ひとつの星座 – 3児のママが小説を出すまで【第6話】 12歳の長男が、夢の叶え方を教えてくれた。2014 – 2015年 / 諸星久美

morohoshi2締め切りに合わせて原稿を書き、言葉を紡ぐことを生業にしている人たちと並走させてもらった経験は、コツコツと一人で書いてきた中では味わえない充実のひとときだった。もっと書きたい。書く時間の中だけに身を投じたい。その思いは、心のままに生きている2歳児クラスの子どもたちとの時間の中で、肥大していったように思う。私の欲望にさらに拍車をかけたのが、長男
連載 「 ひとつの星座 」 とは  【毎月25日公開】
母になっても夢を追うことはできるのでしょうか。諸星久美さんが約15年前、27歳で母になると同時期に芽生えた夢。それは「物語を書いて多くの人に読んでほしい」という夢でした。とはいえ、3児の子育てあり、仕事あり、書く経験なしの現実。彼女は、家事や育児、仕事の合間をぬって、どのように書いてきたのでしょう。書くことを通じて出会ってきた方たちや、家族との暮らし、思うようにいかない時期の過ごし方など、記憶をなぞるように、ゆっくりとたどっていきます。42歳の現在、ようやく新人小説家としてスタートラインに立ったママが、本を出版するまでの話。

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第6話   12歳の長男が、夢の叶え方を教えてくれた。2014 – 2015年 

TEXT : 諸星 久美

   
文芸創作誌に寄稿

保育園で働き、家族の問題と向き合う中で、以前お会いした多田洋一さんから頂いた、インディーズ文芸創作誌『Witchenkare  vol.6』への寄稿依頼を、喜んで受けさせてもらったのが前回までのお話。

自費出版本『Snowdome』のファンタジーものから一変して、『Witchenkare  vol.6』の方には、不倫もののショートショートを寄稿させてもらった。

これまで新人賞に送ってきた作品の多くは、子どもが主人公の長編。けれど、その中に一作だけ、官能色の濃い長編も書いていて、その世界観も好きだったので、家庭を持ちながら、別の恋の時間も生きる女性が主人公の、小さな小説を書かせてもらった。 ※『Snowdome』に加え、『Witchenkare vol.6』寄稿作『アンバランス』についての多田洋一さんによる講評、内容の紹介などはこちら
 
『Witchenkare vol.6 』の中には、素晴らしい作品が幾つもあるが、中でもタイトルから、内容から痺れまくって、今でも時折読み返す作品は、武田砂鉄さんの『キレなかったけど、キレたかもしれなかった』だ。瑞々しい言葉というか、嘘のない言葉というか、誰の心の中にもありそうな共感とか、読後に思考が止まらなくなる感じとか、そういうものがとても読みやすいリズムで書かれていて、こういう文章が書けるようになりたいものだな、と思ったものだった。

締め切りに合わせて原稿を書き、言葉を紡ぐことを生業にしている人たちと並走させてもらった経験は、コツコツと一人で書いてきた中では味わえない充実のひとときだった。

 もっと書きたい。
 書く時間の中だけに身を投じたい……。

その思いは、心のままに生きている2歳児クラスの子どもたちとの時間の中で、肥大していったように思う。

そして、私の欲望にさらに拍車をかけたのが、長男だった。

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12歳の挑戦

6年生の6月、

「〇〇中学を受験したいから、塾に行かせてほしい」

と、長男は自分の思いを夫と私に告げてきた。

私たちはすぐに環境を整える約束をした。なぜなら、小学校3年生からミニバスを始めた彼の、バスケットボールへの熱い思いを、長いことずっと見続けてきていたから、今、この時の彼の覚悟に応えてあげなければいけない、と強く思ったからだ。

ただ、6年生の6月から入れる塾は少ないということも、動き出してから分かった事実だった。「うちでは受け持つことはできません……」と幾つかの塾で断られた後、入れる塾が決まった日の帰り道、長男は私に、

