【第008話】素振りの話 – 息をすってはくように書けるのか – –

「いやー、毎日連載なんて無理でしょ」 上海の空港

「いやー、毎日連載なんて無理でしょ」 上海の空港にて

「あれ、年明けてから毎日更新されてるじゃん」
と気づいたあなたへ

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さて、これで元旦から連載3日目になります。
実は毎日書いているのには理由があるんです。

「元旦からは心を入れ替えて、毎日エッセイを書きなさい」
そういうお題をオーディナリー編集部から与えられてしまいました。それで「やらざるを得ない」と「やりたい」と「やらなければ」をごちゃまぜにしたような気持ちで2014年が始まりました。 どこまでこの「新年執筆マラソン」が続くかわかりませんが、どうなるのか実験です。

プロ野球選手が毎日素振りをするように、ぼくはプロの物書きなので、書くのが練習にあたります。ここだけの話、それを今までさぼってきました。ごめんなさいというか、お恥ずかしい限りです。20代半ばで軽い気持ちで書きはじめたエッセイ本が売れてしまって、勘違いしてしまったのでしょう。努力ではなく、生まれ持った才能だけで乗り切ってきてしまいました。この「生まれ持ったものだけで乗り切れる」というのは若いうちだけです。ただ体が大きく生まれたという、それだけで全国優勝できるのは小学生までなのです。ぼくはこのオーディナリーを出版社とカテゴライズし、出版という世界で一生つづけていくと決めているので、ここらで心を入れ替えなければならない。そう堪忍したのです。

ほぼ日」の糸井重里さんのような才能の塊のような方でさえ、毎日書いて素振りをしています。それをぼくなんぞが素振りをさぼっていて良いわけがない。プロの世界をなめるな、ということです。いつもゆるいのに、こんなこと言ってる自分にいま、照れています。まさか自分から「プロをなめるな」などという台詞が出るとは思いませんでした。「十年続けたら一人前」と亡くなった吉本隆明さんも言っていましたが、それは「毎日書くのを十年」という意味。ぼくは、物書きを仕事にしてから10年経ちますが、毎日は書いていない。そういう意味ではまだまだ半人前もいいところです。

元旦というのは、だれしも何か決意をするものです。去年の元旦だって、「毎日ランニングをするぞ」と決意しましたが、2日で「あれ? 俺なんか言ってたっけ?」という状況になりました。ダイエットとかもそうですよね。まあ、元旦の決意などそんなものです。

元旦に決意したものが、1年間続いたものってありますか? いま思い出していますが、ないんですね。だからね、元旦に決意するくらい気合いを入れないと始められないような、たいそうなものは続かないんですよ。そこには無理がある。続くものは、もっとゆったりした軽い気持ちで始まっている。そして気付いたら続いていた、という感じでしょう。

ぼくは好き嫌いが激しいから、我慢ができません。いま続いているものと言ったら、たとえば自由大学の講義「自分の本をつくる方法」です。これは始めて5年がたち23期になって、自由大学の何十とある講義の中でも一番続いている講義になっています。自分が楽しくないと続きません。どこか我慢しているものがあるとダメだし、好きで得意で、自分に合ったものじゃないと続かない。

文筆家とかエッセイストという肩書きで10年やってきましたが、ぼくにとって「書く」ということが本当に好きなのか。それを今回の実験で、解明していきたいと思います。好きなことなら続くはず、という仮説を立てて。

ただ、いくら好きでも、毎日って難しいですよ。毎日やってることなんてありますか?  呼吸と排便と睡眠と食事くらいじゃないですか? これらは「好き」というより、「しなきゃ死んじゃう」という類のものですよね。ぼくにとって「書く」ということは「しなきゃ死んじゃう」というくらい大切なものなのか。この実験でそういうことがわかるわけです。いや、無理でしょう。絶対無理だ、毎日なんて。食事だって抜く時あるし、睡眠だって徹夜のときあるし。書くと言っても、ツイッターですら更新されていないし、もっというと「一言も発しない日」すら1年に10日はある人間です。ほら、そもそもぼくが毎日書き続けるなど無理な話なんですよ、編集部のみなさん。

そうだ、一人じゃ寂しいので、これを読んでるあなたも巻き込んでしまおう。あなたは何のプロですか? あなたにとっての「素振り」は何ですか? ダンサーならストレッチかもしれないし、歌手ならボイストレーニングかもしれない。写真家ならシャッターを押す。ビジネスマンなら1日1本企画を出すとか。そういう「素振り」を、今日から毎日やってみませんか。何日続くか。「みんなも素振りやってるんだ」と思うと、ぼくも少しは頑張れるかもしれません。でもたぶん続かないと思います…。

 


深井次郎

深井次郎

ORDINARY 発行人 / エッセイスト 1979年生。3年間の会社員生活を経て2005年独立。「自由の探求」がテーマのエッセイ本『ハッピーリセット』(大和書房)など著作は4冊、累計10万部。2009年自由大学創立に教授、ディレクターとして参画。法政大学dクラス創立者。文科省、観光庁の新規事業に携わる。2013年ORDINARY(オーディナリー)スタート。講義「自分の本をつくる方法」定期的に開講しています。