舛廣純子が聞く「しなキャリ図鑑」 【第1話】 NPO法人ディレクターのチカラ – 宮崎真理子さんの場合 –

masuhirojunko_long_banner変化とチャレンジにあふれ重責を担って仕事をしているのに、まったく肩ひじ張らず自然体な宮崎さん。もともとの彼女の資質として「人の可能性を信じる力」や「失敗を許容できる力」のような「楽観性」に通じる資質があるからではないかと感じました。
連載「しなキャリ図鑑」とは  【毎月2回更新 / 第2第4月曜】
「しなやかに生きる人のためのキャリア図鑑」の略称。キャリアカウンセラー舛廣純子が、イキイキと働く仕事人にインタビューし、その仕事に大切なチカラを中心にキャリア・仕事そのものも掘り下げます。10年後の未来に自分がどんな風に仕事をしているのかも見えづらくなった今の時代。インタビューを読むことで、自分の持っている力にも気づいたり、したことのない仕事に興味を持ったり、これから伸ばしたい自分の力を見つけられたなら、あなたの仕事人生も変化に対してさらに強くてしなやかなものになっていくかもしれません。

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第1話   NPO法人ディレクターのチカラ
自分の意志決定の失敗を振り返り、マイ決定ルールを創りだす 

TEXT&PHOTO : 舛廣 純子


教えてくれた人
宮崎 真理子(みやざき まりこ) 認定NPO法人フローレンス  ディレクター

大手アパレルメーカー、マーケティング会社、人事コンサルティング会社を経て、2008年にフローレンスに入社。管理本部、病児保育事業、小規模保育事業など様々な事業部長を歴任し、事務局長を経て、現職。各事業部の事業運営だけでなく、急拡大期に合わせた、人と組織のマネジメントを行う。プライベートでは2児の母。


<フローレンス ディレクターとして大切な能力は何ですか?>

 

1. 決断する力 決断力

フローレンスは常に新しいことに満ち溢れ、私が決断しなくてはならないことが次から次へと舞い込んでくる組織です。未知のことであっても、限られた時間の中でよりよい選択をするためには何が必要か。ぶれずに自信を持って決断しなければ、スタッフはついてこない。どうしたら良い決定ができるのかすごく悩みました。試行錯誤して自分なりに編み出したのが、決断するためのマイルール5か条です。簡単な問題については、Yes、Noはすぐに出せますが、どちらを選んでも正解になりうるような難しい問題は、このルールを見て考えるようにしています。自分の中で同じステップを踏んで決定ができるから、自分が決めたことに自信が持てるんです。

意思決定のためのたくさんの経営学や心理学の本、各界のプロフェッショナルの本なんかも読みましたが、結局一般的すぎたり、その人にしかできないプロセスで意思決定していたりしてあまり参考にならなかった。だったら、自分のパターンを作るしかない。今までの自分の失敗を振返り、自分が決定してうまく行かなかったときにどうしてうまくいかなかったのかを考えました。足りなかった視点を分析し、それを時系列に整理してマイルールを作り、スマホのメモにそっとしまっているのです。決断する力は、もともと私が持っていたというより、職責上必要に駆られて、自分でPDCAを回して回して、自分の中に創り上げた力かもしれませんね。

 

2. 人の可能性を心底信じる力 人の可能性を信じる力 楽観性

私、人の可能性を純粋に信じているんですよね。なぜかと問われてもよくわからないのですが…。だからトラブルが起きても、「でも、この人はきっとできる」と信じているんです。もちろん悪いことは悪いって言いますけどね。「その悪いところさえ改善すれば、必ずできるよ」って思っているんです。

例えば、チームの中でうまく行っていない人がいて、今はたしかに期待どおりの成果は出せていないし、迷惑をかけたりもしている。でもそれって、本当にずっとそうなのかなって思っちゃうんです。なんかスイッチ変えたら、この人もっとできるんじゃないかなって。これまでの仕事経験を聞いたり、仕事以外の時に話している様子を見ていて、なんか「まだその人らしくないな~、できそうだな~」そう感じるのです。どこがその人のスイッチなのか一緒に仕事をしながら試してみて、成果がでるまで伴走しますよ。時間がかかっても、その人が何かをやり遂げられたときはとても嬉しいですね。やはり仕事は人とするものですから、その仲間の可能性を信じることができるって大切だな、と思っています。

 

3. 失敗を許容できる力 楽観性 振り返る力 挑戦力

「失敗はOK」と思っている自分がいます。いろいろ言ってやらないより、やって失敗するほうがいい、じゃぁそこから何を学び取ろうかって。これはフローレンスの組織風土でもありますが。

