もういちど帆船の森へ 【第41話】 扉を開く / 田中稔彦
これまでに仁さんとした雑談とかのなかから、いろいろネタを引っ張り出してはなしあったのですが、仁さんはどれにもいまひとつピンとこなくて。この話、最終的に「理由なんて特にないけど、やってみたいんだよね」「ですよねー。知ってた…
これまでに仁さんとした雑談とかのなかから、いろいろネタを引っ張り出してはなしあったのですが、仁さんはどれにもいまひとつピンとこなくて。この話、最終的に「理由なんて特にないけど、やってみたいんだよね」「ですよねー。知ってた…
ポリネシアやミクロネシア地域には、いまでも数千年前から伝わっているスターナビゲーションという自然と対話する航海術が残っています。何日もかかる遠い島まで、太陽や星、海流や渡り鳥、そんな身の回りの自然だけを頼りに船を進めるの…
みんな「丁寧な暮らし」にとらわれすぎてるんじゃないだろうか。みんなが同じ理想に向かうのは、少し窮屈に感じられる。舞台、照明、帆船、旅、ものを書く、イベントを企画する。ぼくの好きなもののほとんどは、丁寧に暮らすとは正反対の…
あまりに当たり前に「お客さん」なひとが多くなったんじゃないか、そんな気がする。快適な環境。わかりやすいアナウンス。確実に手に入る、ちょっとした成果。危険や失敗を避けるための、丁寧なインストラクション。不便であることが非日…
伝統的なやり方を大切にするのは、悪いことではありません。ただ、社会が変わっていく中で、教育のあり方も変わる必要がある。そんななかで自分たちの価値を維持するためには、伝統の精神は残しながらも、未来を模索する姿勢が必要なので…
でも、おそらくその試みは失敗しました。同じように「月明かりの夜航海」とか「夜が明ける中で舵を握る」とか、どうしても伝えたいことは伝えられなかったと思います。そしてどうすれば「風の肌触り」を感じてもらえるのか、その答えはど…
情熱は育てることができます。仕事でも恋愛でも趣味でも、最初から強い興味や愛情を感じたわけではなくても、時間が経てば直感的に自分に合うと感じた対象への情熱と同じようなレベルにまでたどり着くことができる。最近感じている違和感…
死者こそ出さなかったものの、船が沈むという大きなトラブルがあったのに、そんなに早く事業を再開できたことにはビックリしました。資金だってかなりの額が必要だろうし、大事故を起こしたことでの社会的な信用も失ったかもしれないのに…
もう一生会わないかもしれない人。二度と連絡を取ることもないかもしれない人。でも、もしももう一度会うことがあったら、どんなに時間が経っていても一緒に過ごしていたときと同じように楽しく過ごすことができる人。確かに、友だちと呼…
コミュニケーションをさぼってしまうことがある。言葉が通じないからではなくて、自分自身が心を強く保てなかったせいで。だから、自分の弱いところを鍛えてみたい。いまセブに来て2日目ですが、もうそうとうにストレスです。でも15年…
何年もくすぶっていた「インストラクターをやりたい」という想いは、キレイに昇華されました。「インストラクターをやること」は自分の内側でそこそこ大きな引っ掛かりだったみたい。気づけただけでも、あがいてきた意味はあったような気…
ひとつの船にたまたま乗り合って、航海にでる。そこからしか生まれない、たった一度の航海を作ること。長い航海で、ときたま生まれる小さな奇跡。それが、ぼくが考える「最高の航海」です。ただ、一泊二日という時間はほんとうに短くて。…
そうこうするうちに、うっすらと空が白みはじめて。夜が素早くやってくるのと比べると、朝はいつもだましだまし近づいてくる気がする。注意して見ていても気づかないくらいにごくごくゆっくりと、船の輪郭や、水平線が浮かび上がってきて…
昼間だけではなく夜景を見るナイトクルーズもあって、反応はとてもいいみたい。そんな彼が最近腕を怪我して操船が不自由になったので、たまに手伝いで船に乗っています。主に船を陸につけたり離したりするときのサポートで、時々操船も。…
手間をかけて「位置を割り出す方法」を考えたことにも頭が下がりますし、それから300年間ほぼすべての船乗りがその技術を学び続けてきたことにも震えます。じゃあ300年間受け継がれた技術が失われることに反対かというと「まあいい…
