『旅の正しいやり方』なんてものがあるのだろうか。「やっぱり私がおかしいのかな。なんか旅のやり方間違ってる? 」と思い始め、インターネットで『バックパッカーの正しいやり方』なんて検索する始末。ダメなときはダメと割り切るしかない
連載「旅って面白いの?」とは 【毎週水曜更新】 世界一周中の小林圭子さんの旅を通じて生き方を考える、現在進行形の体験エッセイ。大企業「楽天」を辞め、憧れの世界一周に飛び出した。しかし、待っていたのは「あれ? 意外に楽しくない…」期待はずれな現実。アラサー新米バックパッカーの2年間ひとり世界一周。がんばれ、小林けいちゃん! はたして彼女は世界の人々との出会いを通して、旅や人生の楽しみ方に気づいていくことができるのか。 |
第12話 心の感度が鈍けりゃ、人を見る目も曇る。長距離バスでの苦い出会い 〈マレーシア〉
TEXT & PHOTO 小林圭子
『旅とは…? 』
このシンプルな問いを
ずっと自分に繰り返しています
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『旅の正しいやり方』なんてものがあるのだろうか。
「旅はこうでなければいけない」、「旅ではこれをしちゃいけない」、「旅において、これが正解でこれは間違っている」なんてセオリーめいたものがあるのだろうか。
もちろん全て『NO! 』に決まっている。何のために旅をするのか、旅の中で何がしたいのか、なぜ旅が好きなのか、なんてことは人によってそれぞれであり、みんな違っていて良い。違うからこそおもしろい。そんな当たり前のことを、何度も何度も自分に言い聞かせるかのように、ずっと旅を進めてきたように思う。
そして、「自分にとって旅って何だろう?」と自問自答してきた。
そう、『旅とは…?』
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インターネットで調べても
他の旅人のブログを読んでも
「旅の楽しさ」の答えは見つからず…
フィリピンを出た後、オーストラリア、インドネシア、そしてマレーシアと進んできたけれど、まだ自分の旅のスタイルも確立できていなければ、旅人としての自信もないまま。常に迷い、悩み、軸がブレブレな私は、あっちへウロウロ、こっちへウロウロの、へっぽこバックパッカーとしての域を出ていなかった。
「みんな何が楽しくてバックパッカーをやっているんだろう? そんなに毎日毎日、刺激に溢れ、非日常に身を置き、『あー生きてるって実感するわー!』みたいな時間を過ごしているのかな。ハッキリ言って、全くわからないんだけど… 」
と疑問を感じていた。次第に、
「やっぱり私がおかしいのかな。なんか旅のやり方間違ってる…? 」
と思い始め、インターネットで『バックパッカーの正しいやり方』なんて検索する始末。
でも検索したところで出てくるのは、「旅に出る前にまずはルートを決めよう」とか「世界一周航空券の使い方」、はたまた「旅で役立つ持ち物」なんていうような、まさにこれからバックパッカーを始めようとする人のための、いわゆる『how to』的な情報。いやいや、欲しいのはそんな表面的な情報じゃないし。
それなら、他の旅人はどんな旅をしているんだろう? と思ってブログを探して読んでみる。でも、なんてことはない。「今日はどこどこへ行った。バス代は値切っていくらになった。バスは意外にキレイで快適だった。お昼はなになにを食べた。いくらだった。安い! そしてめちゃめちゃ美味しかった。その後どこどこへ行った」みたいなことが延々と書かれている。「そうか、そうか」と思いながら一応読み進めるけれど、読み終わると同時に「うん、まぁ、そうだよね」という想定していた通りの結論に行き着く。
結局のところ、現在進行形で旅をしている旅人なんてごまんといるけれど、みんな毎日、何かを食べて、どこかへ行って、人と出会って、ということを繰り返しているわけで。そこにたまにトラブルが発生したり、日本では考えられないことに直面したりしながら、旅を続けている。おおまかに言えば、そういうことなのだと思う。ということは、毎日何かを食べて、どこかへ行って、人と出会うことを繰り返している私も、やっていることは同じはず。
では、何がいけないんだろう? オーストラリアにいたときから、自分のアンテナが働いていないことはわかっていたし、そのため、判断力も行動力も明らかに鈍っていた。
「旅の楽しさがわからないなんて、私の感度がよほど下がってるってことかな… 」
なかなか旅に対するテンションが上がらない自分の状態をそんなふうに結論づけて、とりあえずこれらの疑問に蓋をした。
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ダメなときはダメと割り切る!
