飛んでみなけりゃはじまらない! 【第2話】 移動距離と心境の変化は比例するか。移住と引越しどちらの感覚でいるか

飛んでみなけりゃはじまらない!

引越しと移住の差に「覚悟」めいたものを期待されているようにも感じるのですが、僕としては「仕事と仕事をする場所が変わった」くらいな感覚です。こちらにきてずいぶんと時間に自覚的になりました。島には24時間営業のコンビニもATMもありません。家の近所の売店は19時半で閉まるし、自覚的にいないと食料も手に入らないという感覚は久しぶりでした。

連載「飛んでみなけりゃはじまらない!」とは  【3週間に1本更新】

島の教育から日本を明るくするための初めての離島暮らし奮闘記。大野佳祐さんは、早稲田大学職員の仕事を辞めました。35歳。その安定、恵まれた給料、社会的信用を手放してまで、何かやりたいことがあったのでしょうか。「いえ、具体的に次の道が決まっていたわけではありません」大野さんは笑います。仕事も楽しかったし、周囲からも期待されていてやりがいもあったそう。それでも新しい自分の道を進む選択をしたところ、ひょんなことから新しい物語が始まりました。導かれた先は、なんと離島。「離島の学校から日本の教育の未来を一緒に創らないか」海士町のキーマンの方々から声をかけられ、一緒に頑張ることになったのです。この連載では、東京生まれ東京育ちの大野さんの、海士町での新しい暮らしについて、いろいろ教えてもらおうと思います。島で起きていることは私たちにとっても他人事ではありません。この先、私たちが楽しく生きていくヒントが島にこそありそうな気がしてならないのです。

 

第2話 移動距離心境の変化は比例するか

 

TEXT & PHOTO 大野佳祐

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一向に春の兆しの見えない海士町よりこんにちは。

皆さん、お元気ですか? 僕はすこぶる元気です。更新予定を大幅に過ぎてしまっておりますが、何卒お許しを…。

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島の高校生たちと。プライバシーのため人物をぼかしています

 

 

さて、前回は移住した理由とその時の不安にどう向き合ったか、という話だったと思います。

先日、同じプロジェクトに参画する予定の方がうちにいらっしゃいまして、少しの間お話ししたのですが、それはそれはたいそう安定されたお仕事に就かれていて、僕もご多分に漏れず『よくまぁそんな安定したとこ辞めちゃいますね〜!』と言ってしまったものでした。「いやいや、そちらこそ!」とその方にも言われましたが、人ってそのくらい適当に生きている方が動物的には自然なのかもしれません。 

さて、深井さん(オーディナリー発行人)から、いくつか質問をいただきまして、その中に面白い問いがあり目が留りました。

「移動距離と心境の変化は比例するか。移住と引越しとどちらの感覚でいるか」

という問いです。

今回はこのことを、つらつらと書いてみようと思います。

 

移動距離と心境の変化は比例するか

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率直に言って、あまり関係性はないように思います。東京にいた時に、どういう心境で毎日を生きていたか思い出せないというのもあるのですが(皆さんはいったいどんな心境で毎日を生きてらっしゃるんでしょう)、特段自分の心境で変わったことは見つけられません。

テクノロジーの発展には本当に感謝してまして、「距離を感じていない」と考える方が正しいかもしれません。iPhoneのFaceTimeを使って相手の目を見て電話をすることもできるし、SkypeやGoogleハングアウトを使って会議をすることもできます。輸送費を少しだけ払えば欲しい洋服だってインターネットで購入できます。実際にこっちに来てからユニクロのヒートテックを買い足したし。僕は使ったことはありませんが、どこかの大手スーパーは島まで配達してくれるのだとか。

 

フェリーの切符です。

フェリーの切符です。

 

でも、逆に言うと、「それが面白くない」とも言えますよね。

例えば、心境の変化を求めて遠く旅をしてる人が、Facebookのどうでもいい投稿にずっと振り回されているのと同じで、せっかく遠く離れたのにメッセージで気軽に連絡が取れてしまうとか、簡単にひょいっとテレビ会議ができてしまうとか、ポチッとボタンを押して何日か経つと荷物が届いちゃうとか。

きっと昔であれば、家に届く一通の手紙にもっと一喜一憂して、その返事が来ないことに悶々としたりしたんだろうなぁと思いますが、そういうことはとくにありません。もちろん、これは東京にいたときでもそうだったと思いますが、こちらにきて改めて、便利はいろいろなものを殺しているのだなぁと思います。

 

心境とはあまり関係ないかもしれませんが、こちらにきてずいぶんと時間に自覚的になりました。島には24時間営業のコンビニエンスストアはないし、24時間営業のATMもありません(もしかしたらどこかにあるのかもしれないけど、僕は知りません)。家の近所の売店は19時半で閉まるし、自覚的にいないと食料も手に入らないという感覚は久しぶりでした。日々の生活を計画しているというとちょっと言い過ぎですが、友人の結婚式の朝に慌ててコンビニでご祝儀袋を買って、コンビニATMで3万円を引き出していた当時の自分からすると、その辺りは変化してきたところと言えるかもしれません。

 

話は少し逸れますが、首都圏の24時間営業ってすごい数ですよね。調べてみたらありとあらゆる職種でありそうです。何らかの諸事情もあるだろうから批判的に言うつもりはないのですが、徒歩6分だった僕の家から高円寺駅改札まででそういうお店が7つくらいありました。今思うと、24時間営業のレストランなんて本当に必要なんだろうか。一時的には雇用を生み出して一定の効果は得たのかもしれないけど、今は逆に人間を苦しめているように思えます。そんなことないのかな。そういう場所にずいぶんと助けられたのもの事実なのですが。

