【第063話】文化の潮流が生まれる場所

思いつくより、やるほうが大変

思いつくより、やるほうが大変

アイディアを真似しても
うまくいかないのは
思いがないから

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「新しい本の企画を考えました」どんな企画ですか、と聞くと「秘密です」という人がいます。アイディアが漏れてしまっては、真似されてしまう。それを恐れてのことのようです。

起業したいという人も、同じような人が多い。で、そういうもったいぶった人のアイディアほど、誰でもできそうなものだったります。アイディアに価値はほとんどありません。そんなものは、その辺に無料でいくらでも転がっている。真似されてしまうのを恐れているようですが、そんなアイディアはアイディアとは呼びません。自分にしかできないものでなければ、いずれ大企業に真似されます。大資本と人材のいるたとえばリクルートが参入してきても、真似できないものでなければ遅かれ早かれ、あなたの小さな会社は立ち行かなくなります。

アイディアは、早い段階で公表していった方がいいです。みんなに見てもらって、「それって君じゃなくても誰でもできるよね」ということであれば、さらに考えていく。もし(ほとんどありませんが)誰かに真似されたら、事前に気づいてよかった、ということです。自分にしか出来ないと思い上がってたけど、出来ちゃうんだな。危なかった。そのアイディアに全資金をつぎ込んでいたら、全額すっていたところです。

アイディアを考えるのは、だれでもできるんです。できないのは、それを実行して継続すること。それには、思いがないとモチベーションが続かないのです。どんな簡単そうに見えることも、やってみると大変です。いざやると、思いもしなかった問題が次から次へと現れる。他人のアイディアをいただいただけの人は、そもそもの「思い」がないので、途中で投げてしまいます。簡単にうまくいくと思ったのに、大変だった、となるのです。

簡単そうに見えることも、難しそうに見えることも、始めてみると実は同じくらい大変です。ただのアイディアに価値がないというのは、実行するのはどれも大変だからです。結局、思いとやる気のある人がいないと、動いていかない。発案者以上に思いがある人はなかなかいないんです。それは、ある程度社会経験を積んだ人ならだれでもわかります。それなのに、「私のアイディア、パクらないでくださいね」と言ってる人は、経験値が少ない人なんだなと思われてしまいます。

楽して儲かるという美味しい話はありません。あったとしたら、すぐに大資本に持っていかれます。儲からず、面倒で、将来性がない。複雑で真似しづらく、狭すぎて参入するうまみがない。そんな分野を、小さな挑戦者たちはこじ開けていく。うまみがなくたって、彼らはうまみのためにやるのではない。そもそもの出発が違う。思いが行動に駆り立て、そこから次の文化の潮流が生まれていく。新しい文化はビジネスマンにはつくれないのです。

 

(約1089字)

Photo: Giant Ginkgo


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。