あのきらびやかで自由を主張する雰囲気はテレビで映し出されるモノとあまりに同じで
第9話 ニューヨークは、ニューヨークだった
TEXT&PHOTO : 恩田倫孝
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やはり、確かな事なんて無いし、時は無情に色々なものを振り落としていくものなのかもしれない。その空間から、少しずつ影が消えていく事に怯えながら、前に進んでいくのは、仕方が無い事なのだと、気が付く。ただ、消えるものもあれば、残るものもあるし、それは誰にも分からない事みたいだ。
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あまりに同じ光景
ニューヨークは、ニューヨークだった。等と書くと、何を言っているのはさっぱり分からないと思うが、夜にタイムズスクエアの付近を歩いていた際、あのきらびやかで自由を主張する雰囲気はテレビで映し出されるモノとあまりに同じで、何度か来た事があるかのような、あるいはテレビの中に自分がいるかのような錯覚を感じる程だった。街中にはアメリカの国旗を体中にペイントをしたお姉ちゃんがいたり、ユダヤ教正統派と呼ばれる黒い衣装に独特のもみあげがある人達が歩いていたり、街を少し見上げればライオンキング等のショーや、ファッションの広告が所狭しと並んでいて、高くそびえるビルが空を小さくしていた。この混じり合った感じは、なぜだかバックパッカーの聖地と呼ばれるタイのカオサン通りを思い出させた。
ただ、このマンハッタンと呼ばれるエリアを離れ、隣のブルックリンへと足を運ぶと、建物はいい感じに古く綺麗で、ヨーロッパのどこかにいるような感じに思えた。
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1年前バーニングマンで出会った夫婦の家に泊まる
ここNYでは、今回の旅の最初に行った、ネバタ州の砂漠で行われる世界最大奇祭と言われる【バーニングマン】で出会った日本人とアメリカの夫婦の家に泊まっている。まだその砂漠のお祭りでしか会って無いのにも関わらず、連絡をすると、「NYで泊まる所無かったら、家に来なよ」という暖かな言葉に理想郷と謳われるそのお祭りで過ごした時を思い出し、そしてそれに甘え、僕はお邪魔する事にした。
1年振りの再会で、こちらは相変わらず旅を続けており綺麗といは言えない格好で、相手は社会人らしい綺麗な服装で颯爽と現れたものだから、お互い少し笑いながらも、ブルックリンのお洒落なレストランへと行き、近況を伝えあった。
フリーランスで働くその夫婦は、仕事によって場所を変え、自分たちの好きなように働いているらしい。そして、今年のバーニングマンには、親も一緒に参加するのだとか。レストランの後、屋上にテラスがあるバーに案内してもらうも、僕がパスポートを家に忘れたため入れず、近くのパスポート確認が要らないアメリカンなバーで一杯だけ飲んで、家へと帰った。
「今家にもう一人、泊まっている人がいるんだ。結婚をしてからも、多くの人達と交流が合った方が面白いと思って時々泊めてるの。見た目は、少しおちゃらけてる感じがする人なんだけど、話すとしっかりと芯が通っていて、面白いアーティストの人だから、機会が合ったら話してね」と教えて貰ったのだけれど、最初の2日間はタイミングが合わず、全く見かけさえもしなかった。
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泊まっているアーティストとの対話 「慣れは恐いね」
ある夕方頃、僕が家に帰った時、部屋から人が現れた。「よろしくね!」とアメリカンなノリのいい挨拶をされ、こちらも「どもども」なんて言いながら、一緒に近くのコインランドリーまで行く事になった。彼は、コラージュと呼ばれるジャンルの絵を作っているようだ。ニューヨークで展示会のチャンスがあり、少しの間だけこちらに来ているらしい。見た目はなんだかムエタイのボクサーみたいな感じなのだが、不思議な印象の人だった。なぜだか、彼の口癖は「慣れは恐いね」だった。
「いや、慣れって恐ろしいよね。日本にいた時、ある年なんか家から5回しか出なかったよ。でも、その状況が次第に続くと何とも思わなくなって、今度は家から出る事が怖くなってね。」
「中々そんな慣れって無いですよ。」
「ニューヨークでも、基本的には部屋の中で制作をしているから、殆ど外出はしない。出る時と言えば、道端での販売の時のみ。ただ、ニューヨークで道端の販売は禁止されているから、いつも警察が隣に立っていて大変なんだけどさ。」
「一枚いくら位で売ってるんです?」
「5千円。5百円じゃないよ。自分を安く売ったらいけない。日本でも、絵は高く売って来た。勿論、自信はある。絶対、本物になるからと言って、半ば強引な売り方みたいな感じでやって来たけど、今は道端に飾る事しか出来ないから、絵だけでしか勝負出来ないわけよ。英語も俺はしゃべれないし」
「どのくらい、コラージュやってるんですか?」
「小さい頃から、そのような事はよくやってたよ。家が大きくなかったから、雑誌が溜まると捨てなきゃいけなくて。そして、好きな雑誌切り抜いて、自分だけの本作って。その延長かな。でも、絵自体が好きって訳ではなくて、知ってる画家だって、ピカソくらいなもんだよ。スポーツが好きで、サッカーもずっと本気でやってたけど、途中で諦める時が来て。そして、残ったのが、これだったっていう感じかな。今やってるコラージュは、やろうと思えばどれだけの時間でも出来る。ずっとやってられる事。でも、勿論集中力が必要だからさ、体調管理はしっかりするし、ランニングもする。なんか、太った【自分アーティストです】って人は信用できんよな。ははは。」
なんて、言いながらマルボロを吸うのだ。ニューヨークのタバコは高い高いなんて言いながら、お店で1箱 $14 程もするものを買って、コインランドリーで洗濯が終わるのを待った。僕の旅の話しをすると、とても嬉しそうに聞いてくれて、すげーな、すげーなと彼は言ってくれた。いやいや、こちらからしたら、アーティストの話しを聞く機会は中々無いので、とても刺激的ですなんて思いながら、近くのメキシカンの屋台で買ったタコスを頬張り、一緒に家へと戻った。
その夕方、彼は久しぶりの外出と言って家を出て行った。
「どこ行くんです?」
「この前、酔いつぶれた時に道端で助けて貰った、ねえちゃんの所。」
ニューヨークは、ニューヨークだった。
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(次回もお楽しみに。隔週月曜更新です)
連載バックナンバー
第1話 旅に出てから3回泣いた (2014.4.21)
第2話 空港に降り立つ瞬間が好きだ (2014.5.5)
第3話 砂漠に溢れる星空の下で (2014.5.19)
第4話 ラム酒に溶けゆく孤独 (2014.6.2)
第5話 過去を美化する病を抱えながら、病を自覚する事(2014.6.16)
第6話 ケーブルカーの下に (2014.6.30)
第7話 なんでもある街から外れた、大地の渓谷で(2014.7.14)
第8話 和太鼓の音を聞きながら、ロスアンジェルスで(2014.7.28)
恩田倫孝くんが世界一周に出るまでの話
第1章 僕が旅立つその理由
第2章 編集部が訪れた恵比寿ハウス
第3章 いってらっしゃい、世界一周へ
Photo:Devyn Caldwell(上)