「ありがとう、ありがとう。ママ……ありがとう」

と言い続けた。とにかく伝えないと気が済まないというように、何度も何度も。

「もういいよ。分かったよ。頑張りなよ。私も仕事頑張るから」

嬉しさに半泣きになりながらそう伝えても、彼の感謝の言葉は続いた。

私自身も、小学校4年生から6年生まで、練習づけの日々をおくるバレーボール少女だった。そして、ありがたいことに、小6の時には私立中学から声をかけていただいた。けれど、新しい環境に一人で飛び込んでいく勇気は、その時の私にはなかった。友だちと別の中学へ行くことも、一人きりでの電車通学も怖かったのだ。勇気というよりも、単純に、バレーボールへの熱量が、長男がバスケットボールへ注ぐそれよりも少なかったのだと思う。
 
そんな12歳の私と比較してみても、学校と塾とミニバスの練習に加え、土日には試合や練習試合、間に模試試験、学校見学。その間、前回の連載で書いたようなトラブルが家庭内で起こっているにも関わらず、淡々と日々をこなしていく長男の姿には、わが子ながら感心させられ、「ああ、人はこうやって夢を叶えていくんだなぁ……」「こんなに頑張っているのだから、何とかして、この子の努力を実らせてあげたいものだなぁ」と思ったものだった。

私も、彼のように生きてみたい

翌年の2月、無事志望校に合格した長男から、私は、夢の叶え方を教えてもらったような気がする。

 自分の目標を言葉にして発する。
 言霊が自分の内に宿る。
 そこに向かう体と心と環境が整う。
 やるべきことをこなしながら、ただまっすぐに突き進む。
 その姿を見て、応援する人が出てくる。

 12歳の男の子に、何やらすごいものを見せてもらっちゃったな……。
 私も、彼のように、自分の欲しいものにまっすぐ進んでみたいな……。

そんな思いから、ものを書くことへの熱がふつふつと身の内で温度をあげていく中、

「収入は減るけど、アルバイトをしながらもう少し書く時間を作りたいと思ってる」

と告げた私に、夫は、「どうぞ、思うままに」と二つ返事で背中を押してくれた。「なんとかなるでしょう」と軽やかに。
 
「これから学費がかかるっていうのに、いい歳して、いつまで夢みてんだよ」世の中には、そのようなことを言う人がいることも知っているから、私は夫のその言葉に、感謝しか持てなかった。やっと入れる塾が決まった日に、「ありがとう、ありがとう」と何度も、何度も繰り返した長男のように、私は、私の思いに賛同して背中を押してくれた夫に感謝を述べた。
 
そして、私はすぐに、ORDINRY発行人である深井次郎さんの講義「自分の本をつくる方法」を受講し始めた。次回の連載は、そのあたりから。
 

 

  

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<本の紹介> 「千住クレイジーボーイズ」諸星久美
『千住クレイジーボーイズ』は、かつて一世を風靡したことのある芸人、辰村恵吾(塚本高史さんが演じられています)が、千住のまちの人たちとの関わりの中で成長していく物語。ノベライズ本を書くうちに、恵吾との共通点に気づいた私は、作中に、ものを書く世界でどのように生きていきたいか、という私の想いも重ねて語っていますので、それも含めて、本を楽しんでくれたらうれしいです。

本のご購入方法は、版元であるセンジュ出版のウェブサイトにて。              

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<ドラマの紹介>

ドラマ「千住クレイジーボーイズ」【放送されました】ドラマ『千住クレイジーボーイズ』2017年8月25日(金)19:30~ NHK総合テレビ  ウェブサイトはこちら   .  

(次回もお楽しみに。毎月1回、25日に更新予定です) =ーー

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連載バックナンバー

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第4話 書くことを再熱させてくれたもの 2009 – 2011年(2017.11.25)
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TOOLS 43  シンプル思考で「まずは動いてみる」
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TOOLS 36  肯定のループが育む賑やか5人家族
 

 

 


諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)小説家、エッセイスト。1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。