私が「失敗でもなんでも面白がる人だな」と、みんなには思われているでしょうね。だからこそ、スタッフたちは臆せず新しいことにチャレンジしていけるのかもしれませんね。

そして、失敗からのリカバリーは早いです、私。「まぁそれはそれとして」と脇に置くことができる。「もう一回同じことが起きたとして、次はどうやろうか? 活かせることって何かな」と考えます。人についても自分についても失敗を肯定的にとらえられることができるのは、新しいことが次々起きるフローレンスでマネジメントをしていくうえでは重要な力かもしれません。

スマホのメモにそっとしまわれたマイルール5か条。これがあるから迷いなく決断できる。

スマホのメモにそっとしまわれたマイルール5か条。これがあるから迷いなく決断できる。

 

 

<なぜNPO法人フローレンスで働きだしたのですか?>

転職をしようと思っていた2008年に新聞でフローレンスの求人情報を偶然見つけました。中小企業向けに長時間労働削減の仕事の募集をしていたのですが、もともと自分自身が母親として病児保育を必要としていたから、フローレンスという名前は知っていました。当時はよくわからない小さな団体ではありましたが(笑)、取り組んでいることは社会的に大きな意味のあることでしたし、自分自身も長時間労働の問題をどうにかしていかなくてはいけないという意識が強かった。かつ前職で人事として取り組んできた組織作りの経験も活かせる仕事であったため応募しました。

 

<フローレンスではどんな仕事をしてきたのでしょうか?>

入社から今までのこの9年間、めまぐるしいスピードで新しい仕事をしてきました。打ち返してきた、と言ったほうがしっくりくる。

入社当初は一スタッフとして、働き方革命という長時間労働を是正するためのコンサルティング事業と、社内向け人事制度を作る仕事を兼務していました。当時のフローレンスは30名程度の小さな団体でしたが、ちょうど組織が拡大していく時期で、就業規則や雇用契約書を作り、苦手な給与計算もしていましたよ(笑)。

社内の人事担当として、人事制度を整えて、東京都のワークライフバランス大賞など、組織作りの賞をとり、それを広報しながら、フローレンスの認知度をあげていく取り組みもしていました。

その後、下の子を産んで育休を1年とり、2012年から思いもかけず事務局長になり、新規事業部の立ち上げを含め、すべての事業部を見てきました。

フローレンスには「親子の笑顔をさまたげる問題を解決する」というミッションがあります。私が入社した当初は病児保育事業だけでしたが、そのうち待機児童問題が出てきて、小規模保育事業を始め、そうこうしていると障害児を預ける場所がないという問題にぶつかり、障害児保育事業を立ち上げました。またしばらくすると、赤ちゃんの虐待死問題に出会い、赤ちゃん縁組事業を始め….. みたいな感じで。基本、問題に出会ってしまったら、「私たちがやるしかないね、じゃぁどうやろうか」という組織なんです。もちろん計画的に取り組みますし、ちゃんと事業が成り立つのか、新規事業を始める時には検証して、継続的に成り立つ形で始めています。

フローレンスは事業型NPOなんて呼ばれますが、寄付だけではなく事業収入も得ています。長期的にNPOで活躍できる人材を育てることにもチャレンジしているため、スタッフの生活が成り立つ給与を確保するということもとても大事なのです。普通の事業会社との違いは、利益が出ても株主に還元するのではなく、次の事業に投資する点ですね。

入社したときに30名程度だった団体は今では400人の正社員を抱える大所帯になりました。意思決定スピードをあげるために提案して事務局長制を廃止し、現在はディレクター3名体制を敷き、そのうちの一人として活動しています。具体的には、経営陣のチームづくりをしながら、新規事業を中心にマネジメントし、財務、人材育成、採用、その他、人と組織に関わる横断的な問題を解決していく仕事をしています。

こういう新しいことにチャレンジする仕事ですから、日々インプットですよ。インプットして、実務でやってみて、PDCAの繰り返しです。会計、法務、マーケティング、組織論、保育士、カウンセリングなど、担当する職務が変わるたびにずいぶんと幅広く、色々なことを学んできた9年間でもあります。そういう意味では、いつも100%の自信なんてないんです。でも今できるベストは尽くす、これをモットーにやってきました。

 

<仕事のやりがいや面白みはどんなことですか?>

今私がやっている仕事のほぼ9割は人への対応です。組織の規模やフェーズによって中身は変わるけど、常に人の問題は尽きないものです。でも、それがまたとても面白く、やりがいのあることだったりします。

