ひとつの星座 – 3児のママが小説を出すまで【第1話】 2017年、痺れるほどに熱い夏 / 諸星久美

morohoshi2ただ書くことが好きというのなら、自身のお気に入りノートにあれこれと書き連ねればいい。誰に読んでもらわなくとも、そのノートを黙々と増やしていくだけでいい。きっとそれだって十分に意味のあることだろう。でも私はそれだけでは嫌だった。本として形にしたかったし、仕事として本を書きたかった。その願望が自身の中で隠せなくなって
連載 「 ひとつの星座 」 とは  【毎月25日公開】
母になっても夢を追うことはできるのでしょうか。諸星久美さんが約15年前、27歳で母になると同時期に芽生えた夢。それは「物語を書いて多くの人に読んでほしい」という夢でした。とはいえ、3児の子育てあり、仕事あり、書く経験なしの現実。彼女は、家事や育児、仕事の合間をぬって、どのように書いてきたのでしょう。書くことを通じて出会ってきた方たちや、家族との暮らし、思うようにいかない時期の過ごし方など、記憶をなぞるように、ゆっくりとたどっていきます。42歳の現在、ようやく新人小説家としてスタートラインに立ったママが、本を出版するまでの話。

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第1話   プロローグ  2017年、痺れるほどに熱い夏 

TEXT : 諸星 久美

 

 

求め続けた世界の入り口

 

 

「ああ、やっとたどり着いた…… 」

2017年の5月の連休明け。

センジュ出版、吉滿明子(よしみつ・あきこ)社長から届いたメッセージを見て、私はそう呟いた。

メッセージの内容は、「あるドラマのノベライズ本を書いてみないか?」というもの。

そして、私がたどり着いた場所とは、書くことを仕事にしたいと切望してきた日々の中で探し求めてきた、もの書きとしての世界の入り口であり、私が歩んでいきたいと願う道の、大切な通過点であった。

ただ、書くことが好きというのなら、自身のお気に入りノートにあれこれと書き連ね、誰に読んでもらわなくとも、そのノートを黙々と増やしていくだけでいいし、きっとそれだって、十分に意味のあることだろう。普段、人に見せることのできない自分をさらけ出す場があるということは、時にその人を救うことになるし、言葉を吐き出すことで浄化していく痛みや感情もあるからだ。

でも私は、ひとりでノートに書き溜めているだけでは嫌だったのだ。
ちゃんと、本として形にしたかったし、仕事として本を書きたかった。

それは、さまざまな要素が絡み合って肥大していった願望であるが、その願望が自身の中で隠せなくなって、口をついて零れ始めた頃から、私は本当の意味で、「ものを書く」ということに向き合い始めたのだと思っている。

だが、本当の意味で向き合い始めたからといって、するすると欲しいものが手の中に転がってくるほど甘くはなかったし、才能もなかった。書いても、書いても、作品が認められることはなく、仕事として書くチャンスも得られなかった。それでも書くことはやめられないまま、パソコンに向かう日々が続いた。

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情熱? それとも執着?

 

熱量の差こそあれど、約15年ほどの長い期間にも関わらず、「書きたい!」という思いを持続できた1番の要因は、「ものを書く時間が、私には必要だ」ということが分かっていたから。

母親になってから、書くことの楽しさに目覚めた私にとっては、パソコンに向かって、ぐぐ~っと深い集中の中に入り込んでいく時間は、「妻」でもなく、「母」でもなく、「私」として生きることのできる貴重なひとり時間だった。

1人目の子の出産後、育児ノイローゼになりそうだった時に、書く時間が私を救ってくれたことは明白だったし、その後も、私にとって書く時間が大切なストレス解消の場になっていたからだ。

そして、「書きたい!」思いを持続できた2番目の要因は、声が消えなかったから。

私は、物心ついたときから、妄想や空想の中に身を浸すことを好む子どもだったせいもあり、誰かと話すよりも、自身の中で、ああでもない、こうでもないと、対話を重ねた先で見つけた答えに従いながら、歳を重ねてきた。

それは、思春期になっても、大人になっても、もちろん母親になっても変わらない、私が私であるための大切な習慣でもあったから、「どうしても書きたい!」 「とにかく書き続けよう」 「準備をしておこう」という声が、自身の中で大きなうねりのように息づいていることを、安易に無視することはできなかったのだ。

無論、その声は、応募した文学賞に落選するたびに、「もうやめれば…… 」と囁きもしたし、素晴らしい小説に出会うたびに、「どんなに努力を続けてみたところで、到底この人の境地にはたどり着けないというのに、まだ続けるの? 」と尋ねもした。

