛び込み、熱が引いていく感覚や、冷えた体を乾かしていく、太陽の熱を全身で感じることもできます。サーフボードに一緒にまたがって波待ちをした記憶や、上手く波に乗れるようにボードを押してもらい、波に乗った瞬間の嬉しい気持ちなどの体験は、いつか彼らが成長した先で懐かしく顔を出し、その時の彼らを慰めたり、励ましたりする材料になるかもしれません。

雪山では、冬の季節を強く体感し、高い場所から眺める雪景色の美しさも知ったことでしょう。また、投げ出さずに頑張れば上達するという実体験も持てたことは、彼らの中に、とても貴重な自己達成感を植えつけたと思っています。そして、その背景に、根気よく指導してくれた両親や主人がいたという有り難さに、うんと先の未来、もしかしたら彼らが親になった時などに、感謝の想いを抱くこともあるかもしれません。

もちろん、これは私の個人的な願望です。実際は、将来子ども達がアルバムをめくらなくとも、感謝の想いを抱かなくとも(本音は少し感じて欲しいですが……)、構わないのです。「君たちと過ごす時間が、楽しくて仕方ないよ」という思いで育児ができていることこそが、私の人生を豊かにしているということを、私はもう知っているのですから。

子どもが幼い頃の経験値や成長の伸び幅を握っているのは親だと思います。なにも、遠方に出かけなければ経験を積めないという 訳ではありません。近所の公園でも、親が本気で子どもと向き合って遊ぶ時、その時間は子どもにとって、とても豊かなものになるでしょう。そのためにも、まずは親自身が外へ出て楽しむことに貪欲であることが、大切なのだと思います。

実際、主人に感謝の言葉を向けると、彼は当たり前のように、「だって、俺も遊びたかったから」と言うのです。主人のそんなシンプル思考は、両親が彼に与えた、大切な贈り物なのでしょう。

「好きな人と、一緒に楽しみたい」という思いが原動力となり、「すごい!」「嬉しい!」「楽しい!」という瞬間に出会う時、喜びの時間を生きているという実感を持つことができるのです。そして、その喜びの時間の共有こそが、家族時間の豊かな営みに反映されていくのだと思います。いつかまた、次の世代に同じものを贈れるように、やはりフットワークは軽くしておかないとな、と思う今日この頃です。

 .

 

子どもの経験値をあげるために
1.  フットワークを軽くし、シンプル思考をキープしよう
2.  親自身が、楽しむことに貪欲になろう
3.  子どもと本気で向き合う時間を共有しよう

 

 PHOTO : 筆者本人

 


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)小説家、エッセイスト。1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。