ちいさなお店をはじめたこと。~等身大で、自由な働きかた~【第18話】手仕事は同じじゃないから美しい~『ORDINARY』とコラボグッズを作ったこと

ノマディッククラフトヨメのちいさなお店をはじめたこと。

モン族のチャームの特徴であり、最大の個性であるこのポイントは、「みんな同じ人間だけれど、ふたりとして同じ人はいない。それぞれの人生が素晴らしい」という『ORDINARY』の考えにリンクするのではないかな?
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第18話 手仕事は同じじゃないから美しい – 『ORDINARY』とコラボグッズを作ったこと – 

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こんにちは、ノマディックラフト ヨメです。
生産者レポートの途中ですが、ひとつお伝えしたい出来事があったのでご報告します。

先日、都内で開催された『東京国際文芸フェスティバル』に、このWEBマガジン『ORDINARY』が参加しました。主催したのは、参加者それぞれが死生観について語る『デスカフェ』という、いま欧米で静かな人気を呼んでいるイベント。当日の様子について、詳しくは『ORDINARY』にレポートがアップされる予定ですが、連載のご縁もあって私たちノマディックラフトが、イベントで販売するコラボグッズを作らせていただくことになったのです。

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モン族女性たちが手がける
ちいさくかわいい針仕事 

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せっかくの『文芸フェスティバル』参加記念コラボなので、なにか本にちなんだ物が作れないか、というのがアイデアの出発点でした。文芸+『ORDINARY』+ノマディックラフトらしさを盛り込んだグッズ。編集部のみなさんと話し合うなか、提案させてもらったのがモン族の女性たちが作るチャームを使ったブックマーク(しおり)です。

このチャームは、ベトナムの首都ハノイで少数民族の手仕事を用いたグッズを作る、トゥイさんのお店から輸入しているもの。モン族の女性たちが、刺繍に使う針刺しをモチーフにしています。モン族の衣装によく使われるクロスステッチで柄を表現したこのチャーム、角についた小さな鈴も衣装の装飾に使われるモチーフ。もともとは魔除けの意味を持っていたようです。

輸入されてくるときは紐がついたマスコットのような状態なのですが、ノマディックラフトでは自分たちでブローチに加工して店頭に並べており、おかげさまで大人気。これをブックマークにしてみては? と考えたのには理由がありました。

モン族の刺繍チャーム


同じようで一つひとつ違う、

そこに美しさがある

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というのも、編集長でエッセイストの深井次郎さんが『ORDINARY』の理念として掲げているのは「有名無名を問わず、どんな人の人生にも語られるべき物語がある」「一人ひとりの人生は、違っているから面白い」という姿勢です。このモン族のチャームは、クロスステッチの文様自体はどれも同じパターンなのですが、ふたつとして同じ色のものはありません。形や大きさ、模様についてのかんたんな共通ルールはあるようですが、どんな色合いで仕上げるかは少数民族の女性たちにお任せ。その結果、チャームに一つひとつ違う個性が生みだされています。

形とパターンは一緒でも、ふたつとして同じものがない美しさ。モン族のチャームの特徴であり、最大の個性であるこのポイントは、「みんな同じ人間だけれど、ふたりとして同じ人はいない。それぞれの人生が素晴らしい」という『ORDINARY』の考えにリンクするのではないかな? と思ったのです。

刺繍のデザインがひとつひとつ微妙に違うところが手仕事の魅力


こんなちいさなグッズでも

パっと完成はできないもので… 

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編集部の皆さんとも話がまとまり「まずはサンプルを作ってみよう」という運びになりました。といっても、チャーム自体は店にストックがあるので、取り急ぎの材料の買い出しは、本に挟み込むしおり紐の調達です。東急ハンズの製本グッズコーナーには、文庫や書籍についているのと同じ、いわゆる「しおり専用紐」も売っているのですが、茶色くて柔らかい紐の質感とこのチャームとの相性は今ひとつ。そこで、いつもお世話になっている新宿の手芸店オカダヤにおもむき、チャームを片手に相性の良さそうな紐やリボンを見て回りました。

素朴な手仕事のチャームですから「ナチュラルな風合いの紐が似合うのかな? 」と想像していたのですが、実際に綿や麻の紐を合わせてみると、素朴すぎてなんだかチープに見えてしまいます。二時間ほど店頭をウロウロし、刺繍糸から革紐まであれこれ組み合わせた結果、細くてシンプルなサテンのリボンが意外にも相性がいいことが分かりました。

さっそく自宅に戻り、チャームにリボンを通して本に挟んでみると… リボンがするりと本から抜けてしまいます。どうやら、サテンリボンの光沢がすべりやすさを生んでいるよう。そこで重りとして、紐先に民族衣装の装飾に使う鈴を付けてみたところ、しっかりページに挟み込めるように。オリジナルの雑貨や小物を作るたびに思うのですが、こういう細かい部分は実際に形にしてみないと使い勝手は分からないものです。