子どもがトラブルの渦中にいる時などは、「母親なのだから、自分のことは後回しにするべきだ」と叱り、「自分のやりたいことに貪欲すぎるから、子どもの変化に気づかなかったんだ」と私を責めもした。

もちろん、そんな時は、優先順位を母親にシフトして、書くことから離れたけれど、トラブルが解決すると、蓋をして押し込めていた熱は、またむくむくと立ち上がり、私を創作の時間へと向かわせた。

 

 

人との出会いが道をひらく

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けれど、貪欲に突っ走っていると、私が、人知れず重ねてきた創作時間を褒めてくださる方や、アドバイスをくださる方や、チャンスを与えてくださる方が、目の前に現れてくるのだから不思議なものだ。

書くことを通じてご縁の繋がった方々の中には、もちろん、センジュ出版の吉滿社長との出会いもあり、その出会いの先で頂いたチャンスが実を結んで、本日、8月25日に一冊の本となって出版される。

その本は、『千住クレイジーボーイズ』というドラマのノベライズ本ということもあり、私がゼロから生み出した物語ではないが、私は、このノベライズ本が自分のデビュー作としてこの世にでていくことが嬉しくて仕方ない。

なぜならそれは、私の、「書きたい!」という想いが吉滿社長の心に届き、彼女が粋な度胸と覚悟を持って、チャンスをくれた作品であるからだ。そして、それが分かっていたから尚更、震えるような歓喜と、大きな冒険に飛び込んでしまった怖さと、感謝の塊を胸中に抱えながら駆け抜けた執筆の期間を、私は生涯忘れることはないだろう。.
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ゆっくりと辿る記憶

 

この連載は、私が母になってから見つけ、求め続けてきた世界の入り口に辿り着くまでの、歩みの記録。私の中で消えなかった「書きたい!」という声。パソコンに向かっているときの高揚感。書くことで出会ってきた方々。その方々からもらった、エネルギーのある言葉。星のようなそれらの煌きを集めているうちに、気づいたら幾つもの星が連なり、ひとつの星座(作品)が完成していた。そんな想いから、『ひとつの星座』というタイトルを選んだ。
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次回からは、本日放送されるドラマと同日発売されるノベライズ本に合わせて、「連載の第1話目を公開しよう」とチャンスをくれたオーディナリー編集長、深井次郎さんとの出会いはもちろん、私が小説を書きはじめたきっかけや、家事や育児、仕事の合間をぬって、どのように書く時間を捻出してきたか。書くことを通じて出会ってきた方々から貰ってきたエネルギーや言葉、思うようにいかない時期をどのように越えてきたか? など、記憶をなぞるように、ゆっくりと辿っていこうと思う。
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<本の紹介>

「千住クレイジーボーイズ」諸星久美『千住クレイジーボーイズ』は、かつて一世を風靡したことのある芸人、辰村恵吾(塚本高史さんが演じられています)が、千住のまちの人たちとの関わりの中で成長していく物語。ノベライズ本を書くうちに、恵吾との共通点に気づいた私は、作中に、ものを書く世界でどのように生きていきたいか、という私の想いも重ねて語っていますので、それも含めて、本を楽しんでくれたらうれしいです。

本のご購入方法は、版元であるセンジュ出版のウェブサイトにて。

 

 

 

 

 

 

 

<ドラマの紹介>

ドラマ「千住クレイジーボーイズ」ドラマ『千住クレイジーボーイズ』8月25日(金)19:30~ NHK総合テレビで放送!ウェブサイトはこちら

 

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(次回もお楽しみに。毎月1回、25日に更新予定です)
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第1話 連載開始に寄せて(2017.8.25)

 

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諸星久美

諸星久美

(もろほし くみ)小説家、エッセイスト。1975年8月11日 東京生まれ。東京家政大学短期大学部保育科卒業後、幼稚園勤務を経て結婚。自費出版著書『Snowdome』を執筆し、IID世田谷ものづくり学校内「スノードーム美術館」に置いてもらうなど自ら営業活動も行う。またインディーズ文芸創作誌『Witchenkare』に寄稿したり、東京国際文芸フェスティバルで選書イベントを企画するなど「書くことが出会いを生み、人生を豊かにしてくれている!」という想いを抱いて日々を生きる、3児の母。2017年8月25日、センジュ出版より『千住クレイジーボーイズ』ノベライズ本出版。オーディナリー編集部所属。