僕が東京時代に住んでいた高円寺駅から徒歩6分のマンションは94,000円だった。家賃と1ヶ月の生活費が一緒って、なかなかおもしろい。しかも間取りで言うと、今は東京時代の倍の広さに住んでいます(7畳から14畳)。
連載「飛んでみなけりゃはじまらない!」とは 【3週間に1本更新】
島の教育から日本を明るくするための初めての離島暮らし奮闘記。大野佳祐さんは、早稲田大学職員の仕事を辞めました。35歳。その安定、恵まれた給料、社会的信用を手放してまで、何かやりたいことがあったのでしょうか。「いえ、具体的に次の道が決まっていたわけではありません」大野さんは笑います。仕事も楽しかったし、周囲からも期待されていてやりがいもあったそう。それでも新しい自分の道を進む選択をしたところ、ひょんなことから新しい物語が始まりました。導かれた先は、なんと離島。「離島の学校から日本の教育の未来を一緒に創らないか」海士町のキーマンの方々から声をかけられ、一緒に頑張ることになったのです。この連載では、東京生まれ東京育ちの大野さんの、海士町での新しい暮らしについて、いろいろ教えてもらおうと思います。島で起きていることは私たちにとっても他人事ではありません。この先、私たちが楽しく生きていくヒントが島にこそありそうな気がしてならないのです。 |
第3話 生活費の変化について ー 都会から離島に移り住んで、お金の使い方は変わったか? ー
TEXT & PHOTO 大野佳祐
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少しずつ日本海にも春が訪れはじめました。こんにちは、大野佳祐です。
皆さん、お元気ですか。僕は春に向かってますます元気を増しております。春って素敵ですね。こんなに春が待ち遠しかったのは、人生ではじめてです。
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前回の「質問に答えるやり方」方式で今回もお送りしたいと思います。
今回の編集長・深井次郎さんからの質問はこれです。
『生活費の変化について聞きたいです。都会から田舎に移り住んで、お金の使い方は変わりましたか? 例えば、家賃や食費、交通費、人付き合い、飲み代などいかがですか?』 |
前にも書いた通り、自分の中でいつの間にか『お金』の価値が過剰に大きくなっていて、会社での年次を重ねるごとに仕事を辞めてお金がなくなることへの恐怖感が大きくなっていくような感覚がありました。持ってるものがあると手放すのが怖い。今になって思うと、そんなに大したものは何も持ってなくて思いっ切り錯覚だったんですが(笑)、サラリーの中毒性ってのは麻薬以上なのではないかな、と思います。麻薬やったことないけど。
深井さんから質問をもらったのを機に『zaim』というiPhoneアプリをダウンロードしまして、1ヶ月の島生活で『何に、いくら使ったか』の記録をつけてみました。ちょっとあからさますぎる気もしないでもないですが、この際なので公開しちゃおうと思います。
隠さず公開! 島でのひと月の生活費
東京時代の半分に
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僕が2015年2月に使った生活費は、『99,922円』でした。家賃から飲み代、ガソリン代から携帯代までぜ〜んぶひっくるめてこの金額。島の中でこれが高いの安いのかで言えば、「ちょっと!あんたもう少し節約しなさいよ! 」と怒られてしまうかもしれませんが、せっかくの機会なので正直な結果をご報告しております。ここには年一括で払っているDropboxの契約料とか、レンタルサーバー代などは含めておりませんのであしからず。そういうの入れたら10万円とか11万円になるかもしれません。
とはいえ、田舎暮らしを真剣に検討されている方にとっては、比較的参考になるデータなんじゃないかと思います。(島根県隠岐郡海士町における僕の個人データで恐縮です。他の地域には住んだことありませんのでわかりません)
どうですか? 安いと感じますかね? それとも高いと感じますかね?
僕の率直な感想としては、だいたい想像していたくらいでした。この世から『飲み会』がなくなれば、もう少し安く済ませられるかもしれませんが、そこには「勉強代」みたいなものも含まれているので「よし」と考えてます。こういうのって僕にとっては必要経費です。田舎暮らしであっても都会暮らしであっても。
あとは、畑や田んぼを自分でやって食費を浮かせることもできるかもしれません。畑も田んぼも借りることができるだろうし、時間も手間もかかるけど、それを楽しむことができれば食費は随分抑えられると思います(今年はぜひ畑に挑戦したいなぁ)。
ちなみに、僕が東京時代に住んでいた高円寺駅から徒歩6分のマンションは94,000円だったので、それとほぼ同額です。家賃と1ヶ月の生活費が一緒って、なかなかおもしろい。しかも間取りで言うと、今は東京時代の倍の広さに住んでいます(7畳から14畳)。逆に東京時代との共通点は、支出したお金のうちの約半分が固定費(家賃や携帯代など)ということですかね。
ということで、ざっくり言うと生活費は都会暮らしの半分くらいになりました。なので、インターネット関連の仕事をしている方や個人事業主の方で「都会から遠く離れても収入は変わらんと思うよ」なんて人は、今すぐ荷物をまとめて引っ越すべし! ですかね。笑
簡単に手に入らないからこそ
「なんとなくの出費」にも自覚的になれた
生活費の安さは田舎暮らしの魅力のひとつではあると思うのですが、生活費が安く抑えられるひとつの要因は生活の「不便さ」にあるのかもしれません。
ここでは、無意識的にお金を使う機会がありません。深夜に酔っ払ったついでにふらりとコンビニに寄って、なんとなく手を伸ばしたビールと「じゃがりこ」を買うなんてことも(でき)ない。人との待ち合わせまでの30分で本屋に寄って不必要なビジネス書を買うことも(でき)ない。これは僕個人の問題かもしれませんが、都会暮らしではこういう無意識的で無駄な支出が多かったなぁと思います。夏になると、なんとなく駅の自販機でお水やお茶を買っちゃうとか、ね。
「不便」であることは、「クリエイティブ」であることの源泉でもあります。海士町にいらしたことがある方はわかるかもしれませんが、フェリーを降りると、壁一面に『ないものはない』というポスターが貼ってあります。最初は「おぉ! すごい開き直りだな! (笑)」と思いましたが、実は「ここにはすべてある」という意味も含まれています。そう、暮らしてみると「ないものはない」んです。ないものはつくればいい。作物も時間も娯楽も機会も人間関係も。
「クリエイティブの源泉! 」なんてのはちょっと大それているかもしれませんね。「工夫する余地がある」くらいがちょうどいいかもしれません。「シェアしよう! 」なんて大声で主張せずに「ないから寄り添おっか」くらいに肩肘張らずにいる距離感の方がちょうどいいかもしれません。何かを「つくりだせる」ってのはいい。そこに喜びがともなうから。
何回か書いてきて、随分と自分の生活が自覚的になっていることに気づきます。都会にいるときも自覚的に生きていたつもりですが、結構無自覚だったのだなぁと。手放してみるとよくわかる、ってのは本当で、都会じゃないところに住むからこその気づきに溢れています。今は、その気づきがとても新鮮で楽しい。
いつの日か、都会に戻ることがあったとしても、自覚的に生きていけるといいな。きっとそれは僕ができていなかっただけで、機会はあると思うんだよな。
では、また。
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(次回もお楽しみに。3週間後に更新予定です)
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大野佳祐さんに質問してみたい方は 編集部まで |
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連載バックナンバー
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第2話 移動距離と心境の変化は比例するか(2015.2.16)
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