コロンブスが西インド諸島に到達する500年も前に、北欧バイキングは大西洋を越えて北アメリカに到達していた、という話をした。その時、一緒に飲んでいた人に「ここにいる20人で、その頃の船に乗り込んでヨーロッパからアメリカまで…
舞台照明家が、海について語る。ただの連絡ミスだったのですが、偶然生まれたこのシチュエーションは、自分の中の思い込みを取り払ってくれました。そして、これから何を語っていくのか、その道もぼんやりと照らしてくれた、そんな気がす…
漂着重油の除去のために、島に数十人の業者さんが滞在しています。作業が始まったのは2月の中旬。もう二ヶ月近くになります。そして、作業が終わる一応の目安は5月末とされていますが、実際にはいつになるのかはっきりと分かってはいま…
7年前の東京でも劇場は閉ざされ、空っぽのままで誰からも省みられなくなりました。舞台照明デザイナーのぼくは、震災があってその先一ヶ月の仕事がすべてキャンセルになりました。演劇の人は、みんな問いかけられたのです。この世界に演…
世の中には、書くことが好きでいくらでも書けるという人もいます。ぼくはそういう人ではありません。いまでも、書く作業は辛く、考えは堂々巡りをして、文章は行きつ戻りつなかなか前に進みません。それでも書き続けているのは「しんどさ…
それでもやはり勇気ではないのかと思います。知識も経験も技術も、実のところ船同士でそれほどの差があったとは思えません。ぼくの船でもそうでしたが、たぶんすべての船が遠回りルートのメリットは分かっていたと思います。分かっていて…
確かに冒険ではないかもしれないし、自分で選び取ったわけではないかもしれない。でも逆に考えると「すでにあるものを組み合わせるだけでもここまで行けたというのは、ちょっと面白いかもしれない」と思うようになったのです。これまで帆…
風がない状態のことを、凪(なぎ)と言います。ヨットや帆船で一番やっかいなのが、この凪に捕まることです。風が強かったり向かい風だったりは、目的地に向かって走るためにトライしてみることがいくらでもあります。けれど凪の時はそう…
カヌーやボートに乗ったことは何度かありました。実際の漕ぎ進んだ距離や時間は、それと比べたら全然短かった。けれど何かが違ったのです。自分の手で作りあげた船だったからなのか。葦船という、ほとんど自然そのままのものを、最低限の…
ゆっくりと時間をかけて屋根に登りました。目の前に広がるのは運河と水面を埋め尽くすほどの帆船とヨット。彼女はずっとその景色から目を離しませんでした。「そろそろ降りようか」声をかけたぼくに、彼女は水面から視線を動かさずにつぶ…
マリンレジャーについて考える中で、以前から気になっていたのは、山との差です。週末の朝に電車に乗っていると、これから山に向かおうとする集団とよく乗り合わせます。登山やトレッキングは、ジャンルとしてかなり大きな規模を持ってい…
自分では当たり前だと思っていることの中にも、周りには知られていない、面白いと思われることもたくさんあります。新しい何かに挑戦するときには、自分の棚卸しから始めてみるのも一つの手段。「海図」というキーワードにたどり着いたこ…
風を見ることは誰にでもできる。けれど、風を見るにはそれなりの準備が必要です。多くは先輩のヨット乗りに教えてもらったりしながら、そうした準備を重ねていきます。そしてある日「ああ、これが風が見えるっていうことなのか」と腑落ち…
「コミュニケーションが苦手なので、コミュニケーションについて人よりたくさん考えて、だから仕事にしようと思ったのです」この言葉に衝撃を受けました。そういう向き合い方をしてもいいと知ったのは初めてだったからです。船に乗ってい…
心から愛したものがなくなろうとする時に、自分がなんのアクションもしなかった。そのことが心にずっと小さな傷として残っていました。セイルトレーニングへの想いはその程度だったのか。チクチクと胸を刺し続けていました。ぼくにとって…
「そういえば、1年くらい海に出てないなあ」帆船での航海経験はそれなりにあるのですが、実はヨットにはほとんど乗ったことがないのです。知り合いにヨット乗りはいるものの、週末にヨットに乗せてもらったりすることもありません。そも…
帆船で長い航海をしていると、楽しい反面疲れもたまってきますし、慣れない作業や共同生活でストレスを感じることもよくあります。当然、乗船してきたゲスト同士でいざこざが起こることも。そんな時、スタッフとしてどう対応するかという…