試行錯誤しながら
バックパッカーらしく行動してみる!
さて、マレーシアにはトータルで3週間ほど滞在した。悩んだところですぐに何かが掴めるわけでもないし、仕方ないのでここは割り切って、「そんな時は、とにかく何でも試してみよう」と考えた。
自分を少し引いて見てみる。試行錯誤する自分を楽しむ。そして何も考えない。ダメなときは何をやってもダメなことが多いし、そんな状況に抗っても疲弊するだけだし、トンネルは長そうだと感じていたので、ちょっと省エネモードで「時が来るのを待つ」ことにした。
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クアラルンプールからマラッカへ、マラッカからジョホールバルへ、ジョホールバルからまたクアラルンプールへ、そして最後にペナン島へ。これまでと比べて街から街への移動を多くしてみた。
「バックパッカーと言えば、ローカルバスでの移動もお手のもの!」らしいので、正直、一人で長距離バスに乗るのはあまり気が乗らなかったけれど、今回はそれを試してみるか、と。(ただし、ペナン島に渡るのだけは国内線の飛行機を利用)
さっき挙げたブログの例ではないけれど、マレーシアの長距離バスは思ったより悪くない。お世辞にもキレイとは言えないまでも、決して不快感を感じるものでは無かった。ボロボロ具合も「味があるなぁ」なんて微笑ましく思えるくらいのレベル。また、クアラルンプールからマラッカに行くバスと、マラッカからジョホールバルに行くバスは、時間も驚くほど正確で、むしろ私の方がのんびりしすぎて乗り遅れそうになった。
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そんな中、ジョホールバルからクアラルンプールに戻るときに乗ったバスだけは様子が違った。というのも、出発時間になってもなかなか出発しようとしない。10分が過ぎ、20分が過ぎても一向に出発の気配を見せない。
「あれ、おかしいな… 」
だんだん焦ってきた。
「もしかして、バス乗り間違えた…? だとしたら、私が乗るはずだったバスはもう出発しちゃったってこと…? 」
不安になってキョロキョロと他の乗客の様子を見回す。3分の1くらいの座席が埋まっていたけれど、みんな落ち着いた様子で座っている。ますます不安になった私は立ったり座ったりを繰り返し、自分が持っていたバスチケットを食い入るように見つめた。
そんな私に気がついたのか、斜めの席に座っていた40代後半くらいのマレーシア人のおじさんが話しかけてきた。
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旅の中では噓も方便!
年齢も職業も詐称しちゃいます!?
「チケット見せて」
金ピカの時計をつけた、いかにも胡散臭そうなおじさんである。一瞬躊躇しつつも私は自分のチケットを差し出した。
「このバスで合ってるよ。まだ席が空いてるから、お客さんが集まるまで待ってるんだよ」
カタコトの英語で教えてくれた。なるほど…。確かにまだ空席が目立つ。ということはあとどれくらい待たされることになるんだろう…。安心しつつも、ちょっとゲンナリした。
そこからおじさんは私にいろいろ質問してきた。どこから来たの? 歳は? 仕事は? もしくは学生? などなど。それに対して私はウソをついた。
「日本から来た26歳の学生です」
実は初対面で、かつ身元がよくわからない人に、自分の歳や仕事を聞かれるときはいつもそう答えるようにしている。
というのも、日本人だというだけでも外国人から見ればお金持ってると思われやすいのに、それを正直に「32歳で会計士やってた」なんて言おうものなら、向こうからしてみれば「どんだけ金持ちやねんー! 」と勘違いされかねない。つまりは、カモられないための自分なりの防御策。それに、32歳の社会人よりかは26歳の学生の方が可愛げがあるってものだ(笑)。ちなみに、日本人は若く見られることが多いので、これまでウソがバレたことはまだない。
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セクハラおやじ?
はたまた強盗?
