ORDINARY PEOPLE 03 恩田倫孝 (旅人) 1/3

恩田くん
夏のある日、恩田くんから編集部にメールが届きました。「深井さん、いよいよ辞表を出そうと思います。これから世界一周の旅に出ます」ちょっとどういうことですか、早まらずにまずは落ち着いて話しましょうということで、ことの顛末をいろいろお聞きしました。恩田くんは 1987年新潟に生まれ、県立高校を卒業後、慶応大学工学部へ進学し卒業。株式会社ミスミに入社するが、2013年8月退職。入社2年目、順風満帆だった26歳がなぜ、人生の舵を大きくきり世界一周の旅に出ることになったのか。そんな彼の思い切った選択を3章に渡って紹介します。

 

第1章 僕が旅立つその理由
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1.  辞めて旅に出る、タイミングと決意

せっかくいい会社に入ったのに、なぜ2年で退職を? 

正直、就活時には、将来これでやっていこうというテーマのようなものは固まっていませんでした。色々と考えてみたものの、自分の中でしっくりとくるものが無かったのです。何か絵を描いてごらんと言われて、何も構想が浮かばない画家みたいなものでした。その何か、とっかかりが見つかるまで絵の書き方の勉強と実践をしようと思い、厳しく自分が成長できるような会社を選びました。実際、入った会社には、大きな不満は無く、辞める直前が一番楽しかったです。社会人になって、その何かを掴むために、色々な場所に行ったり、人の話を聞いたり、新しい事にチャレンジしましたが、一番影響を与えてくれたのは、住んでいたシェアハウスでした。

シェアハウス? 

東京で男9人のシェアハウスに住んでいます。海外が好きなメンバーで、7人が世界一周をしている家でした。色んな人が家に来てくれました。多くの外人を泊まっていきました。住んでいるメンバーの数人が学生の時に立ち上げた旅団体があるのですが、それを今年登記しようという事になって。僕も学生の時に深くコミットしていて、それを一緒にやりたいので、会社を辞めて、そして、個人的に旅をもっとしてから加わりたいために、旅に出ようと思います。

―シェアハウスでの暮らしが旅へのキッカケとなったのですね。  

以上が真面目な理由ですが、実は他の理由もあります。変な考えかもしれませんが、なんだか自分の人生を振り返るともの凄く真面目で、魅力的でなく、誰かが通ってきたような道に見えて、自身にがっかりしたんです。ある時、急に。例えば、一緒に住んでいる住人なのですが、某明太子メーカーの御曹司で、お笑い事務所に通っていたり、山に籠って座禅していたり、男4人で世界一周してるやつとかいるんです。それに対して、自分は新潟から上京して、浪人して大学入って、会社入ってという過去に歩んできたものが、くそ真面目で、退屈に思えてしまいました。失望に近い感情でした。将来孫が出来た時に、おじいちゃんは、こんな人生を歩んで来たんだぞっていう事を言いたいじゃないですか。

人生は、自分が主人公の物語だと思うんです。その主人公の環境を自分で全ていじれる訳ですから、楽しい設定で魅力的なものにしたいんですよね。その時、そんな選択するんだって。僕自身も、その選択をした後にどんな世界が待っているのか、想像できないルートを歩きたいですし、常に小さな熱狂心が必要だと思うんです。過去に書かれたどこかで聞いたような物語では無くて。熱い志と挑戦心を持ちながら、楽しい物語を作りたいなんて思うのです。

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旅に出るキッカケをお聞きしましたが、旅先での目的を聞かせてください。

 今回の僕の旅は、半分は言語を学ぶ事を目的にしています。恵比寿のシェアハウスにいた際に、多くの外人が来ましたが、「どこ出身?」→「日本の何を知ってる?」→相手の国で知っている何かを単語で話す→会話終了って感じで、もの凄いもどかしかったんですよね。一緒に住んでるシェアメイト9人のうち6人は英語を話せたので、残りの3人は家にいるのにアウェイというか。