 

そして、もうひとつの問い
引越しなのか移住なのか

 

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自分の発言を思い出してみると「移住することにした」とか「移住しました」という表現を便宜的に使ってはいますが、感覚としてはどちらでもいいように思います。もしかたら、これも自分の特性なのかもしれませんが、あまり引っ越してきたとか移住してきたという感覚はありません。

察するに、引越しと移住の差に「覚悟」めいたものを期待されているようにも感じるのですが、僕としては「仕事と仕事をする場所が変わった」くらいな感覚です。「移住か引越しかどちらかを選ばないと家族を誘拐する」と脅されたとするならば、「引越し」に近いように思います。「移住する」ってなんとなく国境的な雰囲気を感じるからかもしれません。(アメリカ国内で引っ越すときに英語で「immigrate」とは言わないですよね)

それに、海士町から東京に行く人は誰も「移住する」とは言っていないような気がします。僕らは潜在的に、そして無意識的に「都落ち」みたいな感覚を持っているのかもしれません。全然そんなことないんだけど。

 

この「覚悟」にまつわる問いは、実は島の人からもよく聞かれる「あんたはどのくらいこの島にいるのか」という問いに似ていると思います。僕はその度に「とくに決めてません」と答えています。自分の人生を2年単位と4年単位で考えていることもあり、そういう意味では、点検や見直しは2年とか4年のところでするとは思いますが、現時点で4年住みますとか一生ここに住みますとか、やっぱり言えない。そういうのは具体的には考えてもいません。中島みゆきさんも「人は遠くばかり見てる」と仰っていますが、人はずいぶんと先のことに興味がある生き物だなぁと思います。(仕事ではきちんと中期計画など立てますが、人生にはそういうのを持ち合わせなくなりました。)

 

島に移り住むって、実際にやってみるとそんなに大したことではないんじゃないかと思います。もちろん、ご家族がいたり、お子さんが小さかったりすると条件は同じではないと思いますが、仮にそうだとしても、別に言葉がまったく通じない外国に行く訳でもないし、全員が裸で暮らすことが決められている部族とともに生きる訳でもないし。

「ど」が付くくらいの田舎ではありますが、選ばなければ仕事はいくらでもあります。例えば、林業なんてこの島でやっている人がほとんどいないので本当に喜ばれる仕事になると思います。何年か職人さんの元で修行して独り立ちしたら、自由に働けるようになるかもしれません。きっと超絶忙しいと思うけど(笑)。

 

「案ずるより産むが易し」って、
昔の人は本当にうまいこと言うなぁと思います

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やったことのないことを難しく考えてしまうのは、当たり前と言えば当たり前なのですが、過去に「やってみたけどできなかったこと」って実はそんなにないと思うんですよね。自転車も乗れるようになったし、ビジネス文書も書けるようになった。コンピュータだって使えるようになったし、気づいたら英語で自己紹介もできるようになった。まぁ、料理とか勉強とかできないことを挙げればキリはありませんが、できないことがあったとしても誰かに頼むことができるようになりました。

 

サントリー創業者の鳥井さんの『やってみなはれ』ってやはり偉大だなぁと。最近の僕のお気に入りです。すぐなんでも「やってみなはれ」です。やってみないことには何にもはじまらない。海士町のそういう精神にもずいぶん助けられているようにも思います。ありがたいことです。

 

長々と書いてしまいましたが、振り返ると、僕にとって大切なことは出発することだったと思います。「はじめれば、はじまる」的な。

移住でも引越しでも、それを利用して心境を変えようってのは難しいかもしれませんが、環境が変化すれば生活が変化し、それに伴って心境が徐々に変わってくることはあるかもしれません。でも、きっと本気で「変わりたい人」って思う人は環境なんかに1ミリも左右されないんだろうなぁ。

 

晴れるとこうしたすばらしい景色が毎日楽しめます。晴れれば。笑

晴れるとこうしたすばらしい景色が毎日楽しめます。晴れれば。笑

 

今回書いてみて、問いに応えていくという方式が書きやすいことがわかりました。やってみると道が開けますね。なので、しばらくはこの方法で書いてみたいと思います。

万が一にも、僕に質問をしたい方がいらっしゃいましたら、編集部宛にメールしてみるといいかもしれません。そういうのできたら面白いかもしれませんね。(すぐに答えがこないかもしれないけど。それはお手紙のように待ちわびていただいて。笑)

 

では、また。

 

 

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(次回もお楽しみに。3週間後に更新予定です)
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大野佳祐さんに質問してみたい方は 編集部まで

 

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連載バックナンバー

第1話 大きなものを手放すと、大きなものが手に入る(2015.1.13)


 


大野佳祐

大野佳祐

おおのけいすけ。1979年東京生まれ。転機は19歳のバングラデシュ。その後の1年間アジア旅を原点に、教育・共育の“場づくり”を志す。『はじめればはじまる』をモットーに、2010年start to [ ] を旗揚げし、バングラデシュに140人が学ぶ小学校を建設・運営。2014年7月に新卒以来勤めてきた早稲田大学職員を辞めて独立。直後に島根県隠岐郡海士町に移住し、教育を中心に据えたまちづくりに勇往邁進中。『自分が変われば世界は変わる』に大賛成!