たとえば、何かにつまずき思うような成果が出せていない人がいるとします。うまく行っていない人やチームと何度も話をし、考えてもらい、実行をサポートして、その人が成果を出せるようになったとき、その人が子どもみたいに、「やった!」という顔をした瞬間に立ち会うとき、私も最高に嬉しいですね。また、いろんな能力がある人が集まるのが組織です。そういった人の能力が最大限活かせるような、まるでパズルのピースがぴたっと合ったようないいチームを作れた時にもとてもやりがいを感じます。

ポジティブで屈託なく笑う宮崎さん。「組織・仲間が大好き」と言い切る彼女がフローレンスの話をするときは、ともかく楽しそうだ。

ポジティブで屈託なく笑う宮崎さん。「組織・仲間が大好き」と言い切る彼女がフローレンスの話をするときは、ともかく楽しそうだ。


<一日の仕事スケジュールは?>

日中は忙しいですよ~。もっと時間をかけて仕事をしたいと思う反面、時間をかければ更にいい結果を出せるのかと思うとそれはわからないなぁとも思います。この仕事をするようになり、より時間を効率的に使うことと、今自分が持てる時間やリソースで最高の結果を出すしかないという割り切りというか、腹くくりのようなものはできました。

 

5:30 起床
朝の家事(朝食作り、下の子どもを保育園に連れいくなど)は夫の担当

8:00    出社

9:00-17:00   各事業部のミーティング
1時間刻みで、平均して1日約6件のミーティングや面談を行っている。スタッフは誰でも自由に私に予定を入れられます。ミーティングと面談の間にもさまざまな相談が入ったりするので、1分の隙もないほどに予定が埋まっていることもしばしば。

17:30 会社を出る
お迎えがあるので、デッドラインは死守

帰宅中
電車の中は、貴重な、スマホで決済のメールの返信と、読書タイム。隙間時間は有効活用
帰宅
食事を作って家族で食事をとる⇒これは自分の中での最優先事項
子どもたちの入浴
娘が宿題をしている横で、一緒に机に向かい仕事をすることもよくあります

21:30-22:00  子どもが就寝
一緒に寝る場合もあるし、起きて仕事や家事をすることもある

 

<最も大変だった経験はどんなことですか?>

2015年4月に「おうち保育園」のような小規模保育が成功事例として国で認められ、認可保育所になったんです。この前後が、9年間で一番大変でした。同時に、フローレンスが法律を変えていく瞬間に立ち会った期間でした。
認可保育所のことをひたすら勉強して、制度作りや法整備にも陰ながら関わりました。法律の文言が何を意味するのか一つ一つ確認して修正提案をしたり、補助の財務シミュレーションをして、現場ではこれが必要だから、補助の体系をこういう風に変えてほしいと訴えたり。そういうことを一年間ずっとやっていました。初めてのことのオンパレードでしたね。外部的な対応で大変だっただけでなく、社内も大騒然で(笑)。

当時は保育士でない人も採用していたのですが、認可になると全員保育士でないといけなくなる。でも、これまで一緒にやってきた仲間を解雇しないためには資格を取ってもらわなきゃいけないとか、開園時間が伸びて大変になるのではとか、調理を始めるけど設備はどうするとか… 決まっていないことが多くみんな不安だったと思いますよ。社内から総スカンを食らいながらも、全員と話す場を何度も持ち対話しながら、不安を一つずつつぶしていきました。

どんなに大変でも、結局、私たちが笑顔で旗を振り続けないと誰もついてきませんからね。組織全体としても急激にスタッフが増えた時期でしたし、私、他に新規事業を3つ並行して進めていましたから、心身共に本当にきつい一年でした。もう一度やれと言われても、絶対にお断りですね(笑)

 

<逆に今まで最も嬉しかったことはありますか?>

事業を通じて、喜んでいる利用者さんや子どもの顔を見るときは嬉しい瞬間ですが、中でも特に忘れられない出来事があります。

障害児訪問保育アニー」をリリースした時に、第一号の利用者さん(障害児のお母さん)がこんなことを言ってくれたんです。「私はアニーが出来たから職場復帰できました。私を社会に帰してくれてありがとうございます」って。鳥肌が立つくらい感動しましたね。

私たちは、子どもの預け先がない問題を解決するために事業を始めたのですが、一方で、その後ろにいる親御さん自身が、持てる力を発揮できる、みんなが活躍する社会を創ることにも貢献していたんだなと。その方、「アニーの力を借りて社会に戻ることができたから、恩返しできるよう私も仕事でがんばります」って言ってくださって。その言葉を聞いたときは本当にうれしくて。今でも思い出して身震いするほどの仕事の喜びでした。私にとってかけがえのない経験です。

