【第274話】好きと中毒の見極めかた / 深井次郎エッセイ

ロバートキャパ後に残るのが充実感か、罪悪感かを判断するようにしてください。「好き」と間違えて「中毒」を仕事にした場合、長い目で見て心身の健康を害してしまうことがあります。社会的に良しとされているか、は関係ない。「正解は外」ではなく「自分の中にある」のです

 後に残るのが充実感か、罪悪感か
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「好きを仕事に」とは言っても、そもそもやりたいことがわからない問題。
このテーマでの質問が多いので、ヒントをお話ししますね。

「好き」と間違えやすい感情のひとつが、「中毒」です。「中毒」を仕事にした場合、長い目で見て心身の健康を害してしまうことがあります。

よく、自分の「好き」を発見するための質問として、こんなリストがありますよね。

 ・楽しくて、それをせずにはいられないことは?
 ・今までたくさん時間やお金をつぎ込んできたことは?
 ・つい時間を忘れて夢中になってしまうことは?

それに対して、さて自分はどうだろうと考える。

  コーヒー屋巡り
  異国に旅する
  スニーカー集め
  最新ガジェットを買う
  カラオケで歌う
  飲み会で盛り上がる…

などなど、いろいろ挙がるのではないでしょうか。

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 後の感情に注目する

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例えば、あなたが毎日長時間スマホゲームをせずにはいられない人だとします。スマホゲームが本当に「好きなこと」なのか、それとも「中毒」なのか見極めるには、その行為をした後にどんな感情が湧いてくるか注目してみましょう。


  
 好き:「ああ、楽しかった、いい時間だった」
    <確認> 充実感があり、エネルギーが湧いてくるか。
    <特徴> エネルギーは充電され、長持ちし、前向きになる

 中毒:「またやってしまった」「本当はこんなことしている場合ではないのに…」
          <確認> 罪悪感があり、大切なことをやり残している気がするか。
    <特徴> 一時的にスカッとするが充電は長持ちしない。直後に虚しさ、欠乏感、焦燥感、すぐ寂しくなる、浪費に感じる、など。またすぐにむさぼってしまう。飲んでも飲んでもすぐに喉が乾く感覚。

 


 
前者の場合は、どんどんやることで人生の質が上がりますが、後者の場合は気をつける必要があります。「スマホゲームに月20万も課金してしまう人がいる」と聞くと、すぐに中毒を疑うかもしれませんが、すべてがそうだとは限りません。傾向としては、刺激が強く、一時的に快楽があるものは、中毒になりやすいです。水なら中毒にはなりづらいですが、コーラはなりやすいですよね。
 
旅が好き、という人の中にも、本当に「好き」な人と「中毒」の人がいます。
 
「今回もたくさんの人と交流して話せて楽しかった」と満たされていればいいのです。反対に、帰国して部屋にひとりになった時に、寂しさ虚しさを感じる人は、中毒の可能性があります。デートでも、飲み会でも同じですが、さよならした直後にもう寂しくなるのは、中毒です。これは他人から見てわかるものではなく、本人が自分の感情を見つめて分析するしかありません。

頻繁に旅に出る人に向かって、「旅が好きなんだね」「旅を仕事にしたら?」とつい無邪気に勧めてしまいがちですが、もしかしたら、本人にとってはそれは幸せではないかもしれない。旅に出る理由が、ストレス発散の場合。それは人生で大切なことから目をそらすために逃避しているのです。大事な試験の前夜なのに、準備もせずに普段やらない部屋の掃除を始めてしまうような逃避です。
  
心の真ん中では、自分にとって何が本当に大切なのか、誰もがわかっています。でもこれは、小さなささやき声なので、静かにしていないと聞こえません。追われるように回転し続ける日々で、常にガラガラと騒音が鳴っている興奮状態では、好きと中毒の違いが分かりにくい。

 

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 2種類の罪悪感。社会的に良しとされているか、は気にしない

