【第275話】新世代の「学びの場」にはアートがある / 深井次郎エッセイ

深井次郎移行期的混乱の中で求められる学びの場とは、どんなものでしょうか。キーワードとなるのが「アート」です。10年ほど前から、学びの場でも潮目が変わっています。かつては、社会的成功者やマスメディアでの有名人が登壇する講演会に聴衆が集まりました。いまは

 なぜ若者がベテラン経営者に教えられるの?
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移行期的混乱の中で求められる学びの場とは、どんなものでしょうか。キーワードとなるのが「アート」です。10年ほど前から、学びの場でも潮目が変わっています。

かつては、社会的成功者やマスメディアでの有名人が登壇する講演会に聴衆が集まりました。いまは、彼らの知名度のわりに、空席が目立ってしまっているようです。有名社長の自慢話ならもうYOUTUBEで観れば十分だ、というのはもちろんですし、他にもいくつか理由が考えられます。現代の気運として「過去よりも未来を知りたい」という希求があらわれているのでしょう。

「教える方法」には3つのアプローチがあります。

 ①職人が弟子に経験を教える「クラフト」
 ②過去の成功データから確率で判断する「サイエンス
 ③理想の未来を描き、自ら実験して探り共有する「アート

かつての「安定の時代」には、クラフトやサイエンスの教え方が有効でした。先輩が成功したやり方をコピーすれば、同じように再現できた時代があったのです。

だって、不思議じゃないですか? なぜ経営コンサルティング会社の新入社員22歳が、ベテラン経営者にむかって偉そうにアドバイスなどできるのか。それは、社内に蓄積された過去の成功事例のデータやノウハウがあるからですよね。サイエンスのアプローチなら、経験がない素人でも先生になれてしまうわけです。

「社長、他社の温浴施設では、このような設備にしたら、客単価が20%上がったようです」「レストランのテーブルクロスの色は赤、黄色、白、青の順番で客単価が高いというデータがあります」そうか、ではうちもやってみようかな、と経営判断の参考になりました。若くて経験がなく頼りなかろうが、データを持っているから重宝されたのです。

サイエンスが絶対だ、数字がすべてだと、信仰する人も多いですが、これも結局、過去のことです。一見すると信用できそうですが、この瞬間も「いま」は常に移り変わっています。スマホを誰も持っていなかった時代と、「いま」が同じはずはありません。大企業さえも複業に寛容になったり、リモートワークが可能になったり。AI分野に限らず、毎月のように新しいモノが生まれています。常に前提条件が変わってしまうような「移行期的混乱の時代」には、過去の経験もデータも意味をなさなくなることがあります。

クラフトもサイエンスも大切ですが、変化の時代に必要なのは3つ目の「アート」なんです。仮説を立てて、手足を動かし、小さな失敗をくり返し実験している人。試行錯誤から誰も思いもしなかった亀裂を発見し、そこに爪の先を入れこじ開けていくのです。起業の分野では、PDCAを小さく高速回転していく「リーンスタートアップ」などとネーミングされていますね。

失敗からしか、新しい未来はひらかれません。変化の時代には、「失敗をくり返さずには新しい価値を生み出せない」と覚悟することが必要です。そうした背景から、学びの現場も、先生の経験(クラフト)や知識(サイエンス)を一方的に伝える講演形式から、ともに手足を動かし体験することを重視するワークショップ形式へ移行しています。正解は誰も持っていません。各自が動きながら、自分にとっての正解を見つけていく。

「こんな世界になったら素敵じゃない?」「こんな世界になるはずだ」ビジョンを示し実験できる人が、これからをつくっていきます。有名無名は関係ないし、肩書きや経験も関係ありません。

過去を分析するだけではなく、未来を想像し創造していける場をつくること。ぼくが立ち上げからやってきた自由大学は、創立当初から意識してきたことですが、「アート」のアプローチがいまの時代の学びの場づくりに求められています。

(自由大学メルマガコラム4/17より再掲)

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深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。