恐怖の長時間バス移動
そしてこういう時、変に愛想良くしてしまうのが、私の悪いところ。そのおじさんに必要以上に気に入られてしまった。おじさんは斜め後ろを見ながら話す姿勢がツラかったのか、
「隣に座っても良い?」と言ってきた。
なにー!? こんなに席が空いてるのに、わざわざ隣に座る必要ある!? 海外で日本人はモテるって言うし、途中で手とか握られたらどうしよう…? もしかしてセクハラおやじ…? しかもその上お金まで取られたらどうしよう…? ひぇー! 怖いよー!! と一瞬でよからぬ想像が次々と浮かんできた。
だけどハッキリ「嫌」とも言えず、遠回しに、引きつった笑顔で答えた。
「でも私、眠いから寝るよ」
そんな私の心配なんて伝わるはずもなく、おじさんは図々しくも隣に座ってきた。
「どうぞ、寝て良いよ」
寝て良いって…。その間に財布とか取られるかもしれない! 寝れるわけないー!
そこから地獄の時間が始まった。眠いけれど寝れない。寝たら終わり、寝たら終わり、と心の中で唱えながら、カバンをしっかり抱えてひたすら寝たフリを続けた。
3、4時間走ったところでバスが停まった。どうやら休憩地点らしい。私はおじさんが降りていったのを確認してから、ゆっくり起きた。ふぅ~、さてどうするか。別におなかも空いてないし、バスの中で待ってることにしよう。なんて思っていたら、バスの外からおじさんが手招きして降りてこいと言っている! しまった、見つかってしまった…。しぶしぶ降りていくとそこは日本のサービスエリアみたいになっていた。
「コーヒーでも飲む? 何でも好きなもの食べて良いよ」
これはごちそうしてくれるってことなのか…? でも知らないおじさんにおごってもらうなんて怖いし。と思っていたら、おじさんは勝手にコーヒーを注文して、さらに「パンでも食べようか」といかにも美味しくなさそうなパンを買ってくれた。
またまた引きつった笑顔でコーヒーを飲む私。そしてやっぱりパンは美味しくない…(苦笑)。無理矢理半分を口に押し込んで、申し訳ないと思いつつも半分は残した。そんな私をおじさんはニコニコしながら見ている。
うぅ… やっぱり怖い…。
「After this, I can see you.」とおじさんは何回か繰り返した。
ん…? どういう意味だろう…?
これの後、私はあなたを見ることができる…? 意味がわからないー!! 怖いー!! 私は何も言い返せず、とりあえずニコニコしてその場をやり過ごした。
再びバスが出発してからも、私は寝たフリを続けた。おじさんは別に話しかけてくる素振りもなく、もちろん私に触るでも荷物を盗むでもなく、普通に静かに座っていた。と思ったら、1、2時間走ったところで、おじさんが私の肩を叩いた。
「ここで降りるから、じゃあね。気をつけてね。ありがとう」
なんと…! おじさんはクアラルンプールまで行かず、途中でバスを降りると言う。私はめちゃめちゃビックリしながら、 早口で答えた。
「え! え! あ、そうなの! おじさんも気をつけてね! コーヒーごちそうさま! ありがとう!! 」
手を振って笑顔で降りていくおじさん…。
「After this, I can see you.」はどうやら、「ここを出たら、さよならだよ」という意味だったようだ。おじさんはセクハラおやじでもなく、スリでも強盗でもなく、コーヒーとパンをおごってくれた普通に良い人だったのだ。最後までおじさんを疑って、勝手にビビっていた私は自分が恥ずかしくなった。
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おじさん、ゴメンネ…
私のトンネルはまだまだ続きます…
心の感度が鈍っていると、どうやら人を見る目も曇るらしい。親切にしてもらっても、その人のことを悪人なのではないかと疑ってしまうらしい。おじさんが降りていってからクアラルンプールに着くまで、私はひたすら反省し、心の中で何度も謝った。
自分の旅はまだまだそんなへっぽこレベル。「自分にとって旅とは? 」この答えにたどり着くには、まだまだまだまだ時間がかかりそうだ。
頑張れ、私…。 (了)
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(次回もお楽しみに。毎週水曜更新です)
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連載バックナンバー
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『一身上の都合』 小林圭子さんの場合「次なるステージへ挑戦するため」(2014.5.19)