公演が終わり、舞台の備品を全てトラックに積み込み、役者とスタッフはバスで体育館を離れます。そのバスをお客さんだった人たちが手を振りながら見送ってくれる。「夢見るのではなく、夢見られる存在」ぼくたちは間違いなく夢見られる存…
ひとりで何ももっていないこの場所から、どうすればゴールにたどり着けるのか。そう考えてたどり着いた答えは「メディア」でした。帆船のそして自分自身のメディア化、それがその頃の自分にできるひとつの手段ではないかそう考えたのです…
帆船を使った体験航海、セイルトレーニング。これを事業として成立させるにはどうすればいいのか。それは「持続性のある事業プランであること」でした。乗る船をなくした経験からそう思うようになったのです。最初に考えたのは船のスペッ…
船がなくなるかも、という話は数年前から囁かれており「とうとう来たか」という感想でそれほど驚きはありませんでした。とはいえ、長く関わってきた船がなくなることはとても残念でした。その少し前まで起業について少しだけ勉強していま…
「ひきこもり」という言葉ができる前から引きこもってました。だから今でも電話が少し苦手です。仕事だったり、友達と会うことになっていたり、なのに時間が来てもどうしても家を出ることができない。 連載「もういちど帆船(はんせん)…
けれど時間が経つにつれて、少しずつ自分の中で帆船について考える時間が増えてきました。ここで学んでいる知識や人脈を持って2003年に戻れれば、もう何年かあの船は生き延びられたんじゃないか。そんなことを夢想したりもしました。…
ぼくの人生最高の時は2000年8月24日。朝の8時。オランダの北海に面したアイマウデンという小さな港街。天気のいい朝でした。ヨーロッパの夏は乾燥していて風は肌に心地よくて、空気は透き通っていて鮮やかな青空が広がっていまし…
そんな日々を繰り返すうちに、ドラマを消費するよりもドラマを作ることが楽しくなったのです。今年の夏に帆船「みらいへ」を借りてイベントをやりました。伝えたいことは体験する楽しさ。ひとりひとりが、自分自身が主人公の物語を生きる…
帆船に乗り始めたのは、仕事が忙しくなりすぎてしまったから。好きだった仕事をキライになってしまいそうだったからです。帆船という「非日常」の世界が自分の中で生まれたことで、「日常」をもより楽しく、楽に生きることができるように…
海に出ることは自分の立っている場所を確認する、ぼくにとってはそんな意味もあったのです。日常の時間の中でも「知っている」と思い込んでいることを、本当はどのくらいの深さで知っているのか、そんなことも考えるようになりました。世…
食事はおいしい方がいいし、シャワーだって毎日浴びられた方がいいに決まっています。でも自分たちが航海を通じて乗船してきた人たちに何を伝えたいのか、何を感じて欲しいのか、そこを外してしまって上辺だけの快適さを追求するのは本末…
波を被り、風に煽られ、大変な状況で船を動かしている時に、キチンとした温かい食事がとれるというのは、気持ちをリセットさせて落ち着かせるのにとても効果がある。船に長く乗っているうちにぼくはそう感じるようになったのです。しかし…
海以外にも、見えないコミュニティーはたくさんあるのではないかとぼくは思います。その誰かが取り仕切るわけではなく、キチンとした組織があるわけでもない。愛情や情熱を持った人たちが造り上げて、維持し続ける、そんなゆるやかなコミ…
夜の暗さを体で感じる機会は、街で暮らしている人にはそう多くない。街灯のない田舎で暮らしていたとしても、闇の中にあえて身を置いて時間を過ごすということはあまりないのではないでしょうか。自然のサイクルの中から見えてくるものが…
陸から国境を越える時には、不思議といつも緊張してしまいます。それと比べて、海から他の国に入ることはいつも、どこか明るくて開放感を感じます。それは道路の検問所がなにかを防ぎせき止めるための場所なのと比べて、港は様々なものが…
海に出るつもりなんてなかったけれど、内なる衝動に身をゆだねた TOOLS 11 帆船のはじめ方 田中稔彦(海図を背負った旅人) ーーーー 自由に生きるために 内なる衝動と向き合おう ーー ーーー 先日、世界一周に旅立つ友…