日本で住んでいると特に英語が必要な機会ってあまりないと思うのですが、ただ単純に英語を話せると多くの人と会話できるじゃないですか。ビジネスのためとかキャリアアップのためというのでなく、人間として、多くの人と会話できて、そして、友達になれるという事はもの凄い大事な事のように思いました。そして、海外の友達ができると自然とその国について興味を持ちますし、行きたくなる。そして、僕がその現地に行って友達を作って、今度はその友達が日本に来る。このサイクルって素敵だなと思うんです。

今回の旅では、英語とスペイン語の語学学校を途中で挟む予定ですが、もの凄い楽しみです。学校に通うというのが久しぶりなので、受験勉強の時代を思い出して、全力で取り組もうと思います。 そして、もう一つ大切にしたい事が特定の人と一緒の時間をずっと過ごすという事です。旅をしてると、宿や観光地で多くの人に会いますが、会う時間って10分だったり、1時間とかだったりという事が多いと思います。なので、一回会ったきりなんて事がよくあります。会う人の数ではなくて、生涯つき合える友達というと大げさに思えますが、恵比寿で生活していたメンバー程に濃い関係を作りたいなあと思うんです。そのためには、一緒にいる時間がある程度は必要だと思うんです。

一つもの凄く楽しみにしているのは、アフリカで、大型の車を借りて20人程でケニアから南アフリカまで30日程かけて移動するツアーに参加する事です。1ヶ月間ずっと寝食を一緒にするんです。キャンプしたり、みんなで料理したり。もの凄い楽しそうじゃないですか。この興奮伝わりますかね。他には、現地の家に泊めてもらって、そこを拠点にしながら、旅をしようと考えてます。今回は人を理解するという事を大切にしたいんです。

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―帰国後は、どのような活動を予定していますか?

 僕ら恵比寿ハウスのメンバーは、みんな旅が好きな人達で住んでいるのですが、もともと僕らって大学も違いますし、出身も違います。旅中に会って、そして日本で旅の団体を立ち上げたんです。(※住んでいるメンバーの3人がコアメンバー)そして、僕を含め他の6人は彼らが作った団体に途中から所属し、一緒のイベントを作ってきました。その旅団体「TABIPPO」を今年、ついに登記するという話が持ち上がりまして。僕も大学4年の際に関わったのですが、もの凄く楽しくて、本当に今後の指針を動かす程素敵な経験でした。僕もここに加わろうと思っています。

2020年のオリンピックが東京で開催される事になったじゃないですか。これが本当に楽しみで。ここにも何かしらの形で関わりたいのですよね。人を狂う程熱中させる祭典。そのようなものを今後作って行きたいです。その他にも、自分の宿とバー、そして、文章も書いていきたいです。ただ、正直まだ全てを言語化出来ていないので、旅をしながら構想を練り続けて行きたいです。

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恩田倫孝(おんだみちのり)
通称:みっちー。1987年生まれ。新潟出身。慶応大学理工学部卒業。商社入社後、2年4ヶ月で退社。北方謙三の『水滸伝』の志と村上春樹の表現と岡本太郎の情熱を好む。椅子に座る時の姿勢のよさに定評がある。旅男子9人のシェアハウス「恵比寿ハウス」を経て、現在、「旅とコミュニティと表現」をテーマに世界一周中。
公式サイト http://michinorionda.com facebook https://www.facebook.com/michinori.onda


編集部

編集部

オーディナリー編集部の中の人。わたしたちオーディナリーは「書く人が自由に生きるための道具箱」がコンセプトのエッセイマガジンであり、小さな出版社。個の時代を自分らしくサヴァイブするための日々のヒント、ほんとうのストーリーをお届け。国内外の市井に暮らすクリエイター、専門家、表現者など30名以上の書き手がつづる、それぞれの実体験からつむぎだした発見のことばの数々は、どれもささやかだけど役に立つことばかりです。