 

<NPOの仕事の未来はどうなっていくと思いますか?>

今後の日本では、ますます必要とされると思っています。

なぜなら行政の手が回らず、でも民間企業で利益追求だと入っていけない、たとえば「保育や福祉」などの領域で社会課題がどんどん出てきているのが今の日本だからです。それらの解決を担う第三の存在であるNPOに期待が集まっています。

NPO先進国のアメリカでは、大学生の就職したい企業ランキング上位にNPOが入ってくるんですよ。それくらいNPOは、認知度も予算も実行力もある。日本でも、昔はボランティアみたいな団体が多かったNPOですが、今ではちゃんと採算をとり、お給料を払って運営しているところが増えてきています。行政と連携し補助金を得つつ、事業収入も得て安定して運営し、今までの枠組みでは助けられなかった人を助けていくようなNPOは今後ますます必要とされるでしょう。フローレンスとしては、経済性と社会性を両輪で追求し続ける事で、NPO業界が育つことにも挑戦していかなきゃいけないと思っています。現状でも、NPO業界の求人は、一般事務職と同程度の報酬で出ていますね。

 

<今の仕事と同じように向いていそうな仕事はありますか?>

新卒で選んだのもメーカーで、新しいものを創りだすとか、立ち上げるとかは好きかもしれませんね。職種で括れないのですが、どの場にいても、どんな仕事をしていても、何か新しいことをやるのは好きなんだと思います。未知なる領域に踏み出す、やってみる、みたいなことは、向いていると思いますし、ワクワクしますね。

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キャリアカウンセラー舛廣純子の  シゴトのチカラ考察

変化とチャレンジにあふれたものすごく大変な仕事、しかも重責を担って仕事をしているのに、まったく肩ひじ張らず自然体な宮崎さん。

多分それはもともとの彼女の資質として、必要な力にもあげた「人の可能性を信じる力」や「失敗を許容できる力」のような「楽観性」に通じる資質があるからではないかと感じました。どんな出来事も、どんな人も楽しんで、そこからの発見や成長、進化につなげていくことができる、だからこそ周囲を「ポジティブに巻き込む」こともできるのかもしれません。

また、経験から学ぶだけでなく、体系だった知識もどんどん学んでいける「学ぶ力」も彼女の大きな力だなと感じました。常日頃から読書が好きな彼女ではありますが、フローレンスに入ってから、税務の勉強、保育の勉強、カウンセラーの勉強、マネジメントの勉強…、常に必要に追われてといいつつも、学び続けてきました。

そんな彼女が、自ら後発的に手に入れた「決断力」は、経験からの学びと知識から得たまさに「血と汗と涙と知識の結晶」です。大事そうにスマホの中に保存した「決断するためのチェックポイント」を眺める彼女の姿に、彼女がこの力をいかに努力して、手に入れたのかが表れているように感じました。

マネジメントをする人にとって、「決断力」は欠かせない力。でも、もともと「決断力」を持っているほうが少ないのではないでしょうか。彼女が「決断力」を手に入れたそのプロセスは、多くのマネジメント層の能力開発のヒントにもなりそうです。

 

(次回もお楽しみに。毎月2回、第2第4月曜更新です)
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連載バックナンバー

第0話 連載開始に寄せて(2016.11.14)

 

 

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舛廣さんってどんな人?

PEOPLE 04 舛廣純子(キャリアカウンセラー)
就職は子育ての最終章。就活生の親に読んで欲しい本を出版

 

 


舛廣純子

舛廣純子

ますひろ じゅんこ フリーランスキャリアカウンセラー。1972年、東京都出身。日本女子大学人間社会学部文化学科卒業後、化粧品商社に営業職として入社。会社の民事再生、自身の出産・育児を機に2 回の転職を経験。自らの転職経験からキャリア支援に関心を持つようになり、社会保険労務士、キャリアカウンセラーの資格を取得。2007 年、キャリアカウンセラー・講師として独立。大学生の就職支援・キャリア教育、社会人の転職支援・キャリア形成支援を中心に活動。支援学生の高い就職率とわかりやすいセミナーには定評がある。特技は長所探し。2013年12月に学研教育出版から『就活生に親が言ってはいけない言葉 言ってあげたい言葉』を出版。ブログ:http://ameblo.jp/shuukatsumamanoblog/