【第007話】やわらかくなると自由になる

インドの国内線の機内(デリーからバラナシ)

インド国内線の機内(デリーからバラナシへ)


「大晦日に初詣に行ったら誰もいなかった」
という話のつづき

たった1日ずれただけで、全然違うとか、そういう境目に興味がある。あえて、そこをずらして生きたいという思いがある。旅に出るときの飛行機代も、そう。同じフライトなのに、日にちによって料金が全然違う。2倍にも、ときには8倍になることさえある。絶対に8倍なんかで買ってなるものか。需要と供給の経済バランスでそうなることはわかる。しかたなく高値で買わざるを得ないこともある。そんなとき、「ああ、いまぼくは資本主義に組み込まれてしまっているなぁ」と悲しくなるのだ。

この機会に考えてみよう
この飛行機代と同じようなしくみで経営している経営者だったら、まだまし。
彼らなら8倍で買っても大丈夫かもしれない。自分のところも、そうやってモノの価値以上の金額(バーチャルマネー、情報空間でのお金というか、付加価値)で稼いでいるので。しかし、多くの労働者は、時給で働いている。2倍忙しいときだって給料が2倍に上がるわけではない。そういう固定給の人が、大きく変動する価格のものを買うとき、とくにそれを「自分に都合の良いタイミング」で買いつづけることは、大変なリスクだ。それではせっかく汗水たらして稼いだお金がまた企業の懐に戻ってしまう。

「休みが合わないから8倍の金額でも仕方ない…」のか?
いや、だったら無理矢理ずらしてでも休みをとるぞ、ぼくは。そのくらいの自由は意地でも持っていたい。ケチだとか、お金が惜しいとかそういう話ではない。(まあ、そういう話でもあるんだけど)。のせられちゃってる感じが耐えがたいのです。 ケチと馬鹿にする人ほど、考えることを放棄している場合が多い。ケチではなく、ものを大切にするということなのです。この場合は、自分自身を大切にすることなのです。この「しかたない」とか「せざるをえない」という言葉がでたときには要注意だ。思考が止まっている可能性が大きい。本当にそうなのか。一瞬でいいから、考えてみよう。

金額を上下させない人の方が信用される
これは、商売をやってきた人なら知っていることだ。 「いくらになりますか?」 最初に提示してきた金額よりも交渉時間が長引くに従って、どんどん下げてくる人がいる。しまいには、半額以下になっていたりする。インドを旅したときは、ほとんどの場合、そうだった。こんな時、「下がってよかった」と思うのではなく、がっかりする。安くできるなら最初から下げてくれれば良いのにと思う。この人は、ふっかけようとしたんだなぁと思ってしまう。信用はされないし、次からその人が指名されることはない。

ぼくのキャリアの始まりは、学生時代の家庭教師の営業マンから始まったのだけど、良い営業マンほど値引きをしない。最初から、「これです」という値段を提示して、あとはひかない。ひけるなら最初からひいている。相手のためにベストの価格、そして自分たちも損をしない、真ん中の金額。それで買うか買わないかはあなた次第、というスタンス。 「もう少し安くならない?」 「いや、なりません。できるなら最初から下げて提示してます」 こういうことだ。すると次からは「安くならない?」という質問はなくなる。限界まで下げて提示してくれている誠実さと、仕事のクオリティへのプライドが伝わっているからだ。

需要と供給の話だ
経済バランスに翻弄されてしまうと、「限定何個」とか「なんとかキャンペーン」とかで、冷静に考えるとそんなに必要のないものまで買わされてしまう。そもそもキャンペーンって、軍事作戦が語源ですからね。ラテン語の「キャンパス」は平野という意味ですが、平野で戦争が行われた。戦争で自軍が勝つための戦略のことを、キャンペーンと言ったんです。「次はこのキャンペーンで、敵を制圧するぞ」というように。だから、キャンペーンって、見た目の可愛いアイドルとかキャラクターとか使ってごまかしてますけど、お客さんのためを思ってやってることじゃないですからね。企業側が勝つための作戦ですからね。そういう物騒なものにホイホイとのせられちゃあ、丸腰の民衆は全滅させられてしまいますよ。

不買運動とかいうと、大げさだけど
ぼくらはもっと賢くならないといけないよね。「ブラック企業は滅びるべき」と言うけど、それを成立させてしまっているのは、ぼくら消費者、労働者のせいでもある。「うちの会社はブラックで」と嘆きながら、なぜ辞めないの? 「いや、でもたまにはボーナスももらえるし、もし外に出たら他に雇ってくれる会社があるかわからないし…」 それってDVやられてしまっている奥さんと同じですよ。ボロボロになって思考が止まってしまっているのもわかる。でもまず、自分自身が気づく必要がある。ああ、これはDVだと。そしてまわりも気づいたら助けてあげること。かくまってあげること。

ブラック企業でDV状態にされていた社員をかくまうシェルターは必要だと思う。ホワイト企業が手を取り合って、短期的にでもいいからそういう社員を受け入れて仕事を与える。そして冷静になってもらい、日常を取り戻す。余裕のある会社は、彼らが転職先をみつける期間だけでも雇ってかくまってあげて欲しい。

複業のすすめ
企業側も、「辞めまーす」と言って社員に続々と辞められてしまえば、労働条件を改善せざるを得ない。だから、ぼくは複業をみんなに薦めるのです。「いつでも辞められますよ、他にも仕事はあるので」という状態にしてほしい。「いつでも辞められるけど、この会社が好きなので、ここで働きたい」社内がそういう社員だけになったらどんなに健全だろうか。 社内政治、ポジション争いとか、上におべっか使ったり、いじめもなくなるし、きびしすぎる労働条件もなくなる。みなさん、複業しましょう。 でも、もらおうと思うとたしかに仕事は少ないと思います。とくに地方は。だから、新しい仕事をつくる。生み出すんです。その方法を、オーディナリーでみんなといっしょに考えて、実験して、シェアしていきたいと思っています。

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。