 

「ゲームに課金20万円」と言われたら、誰もが「やめなよ、中毒じゃないの?」と心配するでしょう。では、「仕事の資格取得に毎月20万円かけている」だったら、どう思いますか? たいてい「意識が高くて良いことだね」となります。

でもこれ、どちらが依存症か、他人がパッと見ただけではわかりません。社会的に良しとされている後者のほうが、実は「隠れ中毒」の場合もあるのです。

中毒と違い、「好き」ならばやめたい時にやめられます。意思でコントロールできるので、身を滅ぼすことはありません。

好きを仕事にしている人は、明るい。その人がニコニコ楽しそうな姿を見ていると、影響され自分もそれをやってみたくなります。
  
中毒を仕事にしている人は、なんとなく病的で暗い影を感じます。一見すると元気なのですが、興奮状態で変にテンションが高すぎたり、押し売りされそうな怖さを感じます。

「好きなんだけど、社会的には良しとされないから罪悪感を感じてしまうケース」もあります。
  
例えば、ぼくは平日昼間にみんなでバスケを週1で2時間やっています。これは「中毒」ではなく「好き」だと自己分析しているので、もう12年ほど続けている。でも、ふと社会常識に当てはめた時に、罪悪感を感じることがあるのです。

「平日昼間にバスケなんて、まっとうな大人のすることではないのでは…」

特に仕事で結果が思わしくない時期だったりすると、バスケなんかに時間を使ってるからダメなのではないか、と揺らぎます。バスケは遊びであり、仕事より優先するなどありえない、と責めるわけです。昨年は、2度も松葉杖が必要なくらいの怪我をしてしまい、危うく仕事に穴を開けるところでした。そういうリスクがあると、なおさら、引退した方がいいのかな、となります。

こうやって社会常識に合わせていくことで、ひとつひとつ「好き」が潰されていく。そのうち何もなくなって、「何が好きかわかりません」となってしまうのです。バスケで心は満たされているので「好き」なのですが、社会常識に当てはめると、罪悪感を感じてしまう。

この「外からの罪悪感」の場合は、気にしないで続けたほうがいいです。ぼくにとってスポーツは、生きる上で大切なこと。肉体的精神的に限界に挑戦したり、チームで共同創造したり、奇跡の起こし方を学び、自分を理解する機会になっています。

逆に社会的には、「仕事はどんどんすべき」と思われています。ワーカホリック(仕事中毒)には気づきづらい。家庭や人生の問題から目を逸らしたいから、正当な言い訳として、仕事に没頭している人もいます。

家に居場所がなく帰りたくないのでわざと残業したり、会社の仲間と飲みニケーションするお父さんも多い。これって「ゲーム中毒」と変わりません。社会的には「仕事熱心」と言われ、評価が上がったりするからタチが悪いんですね。ゲーム中毒より、自己正当化もできます。

ただ、心のささやきに耳をすばせば、「このままで良いはずがない」と奥のほうではわかってる。でも、「正しいことしているんだ俺は!」と必死でかき消して走ってしまうのです。
 
「正解は外」ではなく、いつだって「自分の中にある」ことを忘れないでください。

 

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 何が好きかわからない理由は、「出世欲が強いから」かも

 

 

認められるために、成功するためにはどうしたらいいか。そうやって、ひとかどの人物になろうとする人は、つい無理をして、心のささやきよりも社会常識を優先してしまいます。
 
「こうあらなければならない」が強いと、そのプレッシャーから逃避に走ります。「痩せなければ」の思い込みが強い人ほど、過食してしまうようなものです。

力を抜いて、「別にいいや、どうなっても私は私」と受け入れられれば、逃避ではない、本当の「好き」が湧き上がります。

ただ正直に、自分自身であろうとすることです。本当は、人生で成し遂げなきゃいけないことなど、一つもないのです。どうか、ゆるやかに日々を楽しんでください。

 

 

 

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深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。