【第067話】かくれんぼで見つからない方法

「ん、気配を感じるぞ」

「ん、気配を感じるぞ」

カーテンの裏で
気配は操ることができると
発見した

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イメージの力に気づいたのは、子どもの頃のかくれんぼでした。どうやったら鬼に見つからないかを、研究していました。すぐに見つかってしまう子と、なかなか見つからない子の違いはどこにあるのか。隠れる場所の選択かというと、どうもそれだけではないようでした。なるべく意表をつく場所を選ぶのは、誰もが考える事ですが、隠れる範囲が狭い場合、そんなに選択肢もありません。たとえば校舎内全体だったら隠れる場所も豊富にありますが、家の中のみだとても隠れる場所は限られます。そんな中、発見したのは、気配を消す方法があるのではないかということです。

かくれんぼ初心者の頃は、ドキドキしながら心の中で唱えていました。「見つかりたくない!やばい、近づいてきた!はー、お願い素通りしてくれー」体だけはピクリとも動かないようにしていましたが、心の中は騒がしかったのです。その頃は、すぐに見つかってしまっていました。悔しいので、今度は絶対にありえない場所に隠れようと思って、ボストンバッグの中に隠れたこともあります。まるでエスパー伊東ですが、「まさかこんな小さなバッグに納まらないだろう」と度肝を抜いてやろうと思った。けれど、努力もむなしく、すぐ見つかってしまうのです。

問題は、気配でした。「見つけないでくれー!あっちへ行ってくれー」と唱えのではなく、無になる。頭の中を真っ白(か真っ黒か)にして何も考えなくするのです。そうすると、簡単な場所、たとえばカーテンの裏とか風呂の中(空のですよ)とかでもスルーされるようになったのです。頭を真っ白にするのが難しければ、今の状況と全然違う事、たとえば穏やかなビーチで昼寝している所をイメージする。現状は、鬼が迫っている。カーテン一枚の向こう、たった1mしか離れていない状況でも、緊張感を出さないのです。追い込まれても、その事には意識は向けず、たえずイメージはビーチの昼寝です。

そうかイメージを操れば、気配は消せるのかと奥義を発見したのです。こうして、かくれんぼマスターになったのです。近所のチビたちに、この奥義を教えると、すぐに結果を出し始めました。今まで簡単に見つけられていたチビが、全然見つからない。あれ、そんな所にいたのかと灯台下暗しの技を繰り出すようになってきた。イメージが現実の空間になにか影響を与えていることは確かだな、とこのとき感じたのです。

みんなはドラゴンボールのカメハメ波を漫画の世界と思っていましたが、ぼくはひそかに、あれは実は現実に出せるんじゃないかと校庭の隅で練習していたものでした。結果、少し出せるようになりました。友達にやったら、ちょっと後ろによろけました。「どう、来た?」と聞いたら、「うん、声にビックリした」と言いました。彼は、ぼくの「ハッーーー!」のデカさに驚いただけでした。まだまだ修行が必要だなと思いました。

(約1216字)

Photo: babelux


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。