サンプル一号

 

サンプルとして、とりあえずの形状ができたところで、販売するときの状態を考えます。ダラーンとリボンをたらしっぱなしでは見栄えもよくないので、台紙をつけることにしました。ハードカバーの書籍に対応できるサイズなので、リボンもそれなりの長さ。今回のブックマークは、デスカフェのイメージイラストを描いてくださった画家のたなか鮎子さんのポストカードとセット販売を予定しているので、カードと合わせたときに収まりのよいサイズでなければいけません。

そこで、ポストカードの半分くらいを目安に画用紙を切り、どんなふうにリボンをセットすれば収まりよく見えるのか、実験をしてみました。

 

こんな感じのパッケージで

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最初は台紙の中央上部分と、右上の二カ所に切り込みを入れ、リボンを後ろに隠す方法を考えてみました。無記名だと寂しいので、ノマディックラフトのスタンプを押し、さらに『ORDINARY』のロゴが入ったと仮定して、出力したロゴを紙で貼付け、仮に配置してみました。

さて、なんとなく形が想像できるようになったこの段階で、編集部のみなさんにご意見を聞いてみました。台紙をもっと大きくしよう、白よりも色がある紙のほうがいい雰囲気、『ORDINARY』のマークをやめて文字だけにしよう…… などなど諸々の意見交換を経て、いよいよ本番への制作開始です。

 

編集部や有志、
みんなの声が加わり完成へ!

 

ここでもう一度買い出しに。まずは新宿オカダヤで数量分のリボンを調達。同じく新宿の文具屋さん世界堂でしっかりと厚みのあるグレーの紙を購入。第9話でも活躍した大型カッターを使って、指定のサイズにカットしていきます。

さて、今回のコラボはヨメ中心に行ってきましたが、ここで登場するのが店主。チャームにリボンを通すのはなかなか力のいる作業なので、やはり男手が大活躍。いつも物づくりを主体にやっているのは店主なので、ヨメとは手際が違います。まずはキリを使ってリボンを通す下穴を空けた後、ラジオペンチでしっかり針をつかみ、厚みのあるチャームからリボンを引き抜きます。

 

キリで穴をあけペンチでリボンをひっぱる

こんな感じの完成品
リボンを通してから長さを均一にカットし、紐先に重りとなる鈴をつけます。その後は台紙にスタンプを押す準備。押し間違いをするともったいないので、カットしたときの切れ端を使って、力加減やインクの付け具合の予行演習をします。
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スタンプポンっ!

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『ORDINARY』のスタンプは、もともとインクがついている言わば “押すだけ” タイプ。一方ノマディックラフトのスタンプは、毎回インクをつける原始的なタイプ。紙自体に凹凸があるため『ORDINARY』のほうは、かなりギュッと押さないと薄くなってしまうし、ノマディックラフトのほうはインクと紙の相性がよいようで、軽く押さないと濃くなりがち。地味かつ細部ながら、意外と見た目を左右する部分なので、なんどか試し押しをして加減をつかみ、一気にスタンプを終わらせます。最後に台紙に切り込みを入れて、ブックマークをセット。せっかくのキレイなリボンの色が伝わるよう、台紙にぐるりと巻きつける形に仕上げました。
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リボンもきれいに見えるように工夫しました

 

だいぶ “商品” らしくなってきましたね。
次に商品説明を書いた紙をプリントアウトし、合うサイズにカットして台紙の裏にセット。仕上げに糊つきPP袋に入れて封をし、完成です! (PP袋はさまざまな文具屋さんでも購入出来ます)

 

パッケージ写真うらには説明も


文字を愛する人たちの、

読書のお供になってくれたら
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使う時のイメージはこんな形です。好きなページに挟み込むと、揺れるチャームがマークしたポイントを教えてくれます。
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使ってみるとこんな感じになります。

本を開くとこんな感じに。
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このブックマークは、これから立ち上がる『ORDINARY』のWEBショップで販売予定です。ノマディックラフトでも販売させていただく予定なので、値段が決まり次第またご案内いたしますね。

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日本で雑貨を作る場合は「仕様書」と呼ばれる設計図を作り、すべて同じ生地・同じ色合いで均一なものを作るのが一般的。誰がどこで買っても同じ安心感を届け、公平な機会を提供する、という意味では優れた方法です。しかしこのチャームは、一つひとつ色や柄も違ううえ、真四角があったり長方形も混ざっていたりと様々。「この写真と同じ物がほしい! 」という要望に応えられないのは申し訳なくもありますが、一方で「自分だけのひとつ」が見つかる一期一会の楽しみがあります。

人間一人ひとり、いろんな見た目があり、いろんな性格があり、そこに愛すべき個性が生まれてくる。同様に手仕事も一つひとつ、作る人のいろんな思いがあり、いろんな温もりを醸し出す。均一ではないものから生まれる遊び心や揺らぎが、愛着の源になり、使う喜びになってくれたらいいな、と願ってやみません。

次回こそ! 書きます書きます詐欺のようになっていますが、ラフ族やカレン族の生産者さんを訪ねた時のお話をお届けしますね。どうぞお楽しみに!

 

ノマディックラフトのイベント出店情報

寒い冬ももうすぐ終わり、春の訪れとともにイベントシーズンがスタートします。私たちも西小山のアトリエショップを飛び出して、各地に出かける予定ですので、どうぞお気軽に遊びにいらしてくださいね。

安穏朝市
@東京中央区・築地本願寺前広場
3月20日(日)  9~15時
詳細は http://annon-asaichi.blogspot.jp
毎月1度、本願寺さんの広場で開かれる暮らしの温もりや匂いを感じる素朴な朝市です。採れたての産直野菜から暮らしの雑貨までが揃います。私たちも看板犬レラと一緒に、ゆるゆると出店中。築地の場外市場からも歩いてすぐ。気持ちいい休日の朝、ぜひ足をお運びください。

 

小野路やまいち ~おのじの山のマーケット~
@町田市小野路・家具工房KASHO やまの広場
4月23日(土)10~16時 ※雨天の場合は24日(日)に順延
詳細は http://onojiyamaichi.jimdo.com/
町田市北部に位置する小野路町。多摩丘陵の緑豊かな環境を舞台に、町田市内や近隣の町から木工・陶芸。彫刻・食・音楽など様々なジャンルの作り手やアーティストが集まります。ノマディックラフトは二回目の参加。山の中にも関わらず、毎年多くの人が集まる人気のイベントです。

 

ほか、詳細は随時お知らせします。

◆葉山芸術祭 あかりのイベント – 森山神社 青空アート市 プレ市 –  4月30日(土)・5月1日(日)
◆ベジ&フォークマーケット 5月21日(土)・22日(日)


(次回もお楽しみに。隔週土曜更新です)

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 連載バックナンバー

第1話 家=店。人が思うよりもずっとちいさな投資でお店をはじめてみた(2015.6.13)
第2話 店から出て人に会う、出会いをつくる。〈イベント出展篇〉(2015.6.26)
第3話 1人2役 × 2。兼業夫婦は不安定? 時間も予定も「自由」のメリット・デメリット(2015.7.11)
第4話 なんで「少数民族の手仕事」? それはやっぱり「好き」だからです(2015.7.25)
第5話 暑さに負けず蚊に負けず。探して洗って、よみがえる古布たち 〈 仕入れ旅篇 〉(2015.8.8)
第6話 どうしてそんなに自由なの!? 現地の人たちと商品を作る(2015.8.22)
第7話 モン族の女性に聞いた、美しい刺繍の裏側にある物語(2015.9.5)
第8話
 小商いでも管理は大切。入るお金、出ていくお金何がある?(2015.9.19)
第9話 ショップカードにネームタグ… 地味だけど重要度は大! お店まわりのこまごま小物(2015.10.3)
第10話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<デザイナー編>(2015.10.17).
第11話 大切さは名前と同じ。自分たちのロゴマークはどう作るか<実践編>(2015.10.31)
第12話 どこまでを手作りと呼ぶ? 手仕事を求める楽しさ、難しさ <買い付け編>(2015.11.14)
第13話 お客様との新たなつながり。看板犬レラが教えてくれたこと。(2015.11.28)
第14話 美しいものよ、輝け!お母さんとの約束。(2015.12.12)
第15話 生産者さんを訪ねて <鳥の笛ネックレス編(2016.1.14)
第16話 生産者さんを訪ねて <アカ族の村編(2016.1.30)
第17話 始まった… 年に一度の確定申告(2016.2.13)
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オーディナリー編集部がノマディックラフト参加の展示会を観に行った話

【レポート】遠い国の伝統的な手仕事がいっぱい!

 

【関連サイト】
ノマディックラフト ウェブサイト http://nomadicraft.com/
ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/
ノマディックラフト Facebook https://www.facebook.com/nomadicraft
木内アキ(ライターとしての仕事) ウェブサイト http://take-root.jp/

 

 


ノマディックラフト ヨメ

ノマディックラフト ヨメ

自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱う、西小山のアトリエショップ『nomadicraft』を店主であるダンナとともに運営。母から子へ、脈々と受け継がれてきた素朴で美しい手仕事を紹介しながら、作り手である女性たちに仕事の機会を提供し、貧困の和を断ち切るための支援も行っている。ふだんはフリーランスのライター・木内アキとして「女性にまつわる人・旅・暮らし」をキーワードに、雑誌や書籍を中心に執筆活動中。目標は「キチンとした自由人」。 ノマディックラフト 店主ブログ http://blog.shop.nomadicraft.com/ 木内アキ ウェブサイト http://take-root.jp/